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堀勝先生インタビュー「染がたり」 1/3

 川島テキスタイルスクールでは、熟練の染色の専門家が専任講師として教えています。堀勝先生(81歳)。(株)川島織物(現・(株)川島織物セルコン)の染色部門に42年、定年後、スクールに配属され、糸染めの基本から、植物・化学染色とデータ作成、勘染めを20年以上教えている頼りになる存在です。高度な専門性と穏やかな人柄で、国内外からの受講者に広く人気がある堀先生に、このほどインタビューを行いました。聞き手は、本校の卒業生である近藤裕八講師です。染めと共に歩んできた仕事を振り返りながら、たっぷりと語られたインタビューを3回に分けてお届けします。初回は、染色との出会い、糸染めの基本動作から色合わせの勘どころ、皇居関連施設の内装などに携わったエピソードについてです。

◆勘で染める究極、糸が呼ぶ

——染色の仕事との出会いについて教えてください。

 高校卒業後の就職先が(株)川島織物(以下、「川島織物」と記す)で、配属先が染色部門だったのが始まり。高校は工業系で、化学、機械、紡織の3つの科のうち、当時(1950年代)は就職難で、就職がしやすいからと親に言われて、化学科に進んだ。入社後は、美術工芸織物の染色部門に配属され、当初はあまり好きになれずに最初の1〜2年は嫌やな〜と思いながらやっていたんです。親からは「石の上にも三年」頑張れとよく言われてな。でも定年までずっと染色一筋でやってきたおかげで今があるわけで、染色部門に配属されてよかったなあと今は思ってるんやで。

——手染めは、未経験から始められたのですか?

 そう。当時はまだ染色機械はなくて、全て手染め。2人1組になって10〜20キロの糸を毎日染めてたんです。我々新人は相棒と呼ばれ、染色前の染色棒に糸を掛けたりする前準備をし、染色後に水洗や脱水をする下働きを2年ぐらい。夏は蒸気で暑く、水を含んだ糸は重くて過酷な労働やったな。

——その中で、仕事は見て覚えたのですか?

 見て覚えるというよりは、まずは染色の基本動作を身につける。染色時の染浴の中での糸の動かし方や繰り方、水洗時の洗い方、糸を干したり、ねじったりする時のやり方など、ただ染めるだけでなく糸を乱さない扱い方をだいぶ教えてもろたな。色合わせの工程は、まだまだ先のこと。

——染めの後には織りの作業があるので、初めの段階で糸が乱れると、次の工程に影響が出てしまいますから必要な作業ですね。そこから染色に移ったきっかけは?

 人員の高齢化と、仕事量が多くなったことで、私も少しずつ色合わせの作業をやらせてもらうようになったんです。染色とは、まず色合わせをすること。色合わせはプロでも難しく、ある程度は教えてもらうんやけど、上達するには自分の能力と勘が大事。

——勘を鍛えるのに心がけたことはありますか。

 数多く染めることに尽きる。色合わせは人に教えてもらっても上手くはならへんな。人に教えてもらったことはすぐに忘れてしまうから。染料は自分の勘で入れていくけれど、世の中に色は無限にあるから、あらゆる色を染められるようになるためには3〜4年、それ以上かかる。勘で染める究極は、染色中に染糸を見たら、今、糸がどの染料をどれぐらいほしいか糸が呼んでいるようになります。色を見たら、あの染料とこの染料を何対何位で入れるということが、実際に染めなくても頭によぎる。当時は日常生活で散歩していても、何か珍しい色に出会うとそんなことを考えながら歩いてたな。

1958年の(株)川島織物色染工場。当時19歳の堀先生は前列右から二人目。

◆染料の能力を100パーセント出す

——染色の工程の業務に就いてからは、どんなお仕事をされてきたのですか?

 緞帳、山車幕、着物の帯地や文化財の復元も。趣味で染めている時は染色も楽しいかも知れんけど、仕事となるとそういうわけにはいかへん。納期もあるし、製品になってからの品質の責任もあるし、色が落ちるというクレームもある。色が落ちるということは、もちろん使っている染料の能力もあるけれど染め方も悪いということ。いつもその染料の能力を100パーセント出してやるような染め方をするように心がけてきたな。

——42年を振り返って、その中でも楽しかった仕事はありますか?

 日常業務以外に、特注の製品を手がけた時は、ああ染色をやってよかったなと思うことが時々あったな。長い染色生活で見たら、ほんまに一瞬のことやけど。

 当時、天皇・皇后両陛下が乗車される御料車(お召し列車)という特別列車の内装(カーテン、椅子張り等)や、赤坂迎賓館の造営の内装の紋ビロード壁張りなど、皇居関連施設など宮内庁の織物の仕事の染色に携わったことが多くありました。その中でも印象深いのは、「即位の礼」(令和元年10月22日)が挙行された皇居正殿松の間の仕事。天皇陛下の御座の後ろに、紫地に金糸で大王松という松の柄を織り込んだ大きなつい立てが置かれている。そのつい立ての織物を、最初の色出しから本番まで染めました。紫でもいろいろあるけれど、特にあの色は帝王紫という名前がついているほど高貴な色。設計の担当者と何度も打ち合わせてテスト染めをし、本番でやっと「この色でいいです」と言われた時は嬉しかったな。正殿松の間がテレビに映ると、その仕事を思い出します。国の公式行事等で織物がテレビに映った時、帝王紫の色合いを是非見てほしいです。

 それから、奈良・法隆寺近くにある藤ノ木古墳の仕事もありました。発掘調査の結果、見つかった石棺があって、その中に葬られていた人が着ておられた織物を復元するプロジェクトの一員として参加。それまでは日常業務に追われていたのもあって染色の歴史や古代の染色にあまり興味はなかったけれど、これを機に、参考文献を読んで勉強したな。

第二回へつづく(2020年9月23日更新予定)

スクールの窓から 3「デザイン演習 II」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このシリーズでは、そんな専門コースの授業の一部をご紹介します。(不定期掲載)

夏から秋にかけて、織造形作家の林塔子さんによる授業「デザイン演習 II」が行われています。様々な技法を用いてテーマ性のある作品を作り、合評を行うという一連の流れを繰り返すこの演習では、課題制作を通して素材の魅力を自分で探求するのが目的。8月27日、2つ目の課題の合評会が行われました。

「この素材だとドレープの良さを生かせる」、「この布を触った時、赤ちゃんの柔らかさのようだと思った」。触感からイメージを膨らませて、布を重ねたり、しわを寄せたり、糸で動きを出したりと試行錯誤して仕上げた課題作品。壁に貼り、一人ずつ制作の経緯を説明します。合評会は、作品が他の人の目に触れて、自分の言葉で説明する訓練の場。初回の気づきを踏まえた2回目。イメージを形にする過程から、それぞれの得手不得手が見え、一人に向けたアドバイスが、それを聞いている他の生徒たちにも新たな気づきとして広がっていきます。

「素材に触れていくうちに、思いもよらない感覚に出会う瞬間があります。そのニュアンスを感じ取り、独自の感覚として深めると作品制作につながる。それは技法が変わっても生かせますし、演習がその突破口になればと思っています」と林先生。手触りを確かめながら、自分と向き合う時間が続きます。

◆ 林先生にとって織りとは? 「時間のつながり」

幼少期を過ごしたインドネシアで出会った織物。島ではゆったりと時間が流れ、人々がおしゃべりしながら腰機で織っていて、古代から変わらない織り技法が暮らしに溶け込んでいるのを見ました。それが原体験となり、「織物と時間」は私の中で一つにあります。制作中、密度を織る感覚になる時があります。経糸と緯糸の交差で、昔から続く時も織り込んでいく。そうして時間のつながりを表現できるのが私にとっての織物です。

〈林塔子さんプロフィール〉

はやし・とうこ/主に裂織の技法を用いタペストリーや小立体、アクセサリー等を制作。2016年、第15回国際タペストリートリエンナーレ(中央染織博物館 ポーランド・ウッジ)「佳作賞」。2019年、京都の染織~1960年代から今日まで(京都国立近代美術館・京都)他、個展、公募展、グループ展など。成安造形短期大学専攻科修了。成安造形大学空間デザイン領域非常勤講師。

在学生の声(専門コース本科) 3

2020年4月に専門コース本科に入学した方々の声を紹介します。 そのうち3名に入学の動機や、織りとの向き合い方、4カ月を経た実感などについて今の率直な想いを語ってもらいました。3回シリーズでお届けします。

「織りながら自分の好きを発見していく」木村華子

美術系の高校で染色を専攻。卒業後の進路で、次は織りを基礎から学びたいと希望した時に、先生に紹介されたのがこのスクールです。見学時、施設内に展示してある作品を見てこんなことができるのかと感動し、留学生が楽しそうに織っていて、皆で交流できるアットホームな雰囲気に魅かれました。

私は、伝統的な手仕事に興味があります。大工の父の影響なのか、ものづくりが大好きです。授業で8メートルの平織りをした時に達成感があって、コツをつかんできれいに織れるようになると、もっと織りたい意欲にかき立てられました。細い糸を使って、幅を整えながら一定の繰り返しで織る平織りが好き。実際に織る中で、自分の好きを発見しています。

実は入学前は、織りに対して苦手意識がありました。高校の授業でも織りを経験したのですが、当時はわからないままに織っていたからです。今、綴織の授業を受けていて、疑問があるとすぐに先生に聞いて解決できます。様々な技法を細かく教わり、都度理解しながら進んでいけるので、今は織ることが楽しいです。織るたびに、自分の中から湧き上がる作りたい気持ちに気づく日々。できることが少しずつ増えているので、これからの制作が楽しみです。

スクールの窓から 2「デザイン演習 I」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このコーナーでは、そんな専門コースの授業の一部ををお届けします。今回は担当講師による紹介です。(不定期掲載)

5回目:デザイン

4月から5回にわたり、本科では「デザイン演習」の授業を行いました。授業ではデッサンをすることで果物や野菜などのモチーフとじっくり向き合い、5回目に織実習・綴の自由制作で織るタペストリーのデザインをしました。

普段の生活の中で、わかったつもりでいる物は意外と多くあります。果物や野菜もしっかり見る機会はあまりなく、食材として数秒間見て状態を確認するだけで終わりがちです。何時間もかけてじっくり見て、触れて、想像することで、新たな面を発見し、ものの見え方が変化する感覚を味わうことは制作において貴重な経験になると思います。そうした観察眼を磨くと、制作のインスピレーションをどこからでも拾えるようになり、モチーフとしっかり向き合った経験がデザインに表れます。なによりも、日常の中で見えるものが変わったりと、ワクワクすることが増えます。

綴のタペストリーのデザインではモチーフの面白いと思ったところからデザインをふくらませ、どういう場所に飾るかなどを想像してもらいました。6月には織実習で綴のサンプルを織り始めていたので、どういう糸や技法を使うかも考えてのデザインになりました。

学生にとって、この授業で得た新しい経験や見方が、今後の制作の下地になったら嬉しいです。

◆ 私にとって織りとは? 「レンズ」

制作をし、スクールで働くことによって身につけた織りの感覚がいつも自然と動いている気がします。日常生活の中で路面表示の矢のマークなどが絣の模様に見えたり、ものを測るのに織りの道具が基準になったりと、無意識のうちに織物のレンズを通して物事を見ていることに気づきました。同時に視野を広げて、織物の長い歴史の中での自分の役割は何だろう、と考えています。

(文・表 江麻)

〈表 江麻プロフィール〉
Instagram: @emma.omote

おもて・えま/京都精華大学芸術学部造形学科洋画科卒業後、川島テキスタイルスクール専攻科修了。着物を制作し、2009年より川島テキスタイルスクールで国内外の学生を教える。

在学生の声(専門コース本科) 2

2020年4月に専門コース本科に入学した方々の声を紹介します。そのうち3名に入学の動機や、織りとの向き合い方、4カ月を経た実感などについて今の率直な想いを語ってもらいました。3回シリーズでお届けします。

「織りの世界の奥深さを感じ始めて」神田愛子

東京の美術大学を休学して学びに来ています。大学では空間デザイン専攻ですが、布が好きで、自分で制作できれば幅が広がるので、作家として自立できる技術を身につける目的でここにいます。

スクールを知ったのは、大学2年の夏。ファッションの授業で川島織物((株)川島織物セルコン)の製品の画像を見たのがきっかけです。当時、卒業後は就職という固定観念がありましたが、同時期に民芸展で見た映像に刺激を受け、いろんな生き方があると知り、私も好きなことに飛び込んでみようと心を決めました。

見学時、在校生の作品や、修了展に向けた制作風景、数々のタペストリーを目にして、入学したら作れるようになる姿を思い描き、ここでなら私自身、大きく変われると思ったのです。同じ大学のテキスタイル学科への転科も選択肢にありましたが、このスクールは授業の密度が高く、織機の種類も豊富で様々な織法を学べるので、幅広く経験しながら自分に合う織りを見つけられると思います。

今は、織りの奥深さを感じ始めています。糸や布の表情の違い、織りの自由度を知り、異素材とのかけ合わせに興味が湧いています。今まで知らなかった織りの可能性が見えてワクワクしています。


在学生の声(専門コース本科) 1

2020年4月に専門コース本科に入学した方々の声を紹介します。そのうち3名に入学の動機や、織りとの向き合い方、4カ月を経た実感などについて今の率直な想いを語ってもらいました。3回シリーズでお届けします。

「自分の在り方、生活全体で変化を感じるように」Nさん

「はじめての織り」からワークショップをいくつか受講。そこで出会った受講仲間の多様で自立した生き方に魅力を感じて、私も自分なりの土台を作りたいと、基礎からしっかりと学べる専門コースへ進学しました。

子育てが落ち着き、今後の人生を考えた時に、織物の仕事に携わった祖父母を思い出したのが、織りへの興味の始まりです。中でもショールが好きで、人を温めるもの、身にまとった人が幸せな方向に向かう手助けになるような本物を、いつか作りたい。まずは色彩や素材を知り、デザイン力を身につけること。いざ、ものづくりを始めて、イメージを形にすることの難しさを感じていますが、最近少しずつ、先生のアドバイスの意味がわかるようになってきました。

平行して普段の生活でも、物事に取り組む姿勢、自分の在り方そのものに変化を感じています。自分の気持ちを表現する大切さを知り、どうすれば相手に伝わるかを考えて行動するようになりました。家庭との両立は大変なこともありますが、年齢や背景の違う仲間や先生との関わりにいい刺激をもらい、助けられています。自然豊かな環境の下、自分と向き合い、精神を注いで織る感覚が好き。織りを通して、生活全体で自分を高められる時間を過ごしています。


スクールをつづる 8

創立47年の歩みをたぐり寄せながら、現在のスクールのことをご紹介する全8回シリーズ。

どんな先生たちがいるの?

本科織実習 綴

それぞれの技能や経験を生かして指導しています。
専任講師の中には、川島織物で藤ノ木古墳の復元織物などに関わった熟練の染色の専門家や、
スクールで40年近く、ホームスパン一筋で教えている講師も。

他に綴、着物、帯、組織、絣を専門とする専任講師がいます。
皆に共通しているのは、織物に出会って魅せられ、純粋に好きであること。
その伝統に敬意を持ち、美しい織物作りを大切にし、織りを通して
一人ひとりの暮らしが心豊かになるように願って、丁寧にサポートしています。

外部からもアーティスト、デザイナー、技術者などを講師に招き、刺激と安定感とのバランスで、
風通しのいい環境を作っています。


※「スクールをつづる」シリーズは以上です。次回シリーズは「在学生の声(専門コース本科)」です(8/18初回配信予定)。


スクールをつづる 1 学校のなりたちは?
スクールをつづる 2 どんな学校?
スクールをつづる 3 どこにあるの?
スクールをつづる 4 どんな環境?
スクールをつづる 5 どんなコースがあるの?
スクールをつづる 6 専門コースはどんな授業?
スクールをつづる 7 どんな人がどんな目的で学びに来るの?