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2026年スウェーデン留学記1 創作科 福田葉月

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。

9月から留学中の福田葉月さんから初回の近況報告が届きました。福田さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


等間隔のカモメ。とても北欧っぽい。

9月も終わりを迎え、到着時はまだまだ夏の気配が残っていたストックホルムもぐんと肌寒くなってきました。水辺は特に冷たい風が吹いて来ます。

HVへの登校初日、集合場所は学校正面の中庭でした。生徒たちが輪になり、担当の先生から順番に名前を呼ばれます。そこでクラスメイト5名と初めて対面しました。少人数のクラスだったため、すぐに全員の顔と名前を覚えることができました。

授業は昨年と同様ダマスク織から。ダマスク織の授業のみ、スクールのワークショップのような形で一般の3名が加わり、合計9名で授業を受けています。皆笑顔がとても可愛らしい、優しい人たちばかりです!

私は日常で使える物を作りたいと思い、ウールの糸を使って膝掛けを作ることにしました。2人で1台の機を使う為、経糸の色を決める必要があり、初めは無難な生成りやベージュを検討しましたが、ペアのクラスメイトが、それではつまらないからこっちの色は?と提案してくれた暖色の糸に決めました。自分では思いつかなかった選択肢をくれたお陰で、最終的にこの色から思いついたイメージを基にデザインを決めました。

糸がスムーズに出るようにボタンの穴を活用。手仕事の小さな知恵が素敵。

その糸で初めてスウェーデン式の整経をしました。話に聞いていた通り、回すタイプの道具でとても新鮮でした。機の準備の方法や部品等もスクールで使用してきたものとは所々違っていて、楽しんでいる間に終わってしまい残念なくらい。それも、わかりやすく説明してくれる先生やクラスメイトのお陰です。

織り始めてからも、後ろの綜絖に吊るした重りが筬打ちの度にシャラシャラとぶつかり合う音や、クラスメイトが口ずさむ歌(皆結構歌っている)に包まれているうちに、自然と肩の力も抜けていき、あっという間に時間が過ぎて行きました。

計画に沿ってハンドルを引き下げる時も音が鳴る。

織りに関することだけでなく、様々なことに触れさせてもらっています。中でも、2学年合同で行われている水彩画材を用いたペインティングの授業は毎回沢山の発見があります。

HVの周りを歩いて見つけた色をスケッチブックの上に再現してみたり、他学年の学生とペアになってお互いを描き合った時には、屋外や屋内、光や背景の違いで色の見え方が変化することを実感しました。他の学生の色彩感覚や着眼点からも学ぶことが多く、とても有意義な時間です。初回授業後の帰り道は、朝と同じ道なのに、行きには気が付いていなかった色が見つかり、この新鮮な感覚を忘れないようにしたいと思いました。

HVがあるユールゴーデン島に続く橋から。曇天だった1日の終わりに見られた色。

水の都と呼ばれるだけあって、街を取り囲む水上には驚くほど沢山の船が揺れています。以前留学した先輩のレポートにもありましたが、通勤や通学に船を利用する人も多くいます。先日は、テキスタイル史の授業で、公共フェリーに乗って学校の対岸にある近代美術館へ行ってきました。あまりにもスムーズに動き出したので、出発したことに気が付かないほどでした。

鑑賞したのは、アンナ・キャスパーソンというスウェーデンの刺繍作家の展示で、レースや貝殻、大ぶりのガラスなどがふんだんにあしらわれた、一つ一つの作品に膨大な時間を費やしただろうと思われる大作ばかり。しかも、それらの作品はどれも自宅で実際に使われていたそうで、自分の世界をとことん詰め込んだ作品に囲まれた暮らしは、彼女にとってどれほど満ち足りた物だったことだろうと想像しました。そして、きっと大豪邸だったに違いない、とも。

印象的な交通事情は陸上にも。大きな通りだと両側にそれぞれ歩道と自転車用道路があり、自動車用道路にトラムの線路まであって、どれもゆったりしています。絵本の様な石造りの街並みの中には、信号のない横断歩道も多いのですが、立ち止まると自動車は(今のところ)100%止まってくれるので、気持ちのゆとりもすごい。電動キックボードや自転車の数も多いけれど、道がしっかり分けられているので安心だし、自転車の人々は皆ちゃんと手信号を出してスマートに曲がっていきます。どれもこれも、現地の人にとっては当たり前なのですが、決まりを守る意識が高くて関心します。

バスとトラムは同じ道、馬は自動車の道を走る。

とても書ききれませんが、他にも驚いたことや焦ったこと、感激したことなど、とても感情が忙しい1ヶ月でした。英語が堪能ではないので、伝えたいことにぴったりの表現が出てこないこともしばしば。それでも根気よく聞いてくれる先生やクラスメイトには本当に感謝の気持ちしかありません。

自分の製作アプローチについてこれまでと比較して考えることも多いです。例えば、ダマスク織のデザインの時、先生から一つ目のアイデアを修正して完璧にしようと思うのではなく、いくつものアイデアを出していく過程で良いものを生み出せるよと助言をもらって、それまでの自分がつまずきがちな部分に気が付きました。正解のないことですが、この機会に色々な方法を模索してみようと思います。

ダマスク織が終わると、次はアートソーイングの作品製作が始まります。今はデザインと試作の段階。クラスメイトが色々と助言してくれるのも嬉しくありがたいです。
学生同士でお互いに意見を交換し合うことが当たり前で、相手の意見を尊重しつつも、どんな風に感じるかや知っている知識を自然に伝え合う光景がよく見られます。

残りの日々も、自分らしさを活かしつつ、柔軟な姿勢で取り組みたいです。

「鑑賞するためのものではなく、使うものにも美が宿っている」 スウェーデン・テキスタイル展を鑑賞して 創作科・福田葉月

専門コースではこのほど課外研修として、西宮市大谷記念美術館で開催されている特別展「スウェーデン・テキスタイル展 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」(6/28まで)を鑑賞。今回特別に学芸員の方よりスライドに合わせてスウェーデン・テキスタイルの歴史や変遷などを解説をしていただいたのち、約250点のカラフルでシンプルで美しいテキスタイルや関連資料を見て、暮らしに息づいたスウェーデン・テキスタイルの魅力に触れました。学生の見学レポートを紹介します。


 住宅街の中に見えてきた生垣に沿って進むと、立派な仕立ての松が覆いかぶさるように迎える。初めて訪れた西宮市大谷記念美術館の入り口の看板には「スウェーデン・テキスタイル」の文字。3月に開催を知った時から、楽しみにしていた展示だ。

 鑑賞の前に、学芸員の下村さんから作品解説をしていただいた。はじめに美術館の概略に触れ、同館の特色として絵画や彫刻だけでなく「デザイン」の価値についても重視していることを知った。誰もが一度は目にしたことがあるだろう工業デザインを手掛けた作家の作品など、いわゆる芸術作品に囚われない収集や展示を積極的に行ってきたそうだ。今回も、北欧と一括りで紹介されがちな中から一国に焦点を当て、スウェーデンのテキスタイルデザインを掘り下げている。
 スウェーデンでは、思想家・教育家のエレン・ケイが提唱した、特権階級のみが享受してきた“美しいもの”は、全ての人々にひらかれるべきものであるという思想「万人のための美」が、テキスタイル産業に携わる多くのデザイナーや実業家にも影響を与えた。対比として、中世の手仕事に立ち戻ることを理想としたイギリスのウィリアム・モリスを挙げており、19 世紀において様々な思想を軸に、各地でものづくりの在り方が模索され、それぞれに特色あるデザインへと繋がっていったことがわかった。

 今回の展示品約250点の内、約8割がサラ・アクステイリウスさんという方のコレクションだという。そういえば、こっそり数種類集めて眺めていた案内チラシの隅に、タイトルやデザイナー名に続いて彼女の名前があったことを思い出す。10代の頃からテキスタイルを収集してきただけでなく、それらを使った洋服を身に着けて楽しんだり、デザイナーが不明になっていたテキスタイルの情報を明らかにしたりするなど、とにかくテキスタイル愛に溢れた人だということが伝わってきた。他にも、展示品借用の為に現地のデザイナー宅に直接足を運んだ際のエピソードなど、展示への期待が高まるお話を聞くことができた。


 最初の展示室へと足を踏み入れると、早速多様な色彩と豊かなデフォルメ表現のテキスタイルに迎えられた。手書きのような温かみのある小さな連続モチーフから、布からこぼれんばかりに開く大輪の花々、壁に鈴なりの果物。続く部屋にも、国土の大部分を森林や湖が占める土地ならではの動物の姿や著名な物語の一場面、スウェーデンの人々が大切にしているお茶の時間「フィーカ」をイメージしたものなど、とにかく幅広いデザインに時間を忘れて見入ってしまった。 暮らしの中にこんなテキスタイルがあったら、自然と気分が高揚するような、日々を楽しくしてくれるデザインに胸が躍る。また、簡略化したモチーフときっちり細部を描きこむ部分とが、一つのテキスタイル上で上手くバランスをとって同居していることも印象的だった。一見シンプルなのに、デザイナーの、この部分の表現は外せない!といったこだわりも現れているように感じた。
 とはいえ、第二次大戦以前のスウェーデンではテキスタイルデザインを外国から輸入する形態が主だったそうだ。テキスタイル専門の教育機関の設立や、インテリア会社のテキスタイル部門の設置など、国内のデザイナーがその役目を担うようになり、戦後多くの素晴らしいデザイナーが誕生、活躍した。3つ目の展示室では、スウェーデンのテキスタイル最盛期を牽引したデザイナーたちが手掛けたテキスタイルを見ることができた。彼らのデザインからは、大胆でありながら不思議と暮らしの中に馴染む洗練された印象を受けた。当時はもちろん、現在でも人々に愛されるデザインも多くあるという。


 最後の部屋には、これらのテキスタイルがどのように使われ、暮らしの中に取り入れられているかを、様々な形で紹介していた。デザインを引き立てるようにシンプルに仕立てられた洋服に、見る人を思わずわくわくさせる手書きのスタイルブック、優美な曲線を描く素敵な椅子に負けないくらい存在感を放って壁を彩るファブリック。ここまで生地として見てきたテキスタイルを暮らしの中に見ると、また違った表情を見せることを実感する。鑑賞するためのものではなく、使うものにも美が宿っているということに、テキスタイル産業の成り立ちを見てきた後では、感慨深さを抱かずにはいられない。そして、スウェーデンにはデザイナーや手工芸に携わる人々を育てる場所がいくつもあり、この先も素晴らしいデザインが生み出され続けるのだろう。


 展示の締めくくりには、“未来へ受け継ぐ”と題したスウェーデンの手工芸やデザインに関わる団体紹介と並んで、昨年スウェーデンへ留学していた先輩の萩原さんが織った作品も展示されていた。以前にも見せていただく機会があったにもかかわらず、会場や展示の趣旨を踏まえて見るとその時とは異なる雰囲気を纏って見える。この会場で改めてじっくり見ることができてよかった。

 見終わった後に残った楽しさや嬉しさは、おそらくこの展示を見た多くの人々と共有できる感覚ではないだろうかと振り返る。「万人のための美」を、身をもって体感したようだった。

展覧会のお知らせ:福田葉月 王今「かたちのあわい」

 

当スクール創作科の福田葉月さんと、修了生の王今(Jin)さんが二人展を開催します。

福田葉月 王今 | 「かたちのあわい」
2026年5月19日(火)〜5月25日(月)
11:00〜19:00 最終日は 17:00まで
Gallery Metabo(京都)
instagram: @gallery_metabo

展覧会のお知らせ:スウェーデン・テキスタイル展

4月4日より西宮市大谷記念美術館(兵庫)でスウェーデン・テキスタイル展が開催されます。当スクールとHandarbetets Vänner Skolaとの交換留学プログラムのことをご紹介いただいており、当スクールスタッフ、萩原沙季が昨年秋留学中に制作した作品を出展しています。

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スウェーデン・テキスタイル展
暮らしと自然に息づく北欧デザイン

日程:2026年4月4日(土)〜6月28日(日)
休館日:水曜日
※ただし4月29日(水・祝)、5月6日(水・振休)は開館、4月30日(木)、5月7日(木)は振替休館
時間:午前10時~午後5時(入館は午後4時30分まで)
会場:西宮市大谷記念美術館(兵庫)

巡廻予定:
2026年7月11日(土)〜9月6日(日)名古屋市美術館
2026年9月19日(土)〜11月15日(日)世田谷美術館 ※当スクールの校舎・寮を設計した内井昭蔵氏設計

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これまでの交換留学生によるマンスリーレポートはブログ「交換留学」より読むことができますので、ぜひご覧ください。

スウェーデン留学記3 創作科 萩原沙季

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skolaへ最長3カ月の交換留学をすることができます。

9月からの3カ月間、留学していた萩原沙季さんの3回目の報告です。萩原さんは11月末まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加しました。

初雪が積もった日

ついに最後のレポートになってしまいました。留学最終月となる11月は、しばらくすると急に冷え込み、後半に入ると初雪が降りました。雪にうっすらと包まれたストックホルムの街は、冬の澄んだ空気と、あまり高くは昇らない太陽のやわらかな光のなかで、静かに佇んでいました。

先月末に取り組んだアートソーイングについて、Backstageカフェで展示がありました。個性豊かな作品たちがKatarina先生により色やインテリアとの相性など絶妙なバランスで配置され、とても楽しい展示になりました。

カフェでの展示

また、9月に織ったダマスク織の作品についても、学校の刺繍教室のウィンドウを使って、3〜4作ずつ週替わりで簡単な展示がありました。このように、作品がカフェや路面ウィンドウなどで学外の方の目にも触れる機会があるとは想定しておらず、感無量でした。

学校のウィンドウでの展示

11月からは自由制作の予定だったのですが、タイミングが良かったのか、グループ制作のデザインを行う3日間の授業にも思いがけず参加することができました。HVの最終学年(HTU2)には、学内を飾るテキスタイルをElisabeth先生とクラス全員で織るプロジェクトがあり、今年の課題はキッチン(食堂)の窓際にかけるカーテンでした。そのデザイン案をクラス全員で作り上げていくプロセスは、とても刺激的でエキサイティングな体験だったので、少し詳しくレポートしたいと思います。

デザイン1・2日目は、担当のLinnea先生の指導のもと、カーテンの目的等について意見を出し合った後、3つのグループに分かれて各自デザイン案を作成しました。次に、その案を記名はせずに隣のグループに渡した後、もう一方のグループから渡されたデザイン案から好きなものを選び、折ったり切り貼りしたり、色を変えたり、新たに模様を足したり…など、自由にアレンジを加えていきます。このようなアレンジの作業を数回行います。

2日間かけてできた膨大なデザイン案の一部

最終日は、デザイン案全てから、各自推し案を一つだけ(自分が関わったものでもそうでなくても)自由に選び、分担して作ったキッチンの模型を使ってプレゼンを行います。そして最後に、翌週Minna校長先生とElisabeth先生を相手に最終プレゼンを行う3案を絞りこむため、一人3票で投票を行います。今回は投票を2回行っても票が分れ、最後には一人1票で決選投票を行うことになるという、手に汗握るドラマチックな展開になりました。

このようなデザインの過程で面白かったのは、各自の案が、アレンジを加えられることで発展していく様子を目の当たりにできたことです。とりわけ自分の簡単なスケッチが、クラスメイトたちのセンスにより、原案から想像できない完成度のデザインに変身していたのには驚嘆しました。グループで制作することの醍醐味を味わえた貴重な体験だったと思っています。

自由制作のようす

自由制作では、織物理論の授業で経糸によるモンクスベルトを初めて知ったので、スウェーデンで目にした秋の紅葉をテーマに挑戦してみることにしました。とても良い出来とはいえませんが、一人で作業するなかで失敗や試行錯誤をすることで、HVの整経の仕方や、織組織の仕組みなどをしっかり身につけることができたと感じています。

また、様々な組織を学べる理論の授業もとても楽しかったのですが、理解できたというには程遠いため、日本で少しずつ復習して実際に織ってみるという目標もできました。

なお、11月には、Lisa先生によるテキスタイルヒストリーの授業の、ストックホルム市庁舎とウプサラ大聖堂の見学にも参加することができました。

特にウプサラ大聖堂の見学では、大聖堂のなかに近現代の手織による作品が装飾として少なからず使われていることに驚きました。大聖堂建築の古典的な様式に、モダンなテキスタイルが見事に調和していて、大変興味深かったです。

ウプサラ大聖堂のテキスタイル

約3カ月の交換留学は文字通りあっという間で、帰国してしまった今振り返ると、まるで夢だったように感じます。それくらい私にとって、何よりも変え難い、幸せで宝物のような時間でした。そして、それは出発前からサポートして下さったKTSの先生方や事務の方々、そしてあたたかく迎えて下さったHVの先生方やクラスメイトたち、ミニハウスを貸して下さった大家さんのおかげに他なりません。心から感謝しています。

HVは、手織や刺繍等の手工芸技術を学べる世界でも有数の学校であり、先生方も学生も優秀であるだけではなく、熱心で、ひたむきです。その一員として少しの間でも過ごせたことは本当に光栄なことであり、同時にあまりにもたくさんのことを学ぶことができました。

それを一言で説明することは難しいのですが、あえていうなら「表現することを恐れない、そして妥協しない」ことだと思います。

デザインのアイデアが出てこず悩んでいたとき、Elisabeth先生が何気なくかけてくれた「最初から完璧を目指さなくていいんですよ」という言葉にはハッとさせられました。私は自信がないあまり、いつのまにかもっと上手くやらなければダメだと勝手に思い込んでいたのだと思います。これからは気楽に肩の力を抜いて、アウトプットを習慣にしたいと思っています。

そして「妥協しない」姿勢は、クラスメイトたちから学びました。どの課題でも、みんな仕事や家庭で多忙であるにも関わらず、決して諦めることなく、やりたいことはすべて、裏の見えないところまで美しく丁寧にかつ期限内に仕上げていました。これは精神的にも体力的にも極めて難しいことで、時間が迫ってきても落ち着いて作業していた彼女たちには尊敬の念しかありません。

当初はクラスメイトたちと自分をつい比べてしまい、落ち込むことも少なくありませんでした。でも、頂上が見えなければ山は登れません。これからはHVで学んだことを糧にして、少しずつ登っていきたいと思っています。

スクールでの留学報告会
授業や作品展示の様子を紹介したいと思い準備しました。交換留学の楽しさが少しでも伝わっていたら幸いです。

*現在、川島テキスタイルスクールでは2026年度の各コースの願書受付中です。専門コース本科・技術研修コース(日本語)の三次締切は3月6日、マンスリーコースの締切は2月13日です。

スクールの窓から:「タペストリーで会話が成立する、お守りのような存在」 表現論・中平美紗子さん講義

 専門コース「表現論」の授業で、テキスタイル・アーティストの中平美紗子さんを講師に迎え、オーストラリアのメルボルンに制作滞在した経験を中心に話していただきました。「半分は計画どおり、半分は予想外の展開」だったという滞在について、終始生き生きとした様子で語られた時間でした。

◆タペストリーは世界共通
 作家、講師、レジデンス制作を軸に活動し、作家としては主に綴織タペストリーを制作、「個展をメインに作品を発表することを大事にしています」という中平さん。講義ではまず、出身地の高知県の土佐和紙を用いた初期の作品から、コロナ下で縞模様をモチーフとした制作に変化し、黄色ストライプの不定形のタペストリー制作に至る、これまでの変遷を説明されました。

 続いて2023年秋から1年間、ポーラ美術振興財団の海外研修員として渡豪した体験談へ。内容は制作活動をはじめ、現地で印象的だったアートの紹介、渡豪してから選出されたタペストリー工房でのアーティスト・イン・レジデンス経験、大規模な制作プロジェクトへの参加、それらの経験を通した自身の変化までが、ひとつながりに語られました。

「行ってみて最初は言葉も通じず、ホームシックにもなって大変でした。そんな中でも、タペストリーは見せたら会話が成立する。世界共通のコミュニケーション・ツールであり、私にとってはお守りのような存在だと思いました」

 そう締めくくった中平さんの言葉からは、タペストリーに対する深い思いが伝わってきました。

◆絵画との相違点も類似点も
 お話の後は、これまで制作した小作品やテストピースなどを見せてもらいました。実際に使った下図や資料とともに、「イメージを実現するために何が一番適しているのか、とにかく手を動かしながら」試行錯誤したプロセスや、「頭の中のイメージと下図と実物のギャップを少なくする」工夫などが具体的に話されました。

 学生たちは制作のヒントを探るように話を聞き、質問タイムに入ると、それぞれが中平さんの話の中で印象に残った部分を拾いながら発言。一人の学生は、タペストリーを絵画的か彫刻的かという観点から「どちらかといえば彫刻的」に追究してこられたところが印象に残った、と。対して中平さんは、「タペストリーじゃないとできないことって何だろう?とすごく関心があります。彫刻を一通り勉強し、次は絵画から生かせることがありそうだと思って、今は絵画の系譜を勉強し直しています。相違点も類似点も一通り把握した上で、今取り組んでいるテーマがあります」と情熱をにじませながら応答しました。

 探究心あふれる中平さんの姿勢に、3月の修了展に向けて動き出した学生たちも静かに響いた様子。「制作の悩みでも何でもいいですよ」と水を向けられると、「あれもこれもやりたいとなって一つに決められず、今自分が表現したものがわからない」と素直に打ち明ける学生も。中平さんは「今の様々な締切、環境や織機の条件に一番適して、ストレスにならないものを選び取る。やる/やらないと極端じゃなく、ちょっと可能性として置いておく。今後、長く表現活動を行っていくことを前提に、今は表現を模索する時期にして何でもやってみたらいい。条件と相談しながら、学校の施設を存分に使えるこの時期にできることに向かってみては、と思います」と寄り添うように話し、「すべてつながっていくので」とまっすぐに語りました。

 じつはオーストラリアで中平さんを受け入れたメンターの方は、約40年前、川島テキスタイルスクールの留学生だったそうです。「スクールに滞在した時のことを今でも鮮明に覚えていらして、リタイアした今もタペストリーを織ったり指導したりされています」と、スクールとのつながりも共有してくれました。

 中平さんを通じてタペストリーの“共通言語”としての頼もしさを感じ、つながりの奥行きを思えた授業でした。

〈中平美紗子さんプロフィール〉
なかひら・みさこ/高知県出身。京都を拠点に活動するタペストリーアーティスト。オーストラリアをはじめ、イギリス、フランス、アメリカなど国内外で作品を発表している。2023年度ポーラ美術振興財団海外研修員としてオーストラリア・メルボルンに1年間滞在、作品制作を行った。2017年、京都造形芸術大学大学院(現:京都芸術大学大学院)芸術研究科芸術専攻修士課程総合造形領域修了

instagram:@nakahira_misako

*中平さんは2021年「表現論」でもゲスト講師として来られました。授業リポート記事はこちら。

スウェーデン留学記2 創作科 萩原沙季

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。

9月から留学中の萩原沙季さんから2回目の近況報告が届きました。萩原さんは11月末まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


学校からトラムですぐのプリンス・エウシェン美術館の庭

10 月も瞬く間に過ぎてしまいました。今年のストックホルムの秋は例年より暖かいようで、よいお天 気が続き、紅葉がとても美しかったです。一方で日がどんどん短くなり、最終週の日曜日にはサマータ イムも遂に終わってしまい、16 時頃には外が薄暗くなっています。

授業では、10 月の初めにはダマスク織の作品が完成し、最後に発表会がありました。いわゆる講評会とは主旨が異なるもののようで、まず作品だけではなく、アイディアを練る段階のスケッチや参考写真 なども壁やボードに貼り付けて準備をしました。発表の持ち時間は 30 分間で、デザインの着想をどの ように得たかという所から、作業を進める上でぶつかった問題点とそれをどのように克服したか、そし て織り終えた後の反省点や感想まで、正直に説明します。その後の質疑応答では、いいなと感じた点を ほめたり、反省点についてフォローするなど、みんなポジティブな反応をしているのが印象的でした。

自分の発表は緊張しましたが、クラスメイトたちの作品は完成度が高いだけではなく、とても個性豊かで見ているだけでも楽しかったです。さらに、それぞれがアイディアスケッチからデザインに発展さ せていく過程を共有できたことも、大変勉強になりました。

同じダマスクという技法を使っていても、素材や色の選択などによって生まれる表現が全く異なるこ とを改めて実感し、自分でもまた織ってみたいなと思いました。

アートソーイングのインスピレーションを得たGröna Lundの乗り物

ダマスク織の発表会が終わるとすぐにアートソーイングの授業(制作)が本格的に始まりました。技法も素材も自由であるがゆえに自分で決めなければいけないことが多く、デザイン上の制約があるダマスク織とはまた違った難しさがあります。

授業ではデザインする時間はとられていなかったため、事前に担当のカタリーナ先生とミーティングをするなど、ダマスクと並行しつつ各自デザインを進めておく必要があり、なかなか大変でした。試行錯誤の結果、私は布にタックを寄せてからステッチをかける技法をベースに、ウールとシルクの生地を使って、遊園地の乗り物が回転する様子と、園内の至る所でみられた電球による装飾を表現することに決めました。

アートソーイングの作業のようす

アートソーイングの授業で取り組んだ作品は、11月にGröna Lundの横にあるカフェBackstage で展示されます。1m四方相当の大画面をひたすら「縫う」ことで構築することは、予想以上に技術と時間が必要でした。作業に当てられた期間は約2週間しかなく、クラス全員が疲弊しつつも、それぞれのこだわりが詰まった面白い作品ができてきています!

展示するカフェにて、Fikaを兼ねたクラスミーティング

なお、10月1〜5日は、ストックホルムのクラフトウィークでした。HVのギャラリーでは、卒業生でKTSにも留学されたことがあるEmma Holmgrenさん、Katja Beckman Ojalaさんの作品と、クラスメイトたちが昨年度制作したラグの展示がありました。また、自習時間を活用してクラスメイトたちと市内の各地で行われていた展示会を訪れ、様々な作家の作品を観てまわることができ、とても興味深かったです。

エリザベート・ハッセルベリ・オルソン『風景の記憶』

10月後半には、週末にスウェーデン国会議事堂の英語によるガイドツアーに参加し、本会議場正面にかかるタペストリーを目にすることができました。エリザベート・ハッセルベリ・オルソンの原画を元にHVの工房で織られたものですが、スウェーデン各地で生産された素材が使われているとクラスメイトたちから教えてもらいました。ガイドツアーでも、議員たちは所属政党ごとではなく、選出された地域ごとに座ると説明があり、きっと様々な意味でスウェーデンを象徴する作品であること、そしてそれが手で織られたものである意義について考えると、感慨深いものがありました。

余談ですが、このガイドツアーに参加しようと国会議事堂前の列に並んだ際、前にいた中学生くらいの子たちが「これは次のスウェーデン語のツアーの列で、英語のツアーはもう中に入ってるよ」とすぐに教えてくれました。スウェーデンの人たちは外国人に対しても親切だなと感じたエピソードの一つです。

2か月をHVで学んで感じるのは、私がいるのが最終学年だからかもしれませんが、授業内容がとても実践的であることです。学んだ技術を基に自分で新たな表現を生み出すこと、さらにはクリエイターとして経済的にも利益を得ていくことを最終的な目標として、先生方も学生も意識していると感じます。

例えば、今回作品を学外で展示するにあたり、会場側との同意書を読み比べて議論する時間がありました。また、作業にかかった時間は細かく記録しておくこと、そうすれば注文がきた際に納期を答えられるから、と先生から教えられました。

なお、HVの学生が制作した作品を展示する際は、希望者は売値をつけることが可能です。それは作品が自己満足にとどまらず、社会的にも価値があるものとして表明することになると思います。学生である段階からそのことを意識することで、制作に対する姿勢も確実に変わってくるようです。私も今後はそのことを意識しつつ、制作と向き合っていきたいです。