在校生インタビュー「作り手の自分に戻ってきた」Uさん(2025年度・専門コース本科)

芸術大学を卒業し、何年か会社員生活を送り、川島テキスタイルスクールの専門コースに入学。「やっぱり作り手になりたい」という自分の気持ちに素直になったというUさんに、大学の専攻とは違う織りを選んだ経緯や、仕事を経験して実感する学び甲斐などについて語ってもらいました。

修了制作のサンプル織り。モチーフとなる石からインスピレーションを得る。

◆我慢しないで素直になった

——Uさんは芸術大学の大学院を卒業されていますが、染織の専攻ではなかったのでしょうか。

大学で染織は全くやっていなくて、現代美術やインスタレーションを学びました。作品制作における素材や手法はその時々で変わり、糸を扱ったこともありました。糸や織りや布に興味はあって、染織専攻の友人の制作室に遊びに行ったり、制作の話を聞いたりして楽しそうとは思っていました。

——卒業後は2社で働かれています。どちらもものづくりの会社です。

それは意識していた点です。卒業後の進路は、自分の制作を続けるか、留学するか、就職するかの選択肢の中で、新卒だからこそできる経験として就職を選びました。会社は、自分が素敵やなと思える製品を作っていたり、作り手へのリスペクトがしっかりあるところがいいと思って選びました。一旦自分で作るところから離れる、またやりたくなったら戻ろうという気持ちでした。

——2社を経て、やっぱり自分で作りたくなったのでしょうか?

そうですね。1社目は商空間ディスプレイの仕事に携わっていました。製品をよく見せるには、販売するにはどうするかなどすごく勉強になりました。ただお店ではシーズンのサイクルが早く、ディスプレイの役割が終わったらお金をかけて廃棄せざるを得ないとか、消費ペースがちょっと早いなと引っかかりがあったんです。もし自分が作るなら消費期限の長いものを、仕事のペースではなく作りたいと思いました。2社目はインテリア業界でしたが、どの環境でも私だったらこうするとこだわりが出てくるようになって、もう自分で考えて作りたいんやろなって。その気持ちを優先させました。

——そこで学校で学ぶという選択をされたのは?

働いてた時、同年代で進路変更した周りの人たちと話す中で、結婚だったり出産だったり、退職してもう一度勉強したりといういろんな選択肢で勉強が 1 番羨ましかったんですね。羨ましいと思うならやればいい。我慢しないで自分に素直になったという感じです。

——どうして織りだったのでしょう?

前職で、テキスタイルの張地のデザインや機能を接客時に説明する必要があって、インテリアファブリックを勉強していたんです。ただ言葉で覚えても実感がなく、これは実際にやらないと理解できなさそうと感じていたんですね。世の中に流通している布を見てもわからないところ、手織りの始めと終わりはどうなっているかとか織物の仕組みが気になりました。興味が先にあって、仕事を通してもっと知りたくなった。服も好きですし、専門的に勉強するのに違和感がなかったです。

——学校見学に来て、即決できた理由は?

先に退職を決めていたので、あまり悩みませんでした。この学校の雰囲気が自分の通っていた大学に似たところがあって、懐かしい感じがして。制作のための場所とか、機がたくさん並んでいる空間とか、自然豊かで静かな校舎とか、初めて来たのに戻ってきた感じ。いろんなタイミングが合って、この学校に通うことになって、この選択で良かったんじゃないかな。日々楽しいですし。

◆自分にとって、ものづくりの営み自体が必要

——これまでの仕事の経験は、今の学びとどうつながっていますか?

課題をやる中で、経験に助けられていると思うことは多々あります。今だから出てくる考え方や表現とか、これまで全部の蓄積でやっているなって。制作に取り組む姿勢も、ただ丁寧に綺麗にゆっくり作ればいいじゃなくて、どの過程も無駄なく、早く丁寧に、を心がけています。効率を上げるにはっていうのは仕事で求められるところでしたし。人に言葉で伝える場面でも、自分だけ分かっていればいいのではなく伝えるために心を砕く必要があるのも、仕事の経験から思うようになったんじゃないかな。

——経験を生かせていると思えるのは嬉しいことでは。

日々幸せな気持ちです。通学のバスに乗りながら思いますね。課題だけやれる贅沢な時間。羊毛をほぐす作業でも、昨日より綺麗に早くできるわとか。そのためにどうしたらいいかにずっと頭を使ってる。それが贅沢やなって思いますね。これまでは製品をお客様に届けるまでの業務がメインで、それをやり続けたかったわけじゃなく、やっぱり作り手になりたかったんやなって。この学校ではどの作業工程もどんな仕上がりかも全部自分の責任でやっていけるのが面白いところ。ものづくりの楽しさや喜びが日々更新されている感じですね。

——これから修了制作が始まります。どのような心構えですか?

制作プランを考えるのに、これまで学んだことは一旦置いて、つくりたいものをつくるにはどうしたらいいかと考えた方が、ここでしかできないものづくりができるんじゃないかと思って取り組んでいます。根っこには、いらなくなるものを作りたくない気持ちがあります。指示を出して他の人に作ってもらうのともまた意味が違って、自分にとって、ものづくりの営み自体が必要。広い意味で自分が必要なものを作っていきたいです。

——商業ベースの仕事の経験を経て、Uさん独自の見方があるように思います。

大きなものづくりの流れがあると、口を出せないところがほとんどですし、その分モヤモヤは溜まりますよね。この学校って、そういう社会の消費の部分と一線を画しているじゃないですか。ここがあって助かりました。ここに来るまで、必要な遠回りだったんやろなって。遠回りでもないのかな。今、大学や大学院にいた時より制作を頑張ってると思います。作り手に戻ってこられた喜びもあるし、学んでいる内容も新鮮ですし、今までやってきたことを生かせている実感もある。なるようになる、流れがあるんやなって思います。

——自分の気持ちに素直になれたのも大きいのでしょうか。

そうですね、やっぱり素直が一番。これからも素直にものを作っていけたらいいですね。

スクールの窓から:「タペストリーで会話が成立する、お守りのような存在」 表現論・中平美紗子さん講義

 専門コース「表現論」の授業で、テキスタイル・アーティストの中平美紗子さんを講師に迎え、オーストラリアのメルボルンに制作滞在した経験を中心に話していただきました。「半分は計画どおり、半分は予想外の展開」だったという滞在について、終始生き生きとした様子で語られた時間でした。

◆タペストリーは世界共通
 作家、講師、レジデンス制作を軸に活動し、作家としては主に綴織タペストリーを制作、「個展をメインに作品を発表することを大事にしています」という中平さん。講義ではまず、出身地の高知県の土佐和紙を用いた初期の作品から、コロナ下で縞模様をモチーフとした制作に変化し、黄色ストライプの不定形のタペストリー制作に至る、これまでの変遷を説明されました。

 続いて2023年秋から1年間、ポーラ美術振興財団の海外研修員として渡豪した体験談へ。内容は制作活動をはじめ、現地で印象的だったアートの紹介、渡豪してから選出されたタペストリー工房でのアーティスト・イン・レジデンス経験、大規模な制作プロジェクトへの参加、それらの経験を通した自身の変化までが、ひとつながりに語られました。

「行ってみて最初は言葉も通じず、ホームシックにもなって大変でした。そんな中でも、タペストリーは見せたら会話が成立する。世界共通のコミュニケーション・ツールであり、私にとってはお守りのような存在だと思いました」

 そう締めくくった中平さんの言葉からは、タペストリーに対する深い思いが伝わってきました。

◆絵画との相違点も類似点も
 お話の後は、これまで制作した小作品やテストピースなどを見せてもらいました。実際に使った下図や資料とともに、「イメージを実現するために何が一番適しているのか、とにかく手を動かしながら」試行錯誤したプロセスや、「頭の中のイメージと下図と実物のギャップを少なくする」工夫などが具体的に話されました。

 学生たちは制作のヒントを探るように話を聞き、質問タイムに入ると、それぞれが中平さんの話の中で印象に残った部分を拾いながら発言。一人の学生は、タペストリーを絵画的か彫刻的かという観点から「どちらかといえば彫刻的」に追究してこられたところが印象に残った、と。対して中平さんは、「タペストリーじゃないとできないことって何だろう?とすごく関心があります。彫刻を一通り勉強し、次は絵画から生かせることがありそうだと思って、今は絵画の系譜を勉強し直しています。相違点も類似点も一通り把握した上で、今取り組んでいるテーマがあります」と情熱をにじませながら応答しました。

 探究心あふれる中平さんの姿勢に、3月の修了展に向けて動き出した学生たちも静かに響いた様子。「制作の悩みでも何でもいいですよ」と水を向けられると、「あれもこれもやりたいとなって一つに決められず、今自分が表現したものがわからない」と素直に打ち明ける学生も。中平さんは「今の様々な締切、環境や織機の条件に一番適して、ストレスにならないものを選び取る。やる/やらないと極端じゃなく、ちょっと可能性として置いておく。今後、長く表現活動を行っていくことを前提に、今は表現を模索する時期にして何でもやってみたらいい。条件と相談しながら、学校の施設を存分に使えるこの時期にできることに向かってみては、と思います」と寄り添うように話し、「すべてつながっていくので」とまっすぐに語りました。

 じつはオーストラリアで中平さんを受け入れたメンターの方は、約40年前、川島テキスタイルスクールの留学生だったそうです。「スクールに滞在した時のことを今でも鮮明に覚えていらして、リタイアした今もタペストリーを織ったり指導したりされています」と、スクールとのつながりも共有してくれました。

 中平さんを通じてタペストリーの“共通言語”としての頼もしさを感じ、つながりの奥行きを思えた授業でした。

〈中平美紗子さんプロフィール〉
なかひら・みさこ/高知県出身。京都を拠点に活動するタペストリーアーティスト。オーストラリアをはじめ、イギリス、フランス、アメリカなど国内外で作品を発表している。2023年度ポーラ美術振興財団海外研修員としてオーストラリア・メルボルンに1年間滞在、作品制作を行った。2017年、京都造形芸術大学大学院(現:京都芸術大学大学院)芸術研究科芸術専攻修士課程総合造形領域修了

instagram:@nakahira_misako

*中平さんは2021年「表現論」でもゲスト講師として来られました。授業リポート記事はこちら

スウェーデン留学記2 創作科 萩原沙季

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。

9月から留学中の萩原沙季さんから2回目の近況報告が届きました。萩原さんは11月末まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


学校からトラムですぐのプリンス・エウシェン美術館の庭

10 月も瞬く間に過ぎてしまいました。今年のストックホルムの秋は例年より暖かいようで、よいお天 気が続き、紅葉がとても美しかったです。一方で日がどんどん短くなり、最終週の日曜日にはサマータ イムも遂に終わってしまい、16 時頃には外が薄暗くなっています。

授業では、10 月の初めにはダマスク織の作品が完成し、最後に発表会がありました。いわゆる講評会とは主旨が異なるもののようで、まず作品だけではなく、アイディアを練る段階のスケッチや参考写真 なども壁やボードに貼り付けて準備をしました。発表の持ち時間は 30 分間で、デザインの着想をどの ように得たかという所から、作業を進める上でぶつかった問題点とそれをどのように克服したか、そし て織り終えた後の反省点や感想まで、正直に説明します。その後の質疑応答では、いいなと感じた点を ほめたり、反省点についてフォローするなど、みんなポジティブな反応をしているのが印象的でした。

自分の発表は緊張しましたが、クラスメイトたちの作品は完成度が高いだけではなく、とても個性豊かで見ているだけでも楽しかったです。さらに、それぞれがアイディアスケッチからデザインに発展さ せていく過程を共有できたことも、大変勉強になりました。

同じダマスクという技法を使っていても、素材や色の選択などによって生まれる表現が全く異なるこ とを改めて実感し、自分でもまた織ってみたいなと思いました。

アートソーイングのインスピレーションを得たGröna Lundの乗り物

ダマスク織の発表会が終わるとすぐにアートソーイングの授業(制作)が本格的に始まりました。技法も素材も自由であるがゆえに自分で決めなければいけないことが多く、デザイン上の制約があるダマスク織とはまた違った難しさがあります。

授業ではデザインする時間はとられていなかったため、事前に担当のカタリーナ先生とミーティングをするなど、ダマスクと並行しつつ各自デザインを進めておく必要があり、なかなか大変でした。試行錯誤の結果、私は布にタックを寄せてからステッチをかける技法をベースに、ウールとシルクの生地を使って、遊園地の乗り物が回転する様子と、園内の至る所でみられた電球による装飾を表現することに決めました。

アートソーイングの作業のようす

アートソーイングの授業で取り組んだ作品は、11月にGröna Lundの横にあるカフェBackstage で展示されます。1m四方相当の大画面をひたすら「縫う」ことで構築することは、予想以上に技術と時間が必要でした。作業に当てられた期間は約2週間しかなく、クラス全員が疲弊しつつも、それぞれのこだわりが詰まった面白い作品ができてきています!

展示するカフェにて、Fikaを兼ねたクラスミーティング

なお、10月1〜5日は、ストックホルムのクラフトウィークでした。HVのギャラリーでは、卒業生でKTSにも留学されたことがあるEmma Holmgrenさん、Katja Beckman Ojalaさんの作品と、クラスメイトたちが昨年度制作したラグの展示がありました。また、自習時間を活用してクラスメイトたちと市内の各地で行われていた展示会を訪れ、様々な作家の作品を観てまわることができ、とても興味深かったです。

エリザベート・ハッセルベリ・オルソン『風景の記憶』

10月後半には、週末にスウェーデン国会議事堂の英語によるガイドツアーに参加し、本会議場正面にかかるタペストリーを目にすることができました。エリザベート・ハッセルベリ・オルソンの原画を元にHVの工房で織られたものですが、スウェーデン各地で生産された素材が使われているとクラスメイトたちから教えてもらいました。ガイドツアーでも、議員たちは所属政党ごとではなく、選出された地域ごとに座ると説明があり、きっと様々な意味でスウェーデンを象徴する作品であること、そしてそれが手で織られたものである意義について考えると、感慨深いものがありました。

余談ですが、このガイドツアーに参加しようと国会議事堂前の列に並んだ際、前にいた中学生くらいの子たちが「これは次のスウェーデン語のツアーの列で、英語のツアーはもう中に入ってるよ」とすぐに教えてくれました。スウェーデンの人たちは外国人に対しても親切だなと感じたエピソードの一つです。

2か月をHVで学んで感じるのは、私がいるのが最終学年だからかもしれませんが、授業内容がとても実践的であることです。学んだ技術を基に自分で新たな表現を生み出すこと、さらにはクリエイターとして経済的にも利益を得ていくことを最終的な目標として、先生方も学生も意識していると感じます。

例えば、今回作品を学外で展示するにあたり、会場側との同意書を読み比べて議論する時間がありました。また、作業にかかった時間は細かく記録しておくこと、そうすれば注文がきた際に納期を答えられるから、と先生から教えられました。

なお、HVの学生が制作した作品を展示する際は、希望者は売値をつけることが可能です。それは作品が自己満足にとどまらず、社会的にも価値があるものとして表明することになると思います。学生である段階からそのことを意識することで、制作に対する姿勢も確実に変わってくるようです。私も今後はそのことを意識しつつ、制作と向き合っていきたいです。

「”機械織り”と一言で片づけられない、技術を持った人の手」尾州テキスタイル研修 専攻科・福田葉月

 スクールを出発して約3時間、12万点もの素材サンプルがひしめき合う生地の図書館、最初の目的地テキスタイルマテリアルセンターに到着した。年間1~2千点もの新たな生地サンプルが集まり保存されているこの場所には、アパレル関係者や学生、そして国内外のデザイナーが訪れる。

仕上げ次第で表情ががらりと変わる

 初めに株式会社イワゼンの岩田社長から、これまで手掛けてきたテキスタイルについて実物に触れながらお話を伺った。華やかで目を引くカットジャガードは、フリンジの切り方の差や縮絨加減で同じテキスタイルでも全く異なる表情を見せてくれ、織り上げて完成ではなくそこから更なる個性を引き出せる奥行きのある織物。はたまた、生地の一部に糊を置いて縮絨する部分縮絨で仕上げたものは、毛織物ならではのユニークな表情をしている。次々に手渡されるテキスタイルたちはバラエティに富んでおり、「かわいい!」「おしゃれ!」といった第一印象から、一枚一枚に詰まった技法や製品になるまでのエピソードを踏まえて触れてみると、どんどん生地の見え方が更新されていくような感覚になった。直接触れさせてもらえたことで、斬新なデザインだけでなくアパレルとして身に着けても心地良い質感も体感することができた。

 著名なブランドや若手のデザイナー、ファッション系の学生など様々な相手との生地作りを行っていて、要望に対して実現可能な表現手法を提案してすり合わせながら、多種多様なテキスタイルを生み出し続けているそうだ。尾州は産地全体で分業体制が確立しているため、撚糸屋さんや機屋さんなど複数の人の手がかかわる分、それぞれとの交渉やサポートも含めた広い視野と経験値が必要とされるポジションだと感じた。そして、この仕事が面白くてたまらないということも強く感じられた。

 その後、駆け足でサンプルの森をめぐり、尾州を盛り上げる様々な取り組みについてもお話を伺った。木曽川を中心に織物産地が形成されていった歴史や、あちこちに現れるのこぎり屋根の秘密、震災や時勢が与えた変化から世界三大毛織物産地に数えられるまでになった産地の背景も大変興味深かったし、「尾州の組合が全国の産地を支えるのだ」という熱い思いひしひしと伝わってきた。

北向き窓からの光は変わらない

 2ヵ所目の木玉毛織は現在自社としての製織は行っていない代わりに、工場のスペースを繊維にかかわる複数の業者に貸し出しているというちょっと変わった背景を持つ機屋さんだ。中には、カーシートを編む大きな丸編み機に始まり、年季の入ったレピア織機やションヘル織機、そしてガラ紡が並ぶ。手紡ぎ糸のような味のある風合いの糸を生み出すガラ紡は、技術の進歩の中で台数が減り、現在は大変希少な存在になっているそうだ。間近でガラガラと響く音は、明治期の画期的な発明を象徴するものだっただろう。触らせてもらった糸は、ふんわりと柔らかく温かみがあり、ものづくりをする人もそれを使う人も引き付ける魅力を放っていた。

 製造だけでなく、オリジナルの服を販売する新見本工場というアパレルショップも併設されており、若手が中心となって尾州の高い品質を誇るものづくりのノウハウを継承しつつ魅力が詰まったアイテムを発信している。今後の構想もあるそうで、かつて尾張木綿の製織から始まった工場が時を経て形を変え、新たな世代と共に一つの場をつくりあげている様子は、分業で成り立つ尾州の繊維産業の縮図を形成していっているようにも感じられた。

精度と集中力、見習いたい

 最後に訪れた三星毛糸では、スクール出身の社員の方が機場を案内してくれた。工程順に説明を受けたのだが、2000~7000本もの経糸を整経できる部分整経機の仕組みを聞いたその傍らで、職人さんが黙々と綜絖通しを行っていて、しかも一度に2本ずつ通していくという熟練の技術を目の当たりにし、”機械織り”と一言で片づけられないほどに、技術を持った人の手は不可欠なのだと感じた。製織においても、緯糸の受け渡しトラブルや経糸が切れてしまった際は機械が緊急停止するので、やはり人の手でのフォローが必要となる。実際に機械を止めてくれる等、普段目にすることのない現場の様子をじっくり見ることができた。某高級ブランドの生地が掛かった機もあり、美しく華やかな服地ができるまでの工程をほんの一部だが間近で見ることができてとても興味深かった。

 3ヵ所を巡った今回の研修で、尾州が更に身近な産地となった。皆さんの口から当たり前のように有名ブランド名やデザイナーの名前が飛び出す様子は、流石世界に誇る毛織物産地だ。それは上場企業から家内工業までと規模も違えば、撚糸や染織、整理といった工程も異なる、たくさんの作り手たちが連携しながら築き上げてきた結果である。織り(繊維)に関わる一連の工程は、それぞれ無限に突き詰め得るものだから、これは分業の強みだと思う。また、産地に誇りを持ちながらも従来のあり方を踏襲するのではなく、需要や流行に敏感に対応しながら変化していく姿も垣間見え、見習うべき姿勢だと感じた。同時に、更新するだけでなくガラ紡の様にあえて昔からある技術を引き継いでいくのも、産地の幅を広げ独自性を持てる選択で、こういった多様な考えに触れられ様々なことを考えさせられた。今回感じた情熱や柔軟性を自分なりに吸収して、織りとの向き合い方を模索していきたい。

スウェーデン留学記1 創作科 萩原沙季

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。

9月から留学中の萩原沙季さんから初回の近況報告が届きました。萩原さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


週末に登ったストックホルム市庁舎のタワーから、学校がある方角の眺め

スウェーデンに無事到着し、9月から学校が始まってあっとういう間に4週間が経ちました。最初は英会話さえ不安なこともあり、とても緊張していたのですが、クラスメイトたちも先生方もみんな親切でやさしく、穏やかな方たちばかりなので、今ではすっかり安心して楽しく毎日を過ごしています。
クラスメイトのルーツがスウェーデンだけではなく、他国からの留学生がいることもあって、授業でも先生方がスウェーデン語の後に必ず英語で説明してくださったり、誰かがすぐに気がついて訳してくれたりします。もちろん質問をするとすぐに答えてくれますし、幸運なことに日本人のクラスメイトもいるので、情報交換もできて本当に助かっています。また、資料がウェブ上のシステムで共有されているため、授業でよくわからなかったことがあっても後で確認できます。

制作のモチーフになっているGröna Lund

授業ではまずダマスク織、続いてアートソーイング(刺繍などの技術を使って1m四方の作品を作る)に取り組むのですが、今年はどちらもGröna Lundという学校のすぐそばにある遊園地からアイディアを練ることになっています。はじめに見学に行った後、撮った写真やスケッチなどを元に各自でデザインを進める授業もありました。
ダマスク織の授業では、その仕組みを講義で学びつつ、経巻きや綜絖通しをしてからダマスクの装置を設置するなどの準備作業を経て、4週目からやっと織り始めました。

機の中に座ってパターンの綜絖に経糸を通しているところ。
ダマスク織の仕組み上、綜絖通しを二回します!

ダマスク織は2人で1つの機を使うことになっており、ペアになったクラスメイトと相談の結果、経糸は太めのウールの糸、緯糸はシルクで織ることになりました。最初に織るのは私だったため、ちょうど織り終わったところです。不慣れなこともあってたくさん失敗しましたが、先生やクラスメイトがフォローしてくれて、なんとか終えることができました。

ダマスク装置で織っているところ。
綜絖枠が2種類あります(踏木に繋がっている4枚と、後ろにあるパターン用の21枚)

住まいは、同じHVの学生が親切にもストックホルム郊外の自宅の庭にあるミニハウスを貸してくれています。たいへん居心地がよいうえ、キッチンやシャワー、トイレが完備されていて、贅沢すぎるほどです。時間があう日は一緒に登校して、お互いの授業を報告しあっています。
学校へは地下鉄のブルーラインでストックホルムの王立公園駅まで行き、そこからトラム(路上電車)に乗り継いで通っています。トラムは学校のすぐ前に駅があり便利なのですが、初週に何かのトラブルでその日の電車が全てキャンセルになるというハプニングがありました。こういった情報はアプリで得られるものの、まだ見方がよくわかっていませんでした。幸い時間に余裕があり、天気もよかったため、結果として美しい風景を眺めつつのよい散歩になりました。(ちなみに、こういう場合は臨時のバスが出るので、それに乗ればよかったようです。)

いつもトラムに乗り換えている駅。王立劇場(左側の建物)の目の前にあります

Fikaという文化については知っていたものの、初日に配られた予定表にもしっかり組み込まれていることには少し衝撃を受けました。コーヒーやお茶を片手に談笑する時間をとても大事にしていて、このような余裕をもつために、自分の進捗を考えて残れる日は残ったり、土日に登校するなど、見えないところで各自調整しているようです。でも決して無理をするわけではなく、忙しい人がFikaを早めに切り上げていても誰も気にしません。いい意味でみんなマイペースというか、お互いに状況が違うのは当たり前なので、それを尊重しあっている結果という感じがします。

この日のFikaはクラスメイトのお誕生日会も兼ねて、各出身国の歌でお祝いしました

また、4週目の最後に、ストックホルムから電車で北へ2〜3時間ほどのGävleという街で行われたVÄV MÄSSANに行くことができました。スウェーデン国内外から織物やニットに携わる作家や企業、HVをはじめとする学校がブースを出す、お祭りのようなイベントです。当日はクラスメイトにHV以外の学校で学ぶ学生や作家さんを紹介していただいたり、作品を拝見したり、素材や道具を吟味したり…と出会うすべてのものが貴重で目が回りそうでした。もっと下調べをしておくんだったと少し悔やんでいます。

織機のロールスロイスといわれるÖxabäckのブース

Fikaやランチの時間には、染織をはじめとする手工芸が社会でどのようにみなされているか、そのようななかでどうやって織りを続けていくか、ということが少なからず話題になります。いつも朗らかなHVの学生たちですが、それぞれ手仕事に対する情熱を秘めていて、将来に対しても明確な希望があるようです。
無論、制作に対しても真剣で、クラスメイトたちは短時間で質の高いデザインを何案も出し、その上で美しく織り上げており、毎日感銘を受けています。つい自分と比べてしまい落ち込むこともしばしばですが、私のポートフォリオを見てもらえる機会があり、みんな質問をたくさんしてくれたり、インスピレーションを受けたよ!と言ってくれたりして、とても嬉しかったです。
尊敬するクラスメイトたちと共に学べることはこの上ない喜びであり、HVでの日々を悔いなく大事に過ごしたいと思います。

「第28回全国染織作品展」受賞のお知らせ

シルク博物館主催「第28回全国染織作品展」で、専門コース創作科の萩原沙季さんのタペストリー「おしゃべりの余韻」がシルク博物館賞を受賞しました。大賞に次ぐ賞で、萩原さんの作品はシルク博物館が買い上げ、同館の所蔵作品となります。

「おしゃべりの余韻」(2024年度川島テキスタイルスクール修了展時に撮影)

「おしゃべりの余韻」を含む入賞、入選作品は「第28回全国染織作品展」で展示されます。

「第28回全国染織作品展」
2025年10月25日(土)〜11月29日(土)
https://www2.silkcenter-kbkk.jp/akinotokubetsuten_2025/
シルク博物館 神奈川県横浜市中区山下町1番地 シルクセンター2F

オープンスクール開催のお知らせ(2025/9/24日程更新)

専門コース入学をご検討の方向けにオープンスクールを開催いたします。
カリキュラム説明、コースター織り体験*、アトリエ見学や学生の作品を通してスクールの雰囲気や織物の魅力を体感してください。事前予約制の個人見学、個別相談とさせていただきます。
【更新】9月24日 12月までの日程を追加更新しました。


[日程] いずれも10:00- / 14:00- の二部制
○10/18(土)・11/15(土)・11/29(土)
○毎週水曜・金曜 (休校日を除く)
※2時間半程度を要するものとお考えください。

上記日程にてスクール見学を希望される方はオープンスクール予約フォームまたは、お電話にて上記より希望日時をお伝えください。

TEL:075-741-3151

*個別見学、個別での対応となります。
*コースター織り体験は土曜のみの開催とさせていただきます。
*専門コース以外をご検討、ご希望の方へのコースター織り体験は実施しておりません。
感染症対応につきましては下記をご確認ください。皆さまのお申込みをお待ちしております。


専門コース以外、または平日の別日程での見学案内をご希望される方はコンタクトフォームよりお申し込みください。(平日10:00〜、14:00〜の二部制)


【合同オープンスクール】
○7/26(土)13:00- 合同での見学をご希望の方はこちらからお申し込みください。 →開催終了しました。
https://www.kawashima-textile-school.jp/info/2025/06/02/12238


【コロナ感染症5類変更後の対応について】
https://www.kawashima-textile-school.jp/info/2023/06/12/10678