月別アーカイブ: 2018年6月

美山ちいさな藍美術館を訪れて 本科 加納有芙子

5月24日、美山にある新道弘之さんの工房にお伺いしました。
今回は、本科生のレポートを掲載します。

bty

京都府南丹市美山町にある藍染工房”ちいさな藍美術館”を訪ねた。普段学校では、先染めである織を勉強をしているわたしにとって”染め”という分野はすこし新鮮に感じられ、またいまひとつイメージできない世界であった。濃い青色で古来から存在する色。自然からとれる染料。ジャパンブルー。・・・・といったくらいのぼやけたイメージとあとは、授業で見た”ブルーアルケミー”というドキュメンタリー映像で得た知識くらいであった。

スクールがある京都市左京区静市から美山まではバスで2時間半程度だった。窓からみえる景色は徐々に変わってゆき緑が深めき透明な空気さえも覚えるほどの風景の中美山に到着した。美山の村は丘のように膨らみをつくっている山と山の間にすっぽりと入りこんでいてなんとも可愛らしい印象がした。南には風景を彩るように川が流れていて、入母屋造りの家々が秩序なくぽこぽこと点在し、その間を縫うように小道がなだらかに続いていた。工房はさらに小道を進んだところあり草の香りが強いところだった。美山へ来るのは今回が初めてだったが、ここに藍染の工房を持つことはとても恵まれているように感じた。他の家々と同じように造られた茅葺屋根のある工房は、計算されてそこに在るというよりも、自然発生的にそこに存在しているように感じられて、風景と同じようにそこに佇んでいた。

新道さんがここに工房を構えたのはいまから40年近く前のことだ。当時はここに移住してくる人は珍しく、かつ社会的にも都市から地方へ出ていくのも稀なことだったようだ。そんな中ここに工房を構えた理由はより自然に近い場所・状態で藍染めをするためであった。藍染めには『天然の水・発酵菌・灰汁作りの灰』が欠かせないため町の中心地では難しいのだと語ってくれた。玄関から右手にすすんだ建物の北側が工房になっていて、そこには藍の甕が土間に埋められている。ここで藍の発酵から染めまでを行っている。工房内で藍がぷくぷくと発酵しているのを見るとなんとなく新道さんが言う自然に近い状態というのがわかるような気がした。藍の染料を見るのは今回が初めてだったが、まずは甕に建っている藍の濃厚さに驚いた。それは生命感があり、その瞬間もゆっくりと発酵を続けているとわかるようだった。

わたしにとっての新しい発見は、藍染めで染められる色のバリエーションがいかに多いかというこだった。実際に新道さんは近日に仕込んだ甕(①)と冬に仕込んだ甕(②)を染め、その色の違いを実演してくれた。①と②の甕では、表層の藍華の出方や見た目の雰囲気も異なっていて、実際に①の甕により染められたものは、濃紺ともいうべき藍色であり、他方はやさしくて弱った水色で染められた。還元の過程で染料が空気にふれて色が変化してゆくのもとても幻想的だった。同じ藍を同じ工房で同じ人が仕込んだものであるのに、仕込みの時間だけでこんなにも色に違いが出るのだと知り驚いた。また仕込みの年月だけでなく、その年の気候や藍の状態によっても色が変化するのだという。昔の染めの職人は、その日の甕の状態からどのような色ができるのかを予想ができたのだろうか。それはもともと色のイメージが明確にあり、それをコントロールしてゆく化学染色とは全く違い、藍染めで色をコントロールすることは神業のように思えた。しかし、その偶然であっても生まれた色が、きっと愛されるべき色だったのかと思うとそんな文化や感覚もすばらしいと思った。
藍染の色について調べていると日本には”藍48色”という言葉があることを知った。藍から抽出される色がいかに多いかということを表現していて江戸時代に生まれた言葉のようだ。そこには薄い藍色から濃い藍色までさまざまな藍の色が存在していて、一般的に浅黄、縹、納戸、紺、褐・・・などの名称が使われている。色は無限にあるものだが、色の名前は数えられるほどしかない。藍についての色名がこれほどにまで存在するということは、日本人にとって藍やその色彩というものがいかに身近なものだったということを表しているのだろう。

btybty