留学生

得たのは「挑戦する気持ち」 スウェーデン交換留学の報告会

 川島テキスタイルスクール(KTS)では、交換留学の提携校としてスウェーデンのテキスタイルの伝統校HV Skola(以下、HV)と20年以上にわたるつながりがあります。このほど、HVの卒業生でKTSの秋の留学生コースを受講していたRebecka LundborgさんによるHVの学校紹介と、専門コース創作科(3年)の沼澤瑠菜さんによる留学報告会が行われました。

 Rebeckaさんは2023年6月にHVを卒業したばかり。HVでは織りや刺繍、染めを3年間学びました。学校紹介ではHVについて、女性の経済的自立やスウェーデンの手工芸を発達させるために創立したという成り立ちや、2024年に創立150年を迎える歴史のなかで、現在のHVについて手工芸とテキスタイルアートを中心とした、大学とは異なる特殊な学校であると説明。また在学中に取り組んだプロジェクトの紹介では、ストックホルムのMUJIで絣のワークショップを開催するなど企業やお店とのコラボレーションの事例をふまえて、HVの現在のありようを伝えました。

 沼澤さんは2023年8月から3カ月間交換留学し、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加。報告では滞在中の学びについて実際の作品を見せながら制作過程をふまえて話し、学生生活についても住まいや食、街並みの写真を交えて紹介。専門コースの中には今後、交換留学を希望している学生もいます。留学希望者もそうでない人も、それぞれの興味の角度から真剣に話を聞いていました。

 最後に沼澤さんは交換留学で一番得たものについて聞かれると、「挑戦する気持ち」と即答。「今までやったことがなかった刺繍(の作品制作)に取り組んだり、ダマスク織で大きな作品を制作したり、家でスウェーデン料理を作ったり、友達の家に遊びに行ったりと活発に行動できました」と明るい表情で語りました。

 HVとKTSの学生、それぞれの目線からの紹介に、テキスタイルを通した交換留学のつながりの豊かさを知った時間となりました。

*沼澤さんのHV留学記1〜4はこちらから読めます。

冨田潤先生工房見学

秋の課外研修として、冨田潤先生の工房を訪れました。参加したのは専門コースの本科(1年)と技術研修科の学生、そして留学生です。留学生のなかには、冨田先生の著書“Japanese Ikat Weaving” (1982年、Routledge Kegan & Paul)を持参した学生や、出身大学の図書館でその本を読んでいた学生もいて、冨田先生がいかに海外で知られているかがわかります。

訪れたのは京都の北西にある越畑。里山にある拠点をThe Villageと名付け、「染織でつながりながら暮らしを創造していく集合体として」活動を実践しておられる場です。当日は冨田先生の案内のもとギャラリーで作品を見て、アトリエを見学。アトリエではジャガードをドビー機に改造した機の仕組みの説明を受けて、染織家のホリノウチマヨさんからも制作中の作品のお話がありました。午後は住居のある古民家でDVDを鑑賞。冨田先生との交流やDVDの内容に、留学生の一人は制作のインスピレーションを受けた様子で、懸命にメモを取る姿もありました。

自然豊かな環境で、暮らしと仕事が一体となるありように、織りを通して心豊かに生きることを感じたひとときでもありました。

スクールをつづる:国際編10 修了生インタビュー「織りの学びをものづくりの姿勢や生活で育む」Flora Waycottさん

KTSは開校当初から国際的に門戸を開き、京都で手織りの確かな技術が身につけられると受講者の口コミで評判が徐々に広まって現在に至ります。国際編シリーズ最終回は、前回紹介したPrangさんの先生であるFlora Waycottさんのインタビューです。Floraさんは、交換留学でKTSで学び、ロンドンでテキスタイル・デザイナー、ニュージーランドの大学でテキスタイルを教えるキャリアを経て、現在はオーストラリアを拠点にアーティスト・イラストレーターとして活躍している方です。

オーストラリアの自宅のアトリエにて
Flora Waycottさん(イギリス・日本)
アーティスト、イラストレーター
オーストラリア在住
2003年、テイラード・コース*受講

*留学生を対象に、個人の要望にあわせて実施していたコース。2009年終了。

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

ウィンチェスター美術大学2年の3学期に交換留学として来ました。KTSの先生たちが、私の2、3カ月の滞在に合わせたスケジュールを組んでくれました。まずは堀先生による3日間の染色コースを受講して絹糸の化学染色と天然染色を学び、染めた糸で長さ6メートルの反物を織りました。それから絣の技術を学びたくて櫻井先生の指導の下、つばめたちが横全体に飛んでいるモチーフの長さ3メートルの布を制作しました。使用したのは絹糸で、茜の根を使って糸染めしました。(専門コース)1年次の中嶋先生によるスピニングのクラスにも参加し、羊毛から手紡ぎ糸も作りました。

−−ニュージーランドのマッセー大学ウェリントン校でテキスタイルを教えるようになってから、どうして教え子にKTSを薦められたのでしょうか?

私は、織りに強い関心を示した生徒であれば、KTSで新たな視点を得て、日本独自の技法の制作プロセスを楽しめるだろうという確信がありました。私のクラスの中でも常に注意深く、熱心で、優秀な生徒だったPrangは、大学卒業後も、熱心に織りの知見を広げていました。京都に行ってKTSで学ぶことは、彼女にとって織りの学びを深めるだけではなく、世界の中でも美しい場所に滞在して際限なくインスピレーションを受けられることにおいて、素晴らしい経験になるだろうと思いました。私は彼女の受講を聞いて嬉しくなり、私がそうだったようにKTSで素晴らしい思い出ができるように願いました。

2003年、KTSで機に向かうFloraさん。「絹の綛を茜の根で染めた後、櫻井先生に教わった絣の技法を使い、つばめが飛んでいる布を織りました。」

−−KTSでの学びで印象深かったことはありますか?

KTSで過ごした時間は、懐かしく思い出すことができる宝物のような経験で、深い感動が残っています。私は幼少期に日本で育ちましたが、京都に行ったことはありませんでした。京都に滞在し、このようなクリエイティブな環境に浸るのは夢でした。織りはゆっくりと目的を持って取り組む修練です。クラスメイトが細心の注意を払って、心を込めて取り組む姿勢を見るのはとても刺激になります。私たちは、自分で糸を染めました。まだ機に触れる前の段階で糸を紡ぐ機会も得られて、織りの全行程を初めから経験できたことで、仕上がった時の満足感が大きかったです。スクールは親密になれる環境でしたので、私たちは皆、互いのプロジェクトを知ることができました。週を追うごとに、それぞれが織り進んでいくのを見て楽しみながら、互いに励まし合っていました。滞在中に、かねてから興味を持っていた染め、織り、羊毛の手紡ぎ、絣といった様々な技術を試すことができたのは、とても幸運でした。

学びを楽しめたのと同様に、スクールの皆さんが温かく、友好的に接してくださったことを覚えています。ある日、私たちは学生グループで、有名な藍染作家の新道弘之さんの工房を訪ねて、彼の藍甕(あいがめ)を使わせてもらって1枚の布を染めました。そこで、スクールから参加した他の生徒たちと家族のように仲良くなれました。修了時に皆さんが、スクールで撮影した写真が入ったアルバムや折り紙で作った動物たち、手紙と小さな手作りの贈り物をくれました。思い出の品として、今もすべて持っています。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

テキスタイルの知見を広げ、創作活動の基盤を築くことができ、学生時代にKTSで学ぶ機会を得られたことをありがたく思っています。イギリスに帰国後の大学の最終年だけではなく、クリエイティブ業界で働きたいという目標に向かう方向性が見えました。KTSの先生も生徒も、作品の細部まで注意を払って大事に扱うことの恩恵と利点を教え込んでくれました。そのことを私は、アート作品や生活においても、できる限り実践しています。学び、成長し続けるために、できるだけ早くスクールに戻って他のコースを受講できる日を楽しみにしています。

−−Floraさんにとって織りとは?

織りは手をかけ、時間をかけるもの。焦って織る必要はなく、実際にそうはできません。織るには忍耐と献身、決意が必要で、それができれば、情熱を注げる最高の対象になります。織ることに専念して没頭する時や、織り進めるにつれて仕上がりが進化できる時、愛する何かに深く入り込んで静まり返った時間感覚すべてが、私には魅力的なのです。それは素晴らしい空間です。私は現在、アーティストでありイラストレーターですが、小さな機を持っているので、織りたいと思った時につながれる。織りの実践には、日々の暮らしに取り込める要素がたくさんあります。アート作品を制作する時でも、織りと同様に焦らず、大切に取り組むようにいつも心がけています。

「私にとって、絵を描くことと織りは本質的につながっています。細かなディテールと丹念に考えた構図は常に存在しています。」
website: Flora Waycott

instagram: @florawaycott

国際編シリーズをお読みいただき、ありがとうございました。2月16日からは「綴織(つづれおり)編」を予定しています。どうぞお楽しみに!

スクールをつづる:国際編9 修了生インタビュー「絣の作品を見せてくれた先生の足あとをたどって」Aroonprapai Rojanachotikulさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。手織りの世界において国際的な知名度があるKTSは、かつてスクールで学んだ方が修了後にテキスタイルを教えて、今度はその生徒の方が学びに来るという独自の繋がりが育まれています。第9回と10回は、そんな先生と生徒のインタビューをお届けします。まずは生徒のAroonprapai Rojanachotikulさんに先生から聞いてKTSを知った経緯、印象深かった学び、自身が考える織りとは、などについて話を伺いました。

クラスの準備としてサンプルの整理するAroonprapaiさん
Aroonprapai Rojanachotikul(Prang)さん(タイ)
テキスタイル・アーティスト、天然染料・顔料の専門家
タイ在住
2013年、天然染色ワークショップ
2014−15年、ビギナーズ・絣基礎・絣応用I,II,III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。かつてKTSで学んだ先生に、どのような経緯でこのスクールを勧められたのでしょうか?

私は、ニュージーランドのマッセー大学ウェリントン校のテキスタイルデザイン学科を卒業して、2012年にタイに帰国。ハリプンチャイにある手織りの研究所(Hariphunchai Institute of Handwoven Textiles)で訓練を受け、ブロケード織りのアーティストとして働いていました。1年が経ち、もっと他の織り技法を探求したいと思った時、マッセー大学の2年次に、私の先生だったFlora Waycottさんが自ら織った絣織りを見せてくれたことをふいに思い出したのです。日本の京都にあるKTSで絣を学んだと話していたことも。

そこで私はインターネットで検索して、KTSを見つけることができました。その時期に募集していた留学生向けプログラムを調べ、コースや施設、環境を調査する手始めに、2013年の天然染色ワークショップに申し込みました。その時、スクールで素晴らしい時間を過ごせたので、今度は絣コースを受講しようと決めました。2014年に再びKTSに戻り、より長く滞在できることで私は嬉しくなってFloraに連絡し、彼女の足あとをたどっていることを伝えました。Floraは、私がKTSで良い時間を過ごせるように願ってくれました。

−−KTSでの学びで印象深かったことはありますか?

スタッフも生徒も皆さんがとても親切に接してくれ、できるだけ手助けしようとしてくれたことです。クラスメイトは既にテキスタイルに携わっている人や、興味があってこれから学びたいと思っている人の集まりで、様々な分野の素晴らしい人々との出会いがありました。一緒に京都中の旅を楽しんで、生活や文化も共に学びました。授業では、染色で思うように色が染まらなかった時、多くの色をどうにか染め直すのに堀先生が手伝ってくださったのを今でも鮮明に覚えています。雪が降ってとても寒くて暗い日、経絣の経巻きをする時に、多くの日本の学生が手伝ってくれて仲良くなれました。冬休みが差し迫り、休み前に何とか織りあげようとして機から離れずにいた時も、彼女たちは私がきちんと食べているかを確かめに来てくれました。体調が優れなかった時も、皆さんが気遣ってくれた。多くの思い出ができたKTSを第二の故郷のように思っています。

「私自身の作品と、教えているワークショップのサンプル。椰子の葉の写本を作る伝統的な技法で、寺院への供物として作られています。へら状の竹と糸を織り合わせて作られています。織りとかぎ針編みの組み合わせです。この技法は、チェンマイのメーチェム地区でのみ見られ、今日では、この技法を実践している人はごくわずかです。」

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

私は今、教える仕事もしていることから、教え方も影響を受けたと思います。KTSの授業は、すべての過程において綿密かつ正確で注意深い。それは学習、教わる上でとてもいい方法だと思いました。KTSで教わったように、私も生徒をうまく導けるように心がけて教えています。そうすることで私自身も、体系的に細やかに教えるための修練になっています。

−−Aroonprapai (Prang) さんにとって織りとは?

時が経つにつれ、その意味合いが大きく変わりました。かつて、私にとっての織りは、自己表現のために作り出し、気持ちと手技をつなぎ合わせる方法でした。時折、ストレスを和らげることもできました。今、織りと私の繋がりは深まっています。私の体は機と一つになり、手が杼、頭の中ですべての糸を通して綜絖枠を上げ下げしているような感覚です。長い年月をかけて確実に、より意味のあるものになっています。織りと私を繋ぐものは、もはや機と織物の背景に留まらずに、私の人生哲学に影響を与えて視野を広げています。織っている時にミスが起こり、そこに学びがある。ほとんどのミスは修正可能。だからミスを恐れずにやってみようという教える上の指針となるのです。

instagram: @prang_aroon

2020年度 川島テキスタイルスクール修了展

会期:2021年3月10日(水)~14日(日)
会場:京都市美術館別館 1階
時間:10:00-17:00 入場無料

タペストリー・インテリアファブリック・ファッション・留学生絣作品 他
専門コース、留学生作品他を展示します。皆様のお越しをお待ちしています。

下記本展における新型コロナウィルス感染拡大防止対策をご確認の上ご来場ください。今後の状況によっては開催日時を変更する可能性があります。その際は速やかにスクールHPにてお知らせいたします。


本展における新型コロナウイルス感染拡大防止対策

【本展における新型コロナウイルス感染拡大防止対策】
新型コロナウイルスの感染予防・拡散防止のため、以下の対応で開催いたします。
ご理解・ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

【ご来場の際のお願い】
・館内ではマスクの着用が必要です。
・来館時にサーモグラフィー等による体温チェックを実施します。体温が37.5度以上ある場合は入館いただけません。(京都市実施)
・ご来場の際に、氏名・住所・連絡先のご記入をお願いします。*2 ご記入いただけない場合は入場をお断りいたします。(京都市より要請、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策) ←今回は実施しません。(2021.3.3更新)←改めて実施する事としました。(2021.3.10更新)
・手洗い、手指消毒にご協力お願いします。
・以下の症状をお感じの方はご来館をお控えください。
 ‐風邪の症状がある
 ‐倦怠感(強いだるさ)がある
 ‐呼吸が困難である(息苦しい)
 ‐過去 2週間以内に感染が引き続き拡大している国・地域への訪問歴がある
・人と人との間隔の確保をお願いします。(2m目安)
・作品にはお手を触れないようお願いします。
・大きな声での会話はお控えください。

【対策】
・スタッフの検温とマスク着用
・手指消毒の設置
・手すりやコインロッカー等の随時消毒
・混雑した際には入場規制をかける場合があります。

*2 こちらの入館簿を印刷し、事前に記入した物を来館時にお持ちいただく事も可能です。
入館簿ダウンロード (1人につき1枚です真ん中の線で切り取ってお使いください。) ←今回は実施しません。(2021.3.3更新) ←改めて実施する事としました。(2021.3.10更新)


Beatrice Thompsonさん(オーストラリア)インタビュー

展覧会のイメージで使用しているタペストリーを制作したビアトリスさんに、KTS修了後の制作や生活についてインタビューをしました。ビアトリスさんは2019年秋の絣基礎、絣応用I-IIIのコースを受講しました。

 –日本で絣を学んだことで、作品制作の幅が広がりましたか? どのように広がったのか教えてください。

KTS修了時、目の前に全く新しい世界が開けた感じがしました。私は以前から絣に魅かれ、基本的な織り方を理論上は理解していましたが、絣のもようを織る全段階において、全ての糸が揃った状態をどう保つことができるのか、にまで考えが及んでいませんでした。受講は、制作過程を実用的なレベルで段階を追って学べた素晴らしい機会となり、これから歩む上で優れた基礎を身につけることができました。

私は以前、織りに先立ち、経糸に写真の画像をシルクスクリーンでプリントした、とても写実的な作品の制作を試みたことがあります。KTSでは幾何学や抽象的な模様に焦点をあてることが楽しく、さらにそれを進めていこうと思っています。糸染めに関しても、それまではさほど経験がなかったのですが、KTSで学んでスキルに自信が持てるようになり、この先、染めに取り組んでいくのも楽しみです。

今回のKTSの受講が初来日となり、私は間違いなくこの経験が好きになりました。とても刺激的だったので。近い将来、日本そしてKTSに戻って、再び織りに没頭し、絣の技術を学ぶ時間が持てることを望んでいます。皆さん同じ思いだと思いますが、コロナが早く収束することを願っています。

–KTSで学んでから、これまでどのような制作に取り組みましたか?

私はフルタイムで働いているため、織りや制作の時間を十分に取れないのですが、2019年12月にKTSを修了して以降、何とか時間をやりくりしていくつかのプロジェクトに取り組んでいます。スクールの最終週に、私はオーストラリアに戻ってから織るタペストリーための、絣の経糸を準備しました。KTSの教室やアトリエ、染色室は、設備が整っていて素晴らしかったです。帰国してからは、主にサンプル制作と、自宅の限られたスペースで持っている道具を使って、自分で絣の技術を学び続けていく方法を見つけ出そうとしています。2020年にはタペストリーと、布に絞りを施した椅子張り生地、の絣ではないコミッションワークを仕上げました。今年は、もっと壁掛けを制作したいと思っています。

instagram: @beatrice_t_thompson

スクールをつづる:国際編7 修了生インタビュー「ビストロと織りをつなぐ空間でものづくり」Patricia Schoeneckさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。織りとの多彩な関係を持つ世界中にいる修了生にインタビューした内容を紹介しています。第7回のPatriciaさんには、スウェーデンの提携校から学びに来た経緯やスクールの印象、そして現在ビストロを経営していることから、生活の中の織り、手でものをつくる観点で織りに通じる点などについて伺った内容をお届けします。

Patricia Schoeneckさん(スウェーデン)
ビストロ経営者
スウェーデン在住
Handarbetets Vänner Skola(HV Skola、スウェーデン)からの交換留学生として
2012年5月-6月、絣基礎・絣応用I、2013年10月-11月、絣応用II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

私が織りを学んでいたHV Skolaは、川島テキスタイルスクールの提携校であることから、この学校のことを知りました。スクールの概要を読み、染織分野の技術において伝統だけではなく現代的な手工芸を学び、探求していける素晴らしい場所だと感じました。

スクールには、ものづくり、工芸、テキスタイルに本気で取り組む雰囲気があり、それに感動したのと共に触発されました。そこには雑音がなく、先生に指導を受けて生徒たちが黙々と取り組んでいました。

−−Patriciaさんは2012年に受講し、1年半後に再びスクールに戻って来られました。その間、学んだ技法を組み合わせて独学で制作を進め、修了展に向けて大きな作品を仕上げました。一旦、場所と時間を置いて自分で行うことで、より明確に見えたことはありましたか? それが、今のビストロ経営と機織りとの距離感につながる部分はあるのでしょうか。

私はスクールとスウェーデンの両方で、創作に対する多くのアイデアと視野がありました。染めも織りもとても時間がかかることから、私の頭の中で広がる大きなアイデアの一つひとつを実現するのは不可能だと思いました。振り返って考えてみると、私は小さな作品やサンプルを作り始める前に、最初に大きな作品を仕上げなければいけませんでした。そのように制作を行うことで、私のイメージをより具体化して形にできると思っていました。しかし、今の私の生活スタイルでは、織りと制作において両方のやり方をしています。ビストロを経営していることで、日々の暮らしのほとんどの時間をその仕事に費やさなければならず、(合間を縫って)織り作品を仕上げるには、小さな・短いものを作る方が今の私には現実的です。しかし、時間ができた時に制作に戻れるような、何年もかかる大きな作品にも取りかかる必要があります。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

私が思い描く、織りと染め、人生におけるプロジェクト全体を成功させるための、忍耐力と自信がつきました。

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしにどう生かしていますか?

私は急がず、最終目標や将来の展望にそぐわない、リスクとなる不要な仕事や物事を減らすようにしています。

Elfviks Gård Bistro

−−Patriciaさんがビストロを経営するようになった経緯を教えてください。同じ建物内にアトリエを借りて、そこでどうしてオーナーとして働くことになったのでしょうか? 子育てしながらのライフスタイルに合っているのでしょうか。

アトリエもビストロも田舎の羊牧場にあります。私は自然や古い建物が好きで、ある夏の日、その場所を見つけ、そこで働きたいと思ったのです。しかし、織りで収入を得るのは厳しく、特に私とパートナーは子どもをすぐに望んでいたため、生計を立てるために他の手段を見つける必要がありました。前のビストロのオーナーがお店を手放したがっていると知り、私は自分が引き継げると伝えました。ほどなくして息子が生まれたのです。実際に経営すると、多くの仕事を抱えてとても大変ですが、この暮らしを気に入っているので、他の生活をしたいとは思いません。

−−手でものをつくるという観点では、料理と織りはつながる部分もあるように思いますが、いかがでしょうか?

私のビストロでの仕事と織りは幾通りもつながっていると思います。両方とも、多くの時間を費やす大変な仕事です。いざ始める時には、とにかく完成に向けてやるべきことをやるだけなのですが、その前にアイデアや思い、気持ちから始まる。そんな目に見えない時間も同様に、ものづくりを行う要素になっています。私は、たくさんのパンやケーキ、クッキーを焼きます。単に同じことの繰り返しであっても満足を感じます。時折または何度も、織りがもたらす感覚と同じものを感じます。たとえば、ビストロを経営するのは、手で作って働き、目の前に何かがあり、多くのルーティーンがあり、何度も繰り返し同じものを作ることです。ですが、織りと同様、瞬く星のように、心に直接響くような創造のインスピレーションが現れます。

−−Patriciaさんにとって織りとは?

現時点で、日常生活の中で織りが占める割合は小さいです。私は毎日ビストロを営業していて、日々仕事が舞い込んできます。私の織りのアトリエは、ちょうどビストロの上階にあり、週に1回ぐらいは、屋根裏部屋に上ってアトリエに入り、深呼吸します。近い将来、私はそこで再び織りを始めることがわかっています。それまでの間、繊維や機の素晴らしい香りを吸い込み、次のテキスタイルのプロジェクトの夢を描きます。


website: Elfviks Gård

instagram: @patriciaschoeneck @elfviksgardbistro

2013年に英語版ブログに掲載した Patriciaさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。

スクールをつづる:国際編6 修了生インタビュー「文化の融合を見つめ、織り空間の可能性を探求」Rosa Tolnov Clausenさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。第4回からは4週にわたり、織りとの多彩な関係を持つ世界中にいる修了生にインタビューした内容を紹介しています。第6回のRosaさんには、KTSに学びに来た経緯や、スクールで影響を受けたこと、自身が考える織りとは?に加え、自主制作において通常は織り作品を制作するところ、ワークショップ「Everything I Know About Kasuri(私が知る絣のすべて)」を行った動機や、織りを空間として捉えるという、まったく異なるアプローチを実践した考えについて話を伺いました。

Weaving Kiosk
9つの、一時的な織りの空間のシリーズ。
デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランド 2017-2018
写真:Johannes Romppanen
Rosa Tolnov Clausenさん(デンマーク)
テキスタイルデザイナー・博士課程の学生
スウェーデンとフィンランドに居住
2013年秋、絣基礎・絣応用I, II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

KTSのことは既に知っていました。知ったきっかけは覚えていないのですが、友人の Johanna が前年にKTSで学んでいるのを知り、私も行きたいと思ったのは確かです。KTSで学ぶのは、日本に行くことと同時に、絣の技術を実践で考察する絶好のチャンスだと思いました。私は既に絣に興味を抱いていて、2012年にフィンランドの Aalto University に交換留学した時、絣の研究プロジェクトを行っていました。フィンランドには、日本と同様に絣の伝統があり、それは Flammé (Flame) と呼ばれています。フィンランドの織り手は、とてもシンプルな絣のバリエーションを異なる民族衣装に用います。しかし私の知る限り、 Flammé はフィンランドで教えられていないです。KTSで学ぶことは、日本に長めに滞在し、テキスタイルの伝統の見識を得て、その分野の専門家を知ることができる機会だと思いました。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

京都にいて、KTSの環境に身を置くことは非常に刺激的で、私は今もその経験を生かしています。

KTSでは自分で作品を織る代わりに、文化交流と美的感受性に関わるプロジェクトを実施しました。但し、それは織ることから離れたものです。“Everything I know about Kasuri(私が知る絣のすべて)” というワークショップを実施し、主に京都の人たちを招きました。絣の技術を媒介にして文化交流するという着想です。このプロジェクトについて論じ、KTSの先生たちから信頼とサポートを受け、実際に京都で実施できた経験は、自分の考えに自信がついた点で確実に意味があり、以後、帰国してから行った多くのプロジェクトに影響を及ぼしました。

Flamméのサンプル
Dräktbyrån Brage(ヘルシンキ)所蔵
写真:Rosa Tolnov Clausen

−−自主制作でワークショップを開催するという決断は、Rosaさんのそれまでの空間作りや人に教えたり共有したりしてきた経験とつながっていますか? 背景にある考えを教えてください。

KTSに来た時、私はデンマークにある美術学校 Design School Kolding のテキスタイルデザインの修士課程を卒業したばかりでした。私の卒業プロジェクトは、目の見えない織り手の人たちと協力して、共にデザインすることでした。私はそのプロジェクトを通して、織りの空間が生産する場所であることに加え、織りに関わる人々にとって、他にどんな意味を持つようになるのか、例えばそれはデジタル化がさらに進む世界において、他者と関わる社会空間としてや、身体的、物理的なクリエイティブ空間となることに気がつきました。それ以来、プロジェクトから織り空間のさらなる意味を探るのが、私の関心になりました。

日本、特に京都に来た時、私は都市空間にある手工芸の存在にとても魅かれました。散策した時、非常に現代的でデジタル化された都市景観の中で、ごく自然な一部として熟練の職人さんが縫う、織る、ハンマーで叩くなどしている光景を見ました。それで手仕事とデジタルは共存できる気がしたのです。さらに私が訪れた他の都市にも織物ワークショップがあり、参加者はプリントしたり、編んだり、織ったりしていました。

こうして私は周囲の環境によって、美を見い出す感性を身体感覚として養っていきました。私自身は、日本の文化やファッションに触発されて影響を受け、同時に日本の人々やブランドが、北欧の文化に着想を得ていることがわかってきました。私たちは互いに解釈し、その結果、完全な北欧でも日本でもなく、融合した新しいものができている。

それらの印象から、ワークショップ “Everything I know about Kasuri” を着想したのが背景です。私は、文化的な出会いや情報交換の場を提供できるような都市空間で、織物のワークショップを作り出したかったのです。

−−外国人として他国の伝統を教える上で、文化的に気をつけた点はありますか?

もちろんあります。私は日本で3カ月しか過ごしていないデンマーク人として自覚的になり、日本の人たちに対して日本文化を教えるという主張をしないように、かなり慎重に取り組みました。ワークショップのタイトルを “Everything there is to know about Kasuri(絣について知るべきことすべて)” ではなく、 “Everything I know about Kasuri(私が知る絣のすべて)” と名づけたのは、そのためです。たった2カ月学んだだけで専門家のように振る舞いたくはなかったのです。ワークショップでは導入部分で、自分がよく知っていて、参加者が知らないであろう内容を加えながら、フィンランドの歴史を強調して伝えました。

ワークショップ Everything I Know About Kasuri
京都 2013年12月
写真:臼田浩平

−−ワークショップ実施の経験からどのように自信を得て、それは、その後のご自身にどんな影響を及ぼしましたか?

上記で述べた印象を基に、私はKTSの自主制作でワークショップを開催することは、正しい決断であるという強い直感がありました。しかし、通常は織り作品を制作するところ、まったく異なるアプローチであることや、不適切な方法で文化的な境界を越えてしまうリスクを考慮してか、私の考えについて初めから先生全員が完全に納得していたわけではありませんでした。そこで、このプロジェクトがどのように実現できるのか、作業時間の計画を立てるように指示を受けました。私はそれを行い、先生たちから了承を得ることができました。先生たちには、備品を見つける時や連絡時など計画段階でたくさん助けてもらいました。

当日は、KTSの先生や生徒たちも来てくれました。私は直感に従い、外国の視点をふまえたプロジェクトの実現のために全力を尽くし、成功を収めることができた。そのすべての経験を通して私は、自分の考えを信じること、できると信じて集中することの両方において多くの自信を得ました。

−−KTSでの経験は、その後のご自身の学術的・専門的な仕事において影響はありましたか? あった場合、どのような影響を及ぼしたか教えてください。

上記で主に述べた内容には、自信をつけるという意味合いがあります。さらに、初来日と初めてKTSに来たことで、私は多くのプライベートと仕事上の関係を築くことができました。出会いにとても助けられて日本に戻ってきやすくなり、2015年と2017年に再来日しました。私は、2017年に金沢21世紀美術館で開催された、日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念展に一連のワークショップを開催するのに招かれました。その時、KTSの修了生である渡部加奈子さんと、東京拠点のカメラマンの臼田浩平さんがたくさんサポートしてくれました。

−−Rosaさんにとって織りとは?

私の織りとの関係は、絶えず変わっていきます。当初は、私にしっくりきたように感じました。織るのが楽しく、得意だと感じるようになり、時が経つにつれて、それは私の生き方となり、仕事の一部となりました。私は現在、自分が織るよりも、他の人々が織れる空間を作っています。ですが、このことさえも今後、数年で変わっていくだろうと想像しています。


ワークショップ Export/import
金沢21世紀美術館 2017年
写真:臼田浩平

website: Rosa Tolnov Clausen