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「第8回学生選抜展」受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟主催特別企画「第8回学生選抜展」で、技術研修コースの王今さんの綴織タペストリー「Memory」が田中直染料店賞を受賞しました。

「Memory」

選抜展では他にも、創作科の日岡聡美さんの綴織タペストリー「on my way」も展示されます。

第8回「学生選抜展」は第47回「日本新工芸展」の巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「Memory」は三都市全て、出品作品「on my way」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月12日(月)~18日(日)東京都美術館
東海展:6月21日(土)~29日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:7月1日(火)~6日(日)京都市京セラ美術館

日本新工芸家連盟

大阪・関西万博「迎賓館」に飾るタペストリー制作に修了生が参加

 2025年4月から開催されている大阪・関西万博で、(株)川島織物セルコンが制作したタペストリー作品に、川島テキスタイルスクールの修了生の加納さんと園さんが制作補助として携わりました。

 作品は各国の首脳など賓客を接遇する「迎賓館」にしつらえるためのもので、川島織物セルコンがデザインと監修に2人の現代美術家を起用し、大型タペストリーを制作。スクールの修了生が関わったのは、そのうち手塚愛子さんがデザインした作品です。

 手塚さんは、織られたものを解きほぐし、歴史上の造形物を引用、編集しながら新たな構造体を作り出す、という独自の手法で制作しており、今回の作品もこの手法で展開。修了生は再構築の部分で参加しました。2人の感想を紹介します。


 今回の作品制作は、手塚さんの図案によって制作された二枚のタペストリーの緯糸を引き抜いて織構造を一部解体し、それぞれの経糸同士を平織りで織り直し、一枚のタペストリーとして再構築するというものでした。また、万博での展示のため大変規模の大きいものでした。
 織幅3メートルほどの、自身の手に収まらないサイズの織物の制作は大変な作業ではありますが、布を織るという構造は手機の場合と同じです。今回の制作で私たちは、綜絖を上げ、緯糸を通し、筬を滑りこませて、綜絖を下げて打ち込む、という作業を5~6人がかりで行い、布を仕上げていきました。
 複数の身体を使って、機の大きさにとらわれることのない織物を制作することは、普段の織り機や、手のスケールを大きく超えて、織るという行為や織物の構造・形式を改めて捉え直すための貴重な機会であったと感じます。(加納)

 今回、10メートルをゆうに超える大きな作品の制作補助ということで、規模としても制作方法としても得難い経験ができました。手織り機とはまったくサイズ感が異なりますが、織物の根本的な法則やそこから生まれる美しさみたいなものは同じなのだなと感じました。(園)

関連リンク(プレスリリース):
2025年 大阪・関西万博 迎賓館を彩る現代アート作品 現代美術家 手塚愛子・川人綾がデザイン・制作監修のタペストリー披露 4月28日、特設WEBサイト公開

修了生インタビュー:「答えが返ってくる安心感のある場所」堤加奈恵

 2024年秋から約3カ月間、川島テキスタイルスクールの技術研修コースに通い、着尺を制作した堤加奈恵さん。繊維造形作家で、大学でテキスタイルの講師をしている堤さんがスクールで着尺を学ぼうと思った動機や、制作プロセス、学んだ実感などについてお話を伺いました。

◆着用するための布を織る経験は必要だと思った

——堤さんが着尺を学びたいと思われたのはなぜですか?
 日本で染織のことを考える時に着物は避けては通れない。今は着物と言えばフォーマルな存在ですが、昔は仕事着や生活するために使う布も家で織られていたことを思うと、着用するための布を織る経験は必要だと思ったんです。あと、着尺といえば一番難易度が高い認識です。独学でも着用する布は織れますが、まだ知らない方法を知りたいですし、学びを得たいと思っていましたのでまずは着物の技術を最初から最後までしっかりと学んだ上で、これから自分で作品への転換などいろいろ考えながら制作していきたいと考えました。

——川島テキスタイルスクールを選んだのはどうしてですか?
 修了生とお仕事をご一緒する機会が何度かあり、技術がしっかりしていると思っていたんです。大学とは違って年齢も経歴もさまざまな方たちが同級生という環境も面白そうだと思ったのもあります。

——今回、堤さんは技術研修コースで制作するのに支援金を得て、スクールの修了展を作品発表の場にするという方法をとっておられます。その内容を教えていただけますか。
 日本美術家連盟「美術家のための支援事業」に採択いただき、この支援金を充てています。作家活動を続けるにはお金の問題がどうしてもあって、助成金を申請して予算を確保する方法というのは作家の先輩から教えてもらってきました。財団や協会によって締切や支援金スタート時期が違うので、コース開始に合うものを選んで申請しました。昨年夏から申請書を書き始めて、決まったのは10月。採択されなかったら自費でも受講しようとは決めていました。

——今回の制作では、花脊(京都市左京区の山村地帯)で採取した植物で染色されました。どのように構想されたのでしょうか。
 今回の着尺もやるからにはテーマを持って制作したいと思っていた矢先に、花脊の方と知り合い、現地に通う中で地域の問題や状況を知り、植物の生態系を守る活動とつなげるテーマに至りました。その上で染料として選んだのは経糸は繁茂を続けるオオハンゴンソウという外来植物で、緯糸は花脊を象徴するチマキザサをはじめ、昔から親しまれてきたトチやクリ、クロモジ、カナクギ、ハギなど。生態系を脅かす外来種を経糸に、昔から地域の方々に親しまれてきた植物を緯糸に織っています。オオハンゴンソウは特定外来生物に指定されていますので、自然観察指導員の方と同行し、ご指示の元で作業をさせてもらいました。

——染色するのにスクールの環境はどうでしたか?
 設備が整っているのは大きいですね。外のスペースでも染められるし、大きい鍋もあるし、家でやるのとは全然違います。山がすぐそこにあるので、煮出した後の植物を自然に返せる。肥やしになると思うと、ごみとして捨てるのとは気分が全然違います。私も将来、こんな染色室を持ちたいという明確な夢ができました。

——制作環境としてスクールはどうでしたか?
 直接先生から教えていただく内容はもちろんのこと、長い年数ここで織物を教えているからこそ蓄積されている情報の多さ、校舎にある設備や織機、道具類なども見ていて勉強になりました。他の学生さんもいろんなものを織っておられて、作業途中の織機を見て、こういう風に進めるのかとか。今まであまりまじまじと見たことのない織機もあって、いろんなタイプの織機を見られたのも楽しかったです。

◆絹糸の扱いにくさに驚き、着物になって納得

——着尺の制作における学びの実感はどうですか。
 すごく濃厚な3カ月で、めちゃくちゃいい経験でした。最初、絹糸の扱いにくさに苦戦しました。普段ウールや綿や麻はよく使うのですが、これまでほとんど生糸を扱ってこなくて、細いし、浮くし、静電気でひっつくし、ささくれに引っかかるしで、これは何?!本当に着物になるまで漕ぎ着けられるの?!と。精練の段階(染色の前工程)から衝撃で、(アルカリ性のお湯につけて)表面のセリシンが溶けていく様子や、どんどん光沢が出てくる事に、昔の人はよくここにこの艶が眠っている事に気づいたなとか、考えていました。そして、この扱いにくい生糸をいかに扱いやすくするのか、というところにも知恵が詰まっていて、改めてすごいなと思いました。
 絣についても、どの工程も隙がなくて気が抜けない。思い通りの柄を出すための1mmの為の神経が凄まじく、着物にかけるエネルギーがすごいと思いました。衣服のデザインや選ばれる素材は、昔から権力の象徴であったり、集団行動をする上で大切な役割だったことについても考えました。これまで私の知っている絣と、今回取り組んだ絹糸の着尺の絣は全く別物でした。

——着物に仕立てた作品を見て、今どんな思いがありますか。
 縫い合わさって立体的に仕上げたものは、絹独特の艶感が際立ち、光の受け方も相まって布の色の見え方が美しい。今までの苦労が全て報われた感じがして、大変な素材ではあるけれど、この美しさを前にして納得できました。

——スクールでの学びは堤さんにとってどういうものでしたか?
 すごく気持ちいい時間でした。ここは技術の集積所みたいだなと。現代では自分で織ることはほぼされなくなり、生きた技術はすでになくなっていることが多い中で、技術を集積しているのがこの学校だと思ったんです。先生から教わる時もそうですし、会社(川島織物セルコン)で蓄積された専門技術もこの学校で担保され、守られている。円の中に多角形で表すグラフ(レーダーチャート)で表すと、面積が広くて総合的にバランスがとれているイメージ。そんな場所がどっしりと存在してくれている有り難さを感じます。駆け込み寺のような、どうすればいいかわからないことでも聞けば必ず答えが返ってくる、安心感のある場所として存在している気がします。

——本気で織物をやりたい人が学びに来てくれるからこそ、スクールも日々更新しています。作家で講師である堤さんの学びの姿勢に励まされる人もいるのではないかと思います。学びたい時はいつでも戻ってきてください。ありがとうございました。

*堤さんは2020年、専門コース「表現論」の講義でゲスト講師としても来られました。授業リポート記事はこちら

2024年度修了展ご来場のお礼・春期休暇のお知らせ

2024年度修了展(3月5-9日)が無事に終わりました。会期中の様子や作品についてはinstagramfacebookの過去の投稿でご覧いただけます。多くの方々にご来場いただき、ありがとうございました。

誠に勝手ながら下記の期間におきまして春期休暇とさせていただきます。

春期休暇:2025年3月20日(木)-3月23日(日)
商品出荷業務停止期間: 2025年3月28日(金)-3月31日(月)
なお、2025年3月27日(木)は入金確認分のみ出荷させていただきます。
※在庫状況およびご入金状況により、最終出荷日までに商品が発送できない場合があります。

なお、期間中のご注文およびお問い合わせはメールでお願いいたします。
期間中にいただきましたご注文、及びお問い合わせにつきましては、休暇日明け以降に順次対応させていただきます。

ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

在校生インタビュー「やってきたことすべて次に繋がっていく」福井麻希さん(2024年度・専門コース専攻科)

8年勤めた仕事を辞めて川島テキスタイルスクールに入学し、専門コースで学ぶ福井麻希さん。2年目の専攻科では、尾州ファッションデザインセンター主催のものづくりの人材育成事業「翔工房」の書類選考に通過して参加。応募時に作成したデザイン画をもとに、経験豊富な「匠の技」をもつ技術者とコラボレーションして衣装を制作し、ファッションショー、展覧会までを行う事業に取り組みました。このほど繊維業界に就職が決まった福井さんにインタビューを行い、翔工房の経験や、スクールで学ぶ中でどのように自分の適性を見つけて職を得たのか、について語ってもらいました。

福井さんがデザインした生地
写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター

◆織りの共通言語を持っていた

——福井さんは元々服が好きで、特に生地に興味を持って専門コースに入学されました。2年目の専攻科で「翔工房」にチャレンジしたのは、入学当初の服の生地の興味からでしょうか。

はい。ただ2年目の専攻科では(インテリア・ファッションテキスタイル・着物・帯・造形とコースが分かれる中で)インテリアに進みました。そこでファッションをあえて選ばなかったのは、私は在学中にいろいろ作ってみたい気持ちがあって、特に立体制作に興味があって、インテリアだと空間を使える分自由度が高いと思ったからです。それで2年目はずっとインテリアの織りに専念してきたのですが、元々ファッションに興味があるのを先生もご存知で、情報を教えてもらいました。チャンスがあるならやってみたいと思って応募し、テキスタイルマテリアルセンター(岐阜県羽島市)にも見学に行きました。センターで多種多様な生地を見る中で、機械織りだからこそ実現できるデザインの面白さがあるなと思い、尾州産地のものづくりに更に興味を持ちました。

——「翔工房」では、「匠」と呼ばれる熟練の生地設計の技術者の方からマンツーマンで指導を受けて衣装を製作しました。製作プロセスを教えてください。

まず合同ミーティングで匠の講師の方と顔合わせがありました。その時にテキスタイルマテリアルセンターで一緒に素材サンプルを見て、色や生地の具体的なイメージを共有しました。事業の拠点が尾州(愛知県一宮市や岐阜県羽島市など)で、私は京都で遠方のため、その後は匠講師が資料や糸のイメージのサンプルなどを送ってくださって電話でやりとりしながら進めました。匠講師は意匠糸や絣糸を使って奥行きのある色合いを表現したいという私の希望に対して、服にした時にどう映えるかを見通しながら、設計図に落とし込んでくださいました。都度すり合わせ、微修正をしながら進め、織る段階になると私も工場に出向いて生地サンプルを確認し、納得いく形に仕上げていきました。

——今回の現場で大変だったことや、スクールでの学びを生かせたことはありましたか?

他の参加者はファッションの学校から来ている方が多く、私のように手織りを学んでいる人は少なかったです。最終的に立体の服に仕立てるのに、柄合わせや繋ぎ目まで考えながらデザインするところまでは私は甘くて、難しかった面もありました。ですが普段から学校でデザインだけではなく自分で作っている分、専門的な説明も実感を持って理解でき、匠講師と話が通じやすかったです。機械織りであっても、綜絖とか筬とか基本的な構造は手織りの機と同じなので、機の綜絖枚数の制約でデザインを一部変更しないといけなかった時も、仕組みを理解し、納得した上で自分の希望を伝えられました。特に私の場合は遠方で電話中心のやりとりで、きちんとわかっていないと齟齬が出やすい状況だったからこそ、織りの共通言語みたいなものを持っていたのは良かったと思います。

——匠講師との製作経験を通して印象に残ったことは?

長年経験を積んでいらっしゃる分、引き出しの多さがすごいなと。匠メンバーの中でも、私を担当してくださった方は86歳で最高齢の方でした。年齢を感じさせず、ファッションに関わっておられるからか、匠講師はみなさんおしゃれ。その齢まで私は働けるかわからないなと思うと、現役でおられるのがすごいと思いました。私のデザインはさらさらと流れる川をイメージしたもので、水面のきらめきを表したいという希望に対して、ラメ糸を入れるなら塊で入れる方がランダム性が出ていいとか、私の中で出てこない発想のアドバイスをいただき、引き出しの多さに助けられました。デザインした服に最も適した素材選びや設計を考えて提案いただき、ファッションテキスタイルの考え方を学べて良い刺激を受けました。

ファッションショーで、デザインした衣装を紹介する福井さん(右)
写真提供:(公財)尾州ファッションデザインセンター


◆自分の得意や苦手を一つ一つ確認していった

——福井さんは専門コースで2年学び、就職の道を選びました。修了生はここ数年でいうと企業に就職する人もいれば、産地で織り職人になる人、ライフワークとして織りを続けていく人など様々です。スクールで学ぶなかで自分と織りとの関わり方を見つけていく人が多いですが、福井さんの場合はどのように適性を見つけたのでしょう?

入学した年は、あまり先の進路は考えずに、とにかく織物を勉強しようと思って取り組んでいました。専門コースで2年学ぶ中で、私の適性は職人や作家ではないなと感じていました。作るのは楽しいですが、私は性格上いろんなことに興味があって飽きっぽくもある(笑)。だから一つのことに専念するより、間に立ち、全体を見ながらいろんなことができる方が好きだなと。1年目の織り実習やデザイン演習、2年目の制作の日々を通して、自分の得意や苦手を一つ一つ確認していったところはあります。

——このほど繊維業界に就職が決まりました。仕事について教えてください。

リネンやタオルなど繊維製品を取り扱う会社で、求人を見つけて応募しました。社内全体の動きを把握しながら、製品企画にも携われるようで、これまで学んできたことが活かせると思っています。

——ご自分の適性に合った織りの道が見つかったということでしょうか。

そうですね。前職でも課全体を見ながら取り組む仕事で、この学校でも修了したら繊維業界で働けたらとは思っていたので、これまで自分のやってきたことがドッキングされました。今回の翔工房の経験も、2年目に参加した川島織物セルコンでの綴帯のインターンシップもそうですが、たくさんの人が関わる製作は次の仕事でもまた携わる機会があると思うので、見識を広げる経験になりました。これまでやってきたことはすべて次に繋がっていくんだなと実感しています。

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*専門コース本科時の福井さんのインタビュー記事はこちら

第22回 JAPAN YARN FAIR & THE BISHU「糸と尾州の総合展」
会期:2025年3月5日(水)- 3月6日(木)10:00 – 17:00
会場:いちい信金アリーナ(一宮市総合体育館)

2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料

*2025年度専門コース本科技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー3 「作品づくりで、新しい自分に出会っていく」柳原久美子さん(2024年度・専門コース本科)

在校生インタビュー第3回は、学生の頃に川島テキスタイルスクールを知って以来、数十年越しに学びに来ている柳原久美子さんに、入学に至った経緯や、3月の修了展に向けて作品制作に向き合う思いなどについて語ってもらいました。
(インタビューは2024年10月に実施。)

——まずは入学の経緯を教えてください。
学生の頃、広島の実家から一番近い短大の染織コースに通っていました。進路相談時、繊維学専門の担任の先生が、学びを深めるのに川島テキスタイルスクールを勧めてくださったんです。私も進学したい気持ちはあって、学校見学にも行ったのですが、当時は家庭の事情であきらめてしまいました。以来ずっと思い続けていたわけではないのですが、学校の存在は心に残ってて。昨年大きな病気をし、回復していく中で残りの人生を考え、まだ何かできる可能性があると思った時に浮かんだのが、この学校でした。やっぱりものづくりがしたいという気持ちや、当時もっと学んで身につけたかった、とやり残したことを思い出したんです。ひとまずは病を乗り越えられたので、無難に日常生活に埋もれていくより、今こそ、この学校に来てみようと。家族が背中を押してくれ、オープンスクールに行って、願書を出そうとその場で決心しました。

——そこから入学して7カ月が経ちました。本科は盛りだくさんのカリキュラムですが、学びの実感はいかがですか。
私は絵を描くのが好きなので、まずデザイン演習Iのデッサンにワクワクしました。(テーマ性のある作品をつくる)デザイン演習IIで、自分で集めた素材が作品づくりにぴったりきた時は嬉しかったですね。どちらかといえばデザインの授業に惹かれます。今は修了展に向けて個人制作に入っていますが、イメージしてデザインするという最初の段階でじつは戸惑っています。最初から自分でじっくり考えてものをつくるってむずかしい。考えを大事に温めきれていない自分に葛藤するし、先生に話を聞いていただきながら試行錯誤している状態です。

——今のお話を聞きながら「ライフ・デザイニング」という言葉を思い出しました。川島テキスタイルスクールの基礎を築いた木下猛理事長(故人)が「手織りを通じて生き方を創りあげる、つまりライフ・デザイニングを学ぶことができる、そんな学校にしていこうと考えました」と、創立時(1973年)の理念を語った記事が学校に残っています。ものづくりを通して自己を見つめる。その中で本当に好きなものや苦手なことに気づいたりして、新しい自分に出会っていく、と。

当時、私にこの学校を勧めてくださった先生(故人)は、川島テキスタイルスクールに行けるように家族と話をしましょうかとまで言ってくださったのですが、それは無理だと思い込んで断ったんです。ライフ・デザイニングという理念は知りませんでしたが、やっぱりこの学校を勧める先生の確信みたいなものがあったのかな、そのことも含めて先生は私に勧められたのかな、と振り返って思います。

——自らの意思で学びにきている今、新しく変わっていく過程にいるのでしょうか。
そうですね。私自身も枠を外して自然体になれたら。デイサービスに通い始めた母が最近言うんです。「案ずるより産むが易し」ねって。私もそうなれたらなと思います。あとは私がどういうふうに楽しくできるか、です。今取り組んでいる個人制作で、先生たちとのミーティングが毎回かなりインパクトがあります。自分がこうだと思っていても、別の方向からアドバイスをもらって、こんな表現ができるのか、こんな自分がいるのかと驚くことが多くて。作品づくりってすごいなって。

昨年、大病でしんどかった時期、花はこんなに美しいのかとはっとしたんです。自然の光や風や香りすべてが美しく、まるで初めてのように感じました。あの時の感覚を忘れたくない。でも日々の生活の中で忘れちゃうんです。あの感覚を織り込んで作品が作れたら、見てくれる人に届けることができたら素晴らしいだろうなと思います。

この学校にいる間に、一つでも自分が納得できる作品がつくりたいです。

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*柳原さんが在籍する専門コースの学生たちは今、3月の修了展に向けて作品制作に励んでいます。川島テキスタイルスクールでは専門コースの1年目から作品を出展することができ、今年の本科生の作品は、グループ制作の綴織タペストリーをはじめ、個人制作では音を絣で、心象風景を綴織で、人生に見立てた花を縫取り織りでそれぞれ表したタペストリーや、空間に浮かぶ織物、犬のためのラグ、緯糸を手紡ぎしたブランケット、とバラエティに富んだ作品が揃います。

2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料

*2025年度専門コース本科技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

2024年度川島テキスタイルスクール修了展

会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館 1階
時間:10:00-17:00 入場無料


 2024年度川島テキスタイルスクール修了展を開催します。織りの確かな技術力のもと、今年も個々のセンスが光るバラエティに富んだ作品が見られます。
 タペストリーやインテリアファブリックなど、専門コース1年から3年の学生、技術研修コース、絣を学んだ留学生による個人制作を中心に、課題制作を含めた約80点を展示予定です。
 タペストリーと一口に言っても、グループ制作の綴織タペストリーをはじめ、個人制作では音を絣で、心象風景を綴織で、人生に見立てた花を縫取り織りで表したもの、絣とダマスク織りを融合させたもの、情報社会をリボンと靴をモチーフに綴織で表現したものなど多彩に広がります。
 インテリアファブリックも、空間に浮かぶ織物、犬のためのラグ、緯糸を手紡ぎしたブランケット、天然の色合いを生かした絣のパネル、カップから言葉があふれる織物、遊び心のあるラグなど独自色あふれる作品がたくさん。
 さらには、植物の生態系を守る活動とつなげて取り組んだ天然染色の着物や、切り絵を綴織で表現して額装したアート作品も。
 留学生の絣作品は米粒や、和紙の糸、色彩の本、鞍馬山などそれそれが滞在中に出会ったものに影響を受けてできた作品が多く、絣を学ぶ留学生の目線で見た日本の印象が織物に反映されています。
 年齢も経歴も文化も異なる、多様な生き方をしている人たちが日本全国、海外から学びに来る川島テキスタイルスクール。様々なバックグラウンドを持つ学生たちによる修了展だからこそ、織物の作品世界がユニークに立ち上がります。ぜひご覧ください。


【3月1日追記】
ご来場の皆さまへ、ご観覧におけるお願いと注意事項
ご協力よろしくお願い致します。


本展における最新情報はこちらでお知らせいたします。