在校生インタビュー

在校生インタビュー「やってきたことすべて次に繋がっていく」福井麻希さん(2024年度・専門コース専攻科)

8年勤めた仕事を辞めて川島テキスタイルスクールに入学し、専門コースで学ぶ福井麻希さん。2年目の専攻科では、尾州ファッションデザインセンター主催のものづくりの人材育成事業「翔工房」の書類選考に通過して参加。応募時に作成したデザイン画をもとに、経験豊富な「匠の技」をもつ技術者とコラボレーションして衣装を制作し、ファッションショー、展覧会までを行う事業に取り組みました。このほど繊維業界に就職が決まった福井さんにインタビューを行い、翔工房の経験や、スクールで学ぶ中でどのように自分の適性を見つけて職を得たのか、について語ってもらいました。

福井さんがデザインした生地
写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター

◆織りの共通言語を持っていた

——福井さんは元々服が好きで、特に生地に興味を持って専門コースに入学されました。2年目の専攻科で「翔工房」にチャレンジしたのは、入学当初の服の生地の興味からでしょうか。

はい。ただ2年目の専攻科では(インテリア・ファッションテキスタイル・着物・帯・造形とコースが分かれる中で)インテリアに進みました。そこでファッションをあえて選ばなかったのは、私は在学中にいろいろ作ってみたい気持ちがあって、特に立体制作に興味があって、インテリアだと空間を使える分自由度が高いと思ったからです。それで2年目はずっとインテリアの織りに専念してきたのですが、元々ファッションに興味があるのを先生もご存知で、情報を教えてもらいました。チャンスがあるならやってみたいと思って応募し、テキスタイルマテリアルセンター(岐阜県羽島市)にも見学に行きました。センターで多種多様な生地を見る中で、機械織りだからこそ実現できるデザインの面白さがあるなと思い、尾州産地のものづくりに更に興味を持ちました。

——「翔工房」では、「匠」と呼ばれる熟練の生地設計の技術者の方からマンツーマンで指導を受けて衣装を製作しました。製作プロセスを教えてください。

まず合同ミーティングで匠の講師の方と顔合わせがありました。その時にテキスタイルマテリアルセンターで一緒に素材サンプルを見て、色や生地の具体的なイメージを共有しました。事業の拠点が尾州(愛知県一宮市や岐阜県羽島市など)で、私は京都で遠方のため、その後は匠講師が資料や糸のイメージのサンプルなどを送ってくださって電話でやりとりしながら進めました。匠講師は意匠糸や絣糸を使って奥行きのある色合いを表現したいという私の希望に対して、服にした時にどう映えるかを見通しながら、設計図に落とし込んでくださいました。都度すり合わせ、微修正をしながら進め、織る段階になると私も工場に出向いて生地サンプルを確認し、納得いく形に仕上げていきました。

——今回の現場で大変だったことや、スクールでの学びを生かせたことはありましたか?

他の参加者はファッションの学校から来ている方が多く、私のように手織りを学んでいる人は少なかったです。最終的に立体の服に仕立てるのに、柄合わせや繋ぎ目まで考えながらデザインするところまでは私は甘くて、難しかった面もありました。ですが普段から学校でデザインだけではなく自分で作っている分、専門的な説明も実感を持って理解でき、匠講師と話が通じやすかったです。機械織りであっても、綜絖とか筬とか基本的な構造は手織りの機と同じなので、機の綜絖枚数の制約でデザインを一部変更しないといけなかった時も、仕組みを理解し、納得した上で自分の希望を伝えられました。特に私の場合は遠方で電話中心のやりとりで、きちんとわかっていないと齟齬が出やすい状況だったからこそ、織りの共通言語みたいなものを持っていたのは良かったと思います。

——匠講師との製作経験を通して印象に残ったことは?

長年経験を積んでいらっしゃる分、引き出しの多さがすごいなと。匠メンバーの中でも、私を担当してくださった方は86歳で最高齢の方でした。年齢を感じさせず、ファッションに関わっておられるからか、匠講師はみなさんおしゃれ。その齢まで私は働けるかわからないなと思うと、現役でおられるのがすごいと思いました。私のデザインはさらさらと流れる川をイメージしたもので、水面のきらめきを表したいという希望に対して、ラメ糸を入れるなら塊で入れる方がランダム性が出ていいとか、私の中で出てこない発想のアドバイスをいただき、引き出しの多さに助けられました。デザインした服に最も適した素材選びや設計を考えて提案いただき、ファッションテキスタイルの考え方を学べて良い刺激を受けました。

ファッションショーで、デザインした衣装を紹介する福井さん(右)
写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター


◆自分の得意や苦手を一つ一つ確認していった

——福井さんは専門コースで2年学び、就職の道を選びました。修了生はここ数年でいうと企業に就職する人もいれば、産地で織り職人になる人、ライフワークとして織りを続けていく人など様々です。スクールで学ぶなかで自分と織りとの関わり方を見つけていく人が多いですが、福井さんの場合はどのように適性を見つけたのでしょう?

入学した年は、あまり先の進路は考えずに、とにかく織物を勉強しようと思って取り組んでいました。専門コースで2年学ぶ中で、私の適性は職人や作家ではないなと感じていました。作るのは楽しいですが、私は性格上いろんなことに興味があって飽きっぽくもある(笑)。だから一つのことに専念するより、間に立ち、全体を見ながらいろんなことができる方が好きだなと。1年目の織り実習やデザイン演習、2年目の制作の日々を通して、自分の得意や苦手を一つ一つ確認していったところはあります。

——このほど繊維業界に就職が決まりました。仕事について教えてください。

リネンやタオルなど繊維製品を取り扱う会社で、求人を見つけて応募しました。社内全体の動きを把握しながら、製品企画にも携われるようで、これまで学んできたことが活かせると思っています。

——ご自分の適性に合った織りの道が見つかったということでしょうか。

そうですね。前職でも課全体を見ながら取り組む仕事で、この学校でも修了したら繊維業界で働けたらとは思っていたので、これまで自分のやってきたことがドッキングされました。今回の翔工房の経験も、2年目に参加した川島織物セルコンでの綴帯のインターンシップもそうですが、たくさんの人が関わる製作は次の仕事でもまた携わる機会があると思うので、見識を広げる経験になりました。これまでやってきたことはすべて次に繋がっていくんだなと実感しています。

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*専門コース本科時の福井さんのインタビュー記事はこちら

第22回 JAPAN YARN FAIR & THE BISHU「糸と尾州の総合展」
会期:2025年3月5日(水)- 3月6日(木)10:00 – 17:00
会場:いちい信金アリーナ(一宮市総合体育館)

2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料

*2025年度専門コース本科技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー3 「作品づくりで、新しい自分に出会っていく」柳原久美子さん(2024年度・専門コース本科)

在校生インタビュー第3回は、学生の頃に川島テキスタイルスクールを知って以来、数十年越しに学びに来ている柳原久美子さんに、入学に至った経緯や、3月の修了展に向けて作品制作に向き合う思いなどについて語ってもらいました。
(インタビューは2024年10月に実施。)

——まずは入学の経緯を教えてください。
学生の頃、広島の実家から一番近い短大の染織コースに通っていました。進路相談時、繊維学専門の担任の先生が、学びを深めるのに川島テキスタイルスクールを勧めてくださったんです。私も進学したい気持ちはあって、学校見学にも行ったのですが、当時は家庭の事情であきらめてしまいました。以来ずっと思い続けていたわけではないのですが、学校の存在は心に残ってて。昨年大きな病気をし、回復していく中で残りの人生を考え、まだ何かできる可能性があると思った時に浮かんだのが、この学校でした。やっぱりものづくりがしたいという気持ちや、当時もっと学んで身につけたかった、とやり残したことを思い出したんです。ひとまずは病を乗り越えられたので、無難に日常生活に埋もれていくより、今こそ、この学校に来てみようと。家族が背中を押してくれ、オープンスクールに行って、願書を出そうとその場で決心しました。

——そこから入学して7カ月が経ちました。本科は盛りだくさんのカリキュラムですが、学びの実感はいかがですか。
私は絵を描くのが好きなので、まずデザイン演習Iのデッサンにワクワクしました。(テーマ性のある作品をつくる)デザイン演習IIで、自分で集めた素材が作品づくりにぴったりきた時は嬉しかったですね。どちらかといえばデザインの授業に惹かれます。今は修了展に向けて個人制作に入っていますが、イメージしてデザインするという最初の段階でじつは戸惑っています。最初から自分でじっくり考えてものをつくるってむずかしい。考えを大事に温めきれていない自分に葛藤するし、先生に話を聞いていただきながら試行錯誤している状態です。

——今のお話を聞きながら「ライフ・デザイニング」という言葉を思い出しました。川島テキスタイルスクールの基礎を築いた木下猛理事長(故人)が「手織りを通じて生き方を創りあげる、つまりライフ・デザイニングを学ぶことができる、そんな学校にしていこうと考えました」と、創立時(1973年)の理念を語った記事が学校に残っています。ものづくりを通して自己を見つめる。その中で本当に好きなものや苦手なことに気づいたりして、新しい自分に出会っていく、と。

当時、私にこの学校を勧めてくださった先生(故人)は、川島テキスタイルスクールに行けるように家族と話をしましょうかとまで言ってくださったのですが、それは無理だと思い込んで断ったんです。ライフ・デザイニングという理念は知りませんでしたが、やっぱりこの学校を勧める先生の確信みたいなものがあったのかな、そのことも含めて先生は私に勧められたのかな、と振り返って思います。

——自らの意思で学びにきている今、新しく変わっていく過程にいるのでしょうか。
そうですね。私自身も枠を外して自然体になれたら。デイサービスに通い始めた母が最近言うんです。「案ずるより産むが易し」ねって。私もそうなれたらなと思います。あとは私がどういうふうに楽しくできるか、です。今取り組んでいる個人制作で、先生たちとのミーティングが毎回かなりインパクトがあります。自分がこうだと思っていても、別の方向からアドバイスをもらって、こんな表現ができるのか、こんな自分がいるのかと驚くことが多くて。作品づくりってすごいなって。

昨年、大病でしんどかった時期、花はこんなに美しいのかとはっとしたんです。自然の光や風や香りすべてが美しく、まるで初めてのように感じました。あの時の感覚を忘れたくない。でも日々の生活の中で忘れちゃうんです。あの感覚を織り込んで作品が作れたら、見てくれる人に届けることができたら素晴らしいだろうなと思います。

この学校にいる間に、一つでも自分が納得できる作品がつくりたいです。

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*柳原さんが在籍する専門コースの学生たちは今、3月の修了展に向けて作品制作に励んでいます。川島テキスタイルスクールでは専門コースの1年目から作品を出展することができ、今年の本科生の作品は、グループ制作の綴織タペストリーをはじめ、個人制作では音を絣で、心象風景を綴織で、人生に見立てた花を縫取り織りでそれぞれ表したタペストリーや、空間に浮かぶ織物、犬のためのラグ、緯糸を手紡ぎしたブランケット、とバラエティに富んだ作品が揃います。

2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料

*2025年度専門コース本科技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー2 「大好きな織りを中心に置く生き方にシフト」Iさん(2024年度・専門コース本科)

在校生インタビュー第2回は、北海道から来てフルリモート勤務をしながら本科で学んでいるIさんに、入学の動機や、どのように授業と仕事をやりくりしているのか、織りとの向き合い方などについて語ってもらいました。

◆一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう

—まずは「はじめての織り10日間」のワークショップを2020年に受講し、そこから専門コースに興味を持った経緯を教えてください。

織りにはずっと興味があり、基礎から学びたいと思ってワークショップを受講しました。実際ついていくのがやっとでしたが、最初から上手くできなかったからこそ、もっとやってみたい、もっと知りたいと思ったんです。続けて他のワークショップも受けていこうとしたのですが、コロナ(の大流行)が始まって(移動の制限などで)学びに行きたいのに行けない。それで卓上機を買って自宅で復習し、他の所でも講座を受けたのですが、糸の準備からではなく経糸がかかっている状態で織るだけの内容で、なかなか身につかずに物足りなさを感じていました。いつか専門コースで本格的に学べたらいいなという夢はありましたが実現可能とは思っていなくて。その頃、仲のいい友達が亡くなって、これから私どう生きたら後悔しないんだろうって生き方を見つめ直し、残りの人生かけて好きなことをやりたい、私が一番好きなのは織り、と思いが強くなっていきました。

——入学願書を提出するという行動に移したきっかけは?

娘の結婚が決まったことと、スクールのブログで在校生インタビュー記事を読んだことです。娘に、これまで私は好きなことをさせてもらってきたから、これからはお母さんに好きなことやってほしい、何やりたいのって聞かれて「織りやりたい」と答えていました。今年2月にたまたまブログの記事を読んで、インタビューの最後に在校生のSさんがおっしゃっていた「自分第一主義」という言葉が胸にストンと落ちたんです。それまで私は自分ファーストにはなれなかったのですが、その瞬間、行こって。一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう。大好きな織りを中心に置く生き方にシフトし、自宅にアトリエを作って「織りの生活」をしようとイメージがはっきりと浮かびました。意志が決まったら悩みや雑念が消えて、願書を提出。ワークショップ受講時に学校も寮の環境も経験しているので気持ちが楽でした。学びに行くからと娘に報告したら、本当に行くの!?と驚いてましたね(笑)。

◆仕事を続けたかったので、授業と両方を回す生活に

——専門コースでフルタイムで学びながら仕事を続けるために、どう準備したのでしょうか?

仕事は販売事務で、コロナ以降にテレワークになったと同時に、外勤から内勤に業務が変わったんです。願書を出すタイミングで勤務先の社長に、織りを学びたいから京都に行っていいですかと確認し、いつも通りちゃんと仕事をやってくれるならいいよ、と了承を得ました。学びに専念するなら仕事を持ってこない方がいいとは思いますが、私は仕事を続けたかったんです。織り中心の生活はしたいけど、織りを仕事にしようとは考えていないので。

——実際に授業と仕事をどのようにやりくりしているのでしょうか?

仕事は授業が終わってから夜と週末に、繁忙期は早起きして朝やる時もあります。打ち合わせは授業外で時間を調整してオンラインで、また会社の状況がリアルタイムでわかるシステムがあるので、急ぎの場合は昼休みに集中してやる時も。夏休み期間に出勤、戻ってきて代休を取り、今はまた両方を回す生活です。

——ペースをつかむまでは大変だったのでは。

最初の学期はすごく緊張感がありました。織りも仕事も完璧にやろうとしていたので、どちらも一生懸命するほど織り軸なのか仕事軸なのか混乱して、仕事を持ってくるんじゃなかったと思って悩んだ時期もあります。ですが2学期に入ってからは吹っ切れました。夏休み明けに職場のみんなが快く送り出してくれて、仕事量は(緩急つけて)調整し最低限迷惑をかけずに、自分の使命はやりきるぞというスタンスに切り替えたんです。いまやっと心がフラットになって、織りを学んでいる時間は自分へのご褒美だなと思えるようになりました。

◆間違いに気づける自分になれたのが嬉しい

——本科で学び、半年経った今どんな実感がありますか。

織り実習は早いペースで進むので追いつくのが大変で、間違いも多かったです。最初の学期はつらくて、どうしようって娘にこぼした時、“もう”4カ月経ったけど目標はつかめているの?と問われてはっとしました。夏休みや冬休みに入ったらあっという間だし(本科1年間の)学期のサイクルはあと2つしかない。自分で目標をつかんだか、つかんだらそこに集中したらいい、と。1学期最後、8メートルの布を織る実習に入ってからは、自分なりの“今日の目標”を立て、毎日クリアできたかを確認しました。この時点で自分はゆっくりペースだとわかっていたし、ひとつずつ目の前の目標に取り組むことで集中してできたんです。平織りで長く織る分、機の調子がなんか悪い、糸が引っかかってる? 私間違ってる?と気づけるようになって、自分が間違いやすい所もだんだんわかってきて。そうやって気づける自分になれたのが嬉しくて!

——この先アトリエを持って織りの生活をするイメージに近づいているのでは。

そう、「織りの生活」ができるって思えたのがたまらなく嬉しかったですね。きっと間違って気づくプロセスがなかったら、私の場合は身につかないんだろうなと。今は慌てず対処できるようになったし、間違った原因を見つけられたら知恵を一ついただきました、ありがとうって思えるように。織りの生活に向けて必要なものを得ている実感があります。やっぱり私は織りが好きだなと、かみしめています。

——好きを再確認できたのですね。

このスクールには私の好きがたくさんあります。ホームスパンの実習も大好き。羊毛の染色で失敗したのですが、まだらに染まった羊毛が糸に紡いだ時にどう混ざるのか、織った時にどんな色になるのかと思いが広がります。静かなアトリエも、緑に囲まれた環境も、道具を見るのも好き。静寂の中で織る経験から、私は一人で集中して織るのが好きだと気づきました。先生に話したら、ここでの気づきはこれから役に立ちますよと言われて、そんな瞬間瞬間を集めて嬉しくなるんです。2学期に入って、自分の好きに集中する瞬間が増えています。

在校生インタビュー1 「ハードルよりやりたい気持ちが上回った」Fさん(2024年度・専門コース本科)

今年も川島テキスタイルスクールの専門コース本科には、織りに魅せられ、それぞれの人生のタイミングで踏み出した人たちが集っています。学ぶ意欲旺盛に織りに没頭する日々のなか、本科生にインタビューを行いました。初回は図書館司書の仕事を辞めて入学したFさんに、趣味から本格的にものづくりの世界へ飛び込んだ経緯や、学校で学ぶこと、この半年の学びの気づきなどについて語ってもらいました。

◆学び始めるのに今が一番若い

——ものづくりの方向へ進んだ経緯を教えてください。

ものづくりは子どもの頃から身近にありました。父も母も作家で、ものを作って生きていくことが当たり前のモデルとしてありましたが、同時に大変さも感じていました。私もものづくりが好きですが、一旦は趣味として割り切ろうと納得して文系の大学に進学。大学も楽しかったし、前職の司書の仕事も充実していました。でも絵本の勉強会に参加し、装丁など本作りに踏み込んで作り手の表現を見た時、そういえば私、ものを作りたかったっていう気持ちを思い出して。作ったものをいろんな人に見てもらえる仕事を羨ましいって思う自分に気づいたんです。今が一番若いし、1日でも早く学び始めた方がどんどん技術が身につく。仕事にやりがいはあったのですが臨時職員から正規職員になる道を断り、本当にやりたいことをやろうと決めました。

——じつは蓋をしていた本心に気づいて、生き方を見つめ直した。

親の背中を見てきたのも後押しになりました。父が木工、母が型染めの藍染作家、家族で農業を営んで土地に根付いて生きている姿に、そうか、生き方も自分で作っていけばいいよねって。経済的に安定しなくてもどうにか暮らせているし、今も元気ですごく楽しそう。そうやって生きていけると知ってるから(組織を離れるのは)怖くない。これまで進学も仕事も人に勧められて、最良の道と自分で納得させながら流れで進んできたので、自分で決心して1から行動したのは川島テキスタイルスクールが初めてかもしれない。自分の本心に向き合えるようになって、堰き止めていたものを上げて、今は好きなことの大きい川に乗った感じ。いずれ作り手として親と対等になりたい気持ちがあります。

◆学校では打てば返ってくる

——どうして織りだったのでしょう?

実家に山羊の毛の絨毯があるんですけど、地元の作家の方が和機で織ったものと親から聞いて感動したのを思い出して。布って人間に一番近いもの。毎日着てるし、家でくつろぐ時も近くにあるし、すべての年代、生まれてから死ぬまでずっと身近にある。気持ちのいい布に包まったら、しんどい状況にあっても安らぐ。その分、布って私にとっては崇高な存在で、自分で作るのはハードルが高いと思っていました。でもやってみたいという気持ちが上回ったんです。

——このスクールはどのようにして知ったのですか?

大学生の頃に読んだ雑誌『天然生活』(2013年12月号)に掲載されていた安部智穂さんという方の記事です。プロフィール欄に「川島テキスタイルスクール」とあって、ネット検索してこんな学校があるのかと初めて知りました。学校名を覚えてて、いざ自分が踏み出そうと決めた時に思い浮かび、見学してすぐ願書を出しました。私は人の暮らしに寄り添い長く使われるものづくりがしたい。技術を身につけ、胸を張ってものを届けられるようになりたいと思って、基礎からしっかり学べるこのスクールに行こうと決心しました。

——入学して半年が経ち、いまの実感はどうでしょう。

カリキュラムを見ていたはずなのですが、授業があまりに多彩でびっくりしました。半年間があっという間のようで3年のようにも感じます。私は未経験で入ったので「基礎織り」が初めての機織りで、整経もやったことがなかったし、綜絖?みたいな感じで全部初めて。授業は染色、「スピニング」など様々に学びながら最終的にすべて織りに入って、こうやって布ができるのかと。仕上がった時、生まれて初めて自分で織った布だと思うと感慨深かったです。でも嬉しいというより、ついに布の世界に入っちゃったぞ!という感じ。学校じゃなかったらこの感覚はなかったかも。趣味としてやっていたら、シンプルに喜ぶところで止まっていたかもしれない。

——これまで趣味で、本を読みながら独学で作ってきたところから、学校で本格的に学ぶ違いを感じますか?

はい。趣味で刺繍などをやっていたのですが、シンプルな違いとして本は答えてくれない。本の説明どおりにやってできて、じゃあこういう時どうするのって思っても聞けない。自分で考えてやるのが独学の楽しさではありますが、学校の授業では打てば返ってくる。最初は織りを知らなさすぎて質問も浮かばずに受け身でしたが、今の学年は私以外みんな織り経験者で、私が不思議に思わなかったことでも誰かが気づいて質問してくれる。仲間がいる分、学びの幅が広がります。

◆手仕事の世界にほっとする感覚

——この半年で特に印象深い授業はありますか?

「ニードルワーク」(国立民族学博物館・上羽陽子先生による連続授業)です。技法だけじゃなくもっと広い世界を知れてテキスタイルスクールでこんな学びができるのか!と嬉しくなりました。授業で受け取ったものをすべて言葉で言い表せないのですが、すごくいい感覚だったんです。インドの刺繍のいろんな事例を見て、(人間の原初的な)欲求の部分を改めて感じたというか。価値観が違っても美しいものは美しく見えるし、模写することでどうやってできているのかと探究心が生まれる。テキスタイルは昔から人間の身近にあって、今も手仕事で続けている世界がある。そうやって人間は生きてきたし、これからもそうなんだって思えて、ほっとする感覚がありました。

——入学時、技術を身につけたいという明確な目的がありましたが、実際に学ぶなかで他にも気づきがありますか?

私は織りに関してゼロベースで入学した分、発見がいっぱいあって。明文化された発見だけではなく、すぐに言葉にならないけど感覚的なものをすごく受け取っています。細い絹糸や綿糸などいろんな糸を使って布を織っていくうち、技術だけじゃないものを学んでいる気がして。あとシンプルに、この半年で布を織り手目線で捉えるようになり、作り方がわかったからこそ布の見え方が変わり、布に対する考え方も広がってきています。

在校生インタビュー3 ワークショップ・ウィークエンドクラスから進学

松田敦子さん・Sさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。最終回は「はじめての織り」10日間のワークショップを受講後に専門コースに進んだ松田敦子さんと、ウィークエンドクラスを1年受講後に進学したSさんです。

修了展に向けて、自分でデザインしたテーブルクロスを織る松田さん

◆1から自分でできるようになりたい

——まずは進学の動機を教えてください。

松田敦子:私はライフワークとして織りをやっていきたいと思っています。そのために1から準備して織って、と自宅で一人ですべてできるようになりたい。ワークショップの場合は用意していただいたものを織る形になるので、もっと本格的にスキルを身に付けたいと思い、子どもたちも大きくなり時間ができたので学びに来ました。

S:ウィークエンドクラスの時は、長年働いた仕事を退職して時間ができたので、ずっと興味があったけどできなかったことを始めたいと思って受講しました。1年目がすごく楽しくて、もっと学びたい気持ちになりました。ですがこのまま2年目に進む(ゆとりのあるペースで学ぶ)よりは、もっと専門的に学びたいと思って(フルタイムで基礎からしっかりと学ぶ)専門コースに進みました。実際、通学となると距離も遠いし、かなり生活が変わるので(家庭との両立など)自信はなかったんですけど、夫や妹が「できることがあったら助けてあげるから」「これまで働いてきた分、これからは自分の好きなことをやったらいい」と後押ししてくれて。じゃあ初めからきちんと学んで、自分が何をしたいかをしっかりとつかんでから家に帰ろうと決めました。

——入学して7カ月が経ち、これまでとは全く違う生活を送っていますが、新たな日々の実感はどうですか。

松田:私は主婦で時間の制約があまりない生活を送っていました。今は朝9時から夕方5時と時間が決まっている分メリハリがあります。メリハリができたからこそ自分はこういうのが好きなのかと新たに気づく面もあって、制約はわるくないと感じています。ですが大変は大変ですね。寮生活で週末休みに家に戻りますが、たまっている家事をこなすだけで休みが終わってしまうので。

S:大変ですけど、おかげで痩せました(笑)。早寝早起きでおやつも食べないし、健康になりました。(授業の密度が濃い分)時間に追われたり、課題を期限内に提出するのに精一杯になりがちですが、好きなことをやっているので苦しむようなストレスもないし、自然があって環境もいいところです。周りの方も優しいし、先生もしっかりと教えてくれるし、何とかやっています。

松田:クラスは恵まれていますね。皆優しいし、大丈夫?と声をかけ合いながらやっています。自分の娘と同年ぐらいの子たちもいますが、皆一生懸命だし、ここに来なかったら接する機会のない人たちなので楽しいです。

S:クラスメイトとして自然に接しているし、あまり年齢差を意識したことはないです。うちの子どもと同じような年ですが、また違いますね。やっぱり同じ目的に向かっているので、ある意味もっと近しい気持ちになっています。

グループ制作のタペストリーを織るSさん

◆ 「どうして?」が「だからか!」に、知る喜びがたくさんある

——スクールでのものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

松田:正直なところ私はデザインに苦手意識があります。ですが織るのは楽しいし、仕組みを知るのが好き。組織織りでもどうしてこんな模様ができるのかを、踏み順の組み合わせなど機の仕組みからつなげて知るのが面白いです。だからこうなるのか!と理解できた瞬間はすごく嬉しい。制作で悩むことはあるし、上手にできる人を羨ましく思うこともありますが、人と比べる必要ないねんなっていうのは常に思います。課題をこなしていくのに必死で、他の人を気にする余裕がないのが実際のところ(笑)。でもそれっていいことやなとも思います。自分の持っているもの、やれることはこれだと思って自分の制作にまっすぐ向かうだけ。

S:自分はこんなにできひんのやなって。指も思うように動かへんし、そういう年齢なんやなってすごく思います。でも人と比べる必要はないし、時間に追われて締切が厳しい分、それこそ没頭できる。それに専門コースの授業だからこそ、いろんな専門家の話を聞けるのも貴重です。特に冨田潤先生の工房見学や、みんぱくの上羽陽子先生の講義と実習はすごく面白かったです。(さまざまな角度からの授業を通して)糸の見方とか、ものの観察の仕方とかが変わったと思います。糸の結び方だけでもたくさんあるし、それぞれ何のためにあるのか、背景にある生活の知恵を知って感動したり、昔の人は生活の中で織っていたんやなと思いはせたりしながら学んでいます。

松田:糸も単に毛糸として見ていたところからS撚り・Z撚りがあると知ったり、ループヤーンのループができる仕組みだったり、色糸の混ぜ方とか知識を身に付けたうえで、糸選びができるのは楽しいですね。やっぱり私は「どうして?」が「だからか!」になる瞬間が好き。そんな知る喜びが、この学校に通う間にたくさんあると思います。

◆制作に没頭、今は自分第一主義で

——今とこれからのモチベーションを教えてください。

松田:やっぱりライフワークとして、自分でものが作れるようになりたい。家に戻ったら主婦だったり母だったりするので、家庭の中、生活の中で織りを取り入れていきたいです。

S:自分第一主義かな。人生長くなりましたので。これまで(仕事と家庭で)自分の時間がなく、好きと思っても掘り下げる時間がなかったです。いろんなことをあきらめたり妥協したりしてきて今の私がある。そこから今、純粋に織りに向かっていて、あきらめる前の自分を思い出している感じがするんです。この学校にいると世間のざわつきからも距離を置けるし、(この環境に自分自身が)癒される感じもあります。それも没頭ですね。今いろんなものを取り戻している感じがします。好きだったり興味があったりすることが形になると嬉しいし、仕組みがわかると深まる感じもある。この先はまだわかりませんが、何かの取っかかりになるだろうと思います。

松田:家族のためではなく、自分の作品のためだけに没頭できる。

S:だから今は、自分第一主義ですね。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー2 仕事を辞めて入学

福井麻希さん・Hさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。第2回は、新卒から8年勤めた組織を辞めて入学した福井麻希さんと、会社の事務職を辞めて学びに来たHさんです。

デザイン演習で制作したブレスレットの説明をする福井さん

◆消費するのでなく、ものをつくる側に

——まずは入学の動機を教えてください。

福井麻希:もともとファッションが好きで、ものづくりにも興味がありました。軸にあるのは「服が好き」。なかでも生地に興味を持ったのは、好きな服屋さんがきっかけです。そのお店で取り扱っている商品のなかに、日本の伝統的な織りをデザイナーさんが現代的な服に仕立てているブランドがあって、服の素材や触り心地がすごく良くて、生地でこんなに変わるんだと知りました。そこで私は服が作りたいのではなく、生地の方に興味あると気づいて、自分で生地が作れるところで学びたいと3〜4年前から資料請求し、他の服飾系の学校も見ていました。この学校を選んだのは少人数制で行き届いている感じがして、雰囲気もいいなと思ったからです。

H:子どもの頃から手芸が好きでしたが、大人になると忘れていました。就職してからは、頑張って働いて稼いだお金で好きなものを買うのが幸せだとずっと思ってきたところがあります。ですがコロナ禍で外出できなくなった時、物を買う喜びがなくなって、消費するだけの生活に疑問が生まれたんです。そこでもともと手芸が好きだったのを思い出して、趣味で手芸を始めてみたらすごく楽しくて。ただ消費するのではなく、ものをつくる側にまわりたいという気持ちが芽生えました。布が好きなのもあって、「染織」「学校」などでインターネット検索するなかでこの学校を見つけました。カリキュラムを見て、密度が濃そうだなと。仕事を辞めて新しく学ぶとなると、やっぱりきちんと技術を身につけたいし、できる限り密度濃く学びたい。それができそうな学校だと思い、入学を決めました。

——退職して入学するのは思い切りが必要でしたか? スクール見学に来られる方のなかには気持ちはあっても仕事を辞められないなど、すぐには踏み切れない人もいます。しかし未練があって数年後に入学する人もいます。決断に至った思いを聞かせてください。

福井:元々就職する時に、好きなことを仕事にするかどうかすごく迷ってて。稼いだお金で好きなものを買うような生活の方がいいのかなと思って就職したんですけど、実際に働くなかで私の性格ではそれが無理だって気づいて(笑)。私は決められたルーティーンでやる仕事よりは自分で考えてやる方が向いているんじゃないか、好きなことを仕事にしないと精神的に辛いなと思いました。後からあの時やっておけばよかったと思うのは嫌だし、(このまま同じ状態で)いればいるほど後悔が長くなるから、始めるなら早い方がいい、好きなことを今のうちにしてしまおうと思って、お金を貯めて辞めました。

H:私も仕事がルーティーンになってきて、これ一生続くのかなと考えた時に、自分のためにも方向転換した方がいいのかなという思いが強くなりました。組織の中でどれだけ頑張っても逆に空回りして(自分がすり減ってしまうような)状況も経験して。だけど創作だったら自分が頑張った分だけ、いいものが作れるかなと。

天秤機で組織のサンプルを織るHさん

◆自分の引き出しから考え、形にできるのが面白い

——入学して7カ月が経ちました。ものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

福井:私は映画や美術を見たり、小説を読んだりするのが好きですが、これまでは受身で。感想やアウトプットが苦手と自分で思い込んで、ただ受け取るだけの感覚でいました。それがデザイン演習でテーマに沿って作品をつくるときに、今まで見たもの、読んだものがアイデアの引き出しになってあまり迷わずに済んだんです。課題は抽象的なテーマが多く、具体的なものが一切ないところから考えるのが楽しくて。アイデアを形にできるのが面白いです。これまで見てきた蓄積が身になり、反映されるのが、ものづくりをすると実感できました。それがこの学校に入ってからの発見でした。

H:最初、基礎織りの実習をやった時に、(頭では)わかってはいたけど工程がすごく多くて、ものづくりって大変なんだなと実感しました。その後も織り実習に取り組むなかで自分の向き不向きに気づくことも。「布を織る」は糸が細い分、絡まったりして大変だったんですけど、ちゃんと(8メートルの布を織り上げて)頑張れたのは自信になりました。次はもっとこうしてみたいとかもあって、自分の中で向上心が生まれるのが嬉しいです。

◆織るだけでなく糸を作るところから

——未経験から学び始めて、いまお二人にとって織りはどういうものでしょう。

福井:自分の頭の中にあるイメージを出力できる手段のようなもの。今までそんな表現手段を持っていなかったので、自分の楽しいとか、ときめくとか、ウキウキを増やせるのが織りだなって思っています。私の場合、作品をつくるのは主張や心情を表すというより、好きな世界観や雰囲気、こういうのがあったら楽しいみたいな空想のアウトプット。もともと「服・生地が好き」が軸にあるのが大きいかもしれないです。自分の好きなものと手段がかみ合ったから、いいなって思えるのかな。

H:アウトプットしたら楽しいんだなっていう気づきは私もあります。その手段として織りがある。私は一人で楽しむのが好きで、友達ともあまり共有しなくていいタイプだったんですけど、形になって表現できたら嬉しいと(知らなかった自分の一面に)気づきました。織りが自分に合っているかはまだわからないですが、この学校では織るだけじゃなく、糸を作るところから教えてもらえるので、いろんなことができるなって。ファンシーヤーンでは違う色をミックスして染色にはない不思議な糸ができたりして、こういうこともできるんだ、面白いなと。織物にはいろんな可能性があるなと思っています。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー1 高校・大学卒業後に入学

奥村穂波さん・吉田有希子さん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年度の本科には、高校や大学を卒業してすぐに入学した人、勤めていた会社や組織を辞めて学びに来た人、スクールのワークショップやウィークエンドクラスを受けて専門コースに進んだ人たちが各々の人生のタイミングで来て、同じクラスで学んでいます。このほど本科生にインタビューし、入学の動機や、7カ月が経った変化や気づきなどについて語ってもらいました。3回シリーズの初回は、高校卒業後に入学した奥村穂波さんと、大学卒業後に来た吉田有希子さんへのインタビューです。

◆ここでしか学べないことがあるのかな、ビビッときた

——まずは入学の動機を教えてください。

奥村穂波:高校の美術の選択教科に染織があって、体験授業で見たウールがきれいだなと思って選びました。軽い気持ちで始めたのですが、2年目に羊毛から糸を紡いでマフラーをつくったのが楽しくて。羊毛の色が混ざる感じがきれいで好きだなと思っていました。進路を決める時期はまだ自分のやりたいことがわからなくて、食関係とかいろんな専門学校を見ていました。そしたらお母さんが川島テキスタイルスクールのことを教えてくれて、ホームページを見てブログを読んで、なんかビビッときたんです。高校の染織が楽しかったのが大きいと思うんですけど、自然に囲まれた環境が高校と似ていて雰囲気が良さそうで、実際に手を動かしてものをつくって、ここでしか学べないことがあるのかな、やってみようと思って受けました。

吉田有希子:大学は文学部で日本美術史を専攻していました。学芸員資格を取りたくて選んだのですが、就職は考えていなくて。テレビで久留米絣の特集番組を見て絣に興味を持って、卒論のテーマに選びました。ですが私は織物をやったことがなかったので、絣を調べるのに本を読んでもわからないことだらけで。つくってみたいな、つくれるようになったらわかるかなと思っていたところ、『染織と生活』という古い雑誌に川島テキスタイルスクールの広告が載ってたんです。こんな学校があるんだってお母さんに言ったら、お母さんが川島織物*のことを知ってて、ちょっとずつ興味を持っていって夏にオープンスクールに参加しました。京都だから街のイメージでいたら、(スクールの立地は)山に囲まれててびっくり(笑)。ですがその環境が、一つのことを集中して学ぶのにいいなと思って。座学じゃなく、実技を通して学んでいくところもいいなと思い、すぐに願書を出しました。

*川島テキスタイルスクールは、川島織物(現・株式会社川島織物セルコン)が1973年に創業130周年の記念事業で設立した学校。今年(2023年)で開校50年となる。

◆失敗しても「何とかなる」と思えるように

——入学して7カ月が経ちましたが、自身の変化を感じますか?

奥村:高校の染織の授業では、自分のやりたいようにやってみなっていう自由な感じで、細かいところまでは教わらなかったです。それで今つくったものを見返すと、撚りがすごく強いところとかがあるなって気づいて。この学校で専門的に学んでいくうちに、そういう(ものの)見方がわかるようになって知識がついたなと感じます。織り全体に関してそうですね。入学するまではリネンとか糸の種類の違いを全然知らなかったし、最初に組織織りや二重織りを見たときに何がどうなっているのか想像もつかなかったけど、いざやってみると構造がなんとなくわかってきて、テンションとか糸の扱い方もわかるようになってきました。(同じマフラーでも)ホームスパンの授業でつくったものと高校の時につくったものは、触り心地や柔らかさも全然違って、すごく成長したなって思います。

糸を紡ぐ奥村さん

吉田:4月に学校に入って、初めは大丈夫かなっていう時期がしばらくあったんです。道具の扱いとか、糸が絡まったり切れたりしたらこわいなとか、期限までに課題がほんとに終わるのかなって。だけど今は「何とかなる」と思えるようになりました。いろんな実習をやるなかで、失敗しても先生が助けてくださって解決策を知っていくうちに、そう思えるようになって。それで夏休み明けから、いろんなことがスムーズにできるようになっているのに気づいて、楽しさが大きくなっている感じがします。

奥村:「何とかなる」は私も思います。組織織りの実習で、天秤機で(糸を通すのに)綜絖の数が真ん中で余ったり足りなかったりすることがあって。全部糸を抜いてやり直さないといけないかなと思ったけど、先生の直し方を見て、そんな裏技があるんだ!と知れたり。みんな同じ失敗体験をしているのかな、失敗から(工夫して)裏技を(編み出して)何とかしていったのかなと思いました。(期限までに)出来上がるか不安だった課題も意外と何とかなったし。

吉田:「布を織る」の実習あたりから、楽しくなっていった気はします。織りながらみんなの織る音を聞いて、みんなのリズムはどんな感じかなと考えながら織ってました。リズムに乗れたらきれいに織れている感じがして、それが楽しかったです。

奥村:この半年の間でやってきた内容が濃厚すぎて、こんなにいっぱいつくったんだ、(過ぎてみれば)あっという間で日記を書いておけばよかったです。糸を紡ぐ時や織る時は無心になる。「布を織る」の時はずっと同じ作業(平織り)で長いこと(8mの長さ)織ってたから、ほんとに無で。どれだけ進んだかわかるように、1時間ごとに織った長さを測っていました。そしたら初日から織るスピードが3倍ぐらいに早くなっていって、目にみえて進んでいくのがわかるから心の安定にもなったし、そうしていつのまにか無心でやっていました。

◆もっと知りたい、わかるようになりたい

——これから修了展に向けて制作が始まります。いまどんな気持ちでしょうか。
奥村:個人制作では自分でコンセプトから考えないといけない。これまでの実習では課題があったんですけど、1から全部自分でつくり上げるとなると不安はあります。だけど自分の好きな雰囲気や好きなものから派生して、このモチーフでいきたいというのが決まった時はワクワクしました。だから楽しみもあります。

吉田:私は絣に興味を持ってこの学校に来て、修了制作でも絣の作品をつくります。じつは「絣基礎」の実習で失敗したんですけど、それはそれで面白いものができたんです。そこでもっと絣を知りたいと思いました。絣はけっこう制約があると思うんですけど、まだ私はそんなにわからなくて。先生とデザイン案をやりとりするなかで絣を使った制約のなかの表現の可能性を知り、私もいつか(デザインと絣の)仕組みをパッとわかるようになりたいです。絣は奥深いし、私はまだまだわかんないことだらけなので、もっと知りたい、わかるようになりたいと思っています。

経糸の絣を括る吉田さん

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の二次締切は12月15日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。