在校生インタビュー第2回は、北海道から来てフルリモート勤務をしながら本科で学んでいるIさんに、入学の動機や、どのように授業と仕事をやりくりしているのか、織りとの向き合い方などについて語ってもらいました。
◆一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう
—まずは「はじめての織り10日間」のワークショップを2020年に受講し、そこから専門コースに興味を持った経緯を教えてください。
織りにはずっと興味があり、基礎から学びたいと思ってワークショップを受講しました。実際ついていくのがやっとでしたが、最初から上手くできなかったからこそ、もっとやってみたい、もっと知りたいと思ったんです。続けて他のワークショップも受けていこうとしたのですが、コロナ(の大流行)が始まって(移動の制限などで)学びに行きたいのに行けない。それで卓上機を買って自宅で復習し、他の所でも講座を受けたのですが、糸の準備からではなく経糸がかかっている状態で織るだけの内容で、なかなか身につかずに物足りなさを感じていました。いつか専門コースで本格的に学べたらいいなという夢はありましたが実現可能とは思っていなくて。その頃、仲のいい友達が亡くなって、これから私どう生きたら後悔しないんだろうって生き方を見つめ直し、残りの人生かけて好きなことをやりたい、私が一番好きなのは織り、と思いが強くなっていきました。
——入学願書を提出するという行動に移したきっかけは?
娘の結婚が決まったことと、スクールのブログで在校生インタビュー記事を読んだことです。娘に、これまで私は好きなことをさせてもらってきたから、これからはお母さんに好きなことやってほしい、何やりたいのって聞かれて「織りやりたい」と答えていました。今年2月にたまたまブログの記事を読んで、インタビューの最後に在校生のSさんがおっしゃっていた「自分第一主義」という言葉が胸にストンと落ちたんです。それまで私は自分ファーストにはなれなかったのですが、その瞬間、行こって。一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう。大好きな織りを中心に置く生き方にシフトし、自宅にアトリエを作って「織りの生活」をしようとイメージがはっきりと浮かびました。意志が決まったら悩みや雑念が消えて、願書を提出。ワークショップ受講時に学校も寮の環境も経験しているので気持ちが楽でした。学びに行くからと娘に報告したら、本当に行くの!?と驚いてましたね(笑)。
◆仕事を続けたかったので、授業と両方を回す生活に
——専門コースでフルタイムで学びながら仕事を続けるために、どう準備したのでしょうか?
仕事は販売事務で、コロナ以降にテレワークになったと同時に、外勤から内勤に業務が変わったんです。願書を出すタイミングで勤務先の社長に、織りを学びたいから京都に行っていいですかと確認し、いつも通りちゃんと仕事をやってくれるならいいよ、と了承を得ました。学びに専念するなら仕事を持ってこない方がいいとは思いますが、私は仕事を続けたかったんです。織り中心の生活はしたいけど、織りを仕事にしようとは考えていないので。
——実際に授業と仕事をどのようにやりくりしているのでしょうか?
仕事は授業が終わってから夜と週末に、繁忙期は早起きして朝やる時もあります。打ち合わせは授業外で時間を調整してオンラインで、また会社の状況がリアルタイムでわかるシステムがあるので、急ぎの場合は昼休みに集中してやる時も。夏休み期間に出勤、戻ってきて代休を取り、今はまた両方を回す生活です。
——ペースをつかむまでは大変だったのでは。
最初の学期はすごく緊張感がありました。織りも仕事も完璧にやろうとしていたので、どちらも一生懸命するほど織り軸なのか仕事軸なのか混乱して、仕事を持ってくるんじゃなかったと思って悩んだ時期もあります。ですが2学期に入ってからは吹っ切れました。夏休み明けに職場のみんなが快く送り出してくれて、仕事量は(緩急つけて)調整し最低限迷惑をかけずに、自分の使命はやりきるぞというスタンスに切り替えたんです。いまやっと心がフラットになって、織りを学んでいる時間は自分へのご褒美だなと思えるようになりました。
◆間違いに気づける自分になれたのが嬉しい
——本科で学び、半年経った今どんな実感がありますか。
織り実習は早いペースで進むので追いつくのが大変で、間違いも多かったです。最初の学期はつらくて、どうしようって娘にこぼした時、“もう”4カ月経ったけど目標はつかめているの?と問われてはっとしました。夏休みや冬休みに入ったらあっという間だし(本科1年間の)学期のサイクルはあと2つしかない。自分で目標をつかんだか、つかんだらそこに集中したらいい、と。1学期最後、8メートルの布を織る実習に入ってからは、自分なりの“今日の目標”を立て、毎日クリアできたかを確認しました。この時点で自分はゆっくりペースだとわかっていたし、ひとつずつ目の前の目標に取り組むことで集中してできたんです。平織りで長く織る分、機の調子がなんか悪い、糸が引っかかってる? 私間違ってる?と気づけるようになって、自分が間違いやすい所もだんだんわかってきて。そうやって気づける自分になれたのが嬉しくて!
——この先アトリエを持って織りの生活をするイメージに近づいているのでは。
そう、「織りの生活」ができるって思えたのがたまらなく嬉しかったですね。きっと間違って気づくプロセスがなかったら、私の場合は身につかないんだろうなと。今は慌てず対処できるようになったし、間違った原因を見つけられたら知恵を一ついただきました、ありがとうって思えるように。織りの生活に向けて必要なものを得ている実感があります。やっぱり私は織りが好きだなと、かみしめています。
——好きを再確認できたのですね。
このスクールには私の好きがたくさんあります。ホームスパンの実習も大好き。羊毛の染色で失敗したのですが、まだらに染まった羊毛が糸に紡いだ時にどう混ざるのか、織った時にどんな色になるのかと思いが広がります。静かなアトリエも、緑に囲まれた環境も、道具を見るのも好き。静寂の中で織る経験から、私は一人で集中して織るのが好きだと気づきました。先生に話したら、ここでの気づきはこれから役に立ちますよと言われて、そんな瞬間瞬間を集めて嬉しくなるんです。2学期に入って、自分の好きに集中する瞬間が増えています。