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スウェーデン交換留学近況報告2 創作科 谷 歩美果

8月下旬より、提携校であるスウェーデンのHV Skolaに交換留学に行っている
創作科(3年目)の谷さんより近況報告が届きました。

Damastの授業が終わり、DesignTorgetとのコラボレーションプロジェクトが始まりました。
このプロジェクトは、HVの 生徒が作ったものを来年の春にDesignTorgetの店舗にて販売するというものです。
まず始めに、DesignTorgetから来たアマンダさんよりアーティストやデザイナーにとって何を考える必要があるのかというレクチャーを受けました。そこで印象的だったのがHow~という言葉です。どう働きたいか、どうなりたいか、自分の人生、生き方をどう作るか、どんな層を的にするか、どういう素材を使うのか、他にもいろいろなHow~があり、またHowを考えたら次は行動に移すべきというレクチャーはとても面白かったです。経済の知識が創作側の販売生活を大いに助けるというお話も、今まで自分があまり考えていなかった、作品を売るという点を考えるきっかけになりました。実際HVのみんなは経済学の授業があり、使った材料、制作時間、クオリティなどを考慮して、利益を得るための価格設定を学んでいます。他にも経済学の授業で、会社の立ち上げ方やインターネット販売の方法なども学んでいると言っていました。

このプロジェクトはグループワークで、白色と黒色しか使えないという条件があります。
私はJosefineさんと一緒に、来年2018年がスウェーデンと日本の国交樹立150周年記念の年だというところから、
スウェーデンの技術と日本の技術を合わせ たクッションカバーJapanese and Swedish Plow Colectionを作ることに決めました。まず、思いつくそれぞれの国の織物や テクニックをリストにして、いろいろな素材でサンプルを作りました。(RYAWAFFULDROPDRALLRIPS、刺子、緋り、絞り) HVでは綿やリネンを染めるのに反応性染料を使っているのですが、何度も調整を繰り返してもうまく黒を得ることが出来ず、結果、統一性を求めるため、使う素材をウールにしました。
こちらの染色方法は日本でやっていた綛を繰る方法ではなく、鍋に綛全部をドボンと入れるという方法で、始めの頃は何かすごく悪いことをしているような気持ちになっていました。この方法は糸を繰らない分、沸騰をさせずに長時間煮て色を得ます。なので待っている間に刺編をしたり、編み物をしたりしている光景をよく目にします。
編み物をしている人の姿は染色中だけではなく、先生が話している授業中や仕事中のトラムの駅員さんなど日本だと確実に怒られるだろうなという場所、時間にも目にしており、そこにスウェーデンらしさを感じます。

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↑糸繰をするJosefine、木枠ではなくボビンを使う。

素材をウールに統ーし、もう一度サンプルを作り、それぞれのテクニックが一枚織るのにどのくらいの時間を取るかや、RYA部分にどの種類の糸を混ぜるか、時間短縮のために線続通し順を変えず、ワッフルからドロップドラルに移る組織の作成、刺子刺編の代わりに刺子に見える織組織の作成などを話し合い、本番を作り始めました。
このプロジェクトを通して、商品にするためのクオリティーを求める姿勢や自分たちのクリエイティビティをコントロールする力を身につけることが出来た上に、スウェーデンのテクニック、日本のテクニックを通じてお互いの知識を増やすことが出来たこと、織組織りを学べたことなど、沢山のことを得ることが出来ています。来週の最終プレゼンに向けてこのままの姿勢を保っていきたいです。

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↑絣 Munkabålt DesignTorgetプロジェクトのサンプル

DesignTorgetProjectの間にTaqueteというテクニックを学びました。二週間に一回くらいのペースでBLという授業があり、そこでいろいろな織組織りの学習をしています。TaqueteはWeft-Ripsの多重織で、特別な線続を使うと自由に絵柄を織ることが出来ます。また、GORAEGETMATERIALという学校全体で行われたワークショップにも参加しました。GORAEGETMATERIAL はMakeyourownmaterialという意味で、緋、スピニング、ミシンワークの三箇所を回りながら、自分の好きなように好きな 素材で糸を作るというものでした。ここでいつもはあまり関わりのない、ファンデーションコースの人とも話すことが出来、良い機会になりました。

10月の頭の頃に、学校全体でプレゼンテーションがあり、なんでも良い好きな写真を3枚提出するように言われ、
よくわからず出席しました。この授業では、写真1枚につき1分の説明で3枚紹介し、自分自身をプレゼンするという、おそらくプレゼンテーションの練習のための授業だったのだと思います。スクリーンの前のふかふかなソファーチェアに座りながら、前に座っている全校生徒に自分の好きなものについて話すと、なんだかアメリカのテレビ番組のように思えて1人で二ヤ二ヤしてしまいました。

学校外では、隣のお店でRosemaryさんというご近所さんとなぜか友達になり、Rosemaryさんと娘のVictoria、息子Andresとご飯を食べにいきました。お子さん2人は14歳で日本のアニメが大好きと、私が知らない日本のアニメを教えてくれました。Rosemaryさんごー家は二年前にアメリカからストックホルムに引っ越してきたそうで、スウェーデンで日本好きなアメリカ人と友達になるという不思議な体験をしています。娘のVictoriaは特にセーラームーンが大好きで、日本版とアメリカ版のOPの違いを解説してくれたり、なんだか妹が出来たみたいで可愛いです。

HVの卒業生の個展も見に行きました。主に自然染色でインテリアテキスタイルを織っており、アボカドの種で染色している作品は暖かさと冷たさが混合したなんとも言えない色味がとても素敵でした。

毎日、朝から夜までやることが沢山あるのですが、休憩の取り方がうまくなったのか、あまりストレスを感じません。ただ、スウェーデンに来てから確実にコーヒー中毒のようになっています。クラスメイトのMariaさん日く、これはスウェーデンに来た外国人の通る道だそうです。

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写真はスウェーデンで見つけた面白いものたちなどなど。

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↑とんがりキャベツ、丸いキャベツより柔らかくて苦みが少ないのが特徴
チェーン店のお寿司屋さん。無機質な内観とレンガの外観のギャップがすごかった。

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↑やる気の無い羊。
NORDISKA MUSEETはノーディスカッ ミュージーエットと読むとシャミさんに教えてもらった。

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↑NORDISKA MUSEETのおもちゃの歴史コーナーにゲームボーイが展示されておりびっくりした。

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↑Möbelattという種類のウール、しっとりとしている。ラグの経糸に使うことも出来る強さがある。

スウェーデン交換留学近況報告1 創作科 谷 歩美果

8月下旬より、提携校であるスウェーデンのHV Skolaに交換留学に行っている
創作科(3年目)の谷さんより近況報告が届きました。

8月27日、大きな期待と少しの不安を携えてスウェーデンに到着しました。
入国審査で引っかからないかが一番の不安だったのですが、スウェーデンの空港には
入国審査というものが存在しておらず、どこだどこだ?と歩いている内に入国が完了しておりびっくりしました。
(後から分かったのですが、乗り継ぎの空港にて入国審査を受けていたそうです。気づきませんでした。)
到着日はとても有り難いことに、少し前まで本校にて学んでいた留学生の Anneli さん宅に泊めて頂きました。
Anneli さんに入国審査について尋ねてみると、彼女は逆に、日本に来た際、
入国審査場で滞在する場所の住所まで聞かれた事にびっくりしたと言っていました。

初日の登校日からダマスクの授業が始まりました。授業は基本全てスウェーデン語で行われています。
ダマスクでは普通の綜 絖の他にパターン綜絖というものを使用するのですが、
スウェーデン語で聞こえてくるそれがモンスタースキャッフトにしか聞こえず、
飛び交うモンスターという単語にダマスクの授業中、度々ファッションモンスターの歌が脳内再生されています。

HV の授業はとてもスピーディです。
進みが速いという事ではなく、先生の説明から作業に移るまでにかかる時間や、
自分が織りたいと思うデザインを決めるのにかかる時間、そのデザインを出すにはどのような色、糸の種類を使えば得る事ができるかを考える時間に無駄が無く、
織る・作るという事への熱意をクラスメイトから感じるからです。
また、先生と生徒という関係性が対等であり、授業が議論の上に成り立っているところが興味深いです。

学校での授業の他に郊外授業がたまにあり、ボタニカルガーデンでスケッチをしたり、
そこで自然染色をしている方のお話を聞いたり、テキスタイルのエキシビションを見に行ったりと
沢山の刺激をもらっています。
特に、小さなシルクの美術館で行われたアメリカ人で現在ラオスで Lao Textiles という会社を立ち上げている
Carol Cassidy さんの講演会は胸を打たれるものがありました。
自分が日本人である意味、そして今スウェーデンでテキスタイルを学んでいる意味を深く考えるきっかけになったと思います。
少し嬉しかったのは、講演中アジア人の顔が目立っていたのか、あなたはどこから来たの?と尋ねられ、
日本と答えると日本の織物文化についても話してくださったことです。
ボタニカルガーデンでは染色家の方がスウェーデン語で話していたので
彼女の話を理解するのが難しかったのですが、後からクラスメイトで
昨年そこのワークショップを受けていたという Cissi さんが豆知識を加えながら付きっきりで英訳してくれ、
さらにはバンドルテクニックをやってみたいという私に色々なサイトや過去の彼女の作品などを見せてくれました。
また、スケッチも「スケッチ=鉛筆」ではなく、刺繍を使ってスケッチをしている人も居て、自分の固定概念を砕かれた気がします。

ダマスクの授業が終わる頃に個人面談がありました。
面談ではメインティーチャーのエリザベスと今まで自分がやっていたことや、
これからやりたいこと、クラスの雰囲気をどう思うかなどについてお話ししました。
今回、ビザが下りなかった為、本来の刺繍の授業が受けられないのですが、
そのことを伝えると月末に行われているウィークエンドコースに参加できるようにしてくれることになりました。
持ってきた自分のポートフォリオを見てもらうと、
もしあなたが望むなら、クラスで時間を設けて日本でのあなたの作品をクラスメイトに見てもらう時間を設けましょうと提案してくれ、
結果、クラスでお互いの作品を見せ合う小さなプレゼンテーション会をすることになりました。

HV に来てよく言われる言葉が『If you want』です。
あなたが望むならそれをしましょう、それができます、という様に使われるのですが、
この言葉を聞くたびにワクワクした前向きな気持ちになれ るのがとても嬉しいです。
エリザベスは自称英語が苦手らしいのですが、私にとってはゆっくり話してくれるので聴き取り易く、
彼女がメインティーチャーでよかったとつくづく思います。
また、私のスピーキング力の無さを謝ると、問題ない!だって私たち分かり合えてるじゃない!!と言ってくれ、二人でちょっぴり盛り上がりました。
しかし、もっと沢山ありがとうの気持ちや 嬉しい気持ちの内容を伝えることが出来たら良いなと思うので
スピーキング力を上げれるよう、勉強しようと決意した面談になりました。

HV では毎年カリキュラムが変わるらしく、昨年のノーベル博物館とのコラボレーションは今年は無いのですが、
代わりにスウェーデンの有名なアンテナショップ Design Torget とのコラボレーションプロジェクトを行います。
これはグループワークなので迷惑をかけないか少し不安なのですが、
自分たちが作ったものが店頭に並ぶという体験は想像するだけで顔がにやけます。
このプロジェクトについては次のレポートで詳しくお伝えするつもりです。

昨年、川島に来ていた HV のみなさんにもお会いすることが出来ました。
そのうちの一人、カタリーナさんは今、HV の上にあるアトリエで働いており、
放課後コーヒーをご馳走してくれた上に、色々な情報を教えてくださり、
困ったことがあったらいつでもなんでも聞いてねと、あまりの優しさに帰り道少し泣きそうになりました。
その一週間後には、染色室でばったりマリアさんに出会い、あれ?ここは川島かな?と不思議な気持ちになりました。
そして先週は、Ia と Siri が彼女たちのアトリエに招待してくれ、二人が作ったスウェディッシュパンケーキ・リンゴンベリージャム添えとトンガリキャベツのサラダをご馳走してくれました。
Siri は日本から帰ってきてからスウェーデンでも味噌を買うようになったそうです。
また、VÄVMÄSSAN というテキスタイルの祭典に日本の秩父から出展していた日本人の方二人 (Siri と Ia の友人 )も招かれており、銘仙やシルク、伝統工芸士といったお話しを聞くことが出来ました。

スウェーデンに来て約一ヶ月、日本で出会ったスウェーデンの方々、スウェーデンで出会ったスウェーデンの方々、スウェーデンで出会った日本の方々。
様々な人たちに支えて頂きながら、素晴らしい日々を送らせて頂いています。
希望より短い期間になってしまいましたが、約三ヶ月間、沢山のことを吸収したいと思います。

追記:語学向上のためなのかなんなのかは分かりませんが、スウェーデンでは受け身だと何も起こらないので、
誘ってくれたり、おすすめしてくれたことは積極的に参加したり、やってみたりしています。
そして、その感想をできる限り伝えています。 また、会話の中でよく使われるけど、自分は使ったことがない単語などは、真似して覚える様にしています。(supposed to←ディスカッション中によく出てきた。)

写真は、スウェーデンで見つけた面白いものたちなどなど。

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↑スウェーデン名物ザリガニ、シャコのような味がして以外と美味しかった。

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↑木管や紙管の代わりにストローを利用していたクラスメート

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↑カラスが2色。怖くない。

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↑封筒に染色サンプル。なんか可愛い。

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↑至る所でテキスタイルに遭遇する。

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↑カタリーナさんが落ちていた誰かの針を刺した。お花の針山。

Processed with MOLDIV
↑クラスメートの Ida さんと Maianna さん
アートマーケットで RYA というテクニックを教えてもらった。

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↑近くの Rosendals Trädgård にてお花摘み。38kr/hg。

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↑多分、毒キノコ。普通に生えてる。マリオの世界みたいだ。

絣クッション制作  本科 小郷晴子

格子柄と十字柄どちらかの模様を選び、絣織のミニクッションを作りました。

絣糸を使って模様を出す織物は初めてなので、経糸、緯糸それぞれ、どの部分を括って絣糸を作ったら良いかなど、
詳しく説明された「経緯分解図」をもとに、教えて頂きました。

これまでの織りの授業では経、緯、それぞれの色を決めたらまずは糸染めをしていましたが、
今回は模様を出すため、まずは絣糸の準備です。
これは、とても手のかかる大変な工程だと思いました。
色を抜く部分にラップを覆い、更にすずらんテープで括るのですが、
染料が染み込んでしまわないよう、とてもきつく括らなければならないので、手首が痛くなる程でした。
この工程が済んだらようやく染色です。

染色が済み、機に経糸を準備するとき、括った部分を解いて行きます。
この時、上手に出来ていたり、少し色が染み込んでしまっていたりが露わになり、
一部分ずつ解く度にワクワクしました。
染み込んでしまった部分は手がかかった分、残念に思いましたが、
その原因も知ることが出来たので、次に繋げたいです。

機の準備が出来たらいよいよ織り始めです。
経絣に緯絣を打ち込むごとに模様が現れ、一越ずつが楽しい織物だと思いました。
そして、一つの模様が織り上がるごとに感動しました。
糸一本一本の張りや、織り具合によって、設計通りにぴたりとは織ることが出来ず、
ずれてしまう部分もありました。
けれども、糸一本一本の姿が良く分かり、染色から完成までの工程なども感じられる、
絣織物の良さでもあるなと思いました。

絣織を実際に学んだことによって更に、良さ、難しさを知りました。
手がかかった分、その織物への愛着が増しました。
今後は更に細かい模様の絣織にも挑戦してみたいです。

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機準備の様子

 

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緯絣を慎重に合わせながら織っています。

 

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完成したクッションを並べてみました。

日本茜の里作りプロジェクトに参加して 本科 布施木展子

7月8日、京都府南丹市美山町で日本茜の苗の植え付けを行いました。
この企画は、大阪で「和泉茜の里」というプロジェクトを行なっている杉本一郎さんによる
美山での日本茜の里作りのプロジェクトの一環です。
染織の仕事をしている方や杉本さんを応援する農家の方をはじめ10名ほどが集まり、
美山の2ヶ所の畑で日本茜の苗の植え付けと手入れを行いました。

杉本さんのお話によると、日本茜は、日本で古代から使われてきた伝統的な染料で、
日本の国旗が制定された際も、日の丸部分には日本茜の赤が使用されていたそうです。
茜の名前は「赤い根」に由来していて、3年ほど植えっぱなしで育てた株の根を掘り起こし、
その根が染料になるそうです。
掘り起こす手間がかかることから日本では栽培が少なくなっており、現在は茜染というと
日本茜ではなく西洋茜やインド茜が主流になっているそうです。
日本茜には西洋茜等よりも黄色の色素が多く含まれていて、赤い色を染めた後の染液をもう一度使って
黄色を染めることができます。

杉本さんは、すでに大阪の泉北郡でも日本茜を使ったプロジェクトを実行しています。
美山では、6年かけて美山を日本茜の里にする計画をしています。
まずは大阪で育てた日本茜の苗を美山の畑で3年間栽培することを計画しており、2017年はその2年目です。
この計画には地域にある耕作放棄地の活用や地元の人や染織系学生を巻き込むことで、
美山に日本茜のメッカを作り、農村の過疎化を防ぐ狙いがあります。

この日は、新しい畑への植え付けを行ない、そのあと場所を移動して前年に植え付けた畑の補植と水やりを行いました。
新しい畑は、廃校になった小学校の学童農園だった畑を利用しています。
農機具を使って手作業で苗を植える畝(うね)を作り、畝を覆う薄い白ビニールのマルチを敷いた後、
等間隔にマルチに穴を開けて、茜の苗を植えました。
前年の畑では、植えたあと枯れてしまった場所に新しい苗を植え、その後水やりを行いました。

茜アップ

新しい畑で作業をしているときは植え付ける茜の苗がとても小さく感じ、本当に根付くのか半信半疑でしたが、
前年の畑では、マルチの穴から溢れるようにして茜が茂っており、生命力の強さを感じました。
もしかすると、本来は日本茜は本来茜の畑を作らなくても、他の野菜の脇などに植えられていたのではないかと思います。

私は以前農業と地域について勉強しており、農業といま学んでいる染織がつなげられる機会がないかと考えていました。
この美山での日本茜のプロジェクトはまさに地域と農業と染織を繋げられるもので、今後も注目していきたいと思っています。
また、希少な日本茜に関われる機会ということで、染織に関わるさまざまな職業の方や学生が注目しています。
作業を通して交流をもち、茜を通した染織のネットワークが今後広がっていくのではと思いました。

茜染製品

尾州産地テキスタイル課外研修

尾州テキスタイル研修レポート」本科 西澤 彩希

9月19日、日本最大の毛織り物産地である尾州の織物について学ぶため、私たちは3ヶ所の施設を訪れました。
京都からバスに揺られて約2時間半、岐阜県羽島市にある『テキスタイルマテリアルセンター』に到着しました。
こちらの施設は、日本全国のファッション衣料用素材を集めた国内最大のテキスタイル資料館です。
出迎えてくれたのは大量の生地。素材を毎年追加しているとの事で、色とりどり、素材もさまざまな生地が部屋全体に並んでいました。実際に手に取り、触れながらデザイナーの方による素材講習を受けました。

まず、ファンシーツイードを中心に制作されている足立さんの講習を受けました。
たくさんの生地を用意して頂いた足立さんは、一つ一つ生地を見せてくれて、制作工程やその生地が出来るまでの流れを語って頂きました。制作に対する情熱が伝わってきて、その情熱がより良いもの作りへの活力になるのだと思いました。珍しい技法や素材を用いる事で、生地にさまざまな表情が生まれます。
足立さんは「普通の事では認められない。尾州の限界を考えて制作している」と仰っていました。
中でも印象に残っているものが左右の柄が違うジャケットです。隣り合う柄の中心に縫い合わせはなく、織り方を工夫して一枚の生地に柄が織られていました。今までの経験と技術、そして挑戦する心意気があったからこそ生み出された生地に触れられ、とても幸せで贅沢な時間を過ごせました。

「失敗した事を積み重ねて、どうやったらうまくやれるか考える」足立さんも過去にとんでもない失敗をしたと仰っていました。私は今までの織りの授業で、失敗ばかりしていると感じていました。糸が絡まったり、緯糸が飛んでいて何センチも前に戻ったりしていて時間に焦り、思い通りに進まない自分にもどかしさを感じていました。
そんな時に聞いた足立さんのこの言葉に私は励まされました。今までした失敗は今後の役に必ず活かせるだろうし、失敗しても挑戦する事が大切なんだと学びました。

続いて、ジャカード織物をメインに企画から販売まで幅広く活躍されている岩田さんの講習を受けました。
岩田さんには、染色された糸や、織物の設計図にあたる紋図などを見せていただきました。
それらの中に、たくさんの丸い穴が開いた厚紙がありました。これは、紋紙と呼ばれるジャカード織機に付属し、
その穴を読み取って柄を織る、言わば柄のデータです。複雑な模様になるほど紋紙の枚数は増えます。
岩田さんはこの紋紙を見ただけで、ある程度どのような柄が織られるかがわかるそうです。

今まで培ってきた豊富な知識を、足立さんや岩田さんは私たちにわかりやすいように教えてくださいました。
織物というのは、どの工程も緻密で繊細で、仕組みを理解するのは難しいですが、織りあがったものを見ると、
達成感や感動が生まれます。その分だけ根気や技術力が試されますが、二人の講義を受け、努力すれば素晴らしいものを生み出すことができるのだと痛感しました。

次に、愛知県一宮市にある「葛利毛織工場株式会社」さんへ見学に行きました。
こちらは主にメンズスーツ生地を制作されている工場です。懐かしさのある佇まいの工場は、昔から使われているションヘル織機のガシャンガシャンというリズミカルな音が響いていました。
ションヘル織機は人の手が加わります。私たちが普段学校で使う手織り織機同様、経糸・緯糸の準備、整経、綜絖通し、筬通しもすべて手作業で行われ、根気と熟練された技術を要します。
綜絖・筬通しの作業は大体6000本位の糸を通すのに3日はかかるらしく気の遠くなりそうな作業に圧倒されました。そして製織は1日に10mくらいしか織れないとのことです。
スピードと大量生産を重視される現代でなぜ時間と手間のかかるションヘル織機にこだわるのか、それは手織りの風合いを保つ為だそうです。ションヘル織機の特徴は、低速で織り進めるため、繊維を傷めることなく優しく丁寧に織られていきます。そのため手触りが柔らかくしなやかさある生地が出来上がるそうです。そうして作られたスーツに魅了され、芸能人や海外ブランドからオーダーされています。
工場を見学していて一番に感じたことは、従業員の方が織機と寄り添いながら作業をしていたことです。
一つ一つの作業を大切にされており、織りあがった後もミスがないか入念にチェックされています。
そうしたことが信頼につながり、世界進出できたり、価値があるものと認められるのだと思いました。

最後に伺ったのは岐阜県羽島市にある「三星染整株式会社」さんです。
繊維素材の染色・整理加工をしている工場での加工風景を見学させていただきました。取り扱っている繊維素材は幅広く、天然繊維から合成繊維まで加工を行っています。機械によるさまざまな加工技術を見せていただきました。加工されたものは最終的に検査が行われます。生地の幅、色、風合い、キズがないかなど、目視で検査されています。出荷後も何か不具合があった時などのために管理カードがあるとの事です。

生地はさまざまな工程を経て私たちの手元に届きます。
今まで当たり前のように生地に触れていた事が、実は多くの方が関わったからこそ出来たものだと学びました。
今回の見学で、テキスタイルの奥深さを知る事ができ、今後の制作の意欲を高める事ができました。

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足立氏講義の様子                  岩田氏講義の様子
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葛利毛織工場株式会社
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三星染整株式会社

「Made in Japanを支えること」本科 岡田 弥生

ここ10年ほど、日本の伝統工芸は世界で注目を集めつつあります。
第2次世界大戦に敗戦してから、日本人はアメリカやヨーロッパ各国に追いつこうと必死に努力をしてきました。
その結果、世界のどこにも負けないもの作りの文化が生み出され、一方で、日本の伝統文化は高齢化が進み後継者不足に頭を抱える時代を迎えました。

伝統を守り続けることは、新しいものを生み出し続けることでもあると学んだ尾州への研修。お話をしてくださった方々が、尾州でもの作りをしているということに誇りを感じている様子に大変刺激を受けました。

テキスタイルマテリアルセンターでは、お二人のデザイナーの方にお話を聞くことができました。ツイードを得意とされている足立さんのお話からは、新しいものを生み出し続けることの面白さと大変さを学びました。足立さんが生み出したテキスタイルはどれも斬新で、フィルムを織り込むような素材使いから、出来上がった布地からあえて糸を抜くなどの発想には伝統を超えたもの作りの面白さを感じました。続いてジャカード織を専門とされてる岩田さんのお話は、織機をいかに人が操るかで、織物に無限の可能性を見出すことができるように思えました。岩田さんに見せていただいた鳥模様の織物は一羽の中に様々な織り方がなされており、ただ色を変えたりするよりも味のある鳥が浮かび上がっていました。

お二人の話では、世界のファッションシーンを牽引するようなメゾンからもオーダーが来るということでした。
ファッションデザイナーとどのように仕事をするか。彼らの求めるものをどのように布に表現し、できないことははっきりと伝え、できることを最大限のものを作り上げるテキスタイルデザイナーという仕事についてもお話が伺え、貴重な経験となりました。

続いて、スーツ等を生産している葛利毛織の工場を見学させていただきました。現在では高速織機が普及し、大量の布地を短時間で織り上げることが当たり前となっている中、低速だからこそ手織りの風合いを残した布を織ることができるションヘル織機を昭和初期より使い続けられているそうです。そちらで織られたという布地は、確かに空気を含んだような柔らかさのあるものばかりでした。

最後に三星染整の整理加工工場を見学させていただきました。今まで、スクールでは織ることを中心に学びましたが、製品になるまでには織りあがったものにこんなにもたくさんの工程を経て加工を施さなければならないのかということに驚きました。何度もサンプルを作成し、その布地に最適な外観と触感を作り上げることは、きっと私が想像する以上に難しい作業だったと思います。

made in Japanの製品が世界で注目される今日、尾州で作られているような力強い日本の伝統を何らかの形で支える人材になりたいと強く感じました。

織実習「綴織」 本科 宮原麻衣

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学校の玄関に飾られた8枚のタペストリーを見て、この約一ヶ月間の綴織に浸かった日々を思い出し、
感慨深いものがありました。

綴織は経糸の下に織り下絵を置き、その下絵に沿って緯糸を爪や櫛で掻き寄せながら織っていきます。
初めの頃は私自身の不器用さも相まって何度も先生に助けを求めなければ上手く織り進められず、
もどかしい気持ちを感じる日々が多かったです。しかし続けていく中で、緯糸を一越一越入れていくことによって、まるで絵を描いているように下絵がだんだんと布の上へと浮かび上がってくる様子に、
綴織の魅力を感じ、面白さを感じ始めるようになりました。

基本的な技法を一通り学んだ後、最後の課題として「花」をテーマに自らデザインを進め、
各自タペストリーを完成させることとなりました。

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デザイン画

デザインを考える際、夏休み前までの約2週間という期日があったのもあり、
やってみたいと思うデザインと始めて間もない今の自分の技量とを考えながら作成していくのは難しく、
原画完成にも多くの時間を要しました。

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完成作品

原画が完成し織り進めていく過程でもやはり悩み、手が止まってしまうことが多かったです。
しかしその中でも、これまで学んできたことを活かし「ここはこの織り方の方が上手く表現できるかも、、、」等と未熟ながらも自分で考え進められたことは、大変に思う部分もありながらも、今まで以上に出来上がっていく過程を楽しむことができたと思います。
そして、最後に完成したタペストリーを見た時には、達成感とともに少しでも成長できている自分にも気づくことができ、とても嬉しく感じました。

これからも一つ一つ作品を確実に完成させながら成長していけたらと思います。

織実習「布を織る」 本科 鈴木しなの

ゆらり ゆらり 玄関から舞い込んできた風に長い長い布が揺れます。
あまりに美しく、そしてこの布とともに辿ってきたこれまでの時間があまりに濃厚で、
胸がいっぱいになり、目から涙が溢れてきました。
この涙は嬉し涙であり、感動の涙であり、そしてまた、悔し涙でもあるなと思いました。

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基礎織の授業で初めて織を経験し、スピニングの授業で糸紡ぎを学び、当たり前の感覚が覆されるような日々。
そんな中始まった「布を織る」という授業は私にとってさらに得るものの多い貴重な時間となりました。
この授業では、自分の好きな絵画を選び、そこから計5色の色を取り出して縞模様をデザインし、
8メートルの布を織りあげます。そして、織り上げた布の一部を風呂敷に仕立てます。

糸の種類はウールからコットンとシルクへ、機の種類はジャッキ式からろくろ式へ、
隙間がわからないくらい細かい筬や繊細な細い細い糸……基礎織とは違うことばかりで、
次に何が起きるか予測できない毎日に必死でした。

私はジョルジュ・スーラの点描画『グランジェット島の日曜日』という絵画を選びました。
この作品にも描かれているように、日曜日の公園に行くとたくさんの人々が思い思いの時間を過ごしています。
友達と、恋人と、家族と、そして一人ぽっちでも、他愛もない事をお話ししたり、笑ったり、物思いに耽ったり、
そんないつもはそれほど特別に感じないことがなんだか特別になる。
こういうことこそ幸せなんだな、こんなに身近に幸せはあるんだな、と教えてくれる日曜日の公園が私は大好きです。そんな日曜日がずっと続くことを願って今回布を織れたらいいな、そして風呂敷に仕立てると聞いていたので、
その温かな時間で何を包むことができたら素敵だなと考えました。

Georges Seurat nunooru

デザインから始まり、糸の染色、糸繰、整経、粗筬通し、前つけ、経巻き、筬通し、綜絖通し……
1200本の糸を扱いながら行う作業一つ一つが気が遠くなるくらいに繊細で、時間がかかりました。
少しでも前の行程にミスがあると進めないので集中力も試されます。
毎日のようにアトリエ開放時間ギリギリまで居残りをして、神経も体力も要する日々を乗り越えられたのは、
どんな時も落ち着いて対応してくださる先生、そして一緒にもの作りに取り組む仲間がいたからだと思います。
声を掛け合ったり、相談しあったり、特に経糸を巻き取る作業は特にチームワークが求められます。
また、織りが始まってからは周りから聞こえる一人一人のシュッ、トントン。シュッ、トントン。
というシャトルが経糸の下を走り、框で打ち込む力強い音が励みになりました。

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ものづくりは一人のようで一人じゃない。刺激しあって、支え合って、お互いが深まり広がってく。
織りをしていると生きることと似ているなと思うことが多々あります。
今回の制作を通してそう強く感じたことがもう一つあります。
それは一つ一つの積み重ねが全て作品につながっているということです。
授業の最後の講評会の際、二階から吊るした布を見たとき、色合いや縞のデザインは自分としては気に入っていたものの、耳(織端)の乱れや、それらを気にしすぎたり、焦ったりした自分の心の乱れが布に現れていると感じました。先生からもそのような講評をいただき、見る人にも伝わってしまっているのだと気付きました。

自分だけではこれも「自分の味かな」なんて言ってごまかしてしまっていたかもしれないことを、
人に見てもらうことでしっかり受け止めることができたり、
新たな課題や発見があったりして自分の視点から遠ざけて見ることはとても大切なことだ学びました。
少しでも「ま、いっか」とごまかしたらそれ相応のものが仕上がる。
生きることも一つ一つの感情や経験が自分の人生に必ずつながっていく。
織りにしても、普段の生活にしても、一つ一つをゆっくりでもいいから丁寧に大切に積み重ねていけたらいいなと思いました。

私が一番悔しかったのは今回の制作にあたって伝えたかったことが、
自分の技術の未熟さと心の乱れで思い切り伝えることができなかったということです。
自分が表現したいこと、伝えたいことをちゃんと伝えるために基礎を固める、
土台を固めるということは欠かせないことなんだと痛感しました。
人間初めからうまくはいきませんから、今回のことをバネに今後の授業にも一生懸命取り組んでいきたいと思います。

こうして今、たくさん失敗して美しいものからたくさん刺激を受けることができている。
そんな川島テキスタイルスクールでの学びが私にとって本当にかけがえのないものだなと改めて感じました。
また、今回の授業を経て、当たり前に身につけたり、使ったりしてきた布への見方が大きく変わりました。
機から織り上げた布を外した時に感じた布の重みとあの時の感動は一生忘れられません。
布を織るという経験をし、その過程を知っているということは、
これからの人生をより一層豊かにすると確信しています。
知っていると知らないでいるとでは大違いだなと最近よく思うのです。