日別アーカイブ: 2020/11/24

スクールをつづる:国際編4 修了生インタビュー「工業デザイナーからKTS、英国の大学院へ」Tiffany Loyさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。KTSは手織りを学べる学校として、海外の織りに携わる人たちの間で広く知られています。開校当初から国際的に門戸を開き、京都で手織りの確かな技術が身につけられる、と受講者の口コミで評判が徐々に広まって現在に至ります。第4回からは4週にわたり、織りとの多彩な関わりを持つ世界中にいる修了生に、KTSに学びに来た経緯や、スクールで影響を受けたこと、学んだスキルの生かし方、自身が考える織りとは?についてインタビューした内容をお届けします。

写真:Ed Reeve
「このサイトスペシフィックな(特定の場所に関わる)インスタレーションは、彫刻の概念化と構築に織り手のアプローチを取り入れています。英国の伝統的な製糸工場であるGainsborough Weavingと共同で制作され、ロンドンクラフトウィーク2020で発表されました。」

Tiffany Loyさん(シンガポール)
デザイナー(独立)・アーティスト
シンガポール在住
2015年春、ビギナーズ・絣基礎・絣応用I, II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

以前、工業デザイナーとして働いていた時、仕事でテキスタイルを扱う中で、布への関心が高まっていきました。布地がどのように作られるのか、一歩踏み込んで学んでみたいと思い、織りを学べる短期コースをインターネットで検索。KTSのウェブサイトを見つけ、修了生の作品に感銘を受けて応募しました。異文化に身を置いて、新たなスキルを身につけたいと思ったのも動機です。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

受講開始時、(仕事など日常生活から離れて)実り多い学びのための3カ月間の旅に出た感覚でいました。講座で織物の構造に関する知識を得たことは、テキスタイルを基本とした私の将来のプロジェクトに役立ちました。

初めは、必要な設備や道具の多さを考えると、シンガポールに戻ってから織りを続けるつもりはありませんでした。しかし、個人制作を行う絣応用IIIの終盤になると自分で織りのプロジェクトを行う自信がついてきて、学んだ技能を発展させるのが楽しみになってきたのです。この旅の終わりに織りを辞めてしまうのは、とても残念なことに感じました。それでシンガポールに戻ってから、小さな織りのアトリエを構えて、地元のデザインに関わる人たちに私の織り作品を見せようと決めました。

Pastiche (2018)
「捺染絣の技法を取り入れた手織りの布です。この一点ものの作品は、家具ブランドZanottaのSacco beanbagデザインの50周年記念の一環として作られました。」

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしなどにどう生かしていますか?

この10週間のコースを通して、織りと染めの確かな基礎技術を身につけたことで、修了後も自主的に学ぶことができるようになりました。制作の手法を比べる時に、今でも当時記した授業ノートを参考にすることがあります。私は今も織り続け、習った技能を広げて自分のデザイン・プロジェクトに取り入れています。シンガポールに戻って間もなく、自分で織ったいくつかのタペストリーを地元の展覧会に出展。そこで初めてのクライアントと出会い、その人のブランドの織りデザイン制作の依頼を受けました。仕事として織りを追求していくことに希望が持てたのです。

KTSを修了してから3年が経ち、私は次の学びに踏み出す時だと感じました。シンガポールには、テキスタイルの工房も教育施設もありません。そのため、ジャカード織のデザインのような専門知識と技能を更に身につけるためには、再び海外に行く必要があります。そこでイギリス、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学院大学・RCA)で学ぶために、デザインシンガポール・カウンシルの奨学金をなんとか得ることができました。修士課程で学ぶことは、他の場所で織物を学んだ学生との出会いであり、それぞれの織り手法の違いを見るのが興味深かったです。私は、織りの一つひとつの手順を熟知し、手順を変更することで全体的にどのような影響が出るかをよく分かっていました。そのKTSで身につけた確かな基礎力があったからこそ、RCAではより実験的な制作に取り組むことができました。

−−ティファニーさんにとって織りとは?

私は織り方を学ぶ前に、プロダクト・デザインの訓練を受けてきたことから、手法や活用法の違いを常に意識してきました。織っている時は、至近距離で自分の制作内容を見て、時折ルーペも使って確認しないといけないと感じます。同様に目を遠ざけて、物として布全体を見る必要もあります。その2つの観点の間を行き来することは、織り工程において2つの異なる見方ができるようになるという独自の気づきがありました。

また、技法としての織りは、決して布に限定されるものではない。私にとって織りは構築の手段であり、線を組み立てて、表面と厚みを形作る方法です。抽象的に見ると、織りの技法は、彫刻や建築など、アートやデザインの他の形に応用できるものです。

Lines in Space (2019)
「RCAで完成したプロジェクトです。布の表面を最小限の線に減らし、捩り織りの構造を探求しました。」

website: Tiffany Loy
instagram: @tffnyly

2016年に英語版ブログに掲載した Tiffanyさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。