日別アーカイブ: 2020/10/30

スクールの窓から 4 「テキスタイルの現場」織下絵

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このシリーズでは、そんな専門コースの授業の一部をご紹介します。(不定期掲載)

本科(1年次)では修了制作の一環として、綴織のタペストリーのグループ制作に取り組んでいます。スクールだからこそ実現する授業として、(株)川島織物セルコンから各現場の専門家を招いて「テキスタイルの現場」講義シリーズを行い、助言を受けながら制作を進めます。初回は、呉服商材のデザインを手がける山中正己さんによる授業「身装・美術工芸の現場から学ぶ『織下絵の講義、綴れ工場見学』」が行われました。

織下絵とは、原画を完成品と同じ寸法に拡大し、綴織を織るための図案を描いたもの。いわば、絵から織物にするための段階を可視化していく作業で、そこで色をどう拾い、どう境界線を引いて、無限の色数をどう整理するか。「正確さと緻密さが重要です」と山中さんは話し、そのポイントや注意点をくまなく紹介、制約の中で質の高いものづくりのための要素が詰まった講義となりました。

(株)川島織物セルコン 工芸棟緞帳制作現場

工場見学では、緞帳の製作現場へ。約20メートル幅の緞帳の織下絵の一部を見た上で、実際に織っている現場を歩きました。各工程が分業になることから、下絵から配色、織り手へと連携するのに綿密なコミュニケーションが大切。「線の引き方、色の分け方一つにもコツがあり、次の工程の人がわかりやすい指示を心がけ、二人三脚で意見交換しながら進めています」という現場の声を聞きました。作品、商品、スケール感の違いから、ものづくりの広がりを知る。共通するのは、細部まで気を配る姿勢。現場でのこだわりや進め方にヒントを得て、タペストリー制作に落とし込んでいきます。

◆ 山中さんにとって織りとは? 「美しさ」

私はデザイン一筋のキャリアで、図案を描き続けて48年になります。最初は絵画の複製でも絵に近づけようとしましたが、織物になる段階や、出来上がった物の美しさに触れる中で、絵にはない、織物ならではの表現があると知っていきました。それは緯糸を一越ずつ織り込んで生まれる力強さや風合いですが、言葉では表しきれない。織物の美しさが好きです。

〈山中正己さんプロフィール〉

やまなか・まさみ/織物主体の工業高校デザイン科で平面デザインを中心に絵画・美術一般を学び、1972年、(株)川島織物(現・川島織物セルコン)入社。商品本部生産部呉服開発グループ所属。入社以降ずっと呉服製品のデザインに携わっており、帯をはじめ、打掛、和装小物などの図案を作成している。