日別アーカイブ: 2017/06/29

織実習「布を織る」 本科 鈴木しなの

ゆらり ゆらり 玄関から舞い込んできた風に長い長い布が揺れます。
あまりに美しく、そしてこの布とともに辿ってきたこれまでの時間があまりに濃厚で、
胸がいっぱいになり、目から涙が溢れてきました。
この涙は嬉し涙であり、感動の涙であり、そしてまた、悔し涙でもあるなと思いました。

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基礎織の授業で初めて織を経験し、スピニングの授業で糸紡ぎを学び、当たり前の感覚が覆されるような日々。
そんな中始まった「布を織る」という授業は私にとってさらに得るものの多い貴重な時間となりました。
この授業では、自分の好きな絵画を選び、そこから計5色の色を取り出して縞模様をデザインし、
8メートルの布を織りあげます。そして、織り上げた布の一部を風呂敷に仕立てます。

糸の種類はウールからコットンとシルクへ、機の種類はジャッキ式からろくろ式へ、
隙間がわからないくらい細かい筬や繊細な細い細い糸……基礎織とは違うことばかりで、
次に何が起きるか予測できない毎日に必死でした。

私はジョルジュ・スーラの点描画『グランジェット島の日曜日』という絵画を選びました。
この作品にも描かれているように、日曜日の公園に行くとたくさんの人々が思い思いの時間を過ごしています。
友達と、恋人と、家族と、そして一人ぽっちでも、他愛もない事をお話ししたり、笑ったり、物思いに耽ったり、
そんないつもはそれほど特別に感じないことがなんだか特別になる。
こういうことこそ幸せなんだな、こんなに身近に幸せはあるんだな、と教えてくれる日曜日の公園が私は大好きです。そんな日曜日がずっと続くことを願って今回布を織れたらいいな、そして風呂敷に仕立てると聞いていたので、
その温かな時間で何を包むことができたら素敵だなと考えました。

Georges Seurat nunooru

デザインから始まり、糸の染色、糸繰、整経、粗筬通し、前つけ、経巻き、筬通し、綜絖通し……
1200本の糸を扱いながら行う作業一つ一つが気が遠くなるくらいに繊細で、時間がかかりました。
少しでも前の行程にミスがあると進めないので集中力も試されます。
毎日のようにアトリエ開放時間ギリギリまで居残りをして、神経も体力も要する日々を乗り越えられたのは、
どんな時も落ち着いて対応してくださる先生、そして一緒にもの作りに取り組む仲間がいたからだと思います。
声を掛け合ったり、相談しあったり、特に経糸を巻き取る作業は特にチームワークが求められます。
また、織りが始まってからは周りから聞こえる一人一人のシュッ、トントン。シュッ、トントン。
というシャトルが経糸の下を走り、框で打ち込む力強い音が励みになりました。

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ものづくりは一人のようで一人じゃない。刺激しあって、支え合って、お互いが深まり広がってく。
織りをしていると生きることと似ているなと思うことが多々あります。
今回の制作を通してそう強く感じたことがもう一つあります。
それは一つ一つの積み重ねが全て作品につながっているということです。
授業の最後の講評会の際、二階から吊るした布を見たとき、色合いや縞のデザインは自分としては気に入っていたものの、耳(織端)の乱れや、それらを気にしすぎたり、焦ったりした自分の心の乱れが布に現れていると感じました。先生からもそのような講評をいただき、見る人にも伝わってしまっているのだと気付きました。

自分だけではこれも「自分の味かな」なんて言ってごまかしてしまっていたかもしれないことを、
人に見てもらうことでしっかり受け止めることができたり、
新たな課題や発見があったりして自分の視点から遠ざけて見ることはとても大切なことだ学びました。
少しでも「ま、いっか」とごまかしたらそれ相応のものが仕上がる。
生きることも一つ一つの感情や経験が自分の人生に必ずつながっていく。
織りにしても、普段の生活にしても、一つ一つをゆっくりでもいいから丁寧に大切に積み重ねていけたらいいなと思いました。

私が一番悔しかったのは今回の制作にあたって伝えたかったことが、
自分の技術の未熟さと心の乱れで思い切り伝えることができなかったということです。
自分が表現したいこと、伝えたいことをちゃんと伝えるために基礎を固める、
土台を固めるということは欠かせないことなんだと痛感しました。
人間初めからうまくはいきませんから、今回のことをバネに今後の授業にも一生懸命取り組んでいきたいと思います。

こうして今、たくさん失敗して美しいものからたくさん刺激を受けることができている。
そんな川島テキスタイルスクールでの学びが私にとって本当にかけがえのないものだなと改めて感じました。
また、今回の授業を経て、当たり前に身につけたり、使ったりしてきた布への見方が大きく変わりました。
機から織り上げた布を外した時に感じた布の重みとあの時の感動は一生忘れられません。
布を織るという経験をし、その過程を知っているということは、
これからの人生をより一層豊かにすると確信しています。
知っていると知らないでいるとでは大違いだなと最近よく思うのです。