在校生インタビュー2 仕事を辞めて入学

福井麻希さん・Hさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。第2回は、新卒から8年勤めた組織を辞めて入学した福井麻希さんと、会社の事務職を辞めて学びに来たHさんです。

デザイン演習で制作したブレスレットの説明をする福井さん

◆消費するのでなく、ものをつくる側に

——まずは入学の動機を教えてください。

福井麻希:もともとファッションが好きで、ものづくりにも興味がありました。軸にあるのは「服が好き」。なかでも生地に興味を持ったのは、好きな服屋さんがきっかけです。そのお店で取り扱っている商品のなかに、日本の伝統的な織りをデザイナーさんが現代的な服に仕立てているブランドがあって、服の素材や触り心地がすごく良くて、生地でこんなに変わるんだと知りました。そこで私は服が作りたいのではなく、生地の方に興味あると気づいて、自分で生地が作れるところで学びたいと3〜4年前から資料請求し、他の服飾系の学校も見ていました。この学校を選んだのは少人数制で行き届いている感じがして、雰囲気もいいなと思ったからです。

H:子どもの頃から手芸が好きでしたが、大人になると忘れていました。就職してからは、頑張って働いて稼いだお金で好きなものを買うのが幸せだとずっと思ってきたところがあります。ですがコロナ禍で外出できなくなった時、物を買う喜びがなくなって、消費するだけの生活に疑問が生まれたんです。そこでもともと手芸が好きだったのを思い出して、趣味で手芸を始めてみたらすごく楽しくて。ただ消費するのではなく、ものをつくる側にまわりたいという気持ちが芽生えました。布が好きなのもあって、「染織」「学校」などでインターネット検索するなかでこの学校を見つけました。カリキュラムを見て、密度が濃そうだなと。仕事を辞めて新しく学ぶとなると、やっぱりきちんと技術を身につけたいし、できる限り密度濃く学びたい。それができそうな学校だと思い、入学を決めました。

——退職して入学するのは思い切りが必要でしたか? スクール見学に来られる方のなかには気持ちはあっても仕事を辞められないなど、すぐには踏み切れない人もいます。しかし未練があって数年後に入学する人もいます。決断に至った思いを聞かせてください。

福井:元々就職する時に、好きなことを仕事にするかどうかすごく迷ってて。稼いだお金で好きなものを買うような生活の方がいいのかなと思って就職したんですけど、実際に働くなかで私の性格ではそれが無理だって気づいて(笑)。私は決められたルーティーンでやる仕事よりは自分で考えてやる方が向いているんじゃないか、好きなことを仕事にしないと精神的に辛いなと思いました。後からあの時やっておけばよかったと思うのは嫌だし、(このまま同じ状態で)いればいるほど後悔が長くなるから、始めるなら早い方がいい、好きなことを今のうちにしてしまおうと思って、お金を貯めて辞めました。

H:私も仕事がルーティーンになってきて、これ一生続くのかなと考えた時に、自分のためにも方向転換した方がいいのかなという思いが強くなりました。組織の中でどれだけ頑張っても逆に空回りして(自分がすり減ってしまうような)状況も経験して。だけど創作だったら自分が頑張った分だけ、いいものが作れるかなと。

天秤機で組織のサンプルを織るHさん

◆自分の引き出しから考え、形にできるのが面白い

——入学して7カ月が経ちました。ものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

福井:私は映画や美術を見たり、小説を読んだりするのが好きですが、これまでは受身で。感想やアウトプットが苦手と自分で思い込んで、ただ受け取るだけの感覚でいました。それがデザイン演習でテーマに沿って作品をつくるときに、今まで見たもの、読んだものがアイデアの引き出しになってあまり迷わずに済んだんです。課題は抽象的なテーマが多く、具体的なものが一切ないところから考えるのが楽しくて。アイデアを形にできるのが面白いです。これまで見てきた蓄積が身になり、反映されるのが、ものづくりをすると実感できました。それがこの学校に入ってからの発見でした。

H:最初、基礎織りの実習をやった時に、(頭では)わかってはいたけど工程がすごく多くて、ものづくりって大変なんだなと実感しました。その後も織り実習に取り組むなかで自分の向き不向きに気づくことも。「布を織る」は糸が細い分、絡まったりして大変だったんですけど、ちゃんと(8メートルの布を織り上げて)頑張れたのは自信になりました。次はもっとこうしてみたいとかもあって、自分の中で向上心が生まれるのが嬉しいです。

◆織るだけでなく糸を作るところから

——未経験から学び始めて、いまお二人にとって織りはどういうものでしょう。

福井:自分の頭の中にあるイメージを出力できる手段のようなもの。今までそんな表現手段を持っていなかったので、自分の楽しいとか、ときめくとか、ウキウキを増やせるのが織りだなって思っています。私の場合、作品をつくるのは主張や心情を表すというより、好きな世界観や雰囲気、こういうのがあったら楽しいみたいな空想のアウトプット。もともと「服・生地が好き」が軸にあるのが大きいかもしれないです。自分の好きなものと手段がかみ合ったから、いいなって思えるのかな。

H:アウトプットしたら楽しいんだなっていう気づきは私もあります。その手段として織りがある。私は一人で楽しむのが好きで、友達ともあまり共有しなくていいタイプだったんですけど、形になって表現できたら嬉しいと(知らなかった自分の一面に)気づきました。織りが自分に合っているかはまだわからないですが、この学校では織るだけじゃなく、糸を作るところから教えてもらえるので、いろんなことができるなって。ファンシーヤーンでは違う色をミックスして染色にはない不思議な糸ができたりして、こういうこともできるんだ、面白いなと。織物にはいろんな可能性があるなと思っています。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。