創作科

得たのは「挑戦する気持ち」 スウェーデン交換留学の報告会

 川島テキスタイルスクール(KTS)では、交換留学の提携校としてスウェーデンのテキスタイルの伝統校HV Skola(以下、HV)と20年以上にわたるつながりがあります。このほど、HVの卒業生でKTSの秋の留学生コースを受講していたRebecka LundborgさんによるHVの学校紹介と、専門コース創作科(3年)の沼澤瑠菜さんによる留学報告会が行われました。

 Rebeckaさんは2023年6月にHVを卒業したばかり。HVでは織りや刺繍、染めを3年間学びました。学校紹介ではHVについて、女性の経済的自立やスウェーデンの手工芸を発達させるために創立したという成り立ちや、2024年に創立150年を迎える歴史のなかで、現在のHVについて手工芸とテキスタイルアートを中心とした、大学とは異なる特殊な学校であると説明。また在学中に取り組んだプロジェクトの紹介では、ストックホルムのMUJIで絣のワークショップを開催するなど企業やお店とのコラボレーションの事例をふまえて、HVの現在のありようを伝えました。

 沼澤さんは2023年8月から3カ月間交換留学し、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加。報告では滞在中の学びについて実際の作品を見せながら制作過程をふまえて話し、学生生活についても住まいや食、街並みの写真を交えて紹介。専門コースの中には今後、交換留学を希望している学生もいます。留学希望者もそうでない人も、それぞれの興味の角度から真剣に話を聞いていました。

 最後に沼澤さんは交換留学で一番得たものについて聞かれると、「挑戦する気持ち」と即答。「今までやったことがなかった刺繍(の作品制作)に取り組んだり、ダマスク織で大きな作品を制作したり、家でスウェーデン料理を作ったり、友達の家に遊びに行ったりと活発に行動できました」と明るい表情で語りました。

 HVとKTSの学生、それぞれの目線からの紹介に、テキスタイルを通した交換留学のつながりの豊かさを知った時間となりました。

*沼澤さんのHV留学記1〜4はこちらから読めます。

スウェーデン留学記4 創作科 沼澤瑠菜

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola )へ3ヶ月の交換留学をすることができます。

8月からの3カ月間、留学していた沼澤瑠菜さんの4回目の現地報告です。沼澤さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加しました。


個人プロジェクトを始めるときに、マットに興味があることを先生に相談したところ、リップス織り(リップ=畝)という経糸で柄を見せる伝統的なマットを教えてもらいました。リップス織りの古い本の中で見つけたLissabonstjärnan(リスボンの星)というデザインが花のように見えるところに興味を持ち、織ることにしました。暮らしにずっと寄り添うマットを作りたいと思い、ベッドやソファの横などに置いて空間が明るくなるものを目指しました。青色に緑よりの灰色を組み合わせて落ち着きを表しながらも、存在感が感じられるように両端に赤色を使っています。リップス織りは、通常は緯糸に太い糸と細い糸を交互に織ります。私は、太い糸の代わりに刺繍のカタリーナ先生がくださった、使わない布を糸の代わりにして織りました。布を使うことで現れた自然な畝りが面白く、より空間に馴染む気がします。

裂織は、日本では寒い気候のために繊維が手に入りにくかった地域で発祥しました。私が布を使用したきっかけは、スウェーデンにも不要になった布を使った織物(トラスマット)が存在することを留学前に知って、さらに関心を持ったことです。セカンドハンドやヴィンテージショップでは、既製品の他に手織りで作られた裂織のマットや布を目にすることがあり、暮らしの中で織物が身近にあるのだなと感じました。

船で通学することは内陸で育った私にとって特別なことでした。朝は太陽に照らされる海とその先の街並みを、夜は街の光を船からぼんやり眺める時間が心地良かったです。

長く感じるだろうと予想していた3ヶ月間はあっという間で、有意義な時間を過ごせました。織物を学ぶこと以外にスウェーデンの食文化、暮らし、そして様々な人との交流を通して、自分の価値観が広がり、客観的に物事を見る力を身につけることができました。

留学前は絣やノッティング織の制作を重点的に取り組んでいたため、HVでは新たに学ぶことや久々に行う作業が多かったように感じます。使う道具や方法が違うと、これまでと同じように事が進まないことを痛感しました。しかし、クラスのみんなや先生の前向きな姿に励まされ、私も次第に前向きになれました。時々受けたデザインの授業では、外に行って花をスケッチしたり、自分が興味を持った布のテクスチャーに着目してデッサンする時間があり、それが自分の興味や関心を引き出す良い時間となりました。そのおかげで色んなことに挑戦してみたいという気持ちが芽生え、特に10月に入ってからは意欲的に行動できた気がします。これから川島テキスタイルスクールで最後の個人制作に取り組みます。ストックホルムで学んだことや感じたことを忘れずに自由な発想で制作できたら良いなと思います。

HV Skola 。手前の白い建物には刺繍に使う教室や展示スペースがある。

スウェーデン留学記3 創作科 沼澤瑠菜

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ3ヶ月の交換留学をすることができます。

8月からの3カ月間、留学していた沼澤瑠菜さんの3回目の現地報告です。沼澤さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加しました。


10月は風が強い日はとても寒く、なんと中旬には朝に雪が降りました!みんな雪が降るのは早すぎると言っていました。

刺繍の授業では基礎が終わった後に1m×1mの制作に取り組みました。セーデルマルムの丘を登る途中で見た、赤い外壁の家が印象的な景色を作品にしました。元々染まっている布と自分で染めた布をパズルのように組み合わせて繋ぎ縫い合わせました。染色室で染めるスペースがなかったため、キッチンで染めたのは新鮮で面白かったです。布が引っ張られて波打ってしまったところにアイロンを当てると真っ直ぐになりました。ウールは柔軟性があるとカタリーナ先生が言っていましたが、本当に綺麗にうねりが消えたので驚きました。

ウプサラ大聖堂

刺繍の授業が終わった後、個人プロジェクトの他、drawn thread work という技法の刺繍の練習をしたり、授業で市庁舎やウプサラを訪れました。テキスタイルを通してスウェーデンの歴史を知ることはとても興味深いものでした。

個人プロジェクトではRipsmatta(リップ(畝)のあるマット)を制作し始めました。参考にした本が古いからなのか分からないですが、WeavePoint(織物組織ソフト)で入力したら全く違う柄になったため図案を描く作業をしました。整経台や機がスクールの物と違うので、いつもより時間がかかったり間違えたりしていますが、その失敗も楽しんで制作できたら良いなと思っています。

Lussebullar

授業外では、アパートで一緒に住んでいる方達とスウェーデン料理(Raggmunk)やシナモンロール、12月のルシアの日に食べる伝統的なパン(Lussebullar)を作りました。一緒に料理をして食事をすることがとても楽しく、良い時間だったなと改めて思います。日本に帰ったら家族や友人と作ろうと思います!

他には、クラスメイトの家に遊びに行ったり、ギャラリーを一緒に見に行ったりする機会があり、仲が深まったような気がして嬉しかったです。正直なところスウェーデンでやりたいことがまだまだ沢山あって、慣れた頃に帰国するのが残念ですが、残りの留学生活悔いのないように活動したいです!

スウェーデン留学記2 創作科 沼澤瑠菜

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ3ヶ月の交換留学をすることができます。

8月から留学中の沼澤瑠菜さんから2回目の近況報告が届きました。沼澤さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


9月は学校生活が忙しく充実してきた反面、日々の生活で疲れが出てきました。睡眠時間を増やしたり栄養を考えた食事を摂るように心がけて、疲れを溜め込まないようにしたいです。最近は日本米に似ているGrötrisという米を買って食べています。やはり、パンやパスタより米を食べる方が身体の調子が良いなと感じています。

ダマスク織りの授業では、2種類のサンプルと本番の織り、最後にプレゼンテーションがありました。ストックホルムの街を歩いていて印象的だった物をテーマに制作しました。経糸との素材の違いを出すために、緯糸には普通の綿と、バンブーが配合された綿(少し光沢がある糸)を使いました。緯糸を買いに行ったお店はクラスメイトに教えてもらった本屋です。ストックホルムでは編み物をする人が多いからなのか、糸屋以外に本屋や雑貨店で編み物用の糸や道具を見かけることが多いです。

織りの週の合間に、自分のポートフォリオを皆に紹介する時間がありました。作品について英語で説明するのは難しかったのですが、クラスメイトと先生が良い反応をしてくれたり、興味を持って質問してくれて嬉しかったです。

ダマスクが終わった後は染色とデザインの授業を受けました。染色の授業では、自分で決めた3色の分量を変えて混色してつくった10色を使って染色をしました。私はリネン+綿の布を染めました。染色室で使う道具や染料がスクールと違い、興味深かったです。コンロはガスではなく電気、染める方法は反応性染料で助剤は塩とソーダを使いました。乾燥機は冷蔵庫のような見た目の回らないタイプで、糸がすぐに乾いて便利でした。

9月末から刺繍の授業が始まりました。カタリーナ先生に刺繍をした経験があまりないことを事前に伝えると、基礎から始めましょうということになりました。デザインの時間に描いた抽象画と虫の絵のどちらかを選び、それを最大15cmの大きさに、10個程の技法を使って様々な素材の黒糸のみで刺繍するという課題です。私はいくつか描いた抽象画をコラージュして刺繍をしました。平らな布に糸を通すことで現れる凹凸が面白いです。

スウェーデン留学記1 創作科 沼澤瑠菜

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ3ヶ月の交換留学をすることができます。

8月から留学中の沼澤瑠菜さんから初回の近況報告が届きました。沼澤さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


どこを見ても建物が素敵で、どこまでも歩ける気がする

ストックホルムに来てから約3週間経ちました。不安を抱えていた最初の頃から徐々に慣れてきたところです。

学校までは地下鉄と船で通っています。SLカードを使って公共機関(地下鉄・バス・船など)に乗ることができるのでとても便利です。ずっと内陸に住んでいたということもあり、海(現地の人々は湖と呼ぶらしいです)を毎日眺めることが新鮮でわくわくします。ユールゴーデン島の船着き場の隣には遊園地があり、帰りに船に乗る時は賑やかで楽しい雰囲気です。島は今が観光シーズンなのですが、観光地に学校があるのは不思議だなと思います。

授業はスウェーデン語です。馴染みのない言葉を聞いていると、映画の中にいるという感じがして面白いなと思う反面、状況が分からないことが多くて困惑しています…。しかし、先生が授業後にその日の内容をメールに送ってくれたり、英語に翻訳したスケジュールを作ってくれたおかげでとても助かっています。上手く言葉で伝えられないことも多いのですが、最初の頃よりは伝えられるようになりました。相手が言った単語が分からないときに意味を尋ねたり、相手と同じ言葉を真似して言って身につけるようにしています。

ダマスク織機の仕組みや組織図を勉強しながら、weaving pointを使ってパターンを考えたり、経糸の準備をしています。織機を2人1組で使うので、同じ経糸を使う必要があります。ペアの人と話し合って太めのウールを使うことに決めました。私達が選んだ糸は油分が多く、しっとりとした感触なので暖かいブランケットが作れそうです!

回転式の整経は慣れると楽しい
ダマスクは機がけに時間がかかる
Weaving Pointでのパターン作り

スーパーで会計をする際、自分で品物をベルトコンベアーにのせると店員の元へ運ばれる仕組みになっているのですが、その時に前後の客の品物と区別をつけるために長方形の箱のような物を置く必要があります。私はこれを置き忘れたことがあって、次の人の品物も一緒に会計してしまいました。家に帰ってから気がついたので、どうしようもなかったのですが、次から忘れないようにします…。

2019年秋に川島テキスタイルスクールに留学していたMalinさんと同じアパートに住んでいます。中央駅に迎えに来てもらって一緒に買い物に行ってくれたり、SIMカードの手続きまでしてくれて、とても助けられました。また、今まで作った作品や今から作る物、集めてる糸などを見せながら説明してくれました。学校外でも織物について話ができるのは嬉しいです。

先日は一緒にホームパーティーに行きました。全く関係のない人間が行っていいのかなと緊張しましたが、welcomeな感じで迎えてくれて、これが普通なんだと驚きました。皆各所で飲み物を飲みながらずっと話をしていました。学校でもフィーカやランチタイムでは話が途切れることがあまりないので、スウェーデン人は会話する事が好きなのだなと思います。

Malinさんが森で採ったkantarellerという黄色いきのこを使ってご飯を作ってくれた

ストックホルムの道は石と石の間の溝が深かったり、坂道が多かったりします。信号が突然赤に変わるので自ずと早歩きになります。その道を毎日歩いてるからなのか、留学前より体力がつきました。授業が3時半頃に終わるので、帰りに寄り道したり行ったことのない道を通るのが楽しいです。博物館や美術館にも行ってみようと思います!

セーデルマルムの絶景スポット

修了生インタビュー:「自分の好きを追いかけた3年間」木村華子

2020年に専門コースに入学した木村華子さんは、美術高校を卒業後、スクールで1年目に織りの基礎、2年目からはファッションテキスタイルを専攻して3年間しっかりと学びました。修了後は(株)川島織物セルコンに就職します。自分の「好き」を積み重ねて「3年間学んでよかった」と笑顔で語る木村さんに、学びの歩みや、自身の変化、やり抜いた今の思いなどを語ってもらいました。

◆ 次は進歩したい
〈インタビューは修了展の会場で、展示作品を見ながら行いました。〉
——作品が展示されて、今の気持ちを教えてください。
嬉しい気持ちもあるけど、自分の手から離れていったさみしい気持ちもあります。向き合ってきた時間が長かったので、作品が子どもみたいに思えます。糸の素材感を生かして、どうやったらうまく織れるか、たくさん試織したので、がんばったな、ちゃんと織れてよかったなと、ほっとした気持ちもあります。

純喫茶のお気に入りのスイーツのイメージを服地にし、スカートに仕立てたシリーズ作に仕上げた
(右から) 「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ
「甘酸っぱい」純喫茶アメリカンのヨーグルトパフェ
「ほろにが」純喫茶フルールのプリンパフェ
「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ

——木村さんは2年目の専攻科で、ファッションテキスタイルを専攻しました。この専攻を選んだ理由は?
まず、服地を織りたい気持ちがありました。それで着物かファッションかで専攻を迷ったのですが、ふだん私が身に付けているのは洋服だなと思って。実際に自分が着て、やさしくなれるというか、気持ちがいいと感じる生地をつくりたいと思ってファッションテキスタイルを選びました。

——そのなかで、どのように制作に取り組んだのでしょうか。
制作のテーマを設定するのに、自分が好きなものは何だろうと考えた時、レトロなものに惹かれる自分に気づきました。1950年代のシンプルな服の形が好きで、初めは50年代をテーマに服地をつくりました。だけど、その先で行き詰まってしまって。今振り返ると、レトロで何かつくりたいまでしか見えていない状態の中で、年代にとらわれ過ぎたのかな。レトロって何だろうってすごく悩みました。

——行き詰まったところから、どうやって方向を見い出したのですか?
いろんなものを見て、視野を広げました。3年目に進み、改めて私はレトロの何が好きなんだろうと考えた時、今の私と同じ20代の人にも昔の服の生地感の良さを知ってほしい、着てほしいという気持ちに変わったんです。それで素材を中心に考えていこうって目標を立て、レトロの中でも純喫茶のスイーツにテーマを絞って、イメージと食感を服地にし、スカートに仕立ててシリーズ3部作にしようと結びつきました。

——スクールの学生同士で、刺激し合う部分もありましたか?
周りで織っている姿を見て、自分も頑張ろうっていう気持ちになれました。同学年の人とは、制作途中の発見や失敗、他愛もない話まで何でも話せて、悩みも言い合えました。話すことで次は進歩したいって思えたし、心強かったです。

——専門コースの2・3年次では、制作するのに自主性が必要ですが、そこで先生との関わりはどうでしたか?
毎週1回、制作過程を報告するミーティングがあったのがよかったです。サンプル生地を見せながら、自分の織りたいイメージやアイデアを伝える訓練になったし、伝えることで、より作品づくりに向き合うことができました。先生方は織りに詳しいので、私が気づかないところからアドバイスがあって、そこからやり方を自分で切り替えられたりして、制作意欲を保ちながら自分のやりたいことを形にしていくのに、ミーティングは大事な時間でしたね。

◆産地の方々と一緒に、ものを作り上げる経験
——木村さんは翔工房事業((公財)一宮地場産業ファッションデザインセンター主催)に挑戦し、尾州産地の「匠」と呼ばれる熟練の技術者とコラボレーションしてワンピースを製作しました。その経験は木村さんにとってどんなものでしたか?
仕事としてものを作り上げていく経験が、私自身の大きな糧になったと思います。匠の方と一緒に企画して進めるのに、自分が描いたデザイン画を見せながら、素材や色の重なりなど「こうしたい」と考えを伝えて、形にするのに相談しました。ここでは私は織らずにデザインだけの関わりだったので、初めは伝えるのが難しいと感じましたが、伝えないと理想の服地ができない。裾をフリンジにして経糸を見せるデザインにしたいと伝えると、「やってみるね」と匠の方がシミュレーションしてくださり、イメージと違う場合は私もちゃんと「違う」と伝えて、変えてもらって。匠の方からは袖の部分に柄の変化をつける方法を提案いただいたりして、一人でつくる時とはまた違う柄ができるなって実感しました。

——スクールは手織り、この事業では機械織りという違いもあります。両方を経験することで、何か気づきはありましたか?
手織りだったら、あまり経糸に他素材を入れないですけど、機械織りで、経糸にいろんな素材を入れて織り込む技法を経験できたのはよかったです。機械には機械の良さがあると知り、逆に手織りでしかできないことをもっとやりたいなと思いました。

——織りを学んできたからこそ、製作現場で強みを感じた部分は?
糸の状態と織ったものを見るのとでは、色のイメージが全く変わります。スクールで糸も織り組織も両方を学んできたからこそ、織った時にこう出るというのが頭の中でイメージできました。現場でのやりとりで、「こういうパターンで作りたかったら、ジャカードじゃなくてドビー機で出せるよ」と言われた時に、機の機能がぱっと頭に入ってくるし、「朱子で織る」というと「柔らかい風合いになるんですかね」というふうに話が通じるのが「気持ちいい」と匠の方に言ってもらえたのも嬉しかったです。

——3年目は翔工房事業に参加しながら、スクールでも並行して制作を進めてきました。外と内の両方で、ものづくりに取り組みながら自身の変化に気づくことはありましたか?
翔工房で他の学生が製作した竹糸を用いた製品を見て、私も竹糸に興味を持って自分の制作でも取り入れてみました。竹糸は、糸自体は柔らかいんですけど、湯通しすると硬くなり、織って生地になるとすごく柔らかくなって、変化が面白いと思いました。そうやって素材感が変わるのも、糸から生地をつくっていなかったらわからないこと。これまでスクールの制作でたくさんの糸を試して、縮絨も経験してどのぐらい縮むかも見当がつくようになったので、竹糸のように初めての糸を扱う時でも、大きな失敗がなくなりましたね。

◆「好き」しか追いかけていない
——木村さんが3年間の学びで、積み重ねてきたものは何でしょう。
どうしたら織りとして成立するか、今まで学んできた中からこうできるだろうと、頭の中で考えられるようになりました。試織などで失敗を繰り返したからこその学びじゃないかなと思います。
それに機の準備が大好きになりました。織るのと同じく準備も3年間やってきたので、こうしたら早くできるとか、スムーズに糸通しできるとかが大分わかるようになって楽しいです。そうやって3年間楽しく織りに向き合えたのが、本当によかったなって思います。私は高校の時、織りに苦手意識があったので。だけどなぜか気になって、織りを学びたいとスクールに入学したんです。そこから1年ごとに、だんだん織りが好きになって、3年経つ今が一番好き。思う色にバチッと染められた時や、織っている時に、糸に「かわいくできたらいいね」って話しかけたりして(笑)。それで作品の形になったら「使わせてくれてありがとう」って伝えていました。

——改めて、3年目の創作科に進んだ理由を聞かせてください。
なんか悔しかったんです。2年目、制作に迷いがあって、自分が本当に好きって思えるものがつくれなくて。自分がつくるものをもっと好きになりたいし、これで終わらせたくない、もっとつくりたいと思ったので。

——その悔しさを3年目で晴らせたと感じますか?
そうですね。服地だけでなくスカートの形にもできたし、自分の好きな色合いや柄を見つけて、チェックのデザインで出すことができたので。反省点もありますが、晴らせたんじゃないかと思います。

——この3年間、自分の「好き」をあきらめなかった。
あきらめたくなかった。でも私はこれまで、好きしかやったことがなかったんです。絵が好きで美術高校に行って、スクールで織りを学んで、逆に自分が好きじゃないと続けられる自信がない。「好き」しか追いかけていないです。

——修了後は、(株)川島織物セルコンに就職が決まりました。「好き」は就職先にもつながりますか?
はい、将来は伝統的な仕事に就きたいと思っていたので嬉しいです。小学校の卒業文集にも「伝統的な仕事がしたい」って書いてて。子どもの頃はお寺を見るのが好きで、宮大工さんに憧れたこともありました。お父さんは大工なので、一緒に見に行くと寺社建築の木の組み方とかを説明してくれてたのもあって、伝統的な仕事をしたいと思っていました。それが結局、織りになっていったのかな。これからも好きを追求していきます。

——これから織りをやりたい人に向けてのメッセージをお願いします。
もし迷っていたり、ちょっとでもモヤモヤがあったりしたら、まずは踏み出すしかないのかなと思います。踏み出せば、もう自分自身やるしかないって思うので。とりあえず手を動かすことが大事なのかもしれない。まずはやってみる。その先で、確実につながっていきます。

2020年9月に掲載した、「在学生の声(専門コース本科)」の記事です。
「織りながら自分の好きを発見していく」木村華子

「第6回学生選抜展」在校生受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟主催特別企画「第6回学生選抜展」で、専門コース創作科の近藤雪斗さんの作品が、ニューカラー写真印刷賞を受賞しました。

「栄華」

この作品は、織りの技を駆使して心象風景を織り込み、視覚の効果を高めた綴織タペストリーです。

選抜展では他にも、同じ創作科の沼澤瑠菜さんのタペストリー3部作「ときめき」も展示されます。

第6回「学生選抜展」は第45回「日本新工芸展」の巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「栄華」は三都市全て、出品作品「ときめき」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月17日(水)~28日(日)国立新美術館
東海展:6月17日(土)~25日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:6月27日(火)~7月2日(日)京都市京セラ美術館
日本新工芸家連盟