創作科

スウェーデン留学記1 創作科 沼澤瑠菜

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ3ヶ月の交換留学をすることができます。

8月から留学中の沼澤瑠菜さんから初回の近況報告が届きました。沼澤さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


どこを見ても建物が素敵で、どこまでも歩ける気がする

ストックホルムに来てから約3週間経ちました。不安を抱えていた最初の頃から徐々に慣れてきたところです。

学校までは地下鉄と船で通っています。SLカードを使って公共機関(地下鉄・バス・船など)に乗ることができるのでとても便利です。ずっと内陸に住んでいたということもあり、海(現地の人々は湖と呼ぶらしいです)を毎日眺めることが新鮮でわくわくします。ユールゴーデン島の船着き場の隣には遊園地があり、帰りに船に乗る時は賑やかで楽しい雰囲気です。島は今が観光シーズンなのですが、観光地に学校があるのは不思議だなと思います。

授業はスウェーデン語です。馴染みのない言葉を聞いていると、映画の中にいるという感じがして面白いなと思う反面、状況が分からないことが多くて困惑しています…。しかし、先生が授業後にその日の内容をメールに送ってくれたり、英語に翻訳したスケジュールを作ってくれたおかげでとても助かっています。上手く言葉で伝えられないことも多いのですが、最初の頃よりは伝えられるようになりました。相手が言った単語が分からないときに意味を尋ねたり、相手と同じ言葉を真似して言って身につけるようにしています。

ダマスク織機の仕組みや組織図を勉強しながら、weaving pointを使ってパターンを考えたり、経糸の準備をしています。織機を2人1組で使うので、同じ経糸を使う必要があります。ペアの人と話し合って太めのウールを使うことに決めました。私達が選んだ糸は油分が多く、しっとりとした感触なので暖かいブランケットが作れそうです!

回転式の整経は慣れると楽しい
ダマスクは機がけに時間がかかる
Weaving Pointでのパターン作り

スーパーで会計をする際、自分で品物をベルトコンベアーにのせると店員の元へ運ばれる仕組みになっているのですが、その時に前後の客の品物と区別をつけるために長方形の箱のような物を置く必要があります。私はこれを置き忘れたことがあって、次の人の品物も一緒に会計してしまいました。家に帰ってから気がついたので、どうしようもなかったのですが、次から忘れないようにします…。

2019年秋に川島テキスタイルスクールに留学していたMalinさんと同じアパートに住んでいます。中央駅に迎えに来てもらって一緒に買い物に行ってくれたり、SIMカードの手続きまでしてくれて、とても助けられました。また、今まで作った作品や今から作る物、集めてる糸などを見せながら説明してくれました。学校外でも織物について話ができるのは嬉しいです。

先日は一緒にホームパーティーに行きました。全く関係のない人間が行っていいのかなと緊張しましたが、welcomeな感じで迎えてくれて、これが普通なんだと驚きました。皆各所で飲み物を飲みながらずっと話をしていました。学校でもフィーカやランチタイムでは話が途切れることがあまりないので、スウェーデン人は会話する事が好きなのだなと思います。

Malinさんが森で採ったkantarellerという黄色いきのこを使ってご飯を作ってくれた

ストックホルムの道は石と石の間の溝が深かったり、坂道が多かったりします。信号が突然赤に変わるので自ずと早歩きになります。その道を毎日歩いてるからなのか、留学前より体力がつきました。授業が3時半頃に終わるので、帰りに寄り道したり行ったことのない道を通るのが楽しいです。博物館や美術館にも行ってみようと思います!

セーデルマルムの絶景スポット

「第6回学生選抜展」在校生受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟主催特別企画「第6回学生選抜展」で、専門コース創作科の近藤雪斗さんの作品が、ニューカラー写真印刷賞を受賞しました。

「栄華」

この作品は、織りの技を駆使して心象風景を織り込み、視覚の効果を高めた綴織タペストリーです。

選抜展では他にも、同じ創作科の沼澤瑠菜さんのタペストリー3部作「ときめき」も展示されます。

第6回「学生選抜展」は第45回「日本新工芸展」の巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「栄華」は三都市全て、出品作品「ときめき」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月17日(水)~28日(日)国立新美術館
東海展:6月17日(土)~25日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:6月27日(火)~7月2日(日)京都市京セラ美術館
日本新工芸家連盟

アトリエより:織りの響き──「綴帯」の音(後編)

< 前半「3年目、やりたかった「綴帯」制作へ」はこちら >

いま、スクールのアトリエには、力強く、かつ竹のしなやかな打ち込みの音が響いています。これは綴帯を織る音です。


綴織の中でも、綴帯は無地の部分を框で打ち込むのが特徴です。緞帳や祭礼幕は模様が全体に入ることから指先や櫛で織りますが、綴帯には無地があるため、模様と無地部分で使う道具が変わります。框(かまち)の動作も、他の織りでは緯糸を通してトントンと複数回打ち込むのに対し、綴帯は一回で決めるのが肝。一回打ちの理由は、経糸を見せずに、高い織り密度で均等に織るためです。下支えするのは、経糸の強さ。勢いよく力が加わってもぶれないように、しっかりとテンションを張ります。

じつは打ち込みは、その音を耳で感じるよりは、さほど力は入っていません。手首のスナップをきかせるのがコツで、学生は度重なる練習を経て、本番の制作に取り掛かっています。綴帯を織っているのは、専門コース3年目の于尚子さん。無地部分を織るのを「楽しい!」と声を弾ませます。黙々と織っている時、子どもの頃に家のなかで聞こえていた「音の記憶」がよみがえるのだそう。祖父母が帯を織る仕事をしていたことから、家では四六時中、機の音が響いて、今でも耳に残るそのリズムと重ね合わせるように、楽しく織れるといいます。

スクールで使っている機は、昔から西陣で使われてきた綴織専用の綴機です。また竹筬は、今は商品として新たに製造されておらず、竹筬を備えた、この西陣綴機を使うこと自体が貴重といえます。織りの音を響かせながら、制作は続きます。

スクールをつづる:国際編7 修了生インタビュー「ビストロと織りをつなぐ空間でものづくり」Patricia Schoeneckさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。織りとの多彩な関係を持つ世界中にいる修了生にインタビューした内容を紹介しています。第7回のPatriciaさんには、スウェーデンの提携校から学びに来た経緯やスクールの印象、そして現在ビストロを経営していることから、生活の中の織り、手でものをつくる観点で織りに通じる点などについて伺った内容をお届けします。

Patricia Schoeneckさん(スウェーデン)
ビストロ経営者
スウェーデン在住
Handarbetets Vänner Skola(HV Skola、スウェーデン)からの交換留学生として
2012年5月-6月、絣基礎・絣応用I、2013年10月-11月、絣応用II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

私が織りを学んでいたHV Skolaは、川島テキスタイルスクールの提携校であることから、この学校のことを知りました。スクールの概要を読み、染織分野の技術において伝統だけではなく現代的な手工芸を学び、探求していける素晴らしい場所だと感じました。

スクールには、ものづくり、工芸、テキスタイルに本気で取り組む雰囲気があり、それに感動したのと共に触発されました。そこには雑音がなく、先生に指導を受けて生徒たちが黙々と取り組んでいました。

−−Patriciaさんは2012年に受講し、1年半後に再びスクールに戻って来られました。その間、学んだ技法を組み合わせて独学で制作を進め、修了展に向けて大きな作品を仕上げました。一旦、場所と時間を置いて自分で行うことで、より明確に見えたことはありましたか? それが、今のビストロ経営と機織りとの距離感につながる部分はあるのでしょうか。

私はスクールとスウェーデンの両方で、創作に対する多くのアイデアと視野がありました。染めも織りもとても時間がかかることから、私の頭の中で広がる大きなアイデアの一つひとつを実現するのは不可能だと思いました。振り返って考えてみると、私は小さな作品やサンプルを作り始める前に、最初に大きな作品を仕上げなければいけませんでした。そのように制作を行うことで、私のイメージをより具体化して形にできると思っていました。しかし、今の私の生活スタイルでは、織りと制作において両方のやり方をしています。ビストロを経営していることで、日々の暮らしのほとんどの時間をその仕事に費やさなければならず、(合間を縫って)織り作品を仕上げるには、小さな・短いものを作る方が今の私には現実的です。しかし、時間ができた時に制作に戻れるような、何年もかかる大きな作品にも取りかかる必要があります。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

私が思い描く、織りと染め、人生におけるプロジェクト全体を成功させるための、忍耐力と自信がつきました。

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしにどう生かしていますか?

私は急がず、最終目標や将来の展望にそぐわない、リスクとなる不要な仕事や物事を減らすようにしています。

Elfviks Gård Bistro

−−Patriciaさんがビストロを経営するようになった経緯を教えてください。同じ建物内にアトリエを借りて、そこでどうしてオーナーとして働くことになったのでしょうか? 子育てしながらのライフスタイルに合っているのでしょうか。

アトリエもビストロも田舎の羊牧場にあります。私は自然や古い建物が好きで、ある夏の日、その場所を見つけ、そこで働きたいと思ったのです。しかし、織りで収入を得るのは厳しく、特に私とパートナーは子どもをすぐに望んでいたため、生計を立てるために他の手段を見つける必要がありました。前のビストロのオーナーがお店を手放したがっていると知り、私は自分が引き継げると伝えました。ほどなくして息子が生まれたのです。実際に経営すると、多くの仕事を抱えてとても大変ですが、この暮らしを気に入っているので、他の生活をしたいとは思いません。

−−手でものをつくるという観点では、料理と織りはつながる部分もあるように思いますが、いかがでしょうか?

私のビストロでの仕事と織りは幾通りもつながっていると思います。両方とも、多くの時間を費やす大変な仕事です。いざ始める時には、とにかく完成に向けてやるべきことをやるだけなのですが、その前にアイデアや思い、気持ちから始まる。そんな目に見えない時間も同様に、ものづくりを行う要素になっています。私は、たくさんのパンやケーキ、クッキーを焼きます。単に同じことの繰り返しであっても満足を感じます。時折または何度も、織りがもたらす感覚と同じものを感じます。たとえば、ビストロを経営するのは、手で作って働き、目の前に何かがあり、多くのルーティーンがあり、何度も繰り返し同じものを作ることです。ですが、織りと同様、瞬く星のように、心に直接響くような創造のインスピレーションが現れます。

−−Patriciaさんにとって織りとは?

現時点で、日常生活の中で織りが占める割合は小さいです。私は毎日ビストロを営業していて、日々仕事が舞い込んできます。私の織りのアトリエは、ちょうどビストロの上階にあり、週に1回ぐらいは、屋根裏部屋に上ってアトリエに入り、深呼吸します。近い将来、私はそこで再び織りを始めることがわかっています。それまでの間、繊維や機の素晴らしい香りを吸い込み、次のテキスタイルのプロジェクトの夢を描きます。


website: Elfviks Gård

instagram: @patriciaschoeneck @elfviksgardbistro

2013年に英語版ブログに掲載した Patriciaさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。

インタビュー記事掲載のお知らせ

Garland Magazine(オーストラリア)のニュースページ「Loop」に、当スクール講師、表江麻の絣を教えることについてのインタビューを掲載していただきました。聞き手はアーティストで元受講生でもあるHelen Tingさんです。ぜひご覧ください。

>> Garland Magazine “The Kawashima Textile School | Ancient kasuri is live in Japan

スクールをつづる:国際編3 留学生コース担当・表講師インタビュー「手織りをつなぐ」

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編をお届けします。第3回は、海外からの留学生向けに初心者コースと絣コースを英語で教える表江麻講師のインタビューです。自身の海外経験、テキスタイルとの出会い、KTSで手織りや絣を教えることの思い、留学生との出会いから影響を受けたこと、スクールから見える国際性について語られた内容をお届けします。

エストニアのTartu Art College(現在はPallas University of Applied Sciences)でKTSについてのプレゼンテーションをする表講師 2015年

◆  暮らしが豊かになるものを作る

表講師は2009年にKTSを修了後、スクールのアシスタントに。同年、スクールが海外向けに「ビギナーズ」と「絣」を英語で教える「留学生コース」を設定したタイミングで、留学生の授業を山本講師と共に担い、国際コーディネートも担当することになりました。

自身も海外で暮らした経験が2度あります。最初は、子どもの頃にアメリカで。現地の公立の小学校に通っていた時、英語はアジア人である自分が周りと対等に交流するのに必要な手段だったそうです。次は、京都精華大学に在学中、交換留学でフィンランドへ。美術を幅広く学びたいと思い洋画を専攻し、留学先でやりたいことが少しずつ見えてきました。「テキスタイルを専攻している友人たちが、『使う』『着る』という明確な用途のあるものづくりをしていて制作に対するアプローチに魅力を感じたことと、明るいテキスタイルを室内に使って暗い冬を過ごすなど布が生活の中に溶け込んでいて、暮らしが豊かになるものを作るのが素敵だなと思ったんです」

日本が本場の技術を日本で学びたいと思い、大学卒業後にKTSへ。「年齢、国籍、経歴問わず、学びたい人に対してオープンなKTSがあったからこそ、好きな技術を身につけられました」。色の組み合わせと直線で考える、制約がある中でのものづくりが好き。作家活動で着物制作をし、スクールで海外からの学生に手織り技術を教える。いま、日本のことを世界に伝えるという、目指していたことが実現できている実感があるといいます。

◆  世界中の織り手との出会い

母校が職場になり、主に海外から学びにくる人たちに教えて約10年。少人数制で、確かな技術を教えるスクールの方針に加えて、自身としては「学生にとっていい経験になるように」、「自国に帰ってからも一人で織れるように」心がけてきたそうです。「授業では、緯糸を織り込む角度や密度を安定させるなど美しく仕上げるコツを教えています。学んだことを帰国後に生かしてもらえたら嬉しいです」。

スクールから見える、世界の距離感があります。「織りをする人は、手仕事が好きで根気強い人が多いのではないかと思います。国や文化の違いがあっても、そうした技術との相性や、手織りに対する価値観の共有など、似たところがある人が集ってくる印象があります」。世界中の織り手との出会いが、教える喜びの一つ。その中で、自身の織りに対する思いに変化が生じます。

◆  絣にとって何ができるか

変化のきっかけは、受講者から「歴史について聞かれることが多い」ことから。「留学生は、技術に加えて、昔は何の道具を使っていたのか、各地域の特徴など歴史的な背景の質問が多いです」。日本の手仕事、その伝統を作ってきた人たちに思いを馳せるようになり、「絣に対する思いが強まり、単に技術を教えるだけではなくなりました」。

そこで芽生えたのは、「技術を継承し、世界中に種まきをしている」という意識。「手織りは紀元前からつながっている歴史のある技術。(デジタル化が主流の)今の時代に、あえて手織りに特化したユニークな学校があり、47年続いていて、そこで学び働いている。時代が変わり消えてしまう技法がある中で、絣という手織りの技術をどうつなげていけるか。絣にとって私は何ができるか、役割を考えています」。

機が百台以上あり、染色室も整備され、織りも染めも専門の先生がいて、寮など設備が整うKTS。この規模で運営し続ける「手織りに特化したスクールがあるのはすごい」と留学生に言われることが多いそう。「海外でも大学のテキスタイル学科が閉鎖された話を聞きます。織りが好きな人が学びに来られる場として、KTSがこれからも息長く存続していけるよう力になりたい」と話します。

スクールをつづる:国際編1 「種をまき、静かに持続する」
スクールをつづる:国際編2 「織りとの関わりの多様性」

スクールをつづる:国際編2「織りとの関わりの多様性」

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編をお届けします。スクールは開校当初から、世界中の手織りを学びたい人を受け入れています。2019年までの直近14年間だけでも、28カ国140人以上の留学生を受け入れてきました。第2回は、近年の国際化の流れについてです。

緯絣を括る

海外からの希望に対して、以前は期間や学びたいことに合わせて個々に対応していましたが、問い合わせの増加に伴い、2009年からは英語で教える「留学生コース」を設定しました。内容は、手織りの基本を身につける「ビギナーズ」と、「絣」の基礎・応用。絣の技法自体は、世界各地に地域色豊かで多様な絣がありますが、日本の絣を学びたいという海外からの需要に応えてのことです。それまでは英語の共通言語でikatと呼んでいましたが、コースを設定してからは日本独自の名称kasuriとして定着しました。

毎年春と秋に定期開催するようになると、受講者の口コミで評判が徐々に広まり、2013年頃から応募者が年々増え続けて毎回定員オーバーとなる状況が続いています。受講者は、初心者や趣味で続けている人から、大学・大学院生、作家やデザイナーなどテキスタイルを仕事にしている人まで幅広く、手織りという共通の目的で世界中から集う方々を通して、それぞれの人生において自分に合った織りとの関係があるとわかります。織物を世界目線で見つめると、個々のライフスタイルや、社会・文化的な背景が多様である分、関わり方の可能性がさまざまに見えてきて、選択肢が広がります。KTSの国際性は国や文化の違いだけではなく、織りとの関わりの多様性があること。それは、手織りに特化した学校だからこそ見えてくる世界です。

スクールをつづる:国際編1 「種をまき、静かに持続する」