在校生インタビュー第3回は、学生の頃に川島テキスタイルスクールを知って以来、数十年越しに学びに来ている柳原久美子さんに、入学に至った経緯や、3月の修了展に向けて作品制作に向き合う思いなどについて語ってもらいました。
(インタビューは2024年10月に実施。)
——まずは入学の経緯を教えてください。
学生の頃、広島の実家から一番近い短大の染織コースに通っていました。進路相談時、繊維学専門の担任の先生が、学びを深めるのに川島テキスタイルスクールを勧めてくださったんです。私も進学したい気持ちはあって、学校見学にも行ったのですが、当時は家庭の事情であきらめてしまいました。以来ずっと思い続けていたわけではないのですが、学校の存在は心に残ってて。昨年大きな病気をし、回復していく中で残りの人生を考え、まだ何かできる可能性があると思った時に浮かんだのが、この学校でした。やっぱりものづくりがしたいという気持ちや、当時もっと学んで身につけたかった、とやり残したことを思い出したんです。ひとまずは病を乗り越えられたので、無難に日常生活に埋もれていくより、今こそ、この学校に来てみようと。家族が背中を押してくれ、オープンスクールに行って、願書を出そうとその場で決心しました。
——そこから入学して7カ月が経ちました。本科は盛りだくさんのカリキュラムですが、学びの実感はいかがですか。
私は絵を描くのが好きなので、まずデザイン演習Iのデッサンにワクワクしました。(テーマ性のある作品をつくる)デザイン演習IIで、自分で集めた素材が作品づくりにぴったりきた時は嬉しかったですね。どちらかといえばデザインの授業に惹かれます。今は修了展に向けて個人制作に入っていますが、イメージしてデザインするという最初の段階でじつは戸惑っています。最初から自分でじっくり考えてものをつくるってむずかしい。考えを大事に温めきれていない自分に葛藤するし、先生に話を聞いていただきながら試行錯誤している状態です。

——今のお話を聞きながら「ライフ・デザイニング」という言葉を思い出しました。川島テキスタイルスクールの基礎を築いた木下猛理事長(故人)が「手織りを通じて生き方を創りあげる、つまりライフ・デザイニングを学ぶことができる、そんな学校にしていこうと考えました」と、創立時(1973年)の理念を語った記事が学校に残っています。ものづくりを通して自己を見つめる。その中で本当に好きなものや苦手なことに気づいたりして、新しい自分に出会っていく、と。
当時、私にこの学校を勧めてくださった先生(故人)は、川島テキスタイルスクールに行けるように家族と話をしましょうかとまで言ってくださったのですが、それは無理だと思い込んで断ったんです。ライフ・デザイニングという理念は知りませんでしたが、やっぱりこの学校を勧める先生の確信みたいなものがあったのかな、そのことも含めて先生は私に勧められたのかな、と振り返って思います。
——自らの意思で学びにきている今、新しく変わっていく過程にいるのでしょうか。
そうですね。私自身も枠を外して自然体になれたら。デイサービスに通い始めた母が最近言うんです。「案ずるより産むが易し」ねって。私もそうなれたらなと思います。あとは私がどういうふうに楽しくできるか、です。今取り組んでいる個人制作で、先生たちとのミーティングが毎回かなりインパクトがあります。自分がこうだと思っていても、別の方向からアドバイスをもらって、こんな表現ができるのか、こんな自分がいるのかと驚くことが多くて。作品づくりってすごいなって。
昨年、大病でしんどかった時期、花はこんなに美しいのかとはっとしたんです。自然の光や風や香りすべてが美しく、まるで初めてのように感じました。あの時の感覚を忘れたくない。でも日々の生活の中で忘れちゃうんです。あの感覚を織り込んで作品が作れたら、見てくれる人に届けることができたら素晴らしいだろうなと思います。
この学校にいる間に、一つでも自分が納得できる作品がつくりたいです。
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*柳原さんが在籍する専門コースの学生たちは今、3月の修了展に向けて作品制作に励んでいます。川島テキスタイルスクールでは専門コースの1年目から作品を出展することができ、今年の本科生の作品は、グループ制作の綴織タペストリーをはじめ、個人制作では音を絣で、心象風景を綴織で、人生に見立てた花を縫取り織りでそれぞれ表したタペストリーや、空間に浮かぶ織物、犬のためのラグ、緯糸を手紡ぎしたブランケット、とバラエティに富んだ作品が揃います。
2024年度川島テキスタイルスクール修了展
会期:2025年3月5日(水)- 3月9日(日)
会場:京都市美術館別館1階
時間:10:00-17:00 入場無料
*2025年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は3月6日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。