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大丸京都店 椅子張り生地&壁面装飾が出来るまで 専攻科 須田奏

大丸京都店の高倉通側出入り口付近にあるエレベーターホールの椅子張り生地と壁面装飾を提案させていただきました。設置も完了し、5月19日からは実際に使われています。実際に使ってもらうためのテキスタイルを作るのは初めてだったので、完成するのに思ったより時間がかかってしまいましたが、とても良い勉強になりました。

最初、このプロジェクトは修了制作の課題の一つとして取り組んでいて、
次のような事を考えていました:
・岐阜のY’s Textileにお願いして初めてジャガード織の生地を作った直後だったので、その経験を通して学んだ「立体的な布を作ること」と「様々な組織を隣合わせに織れること」の面白さを取り入れたい。
・ジュエリーや化粧品などの華やかな女性の雰囲気が香り立つ売り場と同じフロアのエレベーターホールなので、フェミニンな柔らかさと上品さも表現したい
-既定の木椅子の座面と背面で違う生地を使い、背面には実用性よりも装飾性を重視した生地を使っても良いのではないか。
・椅子の背面生地と壁面装飾に同じ生地、もしくはパターンを取り入れて部屋全体の統一感を出したらどうか。

これらの考えを基に、水玉で構成されたバニラのような生地を作りました。収縮糸を使って立体感を出しつつ、強い組織で織る事で、椅子張り生地として使える強度を保っています。椅子の背面と壁面装飾にはオーガンジーや和紙で織ったものなど、柔らかい生地を使うことを考えていました。今年の3月に行われた修了展ではこの時点での案を展示しました。

個人的にこの白い生地はとても気に入っているのですが、今振り返ってみると、これは単に自分が作りたいものを作った結果である気がします。十分に「大丸京都店のための生地」ということを意識しないで作ったということが大きな反省点です。


最初の提案の図。背面に和紙を織り込んだ生地を使っている。

この案を大丸の担当者の方にお見せしたら、案の定「京都にある大丸であることを強調して欲しい」ということ、「背面用にもっと強度のある生地を提案して欲しい」とのフィードバックをいただきました。これを受けて、改めてコンセプトを見直そうと決めました。そして「京都」と「大丸」の共通点について考え、双方が「芯を持ちつつ変化を続けている」という考えに至り、「変化」と「芯」の2つのキーワードを念頭に、「peacock」の柄を作りました。

大丸のロゴであるクジャクのイメージを用いて、デフォルメしたdaimaruの「d」が少しずつ変化しながら絡み合っています。色彩でも孔雀を意識しています。

バリエーションを付けるために色換えも作りました。
その際には次の事について特に考えました:
・エレベーターホールの空間の広さを考え、圧迫感のない色合わせにすること。
・空間と視覚的に繋がっている店舗との兼ね合いを考慮し、モダンな色彩にすること。

ここまでの成果を再度、大丸の担当者の方にお見せしたところ、
実用性に関するご指摘をいただきました:汚れやすい・汚れが目立つような薄い色の生地では困るということ、それと同時に暗い色ではない方が良いということ、そして隣接する靴売り場に置かれているシャンパンカラーの重機に合う色を考えてみてはどうかという内容でした。

デザインに関しては野田先生に相談に乗っていただき、椅子の座面と背面の両方に「peacock」とその色違いを使い、これらを好きに組み合わせられるようにする事を決めました。このことを意識して、新たに「peace」、「grape cider」、「hakka」の3つの色違いパターンを作りました。どれも薄すぎす、濃すぎない色を目指し、どの色同士を組み合わせても良いようにしました。


peace


grape cider


hakka

この4色分全てのサンプルをY’s Textileで織って頂き、汚れに強いポリエステル糸を使うこと、そして広い面積ではなるべく強い組織を使うことなどを教えて頂きました。そしてサンプル織りを全て大丸の方に見て頂き、壁面用の装飾と椅子の座面生地は「peacock」、背面生地は「peace」に決定しました。

壁面装飾については、立体的に作りたいと思っていましたが、具体的な作り方やデザインは採用される生地が全て決まってから考え始めました。
コンセプトは、椅子張り生地と同じ「変化」と「芯」で、これを違う方法で表現しようと決めました。そのためには、波打つ水面のような動きが良いと考え、様々な形の「波」を使ってサンプル作製をしました。


仕掛けが分かりにくい三角柱の波と、大きく動く円柱の波との間で迷いましたが、変化が大きく分かりやすい円柱を使うことに決定しました。そして、装飾の小口部分の扱いや、具体的に使う素材や寸法のことなどを大丸の方と相談させて頂いてから制作にとりかかりました。

作り方について野田先生にいろいろと教えていただいたのですが、やっぱり綺麗に作るのは難しいなと改めて痛感しました。

今回の制作を通じて、実際の使用に堪えるものを作ることの大変さを学べました。特に、自分が感覚的に良いと思うものと実用性を考慮した場合に取り入れなければいけない要素との兼ね合いは難しいことだと感じました。そして、自分が納得のいくものを作れるようにきちんと情報収集をしたり、周囲の人に助けをお願いしたり、相談にのってもらうことも自分の仕事の内だと学習しました。とにかく初めて体験することがほとんどだったので、戸惑う事が多かったのですが、最終的にはいろんな方に「良かったね」と言っていただけました。学校では、自分のやりたいことや目的に向かって制作をしていますが、この制作を通して、私の自己表現のためではなくて、人に喜んでもらえるものを作ることの楽しみも少しだけ味わうことが出来たと思っています。