見学・研修・インターン

冨田潤先生工房見学

秋の課外研修として、冨田潤先生の工房を訪れました。参加したのは専門コースの本科(1年)と技術研修科の学生、そして留学生です。留学生のなかには、冨田先生の著書“Japanese Ikat Weaving” (1982年、Routledge Kegan & Paul)を持参した学生や、出身大学の図書館でその本を読んでいた学生もいて、冨田先生がいかに海外で知られているかがわかります。

訪れたのは京都の北西にある越畑。里山にある拠点をThe Villageと名付け、「染織でつながりながら暮らしを創造していく集合体として」活動を実践しておられる場です。当日は冨田先生の案内のもとギャラリーで作品を見て、アトリエを見学。アトリエではジャガードをドビー機に改造した機の仕組みの説明を受けて、染織家のホリノウチマヨさんからも制作中の作品のお話がありました。午後は住居のある古民家でDVDを鑑賞。冨田先生との交流やDVDの内容に、留学生の一人は制作のインスピレーションを受けた様子で、懸命にメモを取る姿もありました。

自然豊かな環境で、暮らしと仕事が一体となるありように、織りを通して心豊かに生きることを感じたひとときでもありました。

「自社製品に対する誇り」播州研修より 本科・Hさん

「日本のへそ」といわれる兵庫県西脇市を中心とした北播磨地域。そこは220年以上続く播州織の産地です。糸を染めて織る先染織物の国内有数の産地として、商品企画から染め、織り、加工までを一貫して行っています。専門コースでは産地研修として、西脇市郷土資料館を訪れて地域の風土や播州織の歴史を学び、植山織物株式会社と大城戸織布の工場を見学しました。


 去る 2023 年 9 ⽉ 15 ⽇、スクールからバスにゆられて約⼆時間半、播州織の主な産地である⻄脇市に到着しました。

 まずは⻄脇市郷⼟資料館にて、播州織の歴史について、学芸員の⽅に展⽰を⾒つつ講義いただきました。なかでも、⻄脇市を中⼼とする北播磨地域は江⼾時代、複数の藩の⾶地となっており、決まった領主がいなかったため統制がゆるく、地域に住む⼈々の⾃主性が保たれていたこと、またそれにより、明治になり幕藩体制が崩壊した後も、⾃⼰販路を持っていたため⼤きな影響を受けなかったことなどが、播州織という独⾃の⽂化産業が育まれた背景のひとつであるとのお話を聴き、とても興味深く感じました。
 また、展⽰を拝⾒した後には、播州織の古い⾒本帳が保管された⼀室にご案内いただきました。私が主に⾒せていただいた⾒本帳は昭和 33、34 年頃のもので、記された輸出先国の情報を⾒ると、ベネズエラなどのアフリカ諸国やオーストラリア、アメリカ、⾹港など世界各地へ輸出されていたことがうかがえる貴重な資料でした。輸出先の多様さに驚くと同時に、もしかして古い外国映画等で、知らず知らずのうちに播州織が使われた服を⽬にしていたのかも…と思うと感慨深かったです。

 次に植⼭織物株式会社にて、植⼭社⻑にレクチャーいただくとともに⼯場内を⾒学させていただきました。
 ⼯場では、シャトルによって緯⽷を⾶ばす有杼織機から、両側から緯⽷を受け渡すレピア式織機、空気で緯⽷を⾶ばすエアジェット織機まで⾒せていただきました。織るスピードは空気によるものが圧倒的に早いとのことでしたが、シャトルでゆっくり織る⽅が、布が柔らかく⾵合いが良くなるとご説明いただき、効率化が決して品質に結びつくわけではないものづくりの難しさを改めて感じました。
 さらに、綾織と平織の織り⽅や仕上げ時の加⼯の有無の差、また他国製との⽐較等による繊細な⾵合いの違いについて、布地を実際に触らせていただきながらうかがったお話からも、植⼭社⻑の品質への強いこだわりが伝わってきました。

 最後に訪問した⼤城⼾織布では、⼤城⼾社⻑が⾃⾝で改造されたジャガード織機の数々を、⾒せていただくのみならず、実際にスイッチを押して動かす等の経験もさせていただきました。
 また、先述の植⼭織物株式会社が、いわゆる播州織の特徴である分業制にてシャツ⽤の平織⽣地を主⼒としつつ、⼩ロット⽣産に移⾏しブランド化されている⼀⽅で、⼤城⼾織布ではさらに⼩さいロットで、駆け出しのファッションデザイナー等個⼈の細かい希望に応えて⽣産し直販されているため、⾒せていただいた⾒本地はどれも個性的で⾯⽩く、他にはない魅⼒を放っていました。
 ⼤城⼾社⻑や社員の⽅のお話には、現代では軽視されがちなものづくりの現場は決して楽ではないものの、⾯⽩いことをやっているという気概と熱量がこもっており、思わず引き込まれてしまいました。

 今回の⻄脇テキスタイル研修では、⽣産の体制や規模等が対照的な⼆社を訪問させていただき、⼤変勉強になりました。また、このように同じ播州織でも多様な⽣産の現場が今も発展し続けていることに、北播磨地域に根づく⾃主性という⾵⼟も垣間⾒たような気がしました。
 そして、どちらの会社も、時代の変化に対応しながら⾼い品質を保つという⼤変困難なことを継続されたうえで、⾃社製品に誇りをもって発信されていることが共通しており、とても感銘を受けました。私もものづくりの難しさにめげずに、⾃信のもてる作品を作りたいと気持ちが改まる思いです。

「テキスタイルの未来を見据えて」播州研修より 専攻科・日岡聡美

「日本のへそ」といわれる兵庫県西脇市を中心とした北播磨地域。そこは220年以上続く播州織の産地です。糸を染めて織る先染織物の国内有数の産地として、商品企画から染め、織り、加工までを一貫して行っています。専門コースでは産地研修として、西脇市郷土資料館を訪れて地域の風土や播州織の歴史を学び、植山織物株式会社と大城戸織布の工場を見学しました。


西脇市郷土資料館

西脇市に到着し、最初に向かったのは西脇市郷土資料館。西脇と播州織の歴史を紹介している展示を職員の方にご案内いただいた。

西脇市で播州織が織られるようになったきっかけは宮大工の飛田安兵衛が織機を改良したからだそうだ。また、周りの川の硬水が染色に向いていたり、山に囲まれた土地なので湿気があり、糸の乾燥を防げたりと織りに向いている土地だったので西脇の織物業が発展した。

時代が移り変わるにつれて生じた播州織の変化を紹介していた箇所が印象に残った。明治時代から第一次世界対戦前くらいには、織物の色はダークグレーなどの落ち着いた色が主流だった。第一次世界対戦後、国内で布が売れなくなるようになり、また関東大震災の影響で神戸港での貿易が盛んになった事から布の海外輸出が増えていく。この時代は海外向けのカラフルな原色の布が作られていた。第二次世界大戦後、商品の高級化が進み、色も中間色のものが増えた。現在は外国での価格競争もあり、今までのように大量生産ではなく少ロットで品質の高い播州織ブランドとして主に国内で販売されている。このように時代によって織物は変わり、人々の生活に寄り添ってきたという事が分かり興味深かった。

最後に「中入れ札」というカードのような紙をいただいた。以前は布を売る時に中入れ札を一緒に渡していたらしく、デザインもマッチ箱のラベルのようで可愛かった。名刺のようなものだったのだろうか。このような文化を知る事ができるのも楽しい。

植山織物株式会社

二番目に訪問したのは植山織物株式会社さん。織りの他に、外部のバイヤーなどに営業をする「産元」もされている。

社長の植山さんが出迎えてくださり、工場に入った。中では植山織物さんはシャツの布地が主流商品で、特にチェックシャツの生地が多い。回転数(糸を入れる回数)が一分に100-120 回から 600 回と、スピードが違 う複数の自動織機で織って色々な風合いの布地を生産している。

布地見本を見せていただき、同じ経糸・緯糸でも機の回転数、起毛、平織り・綾織など条件を変えると風合いが変わるという事を布地に触れて感じた。このような様々な加工のこだわりが、日本産のテキスタイルの凄さだと感じた。チェックやストライプのようなパターンは、日常的によく着用する人が多いと思う。普遍的な服こそ、長く、心地よく着てもらえる為のこだわりが大事なのだ。

大城戸織布

最後に伺ったのは大城戸織布さん。ジャカード機とドビー機を使って多くのユニークなテキスタイルを作っている。工房に入ったら、天井から沢山の糸が吊られていた。よく見てみたら、通常自動織機で布を織る時処分されてしまう端の部分で、「ふさ耳」と呼ばれているとか。大量のふさ耳の枷は、まるで羽でできたスカーフのようだった。これらは、イベントなどで販売されたり、新しいテキスタイルの素材として使用される。

代表の大城戸さんが工房内を案内してくださった。大城戸織布さんは、主に個人の若手デザイナー向けに小ロットの布地を作っている。「付加価値がある商品」を大事にされており、その為に様々な試みを行っている。使用する糸も工房で撚りあわせ、風合いに変化を出す為撚りの強弱を付けている。

前述したふさ耳を入れ込んだ布を作る工程を見せていただいた。まず無地部分を自動織機で織っていき、一度止めてふさ耳を模様のように入れ込んでいく。織機のスピードは遅めで、ふさ耳のような経糸と糸の太さが違うものでも布のバランスが崩れてしまわないように調節されている。

最後に大城戸織布さんが作られたテキスタイルのショールームを見せていただいた。中には綿、麻、ウールのようなオーソドックスな素材からテグスのようなイレギュラーな素材まで、様々な素材を使用したジャカード生地が溢れていた。奥には大城戸さんのお弟子さんが制作されたという、ふさ耳を使用したコートがあり、発想のユニークさに魅了された。

ショールームでは大城戸さんがテキスタイル業に対する信念を語ってくださった。大城戸さんは難しい加工なども多くの依頼を受け、作ってみる事で実現可能にしていくとおっしゃっていた。日本各地のテキスタイル関係者の方々と繋がりを持ち、情報を共有して共に学び合っているそう。大城戸織布では今後も藍染など新しい事をやっていくそうだ。新しい試みを古くからの技術に複合させ、常にテキスタイルの未来を見据えている大城戸織布さんに強い感銘を受けた。

おわりに
今回は播州織の歴史を学び、二ヶ所の織布会社を訪ねる事ができバラエティに富んだ研修だった。播州織は主にシャツの素材などに使用されていて、日常に近い織物なのだという事が分かった。知らず知らずに、播州織でできた服やインテリアなどが周りにあったのかもしれないと思うと、実際の産地を訪れ制作の現場を見る事ができたのは感慨深い。風合いなど、使う人が心地よく布を使う事ができるためのこだわりを自身も制作に取り入れたいと感じた。また、現場の職人さんの創作への想いを聞く事ができとても貴重な体験になった。彼らの織りに対する熱意と向上心を見習いたいと強く思った。

見えない部分も大事にするデザインを (株)川島織物セルコンでインターンシップ

例年、(株)川島織物セルコンで実施しているインターンシップ。今年度も専門コース専攻科の学生たちがそれぞれ「帯」と「緞帳」の製作の一部を経験しました。現場で専門家から直接指導を受けて、デザインから試作までを行うという、学生にとって学びの多い研修。川島テキスタイルスクールと(株)川島織物セルコンの繋がりだからこそ実現する充実の内容です。「帯」製作のインターンをリポートします。

今回「帯」のインターンを希望したのは、スクールで着物を専攻している学生たち。「帯がどのように作られるのか、一つの商品が出来上がるまでにどのような過程を経るのか知りたい」と参加。基礎講義の後、開発現場へ。草花を原型にした文様「花の丸」をデザインするのに図案、意匠図を作成。そこで設計した紋図をもとに、現場の製作担当者に織ってもらい、力織機の仕組みを学びながらサンプルを仕上げ、最後のプレゼンテーションまでの11日間を走りきりました。

製作現場では、一つの商品を作るのに分業制で進む中で、どの工程でも「いいものを作ろう」という向上心を感じたという学生。インターンシップを経て、これから自身の制作でも「一つひとつの作業をより丁寧にしていこう」と気持ちを新たにした様子でした。また「花の丸」のデザインの指導で、茎や葉の「見えない部分もどう繋がっているのかを大事にする」という助言を受けた学生もいました。スクールに戻るとすぐ自身の着物のデザインをやり直し、学びをさっそく制作に生かしている姿も見られました。

専門コース2年目の夏、それぞれの目標を持ってインターンシップに臨み、製作現場で得たさまざまな気づきを持ち帰った学生たち。視野を広げて、いま自身の制作に向き合っています。

過去のインターンシップの詳しい内容は、こちらのリポートで紹介しています。
・綴織の「緞帳」のデザインと試作を行う、美術工芸生産グループでの昨年のリポート記事
・「帯」のデザインと試作を行う、呉服開発グループでの初年度のリポート記事

*2024年度専門コース本科・技術研修コース入学願書受付中! 一次締切は10月31日です。詳しくはこちら

「組み合わせでうまくいく、パズルの瞬間」尾州研修より 本科・岩本瑞希

出発までに思っていたこと

 前日までに行き先の情報やどんなものがあるのかの動画などを探して見ていたものの、明確なイメージが湧かず、いまいちわからないまま出発したので不安だった。行ってみて、実際に素材に触れたり、音や振動を感じることで面白さや大変さが見えた気がする。

テキスタイルマテリアルセンター


 常時10万点以上のテキスタイルサンプルがあるというのはどんな感じなのか?が数が多すぎるのもあってピンと来なかったが、実際には12万点以上と聞いて2万点も増えていることに白目を剥きそうになった。テキスタイルサンプルが豊富すぎて、素材図書館と言っていたけれどすでに宝箱のような場所で、最低でも1年くらい入り浸らないと一瞬ずつでも全部を見られる気がしないので、機会を見つけてまた訪れたいと思う。

 岩田社長が見せてくださった織たちは、手作業が入るからこそ生み出せるものがほとんどで、本当に幅が広くて、わざと防染の糊を少しひび割れさせるだとか、飛ばした糸を切って、さらに布に打ち込むだとか、それだけで表情が全く変わっているのが面白かった。大量生産ではできない(できなくはないがコストがかかりすぎて難しい)ような手間をかけられること、どんなに空想でしかないようなものを描いても、現実に持って来られるかもしれないという希望があるのが大きな特徴・強みであるように感じた。しかし工程を聞くと、堅実に現実的な事柄を積み重ねた結果、魔法が出来上がった!というような印象を持った。
 こんな感じの生地を作りたい!から、理想に近いサンプルを探ることから始めて、理想のサンプルに出会ったとして似たものでも同じものでもなく、工夫の積み重ねで別の理想を作り出すのは、聞くのはなるほどと思えても実際にやってみるとものすごく大変だろうなと想像した。
 設計をわたしたちはまだやっていないけれど、かなり頭を使うし、相当な根気が必要なんだなと恐ろしくなった。
 失敗と思われた生地や、デザイナーにとっては印象がそれほど良くなかった生地を使った商品が高評価を受けた話は、自分からは自分のことがわからないのと似ている気がするなと思った。

葛利毛織工業

 ションヘル織機が実際に動いているのをその場で見て、音の大きさと振動が思っていたよりずっと大きくて、そこだけ見ると完全に機械生産というか、工業だ!と思った。それでも綜絖通しと筬通しは手作業で、手作業と機械が仕事を分けて共存している感じなのがすごく良いなと思った。自分は綜絖通しと筬通しが作業の中でだいぶ苦手なので、10000本以上での24枚綜絖、細い糸を8本ごとに細かい筬に通して……と考えると震えてしまうが、速い人は半日で6000本を通すと聞いて、きっと同じ人間のはずなのにと驚いた。
 綜絖が動いて、ションヘル織機のシャトルがヒュンと飛んで、打ち込んで、綜絖が動いて……のカシャンガシャンという音が古い餅つき機の音と似ていて、なんだか懐かしい気持ちになった。
 伺ったお話で「いつまで続けるかを具体的に決めたら、それを後押しするように続くための外側の材料が揃い出した」「どん詰まりに行きあたっても足元に突破口はある場合が多いし、ない場合には作れば良い」というふたつの話が印象的だった。そして、そう言えるための材料はそれまでに自分が積み重ねた努力なんじゃないかと思った。自分がいつか同じような境地に立てるのならば、どう動いたら良いのかを事あるごとに考えられるようになりたい。

木玉毛織

 ガラ紡を実際に見て、雨が降っているみたいだと思った。実際には上に向かって伸びるので雨とは逆だけれど、まっすぐに伸びる若干不規則な糸たちと筒が回転して、上がって落ちるガラガラの音とが相まって絵本の中で降る雨のようだなと。
 ガラ紡で紡がれた単糸そのままだと引張強度が弱いが細い糸と撚るカベ糸か双糸にすることで強度が上がって使いやすくなるという説明を聞き、自分の思っていることもそれだけではうまくいかなくても、何かと組み合わせることでうまくいく、上手なパズルになる瞬間もいつかあるのだろうなと思った。

 新見本工場も見せていただいて、生産から消費者の手元に届くまでをその地域で行なっているのはとても素敵なことだなと思った。すぐそこで誇り高く仕事をしている人がいて、その誇りと熱量を直に感じられる場所で手にできた品物は一生大事に使うだろうし、オンラインでは味わえない良さがあるなと感じた。

全体を通して思ったこと・感じたこと

 尾州では分業制で仕事が行われているということで、お互いにきちんとやりたいことを明確に示して擦り合わせた上で、それぞれ特化した仕事を堅実に行うことを積み重ねることによって、高いクオリティのものが生み出されるのかなと思った。
 マテリアルセンターで岩田社長が仰っていた「本当に欲しいもの(布)があるときは技術的に難しいからと諦めず、職人に聞いたり、ここを訪れて相談してみたりしてほしい」という言葉に職人と言われる人の誇りを感じた。職人と呼ばれる人たちは普段、表に出てくることはないけれどその人たちがいなければ根本から崩れてしまう大事な人たちなので、尊敬している。尾州はそんな職人が集って仕事をして、活気があってすごく良いところだなあと思った。

テキスタイルマテリアルセンター
株式会社イワゼン
葛利毛織工業株式会社
木玉毛織株式会社
大鹿株式会社 新見本工場

「効率より高品質で、丁寧につくる信念を」尾州研修より 本科・日岡聡美

 最初はテキスタイルマテリアルセンターに伺った。ここは東京・上海・ミラノのテキスタイル展示会で展示されたテキスタイルサンプルが集まってくる資料館で、多くの異なる素材・デザインのテキスタイルがハンガーにかかっている光景は圧巻だった。資料館を見る前に、イワゼン株式会社の岩田社長にレクチャーをしていただいた。

 主にジャカード織の生地を作っておられるというイワゼン株式会社さん。多くの若手ファッションデザイナーの依頼を受け、そのデザイナーの表現したいものが作れるようなテキスタイルを作っているという。織機はションヘル織機というもので、これは織るスピードは遅いが太さの違う糸やテンションが違うものも織れるらしい。個人的に色々な素材を使ってみたいと感じている為、とても興味が沸いた。過去に制作したサンプルも見せていただき、緯糸を長めに残して切ってフリンジのようにしたものなど面白い加工方法のものをたくさん見せていただいた。加工方法の大変さや染色法の名の由来など、現場の裏話も聞く事ができ楽しかった。

フリンジを長めに残した生地

 サンプルを見ながら、数々の斬新な手法で独特な表現を生み出した話をしていただいた。部分的に縮絨をしてシボを作った生地などを見て、布を織った後の「加工」についても考えさせられた。今まで織ることに精一杯で、最後の縮絨作業などについて深く考えていなかったと感じ、もっと意識していきたいと思った。社長さんが「考えてやろうと思ってもダメ。偶然やってできたものもある」とおっしゃっていて、これからはとりあえず興味を持った素材や手法は試していってみたいと感じた。

一部のみを縮絨した布

 テキスタイルの技法に詳しくないデザイナー側の希望を汲み取り、デザインが活きる布にする事はとても難しい事と感じた。必ず思い通りのものができるわけではなく、時にはデザイナーに気に入ってもらえない時もあるそうだ。しかし、蓋を開けてみるとデザイナーに不評だったものの方が評判良かったりする。偶然の産物が思わぬ結果に繋がる事は面白いと思った。

 レクチャーの後は、サンプルを見て回った。とにかく数が多く、何時間でも見ていられそうだった。多くのデザイン・パターンを見ることができ、とても勉強になった。日本独自の手法で作られたテキスタイルも多いそうで、日本の技術の需要の高さを感じられた。

 次は葛利毛織工業株式会社に伺った。古民家の奥に工場があり、遠くからもガシャン、ガシャンと織機の音が聞こえてきた。先ほど説明していただいたションヘル織機が見られるという事で楽しみだった。工場では生地をつくる各工程を実際動いているところを見ながら説明していただいた。

 葛利毛織工業さんは高品質のスーツ生地をションヘル織機で織っている。ションヘル織機は新しい工業用織機に比べてスピードがとても遅いと聞いていたが、実際見てみるとシャトルが目にも止まらぬ速さで横に滑ってどんどん布が織られていき、とても迫力があった。工業用ションヘル織機は経糸、緯糸の動きをチェーンのような機械にコマを入れプログラムを組み、委託図通りに織る事ができるようにしているらしい。また、経糸一本ごとにストッパーという装置をセットし、経糸が切れた時に下に落ちて代わりの糸が補充されるようになっている。機械で織っているとはいえ、手織りとは違うところで色々と作業があり、やはり織るということは時間と労力がかかると改めて感じた。各工程の様子を見せていただいたのだが、綜絖通しの工程では速い人は1時間600本くらい通すと聞き、プロの技に感嘆した。

ションヘル織機のプログラムが組まれている
ションヘル織機でシャトルが入れ込まれているところ

 最後に工場で働いている方々のお話も聞く機会があったのだが、同世代の職人の方々のものづくりへの熱い思いに刺激を受けた。また、専務のお話も聞く事ができ、世界でも絶滅しかかっているションヘル織機を使い続け、布を織っていく事の意義を話していただいた。葛利毛織工業の皆さんの仕事に対する情熱を感じ、このように真剣に向き合い、常に精進する姿勢を見習わなくてはと思った。

 最後は木玉毛織株式会社に伺った。木玉毛織株式会社は、ガラ紡という日本で発明された糸紡ぎの手法で糸を作っている。ガラ紡は現役で生産している機械は数少なく、貴重な現役の機械を見られる機会を得られて嬉しいと思った。

 最初に丸編機という、ニット素材を織る機械を見せていただいた。こちらは横編みのニットを高速で生産できるそうで、整経が必要ないそうだ。伸縮性があるジャージのような生地が作れ、主にカーシートなどの生地を作っている。丸編機で編んだニットは円状になっており、最後に切って生地にするという。大きな袋状のニットが下から出ており、製品になる前にはこんな形なのかと思い、興味深かった。

 次にガラ紡の機械を見せていただいた。ブリキの筒がずらっと並び、その中から綿の糸が上へ伸び、巻かれている様は今まで見た事のない光景だった。ガラ紡で紡がれた糸は手紡ぎのような仕上がりで、綿という素材の温かみも感じられた。綿を筒状に形成して筒に詰め、そこから糸を引いているのだが、綿の筒が短くなると筒から飛び出してしまう。この綿は捨てられるのではなく、他の残った綿と一緒にまとめられ使用される。無駄もなく、環境にやさしい素晴らしい製法だなと思ったが、生産性が低く、1ヶ月に250kg程しか糸が紡げない事から、ガラ紡を続ける工場は今はとても少ないらしい。しかし、手紡ぎのようなナチュラルな風合いを出せる糸を紡げるガラ紡は貴重だ。葛利毛織工業株式会社の方々と同じく、木玉毛織株式会社の皆さんが伝統的な手法を継続してくださっている事に敬意の念を抱いた。

ガラ紡

 この学外研修では3カ所見学をして、たくさん新しい事を学び、見る事ができとても充実していた。マテリアルセンターでは色々な新しい技法や試み、また様々な布やニットを見て、テキスタイルの表現方法はとても奥深いと改めて感じた。葛利毛織工業株式会社と木玉毛織株式会社ではションヘル織機とガラ紡で布、糸の製造を行っている現場を見学する事ができ、とても貴重な経験ができた。新しい工業織機に比べ生産性は低いが、ションヘル織機もガラ紡もハイテクな機械には出せない手触りや風合いが出せる。尾州のテキスタイルは世界的にも高く評価されているが、それは効率ではなく高品質なものを丁寧につくるという信念を大事にしているからではないのだろうか。自分が作品を織る時も、一つ一つの工程を丁寧に、良いものをつくるという事を軸に制作をしていきたいと思った。

テキスタイルマテリアルセンター
株式会社イワゼン
葛利毛織工業株式会社
木玉毛織株式会社
大鹿株式会社 新見本工場

「そこにしかない『特別』に、価値を見出す」尾州研修より 本科・園裕絵

株式会社イワゼン 岩田さんのお話について

 まず岩田さんが制作を手掛けられたたくさんの織物を見せていただきました。デザインの面白さ、技術の不思議さ、ご本人の熱意に圧倒されながらもその説明に引き込まれ、あっという間に時間が過ぎてしまいました。
 「デザイナーが他の会社で断られたものをうちに持ち込んでくる」とのお話しの中で、個人デザイナーの作りたい量は小さいので規模の大きい会社での生産は難しいという現実的な点を挙げられましたが、面白いものを作りたいという岩田さんの熱意に人が引き寄せられる部分もあるのだろうと感じました。
 デザイナーとの打ち合わせについて、デザインする側と作る側の言葉でのイメージの共有は限界があるので、見本を使うのが大切であるとの事。見本によって言葉の認識のズレを埋めたり、逆に見本からイメージが着想される場合もあります。見本を使う事で、技術(見本)←→ デザイン(イメージ)の相互作用が生まれていると解釈しました。個人で制作する場合でもデザインに行き詰まった時にたくさんの見本があればアイデアの助けになるのかもしれません。自身でもいずれたくさんのサンプルを作ってみたいと思いました。
 研修工程の最後に新見本工場内で生地見本を見ていたところ、「これ私が作ったんだよ!!」と岩田さんが楽しそうに仰っていたのが印象的でした。シンプルな事ですが、楽しむことがものづくりでなにより大切なのかもしれないと感じました。

テキスタイルマテリアルセンターについて

 テキスタイルの図書館として、デザイナーと生産者の橋渡しのような存在であり、特に3大テキスタイル展出品の織物のサンプルは自動的に集積されるしくみになっているとのことでした。どのように運営資金をまかなっているのかと思い質問したところ、岐阜県から援助を受けているとのこと。サンプルを見て興味を持った人に地元の企業を紹介することで地元の産業の発展につながるとの考えなのだと思われます。
 尾州とイタリアのビエラ地方は毛織物の2大産地であること、その理由として近くを流れる河川が軟水であることがあり、軟水は染料が着色しやすく羊毛の脂を落とす際に石鹸が泡立ちやすい為であるとのことでした。現代はどこでもなんでも調達できてしまうので忘れがちですが、産業は環境に左右され、環境を生かして産業が発展してきたという当たり前のことに改めて気づきました。

葛利毛織工業でのションヘル織機見学について

 まず工場内の織機が動く大きな音に驚きました。私にはとても大変な現場に思えましたが、若い人たちが生き生きと働いているのが印象的でした。
 ションヘル織機はレピア織機等と異なりシャトルを通すために大きく綜絖を開くので糸と糸の間に空間ができ、柔らかく弾力のある風合いになるとのこと。しかし現代主流のスピード重視の織機と比べて手間と時間がかかるため、この織機で生産する会社は今はほとんどない。なくなったことで残ったものに価値が生まれている。「以前はこの織機での生産を積極的に続けたいとは思わなかったが、海外との商談で自分たちがやっていることの価値を知った。」とのお話し。また作る難しさとは別に、働き手を確保する難しさについても触れられ、「織りはアウトソーシングになるかもしれない」との発言は衝撃的でした。続けることの大変さを体験してこられた方の言葉は重いですが、地元産業の新しいあり方について前向きに模索されているようにも感じました。

木玉毛織株式会社の工場見学について

 元は毛織物の生産をされていたのを時代の流れに合わせてガラ紡生産にシフトされた経緯について説明いただいた後、ガラ紡の見学。ワタを機械にセットするところからガラ紡が紡がれるところを順を追って実演しながら説明いただき、大変わかりやすかった。一定に撚りをかけ続けるのでなく、撚る→休むを繰り返すことで柔らかい風合いの糸が紡がれるとのこと。スピニングの授業で紡毛糸を紡いだときのショートドローの動きに似ていると感じました。適度にムラがあって、なんともおおらかな糸です。糸の風合いもよいですが、紡績で出た短繊維を再利用するというところも時代の空気に合っているのかもしれません。
 日本の食用の羊サフォークの毛を利用してウール衣料を作るという新しい取り組みについて。これは工場見学中には話が出なかったのですが、事前に木玉毛織さんのウェブサイトで見て興味を持ったので質問し、新見本工場で製品を見せていただくことができました。現状国産羊毛(原毛)の製品はほとんどなく、その理由としては原毛に付いているワラなどを薬品処理することが環境汚染の問題で禁止されているためですが、こちらでは洗剤を工夫し、それでも残った少々のワラはつけたままで紡いでしまうという発想で製品化されています。なお、実物を見てもワラの存在は感じられませんでした。編まれたセーターは嵩高く、着ればとても暖かいに違いないと思いました。嵩高性を生かしたラグやブランケットでも面白いものができそうです。
 木玉毛織さんはガラ紡にシフトされた後、空いた工場建屋内スペースを繊維に関するさまざまな企業にテナントとして貸し出されていて、「つくる」と「販売する」が同居するおもしろい空間になっていました。

大鹿株式会社 新見本工場について

 尾州のものづくりを伝える洋服店という位置づけ。お店は休業日でしたが店長さんのご好意で見学させていただくことができました。
 リサイクルウールについては、尾州では古くから羊毛再生の文化があること、羊毛はウール100%よりリサイクルウールの方がコストが抑えられ、その点で綿や化学繊維の再生繊維と異なることなどのお話を伺いました。しかし「コストが抑えられるがゆえに、昔から職人の間では『ランクの低いもの』という認識が持たれてきた。でもそれは違うのではないか。」と店長さん。手間暇をかけて再生された繊維。今の時代の価値観に合わせれば、リサイクルウールはむしろ付加価値のあるものになりつつあるように思えます。
 新見本工場さんでは製品のリーフレットをこだわってつくられているとのこと。リサイクルウールブランド「毛七」のリーフレットを一冊分けていただきましたが、もはや写真集でした。並々ならぬ熱を感じます。費用がかさみそうですが、スマホの画面で見るのとは迫力が違いますし、質にこだわっているこのお店には冊子がマッチしていると感じました。

全体を通して ー何に価値を見出すかー

 今回見学した工場は、時代の流れに合わせて業態を変えたり変えなかったり方法はそれぞれですが、そこにしかない「特別」を大切にされていて、そこに価値を見出されていると感じました。作り手のお話を直接伺うことで、ネット上の知識よりも深い部分で知ることができ、応援したい気持ちになります。また、個人の作り手にとっても大切なこと、作り手であり続けるためのヒントをたくさん得ることができた研修でした。

葛利毛織工場ではションヘル織機の綜絖通しを体験。私たちが手織で行っているものよりずっと細い糸を6000本も通す気の遠くなる作業です。考えていたよりもアナログで繊細でした。

テキスタイルマテリアルセンター
株式会社イワゼン
葛利毛織工業株式会社
木玉毛織株式会社
大鹿株式会社 新見本工場