8年勤めた仕事を辞めて川島テキスタイルスクールに入学し、専門コースで学ぶ福井麻希さん。2年目の専攻科では、尾州ファッションデザインセンター主催のものづくりの人材育成事業「翔工房」の書類選考に通過して参加。応募時に作成したデザイン画をもとに、経験豊富な「匠の技」をもつ技術者とコラボレーションして衣装を制作し、ファッションショー、展覧会までを行う事業に取り組みました。このほど繊維業界に就職が決まった福井さんにインタビューを行い、翔工房の経験や、スクールで学ぶ中でどのように自分の適性を見つけて職を得たのか、について語ってもらいました。

写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター
◆織りの共通言語を持っていた
——福井さんは元々服が好きで、特に生地に興味を持って専門コースに入学されました。2年目の専攻科で「翔工房」にチャレンジしたのは、入学当初の服の生地の興味からでしょうか。
はい。ただ2年目の専攻科では(インテリア・ファッションテキスタイル・着物・帯・造形とコースが分かれる中で)インテリアに進みました。そこでファッションをあえて選ばなかったのは、私は在学中にいろいろ作ってみたい気持ちがあって、特に立体制作に興味があって、インテリアだと空間を使える分自由度が高いと思ったからです。それで2年目はずっとインテリアの織りに専念してきたのですが、元々ファッションに興味があるのを先生もご存知で、情報を教えてもらいました。チャンスがあるならやってみたいと思って応募し、テキスタイルマテリアルセンター(岐阜県羽島市)にも見学に行きました。センターで多種多様な生地を見る中で、機械織りだからこそ実現できるデザインの面白さがあるなと思い、尾州産地のものづくりに更に興味を持ちました。
——「翔工房」では、「匠」と呼ばれる熟練の生地設計の技術者の方からマンツーマンで指導を受けて衣装を製作しました。製作プロセスを教えてください。
まず合同ミーティングで匠の講師の方と顔合わせがありました。その時にテキスタイルマテリアルセンターで一緒に素材サンプルを見て、色や生地の具体的なイメージを共有しました。事業の拠点が尾州(愛知県一宮市や岐阜県羽島市など)で、私は京都で遠方のため、その後は匠講師が資料や糸のイメージのサンプルなどを送ってくださって電話でやりとりしながら進めました。匠講師は意匠糸や絣糸を使って奥行きのある色合いを表現したいという私の希望に対して、服にした時にどう映えるかを見通しながら、設計図に落とし込んでくださいました。都度すり合わせ、微修正をしながら進め、織る段階になると私も工場に出向いて生地サンプルを確認し、納得いく形に仕上げていきました。
——今回の現場で大変だったことや、スクールでの学びを生かせたことはありましたか?
他の参加者はファッションの学校から来ている方が多く、私のように手織りを学んでいる人は少なかったです。最終的に立体の服に仕立てるのに、柄合わせや繋ぎ目まで考えながらデザインするところまでは私は甘くて、難しかった面もありました。ですが普段から学校でデザインだけではなく自分で作っている分、専門的な説明も実感を持って理解でき、匠講師と話が通じやすかったです。機械織りであっても、綜絖とか筬とか基本的な構造は手織りの機と同じなので、機の綜絖枚数の制約でデザインを一部変更しないといけなかった時も、仕組みを理解し、納得した上で自分の希望を伝えられました。特に私の場合は遠方で電話中心のやりとりで、きちんとわかっていないと齟齬が出やすい状況だったからこそ、織りの共通言語みたいなものを持っていたのは良かったと思います。
——匠講師との製作経験を通して印象に残ったことは?
長年経験を積んでいらっしゃる分、引き出しの多さがすごいなと。匠メンバーの中でも、私を担当してくださった方は86歳で最高齢の方でした。年齢を感じさせず、ファッションに関わっておられるからか、匠講師はみなさんおしゃれ。その齢まで私は働けるかわからないなと思うと、現役でおられるのがすごいと思いました。私のデザインはさらさらと流れる川をイメージしたもので、水面のきらめきを表したいという希望に対して、ラメ糸を入れるなら塊で入れる方がランダム性が出ていいとか、私の中で出てこない発想のアドバイスをいただき、引き出しの多さに助けられました。デザインした服に最も適した素材選びや設計を考えて提案いただき、ファッションテキスタイルの考え方を学べて良い刺激を受けました。

写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター
◆自分の得意や苦手を一つ一つ確認していった
——福井さんは専門コースで2年学び、就職の道を選びました。修了生はここ数年でいうと企業に就職する人もいれば、産地で織り職人になる人、ライフワークとして織りを続けていく人など様々です。スクールで学ぶなかで自分と織りとの関わり方を見つけていく人が多いですが、福井さんの場合はどのように適性を見つけたのでしょう?
入学した年は、あまり先の進路は考えずに、とにかく織物を勉強しようと思って取り組んでいました。専門コースで2年学ぶ中で、私の適性は職人や作家ではないなと感じていました。作るのは楽しいですが、私は性格上いろんなことに興味があって飽きっぽくもある(笑)。だから一つのことに専念するより、間に立ち、全体を見ながらいろんなことができる方が好きだなと。1年目の織り実習やデザイン演習、2年目の制作の日々を通して、自分の得意や苦手を一つ一つ確認していったところはあります。
——このほど繊維業界に就職が決まりました。仕事について教えてください。
リネンやタオルなど繊維製品を取り扱う会社で、求人を見つけて応募しました。社内全体の動きを把握しながら、製品企画にも携われるようで、これまで学んできたことが活かせると思っています。
——ご自分の適性に合った織りの道が見つかったということでしょうか。
そうですね。前職でも課全体を見ながら取り組む仕事で、この学校でも修了したら繊維業界で働けたらとは思っていたので、これまで自分のやってきたことがドッキングされました。今回の翔工房の経験も、2年目に参加した川島織物セルコンでの綴帯のインターンシップもそうですが、たくさんの人が関わる製作は次の仕事でもまた携わる機会があると思うので、見識を広げる経験になりました。これまでやってきたことはすべて次に繋がっていくんだなと実感しています。
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*専門コース本科時の福井さんのインタビュー記事はこちら。
第22回 JAPAN YARN FAIR & THE BISHU「糸と尾州の総合展」
会期:2025年3月5日(水)- 3月6日(木)10:00 – 17:00
会場:いちい信金アリーナ(一宮市総合体育館)他
2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料
*2025年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。