在校生インタビュー

在校生インタビュー1 「ハードルよりやりたい気持ちが上回った」Fさん(2024年度・専門コース本科)

今年も川島テキスタイルスクールの専門コース本科には、織りに魅せられ、それぞれの人生のタイミングで踏み出した人たちが集っています。学ぶ意欲旺盛に織りに没頭する日々のなか、本科生にインタビューを行いました。初回は図書館司書の仕事を辞めて入学したFさんに、趣味から本格的にものづくりの世界へ飛び込んだ経緯や、学校で学ぶこと、この半年の学びの気づきなどについて語ってもらいました。

◆学び始めるのに今が一番若い

——ものづくりの方向へ進んだ経緯を教えてください。

ものづくりは子どもの頃から身近にありました。父も母も作家で、ものを作って生きていくことが当たり前のモデルとしてありましたが、同時に大変さも感じていました。私もものづくりが好きですが、一旦は趣味として割り切ろうと納得して文系の大学に進学。大学も楽しかったし、前職の司書の仕事も充実していました。でも絵本の勉強会に参加し、装丁など本作りに踏み込んで作り手の表現を見た時、そういえば私、ものを作りたかったっていう気持ちを思い出して。作ったものをいろんな人に見てもらえる仕事を羨ましいって思う自分に気づいたんです。今が一番若いし、1日でも早く学び始めた方がどんどん技術が身につく。仕事にやりがいはあったのですが臨時職員から正規職員になる道を断り、本当にやりたいことをやろうと決めました。

——じつは蓋をしていた本心に気づいて、生き方を見つめ直した。

親の背中を見てきたのも後押しになりました。父が木工、母が型染めの藍染作家、家族で農業を営んで土地に根付いて生きている姿に、そうか、生き方も自分で作っていけばいいよねって。経済的に安定しなくてもどうにか暮らせているし、今も元気ですごく楽しそう。そうやって生きていけると知ってるから(組織を離れるのは)怖くない。これまで進学も仕事も人に勧められて、最良の道と自分で納得させながら流れで進んできたので、自分で決心して1から行動したのは川島テキスタイルスクールが初めてかもしれない。自分の本心に向き合えるようになって、堰き止めていたものを上げて、今は好きなことの大きい川に乗った感じ。いずれ作り手として親と対等になりたい気持ちがあります。

◆学校では打てば返ってくる

——どうして織りだったのでしょう?

実家に山羊の毛の絨毯があるんですけど、地元の作家の方が和機で織ったものと親から聞いて感動したのを思い出して。布って人間に一番近いもの。毎日着てるし、家でくつろぐ時も近くにあるし、すべての年代、生まれてから死ぬまでずっと身近にある。気持ちのいい布に包まったら、しんどい状況にあっても安らぐ。その分、布って私にとっては崇高な存在で、自分で作るのはハードルが高いと思っていました。でもやってみたいという気持ちが上回ったんです。

——このスクールはどのようにして知ったのですか?

大学生の頃に読んだ雑誌『天然生活』(2013年12月号)に掲載されていた安部智穂さんという方の記事です。プロフィール欄に「川島テキスタイルスクール」とあって、ネット検索してこんな学校があるのかと初めて知りました。学校名を覚えてて、いざ自分が踏み出そうと決めた時に思い浮かび、見学してすぐ願書を出しました。私は人の暮らしに寄り添い長く使われるものづくりがしたい。技術を身につけ、胸を張ってものを届けられるようになりたいと思って、基礎からしっかり学べるこのスクールに行こうと決心しました。

——入学して半年が経ち、いまの実感はどうでしょう。

カリキュラムを見ていたはずなのですが、授業があまりに多彩でびっくりしました。半年間があっという間のようで3年のようにも感じます。私は未経験で入ったので「基礎織り」が初めての機織りで、整経もやったことがなかったし、綜絖?みたいな感じで全部初めて。授業は染色、「スピニング」など様々に学びながら最終的にすべて織りに入って、こうやって布ができるのかと。仕上がった時、生まれて初めて自分で織った布だと思うと感慨深かったです。でも嬉しいというより、ついに布の世界に入っちゃったぞ!という感じ。学校じゃなかったらこの感覚はなかったかも。趣味としてやっていたら、シンプルに喜ぶところで止まっていたかもしれない。

——これまで趣味で、本を読みながら独学で作ってきたところから、学校で本格的に学ぶ違いを感じますか?

はい。趣味で刺繍などをやっていたのですが、シンプルな違いとして本は答えてくれない。本の説明どおりにやってできて、じゃあこういう時どうするのって思っても聞けない。自分で考えてやるのが独学の楽しさではありますが、学校の授業では打てば返ってくる。最初は織りを知らなさすぎて質問も浮かばずに受け身でしたが、今の学年は私以外みんな織り経験者で、私が不思議に思わなかったことでも誰かが気づいて質問してくれる。仲間がいる分、学びの幅が広がります。

◆手仕事の世界にほっとする感覚

——この半年で特に印象深い授業はありますか?

「ニードルワーク」(国立民族学博物館・上羽陽子先生による連続授業)です。技法だけじゃなくもっと広い世界を知れてテキスタイルスクールでこんな学びができるのか!と嬉しくなりました。授業で受け取ったものをすべて言葉で言い表せないのですが、すごくいい感覚だったんです。インドの刺繍のいろんな事例を見て、(人間の原初的な)欲求の部分を改めて感じたというか。価値観が違っても美しいものは美しく見えるし、模写することでどうやってできているのかと探究心が生まれる。テキスタイルは昔から人間の身近にあって、今も手仕事で続けている世界がある。そうやって人間は生きてきたし、これからもそうなんだって思えて、ほっとする感覚がありました。

——入学時、技術を身につけたいという明確な目的がありましたが、実際に学ぶなかで他にも気づきがありますか?

私は織りに関してゼロベースで入学した分、発見がいっぱいあって。明文化された発見だけではなく、すぐに言葉にならないけど感覚的なものをすごく受け取っています。細い絹糸や綿糸などいろんな糸を使って布を織っていくうち、技術だけじゃないものを学んでいる気がして。あとシンプルに、この半年で布を織り手目線で捉えるようになり、作り方がわかったからこそ布の見え方が変わり、布に対する考え方も広がってきています。

在校生インタビュー3 ワークショップ・ウィークエンドクラスから進学

松田敦子さん・Sさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。最終回は「はじめての織り」10日間のワークショップを受講後に専門コースに進んだ松田敦子さんと、ウィークエンドクラスを1年受講後に進学したSさんです。

修了展に向けて、自分でデザインしたテーブルクロスを織る松田さん

◆1から自分でできるようになりたい

——まずは進学の動機を教えてください。

松田敦子:私はライフワークとして織りをやっていきたいと思っています。そのために1から準備して織って、と自宅で一人ですべてできるようになりたい。ワークショップの場合は用意していただいたものを織る形になるので、もっと本格的にスキルを身に付けたいと思い、子どもたちも大きくなり時間ができたので学びに来ました。

S:ウィークエンドクラスの時は、長年働いた仕事を退職して時間ができたので、ずっと興味があったけどできなかったことを始めたいと思って受講しました。1年目がすごく楽しくて、もっと学びたい気持ちになりました。ですがこのまま2年目に進む(ゆとりのあるペースで学ぶ)よりは、もっと専門的に学びたいと思って(フルタイムで基礎からしっかりと学ぶ)専門コースに進みました。実際、通学となると距離も遠いし、かなり生活が変わるので(家庭との両立など)自信はなかったんですけど、夫や妹が「できることがあったら助けてあげるから」「これまで働いてきた分、これからは自分の好きなことをやったらいい」と後押ししてくれて。じゃあ初めからきちんと学んで、自分が何をしたいかをしっかりとつかんでから家に帰ろうと決めました。

——入学して7カ月が経ち、これまでとは全く違う生活を送っていますが、新たな日々の実感はどうですか。

松田:私は主婦で時間の制約があまりない生活を送っていました。今は朝9時から夕方5時と時間が決まっている分メリハリがあります。メリハリができたからこそ自分はこういうのが好きなのかと新たに気づく面もあって、制約はわるくないと感じています。ですが大変は大変ですね。寮生活で週末休みに家に戻りますが、たまっている家事をこなすだけで休みが終わってしまうので。

S:大変ですけど、おかげで痩せました(笑)。早寝早起きでおやつも食べないし、健康になりました。(授業の密度が濃い分)時間に追われたり、課題を期限内に提出するのに精一杯になりがちですが、好きなことをやっているので苦しむようなストレスもないし、自然があって環境もいいところです。周りの方も優しいし、先生もしっかりと教えてくれるし、何とかやっています。

松田:クラスは恵まれていますね。皆優しいし、大丈夫?と声をかけ合いながらやっています。自分の娘と同年ぐらいの子たちもいますが、皆一生懸命だし、ここに来なかったら接する機会のない人たちなので楽しいです。

S:クラスメイトとして自然に接しているし、あまり年齢差を意識したことはないです。うちの子どもと同じような年ですが、また違いますね。やっぱり同じ目的に向かっているので、ある意味もっと近しい気持ちになっています。

グループ制作のタペストリーを織るSさん

◆ 「どうして?」が「だからか!」に、知る喜びがたくさんある

——スクールでのものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

松田:正直なところ私はデザインに苦手意識があります。ですが織るのは楽しいし、仕組みを知るのが好き。組織織りでもどうしてこんな模様ができるのかを、踏み順の組み合わせなど機の仕組みからつなげて知るのが面白いです。だからこうなるのか!と理解できた瞬間はすごく嬉しい。制作で悩むことはあるし、上手にできる人を羨ましく思うこともありますが、人と比べる必要ないねんなっていうのは常に思います。課題をこなしていくのに必死で、他の人を気にする余裕がないのが実際のところ(笑)。でもそれっていいことやなとも思います。自分の持っているもの、やれることはこれだと思って自分の制作にまっすぐ向かうだけ。

S:自分はこんなにできひんのやなって。指も思うように動かへんし、そういう年齢なんやなってすごく思います。でも人と比べる必要はないし、時間に追われて締切が厳しい分、それこそ没頭できる。それに専門コースの授業だからこそ、いろんな専門家の話を聞けるのも貴重です。特に冨田潤先生の工房見学や、みんぱくの上羽陽子先生の講義と実習はすごく面白かったです。(さまざまな角度からの授業を通して)糸の見方とか、ものの観察の仕方とかが変わったと思います。糸の結び方だけでもたくさんあるし、それぞれ何のためにあるのか、背景にある生活の知恵を知って感動したり、昔の人は生活の中で織っていたんやなと思いはせたりしながら学んでいます。

松田:糸も単に毛糸として見ていたところからS撚り・Z撚りがあると知ったり、ループヤーンのループができる仕組みだったり、色糸の混ぜ方とか知識を身に付けたうえで、糸選びができるのは楽しいですね。やっぱり私は「どうして?」が「だからか!」になる瞬間が好き。そんな知る喜びが、この学校に通う間にたくさんあると思います。

◆制作に没頭、今は自分第一主義で

——今とこれからのモチベーションを教えてください。

松田:やっぱりライフワークとして、自分でものが作れるようになりたい。家に戻ったら主婦だったり母だったりするので、家庭の中、生活の中で織りを取り入れていきたいです。

S:自分第一主義かな。人生長くなりましたので。これまで(仕事と家庭で)自分の時間がなく、好きと思っても掘り下げる時間がなかったです。いろんなことをあきらめたり妥協したりしてきて今の私がある。そこから今、純粋に織りに向かっていて、あきらめる前の自分を思い出している感じがするんです。この学校にいると世間のざわつきからも距離を置けるし、(この環境に自分自身が)癒される感じもあります。それも没頭ですね。今いろんなものを取り戻している感じがします。好きだったり興味があったりすることが形になると嬉しいし、仕組みがわかると深まる感じもある。この先はまだわかりませんが、何かの取っかかりになるだろうと思います。

松田:家族のためではなく、自分の作品のためだけに没頭できる。

S:だから今は、自分第一主義ですね。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー2 仕事を辞めて入学

福井麻希さん・Hさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。第2回は、新卒から8年勤めた組織を辞めて入学した福井麻希さんと、会社の事務職を辞めて学びに来たHさんです。

デザイン演習で制作したブレスレットの説明をする福井さん

◆消費するのでなく、ものをつくる側に

——まずは入学の動機を教えてください。

福井麻希:もともとファッションが好きで、ものづくりにも興味がありました。軸にあるのは「服が好き」。なかでも生地に興味を持ったのは、好きな服屋さんがきっかけです。そのお店で取り扱っている商品のなかに、日本の伝統的な織りをデザイナーさんが現代的な服に仕立てているブランドがあって、服の素材や触り心地がすごく良くて、生地でこんなに変わるんだと知りました。そこで私は服が作りたいのではなく、生地の方に興味あると気づいて、自分で生地が作れるところで学びたいと3〜4年前から資料請求し、他の服飾系の学校も見ていました。この学校を選んだのは少人数制で行き届いている感じがして、雰囲気もいいなと思ったからです。

H:子どもの頃から手芸が好きでしたが、大人になると忘れていました。就職してからは、頑張って働いて稼いだお金で好きなものを買うのが幸せだとずっと思ってきたところがあります。ですがコロナ禍で外出できなくなった時、物を買う喜びがなくなって、消費するだけの生活に疑問が生まれたんです。そこでもともと手芸が好きだったのを思い出して、趣味で手芸を始めてみたらすごく楽しくて。ただ消費するのではなく、ものをつくる側にまわりたいという気持ちが芽生えました。布が好きなのもあって、「染織」「学校」などでインターネット検索するなかでこの学校を見つけました。カリキュラムを見て、密度が濃そうだなと。仕事を辞めて新しく学ぶとなると、やっぱりきちんと技術を身につけたいし、できる限り密度濃く学びたい。それができそうな学校だと思い、入学を決めました。

——退職して入学するのは思い切りが必要でしたか? スクール見学に来られる方のなかには気持ちはあっても仕事を辞められないなど、すぐには踏み切れない人もいます。しかし未練があって数年後に入学する人もいます。決断に至った思いを聞かせてください。

福井:元々就職する時に、好きなことを仕事にするかどうかすごく迷ってて。稼いだお金で好きなものを買うような生活の方がいいのかなと思って就職したんですけど、実際に働くなかで私の性格ではそれが無理だって気づいて(笑)。私は決められたルーティーンでやる仕事よりは自分で考えてやる方が向いているんじゃないか、好きなことを仕事にしないと精神的に辛いなと思いました。後からあの時やっておけばよかったと思うのは嫌だし、(このまま同じ状態で)いればいるほど後悔が長くなるから、始めるなら早い方がいい、好きなことを今のうちにしてしまおうと思って、お金を貯めて辞めました。

H:私も仕事がルーティーンになってきて、これ一生続くのかなと考えた時に、自分のためにも方向転換した方がいいのかなという思いが強くなりました。組織の中でどれだけ頑張っても逆に空回りして(自分がすり減ってしまうような)状況も経験して。だけど創作だったら自分が頑張った分だけ、いいものが作れるかなと。

天秤機で組織のサンプルを織るHさん

◆自分の引き出しから考え、形にできるのが面白い

——入学して7カ月が経ちました。ものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

福井:私は映画や美術を見たり、小説を読んだりするのが好きですが、これまでは受身で。感想やアウトプットが苦手と自分で思い込んで、ただ受け取るだけの感覚でいました。それがデザイン演習でテーマに沿って作品をつくるときに、今まで見たもの、読んだものがアイデアの引き出しになってあまり迷わずに済んだんです。課題は抽象的なテーマが多く、具体的なものが一切ないところから考えるのが楽しくて。アイデアを形にできるのが面白いです。これまで見てきた蓄積が身になり、反映されるのが、ものづくりをすると実感できました。それがこの学校に入ってからの発見でした。

H:最初、基礎織りの実習をやった時に、(頭では)わかってはいたけど工程がすごく多くて、ものづくりって大変なんだなと実感しました。その後も織り実習に取り組むなかで自分の向き不向きに気づくことも。「布を織る」は糸が細い分、絡まったりして大変だったんですけど、ちゃんと(8メートルの布を織り上げて)頑張れたのは自信になりました。次はもっとこうしてみたいとかもあって、自分の中で向上心が生まれるのが嬉しいです。

◆織るだけでなく糸を作るところから

——未経験から学び始めて、いまお二人にとって織りはどういうものでしょう。

福井:自分の頭の中にあるイメージを出力できる手段のようなもの。今までそんな表現手段を持っていなかったので、自分の楽しいとか、ときめくとか、ウキウキを増やせるのが織りだなって思っています。私の場合、作品をつくるのは主張や心情を表すというより、好きな世界観や雰囲気、こういうのがあったら楽しいみたいな空想のアウトプット。もともと「服・生地が好き」が軸にあるのが大きいかもしれないです。自分の好きなものと手段がかみ合ったから、いいなって思えるのかな。

H:アウトプットしたら楽しいんだなっていう気づきは私もあります。その手段として織りがある。私は一人で楽しむのが好きで、友達ともあまり共有しなくていいタイプだったんですけど、形になって表現できたら嬉しいと(知らなかった自分の一面に)気づきました。織りが自分に合っているかはまだわからないですが、この学校では織るだけじゃなく、糸を作るところから教えてもらえるので、いろんなことができるなって。ファンシーヤーンでは違う色をミックスして染色にはない不思議な糸ができたりして、こういうこともできるんだ、面白いなと。織物にはいろんな可能性があるなと思っています。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー1 高校・大学卒業後に入学

奥村穂波さん・吉田有希子さん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年度の本科には、高校や大学を卒業してすぐに入学した人、勤めていた会社や組織を辞めて学びに来た人、スクールのワークショップやウィークエンドクラスを受けて専門コースに進んだ人たちが各々の人生のタイミングで来て、同じクラスで学んでいます。このほど本科生にインタビューし、入学の動機や、7カ月が経った変化や気づきなどについて語ってもらいました。3回シリーズの初回は、高校卒業後に入学した奥村穂波さんと、大学卒業後に来た吉田有希子さんへのインタビューです。

◆ここでしか学べないことがあるのかな、ビビッときた

——まずは入学の動機を教えてください。

奥村穂波:高校の美術の選択教科に染織があって、体験授業で見たウールがきれいだなと思って選びました。軽い気持ちで始めたのですが、2年目に羊毛から糸を紡いでマフラーをつくったのが楽しくて。羊毛の色が混ざる感じがきれいで好きだなと思っていました。進路を決める時期はまだ自分のやりたいことがわからなくて、食関係とかいろんな専門学校を見ていました。そしたらお母さんが川島テキスタイルスクールのことを教えてくれて、ホームページを見てブログを読んで、なんかビビッときたんです。高校の染織が楽しかったのが大きいと思うんですけど、自然に囲まれた環境が高校と似ていて雰囲気が良さそうで、実際に手を動かしてものをつくって、ここでしか学べないことがあるのかな、やってみようと思って受けました。

吉田有希子:大学は文学部で日本美術史を専攻していました。学芸員資格を取りたくて選んだのですが、就職は考えていなくて。テレビで久留米絣の特集番組を見て絣に興味を持って、卒論のテーマに選びました。ですが私は織物をやったことがなかったので、絣を調べるのに本を読んでもわからないことだらけで。つくってみたいな、つくれるようになったらわかるかなと思っていたところ、『染織と生活』という古い雑誌に川島テキスタイルスクールの広告が載ってたんです。こんな学校があるんだってお母さんに言ったら、お母さんが川島織物*のことを知ってて、ちょっとずつ興味を持っていって夏にオープンスクールに参加しました。京都だから街のイメージでいたら、(スクールの立地は)山に囲まれててびっくり(笑)。ですがその環境が、一つのことを集中して学ぶのにいいなと思って。座学じゃなく、実技を通して学んでいくところもいいなと思い、すぐに願書を出しました。

*川島テキスタイルスクールは、川島織物(現・株式会社川島織物セルコン)が1973年に創業130周年の記念事業で設立した学校。今年(2023年)で開校50年となる。

◆失敗しても「何とかなる」と思えるように

——入学して7カ月が経ちましたが、自身の変化を感じますか?

奥村:高校の染織の授業では、自分のやりたいようにやってみなっていう自由な感じで、細かいところまでは教わらなかったです。それで今つくったものを見返すと、撚りがすごく強いところとかがあるなって気づいて。この学校で専門的に学んでいくうちに、そういう(ものの)見方がわかるようになって知識がついたなと感じます。織り全体に関してそうですね。入学するまではリネンとか糸の種類の違いを全然知らなかったし、最初に組織織りや二重織りを見たときに何がどうなっているのか想像もつかなかったけど、いざやってみると構造がなんとなくわかってきて、テンションとか糸の扱い方もわかるようになってきました。(同じマフラーでも)ホームスパンの授業でつくったものと高校の時につくったものは、触り心地や柔らかさも全然違って、すごく成長したなって思います。

糸を紡ぐ奥村さん

吉田:4月に学校に入って、初めは大丈夫かなっていう時期がしばらくあったんです。道具の扱いとか、糸が絡まったり切れたりしたらこわいなとか、期限までに課題がほんとに終わるのかなって。だけど今は「何とかなる」と思えるようになりました。いろんな実習をやるなかで、失敗しても先生が助けてくださって解決策を知っていくうちに、そう思えるようになって。それで夏休み明けから、いろんなことがスムーズにできるようになっているのに気づいて、楽しさが大きくなっている感じがします。

奥村:「何とかなる」は私も思います。組織織りの実習で、天秤機で(糸を通すのに)綜絖の数が真ん中で余ったり足りなかったりすることがあって。全部糸を抜いてやり直さないといけないかなと思ったけど、先生の直し方を見て、そんな裏技があるんだ!と知れたり。みんな同じ失敗体験をしているのかな、失敗から(工夫して)裏技を(編み出して)何とかしていったのかなと思いました。(期限までに)出来上がるか不安だった課題も意外と何とかなったし。

吉田:「布を織る」の実習あたりから、楽しくなっていった気はします。織りながらみんなの織る音を聞いて、みんなのリズムはどんな感じかなと考えながら織ってました。リズムに乗れたらきれいに織れている感じがして、それが楽しかったです。

奥村:この半年の間でやってきた内容が濃厚すぎて、こんなにいっぱいつくったんだ、(過ぎてみれば)あっという間で日記を書いておけばよかったです。糸を紡ぐ時や織る時は無心になる。「布を織る」の時はずっと同じ作業(平織り)で長いこと(8mの長さ)織ってたから、ほんとに無で。どれだけ進んだかわかるように、1時間ごとに織った長さを測っていました。そしたら初日から織るスピードが3倍ぐらいに早くなっていって、目にみえて進んでいくのがわかるから心の安定にもなったし、そうしていつのまにか無心でやっていました。

◆もっと知りたい、わかるようになりたい

——これから修了展に向けて制作が始まります。いまどんな気持ちでしょうか。
奥村:個人制作では自分でコンセプトから考えないといけない。これまでの実習では課題があったんですけど、1から全部自分でつくり上げるとなると不安はあります。だけど自分の好きな雰囲気や好きなものから派生して、このモチーフでいきたいというのが決まった時はワクワクしました。だから楽しみもあります。

吉田:私は絣に興味を持ってこの学校に来て、修了制作でも絣の作品をつくります。じつは「絣基礎」の実習で失敗したんですけど、それはそれで面白いものができたんです。そこでもっと絣を知りたいと思いました。絣はけっこう制約があると思うんですけど、まだ私はそんなにわからなくて。先生とデザイン案をやりとりするなかで絣を使った制約のなかの表現の可能性を知り、私もいつか(デザインと絣の)仕組みをパッとわかるようになりたいです。絣は奥深いし、私はまだまだわかんないことだらけなので、もっと知りたい、わかるようになりたいと思っています。

経糸の絣を括る吉田さん

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の二次締切は12月15日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

アトリエより:織りの響き──「綴帯」の音(後編)

< 前半「3年目、やりたかった「綴帯」制作へ」はこちら >

いま、スクールのアトリエには、力強く、かつ竹のしなやかな打ち込みの音が響いています。これは綴帯を織る音です。


綴織の中でも、綴帯は無地の部分を框で打ち込むのが特徴です。緞帳や祭礼幕は模様が全体に入ることから指先や櫛で織りますが、綴帯には無地があるため、模様と無地部分で使う道具が変わります。框(かまち)の動作も、他の織りでは緯糸を通してトントンと複数回打ち込むのに対し、綴帯は一回で決めるのが肝。一回打ちの理由は、経糸を見せずに、高い織り密度で均等に織るためです。下支えするのは、経糸の強さ。勢いよく力が加わってもぶれないように、しっかりとテンションを張ります。

じつは打ち込みは、その音を耳で感じるよりは、さほど力は入っていません。手首のスナップをきかせるのがコツで、学生は度重なる練習を経て、本番の制作に取り掛かっています。綴帯を織っているのは、専門コース3年目の于尚子さん。無地部分を織るのを「楽しい!」と声を弾ませます。黙々と織っている時、子どもの頃に家のなかで聞こえていた「音の記憶」がよみがえるのだそう。祖父母が帯を織る仕事をしていたことから、家では四六時中、機の音が響いて、今でも耳に残るそのリズムと重ね合わせるように、楽しく織れるといいます。

スクールで使っている機は、昔から西陣で使われてきた綴織専用の綴機です。また竹筬は、今は商品として新たに製造されておらず、竹筬を備えた、この西陣綴機を使うこと自体が貴重といえます。織りの音を響かせながら、制作は続きます。

アトリエより:3年目、やりたかった「綴帯」制作へ(前編)

今年、専門コースには、綴帯の制作に励んでいる学生がいます。3年目の創作科に通う于尚子さんは、綴帯をやりたいという思いをずっと温めていました。

ふだんはあまり目にする機会がない綴帯ですが、スクールには綴帯を学ぶ場が整っています。アトリエには西陣綴機が11台あり、専任の講師がいて、綴帯が制作できる安定した環境とノウハウがあります。それに専門コースでは1年目に、綴織の基礎技術からグループのタペストリー制作までを体系的に学んでいるので、難易度が高いといわれる綴帯にも、基礎が身についた状態で入っていけます。

とはいえ近年は、綴帯制作を希望する学生はそういるわけではありません。そんななか、于さんが綴帯を望んだのは、かつて祖父母が「出機(でばた)さん」として織物業者から仕事を請負い、家で帯を織っていた環境で育ったことが大きいといいます。自身も着付けの仕事をしており、綴帯を扱うなかで、その特有のハリ感や、柄の美しさに魅了されたのだそう。特別感がある分、初めは自分が織るイメージに結びつかなかったものの、スクールで講師が学生時代に制作した綴帯を見て「私もぜひ学んで、織ってみたい」と一歩踏み出しました。

祖母や母が織っていた帯の織りサンプル。綴帯の制作を母に話したら、じつは「私も帯を織る仕事をしていた」と言われ、知らなかった母の思い出話に触れた。

いざ、一本目の綴帯に取り組む今、「これまで学んできた織りとは違う難しさを感じています」と于さんは言います。綴織のなかでも、綴帯は糸が細い分、一日中織っていても数センチしか進みません。また綴は模様にするのに何色もの糸を使って織り分けるため、緯糸は端から端へまっすぐ一本通すのではなく、色や形によってそれぞれ通す範囲が変わります。ここでも糸が細い分、線が微細で、納得できる線で形を織り出せるまで何度もやり直す。と同時に、横幅を一定に揃えるよう全体にも目を配ります。そうして懸命に制作に打ち込む日々です。

于さんは、子育てがひと段落したのを機にワークショップ受講を経て、専門コースに入学。2年目に絣の着物と組織の帯、3年目に綴帯、と純粋な興味をもとにいろんな織りにチャレンジし、自身の新たな人生のステージの土台をつくっています。スクールでは、とくにデザインを通して「表現の大切さ」に気づき、自身の課題として向き合っています。「私はこれまで自由な発想で生きてきたわけじゃなく、どちらかといえば教えられたことをそのままやってきたようなスタンスでした。そんな私にとって、表現はすごく難しい。自分の思いや考えをどのように表現し、伝えられるか。自分自身と向き合う大切さを実感しています」。これから自立して創作を続けていくためには、3年目の今、必要なプロセスなのでしょう。

根気よく制作を続ける先に、どんな景色が見えるでしょうか。綴帯の作品は、2023年3月の修了展で披露される予定です。

*2020年入学当初のインタビューはこちら

*「綴帯」制作の後編として、「織りの響き──『綴帯』の音」を後日掲載予定です。

在校生の声2 「織物だったら、ひたむきに向き合える」小川千歳(2022年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、様々な年代の人が集います。2022年度の本科では、10代から60代までの学生が共に学んでいます。小川千歳さんは、埼玉県の高校を卒業してすぐにこのスクールに入学しました。入学の動機や、「毎日が織りで形成されている」という日々、その中の気づきについて語ってもらいました。

◆学校の雰囲気があったかい感じがした

子どもの頃から家族で海外を旅する中で、日本にしかないものに魅かれて伝統工芸に興味を持ちました。織りとの出会いは、高校の選択授業。染織の授業紹介に「絣」とあるのが気になって。初めは「かすり」を知らず、こんな字があるんだ、何だろうと興味がわいて、授業も面白かったので3年間ずっと染織を選びました。

進路を決める時にやっぱり伝統工芸が気になって、漆や竹細工、紅型などの工房見学に行き、体験もしましたが自分がやるイメージがわかなかった。私が飽きることなく続けられるものって何だろうと考えた時に、織物だったらたくさん質問が出てくるし、ひたむきに向き合えると思いました。川島テキスタイルスクールに魅かれたのは、一年間でいろんな織りが学べるところ。オープンスクールに行って、学校の雰囲気があったかい感じがしてここに決めました。入学して4カ月、今はただ無我夢中です。1日7時間を週5日、土曜に授業がある日もあって、織りを考えない時間はないくらい、毎日が織りで形成されています。

◆織り機って深い

これまでの実習で組織のディッシュクロスや、綴織タペストリー、8メートルの布を織るのに、それぞれジャッキ式、綴機、ろくろ機を使いました。いろんな種類の機を使って、特に組織は綜絖の糸の通し方や、足の踏み順を変えることでいろんな柄が織れる。織物って長い時間をかけて人の手が加わって、人が考えてつくったものだから織る人がすごいと思っていたけど、織り機まではそんなに気にしていなかった。ですが授業を受ける中で、織り機は深いって気づきました。

色にも興味があります。「勘染め」の授業では三原色を基にした色の出し方を学んで色の根源に興味を持ち、「色彩演習」で色の濃淡や組み合わせを意識するようになりました。思う色を「出す」のも、色を「使う」のも難しい。ストライプの布を織る課題では、実習や演習で学んだ色の感覚を試していく中で、想像してなかった組み合わせを発見できました。

課題の締め切りが近かったり、思うように進まなかったりする時は、つらいと思うことも正直あります。ですがそんな日に限って、いざやり始めると楽しくなって、やるぞ!とスイッチが入るのが不思議です。織りにしか目がいかない状態になるのは、すごく楽しいです。


綴織りのタペストリーができるまで。
ライムをモチーフに実物を観察してデザインを起こした。
(左上から)原画、下絵、作品。

◆表現の仕方には年齢差を感じない

クラスメイトは年上の人ばかりですが、授業でもわからないことはわからないって言ったら助けてくれるし、お互いに苦手な部分を補い合っています。講評会で、互いの作品に対して意見を言う時に出てくる言葉の広さが違って、生きてきた年数が違うなって。ただ、作品の表現の仕方には年齢差を感じないです。同じ課題でも「そんな発想思いつかなかった」と言い合うほど表現が違うのが面白いし、年齢じゃなくて「その人」として見ています。

これからグループ制作が始まります。見学時、校舎内に飾ってある綴織タペストリーや竪機を見て、その大きさに圧倒されました。グループ制作は初めてですが、やったことがないからこそ、どんなものが生まれるのか、今からすごく楽しみ。作品制作の意見を言い合うのは自分の糧にもなるので、いろんな意見を聞きたいし私もよくしゃべります。今は学ぶことがたくさん。完成させていく道のりも楽しみに取り組んでいきます。