スウェーデン留学記1 創作科 萩原沙季

専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。

9月から留学中の萩原沙季さんから初回の近況報告が届きました。萩原さんは11月まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。


週末に登ったストックホルム市庁舎のタワーから、学校がある方角の眺め

スウェーデンに無事到着し、9月から学校が始まってあっとういう間に4週間が経ちました。最初は英会話さえ不安なこともあり、とても緊張していたのですが、クラスメイトたちも先生方もみんな親切でやさしく、穏やかな方たちばかりなので、今ではすっかり安心して楽しく毎日を過ごしています。
クラスメイトのルーツがスウェーデンだけではなく、他国からの留学生がいることもあって、授業でも先生方がスウェーデン語の後に必ず英語で説明してくださったり、誰かがすぐに気がついて訳してくれたりします。もちろん質問をするとすぐに答えてくれますし、幸運なことに日本人のクラスメイトもいるので、情報交換もできて本当に助かっています。また、資料がウェブ上のシステムで共有されているため、授業でよくわからなかったことがあっても後で確認できます。

制作のモチーフになっているGröna Lund

授業ではまずダマスク織、続いてアートソーイング(刺繍などの技術を使って1m四方の作品を作る)に取り組むのですが、今年はどちらもGröna Lundという学校のすぐそばにある遊園地からアイディアを練ることになっています。はじめに見学に行った後、撮った写真やスケッチなどを元に各自でデザインを進める授業もありました。
ダマスク織の授業では、その仕組みを講義で学びつつ、経巻きや綜絖通しをしてからダマスクの装置を設置するなどの準備作業を経て、4週目からやっと織り始めました。

機の中に座ってパターンの綜絖に経糸を通しているところ。
ダマスク織の仕組み上、綜絖通しを二回します!

ダマスク織は2人で1つの機を使うことになっており、ペアになったクラスメイトと相談の結果、経糸は太めのウールの糸、緯糸はシルクで織ることになりました。最初に織るのは私だったため、ちょうど織り終わったところです。不慣れなこともあってたくさん失敗しましたが、先生やクラスメイトがフォローしてくれて、なんとか終えることができました。

ダマスク装置で織っているところ。
綜絖枠が2種類あります(踏木に繋がっている4枚と、後ろにあるパターン用の21枚)

住まいは、同じHVの学生が親切にもストックホルム郊外の自宅の庭にあるミニハウスを貸してくれています。たいへん居心地がよいうえ、キッチンやシャワー、トイレが完備されていて、贅沢すぎるほどです。時間があう日は一緒に登校して、お互いの授業を報告しあっています。
学校へは地下鉄のブルーラインでストックホルムの王立公園駅まで行き、そこからトラム(路上電車)に乗り継いで通っています。トラムは学校のすぐ前に駅があり便利なのですが、初週に何かのトラブルでその日の電車が全てキャンセルになるというハプニングがありました。こういった情報はアプリで得られるものの、まだ見方がよくわかっていませんでした。幸い時間に余裕があり、天気もよかったため、結果として美しい風景を眺めつつのよい散歩になりました。(ちなみに、こういう場合は臨時のバスが出るので、それに乗ればよかったようです。)

いつもトラムに乗り換えている駅。王立劇場(左側の建物)の目の前にあります

Fikaという文化については知っていたものの、初日に配られた予定表にもしっかり組み込まれていることには少し衝撃を受けました。コーヒーやお茶を片手に談笑する時間をとても大事にしていて、このような余裕をもつために、自分の進捗を考えて残れる日は残ったり、土日に登校するなど、見えないところで各自調整しているようです。でも決して無理をするわけではなく、忙しい人がFikaを早めに切り上げていても誰も気にしません。いい意味でみんなマイペースというか、お互いに状況が違うのは当たり前なので、それを尊重しあっている結果という感じがします。

この日のFikaはクラスメイトのお誕生日会も兼ねて、各出身国の歌でお祝いしました

また、4週目の最後に、ストックホルムから電車で北へ2〜3時間ほどのGävleという街で行われたVÄV MÄSSANに行くことができました。スウェーデン国内外から織物やニットに携わる作家や企業、HVをはじめとする学校がブースを出す、お祭りのようなイベントです。当日はクラスメイトにHV以外の学校で学ぶ学生や作家さんを紹介していただいたり、作品を拝見したり、素材や道具を吟味したり…と出会うすべてのものが貴重で目が回りそうでした。もっと下調べをしておくんだったと少し悔やんでいます。

織機のロールスロイスといわれるÖxabäckのブース

Fikaやランチの時間には、染織をはじめとする手工芸が社会でどのようにみなされているか、そのようななかでどうやって織りを続けていくか、ということが少なからず話題になります。いつも朗らかなHVの学生たちですが、それぞれ手仕事に対する情熱を秘めていて、将来に対しても明確な希望があるようです。
無論、制作に対しても真剣で、クラスメイトたちは短時間で質の高いデザインを何案も出し、その上で美しく織り上げており、毎日感銘を受けています。つい自分と比べてしまい落ち込むこともしばしばですが、私のポートフォリオを見てもらえる機会があり、みんな質問をたくさんしてくれたり、インスピレーションを受けたよ!と言ってくれたりして、とても嬉しかったです。
尊敬するクラスメイトたちと共に学べることはこの上ない喜びであり、HVでの日々を悔いなく大事に過ごしたいと思います。