スクールをつづる:綴織編7 修了生インタビュー「綴織職人と作家活動、2つの織りに励む」陳 湘璇さん

 綴織編シリーズ最終回は、修了生インタビューです。KTSを修了後、2020年4月に(株)川島織物セルコンに入社した陳湘璇さんは、作家活動をしながら綴織職人として働いています。陳さんに現在の仕事や、一人で作品制作を行うのと複数で大きな緞帳を織る感覚の違いや面白さ、学生時代にグループ制作した綴織タペストリーを振り返って今思うことなどについて、話を聞きました。

綴織の練習をする陳さん

——現在の仕事で感じる綴織の魅力や学びを教えてください。

 今は緞帳の方で勤務してますが、最初に綴織に魅了されたのは綴帯の製作風景を見学した時です。職人の手元を覗くと、爪先ですごく細い緯糸を綺麗に掻き詰めていて、その職人の姿に憧れました。綴織は、出来上がった織物だけではなく、最初の原画製作から緯糸作り、製織、仕上げ、道具まで全体が魅力的です。

 仕事では織りだけではなく、綴織緞帳に関する技能全般を習得しています。研修で覚えた綴織の技法を本番の製織で実践し、無地から柄まで織っています。綴織は爪掻きの加減により織面が変わってきます。最初は凸凹になりましたが、今はその加減を意識して織るようになりました。柄も下絵の通りに織るのではなく、一つひとつの形をどう織るのか、経験を積んで目と体で覚える。教科書はないので、まず先輩達に聞きながら覚えていき、仕事で応用するような毎日です。

——綴れ織り職人の仕事をしながら作家活動を行っておられることについて、どのように考えてその道を選択されたのでしょうか。

 実は複雑に考えてないです(笑)。日本の伝統文化に深く関わる事ができればありがたいと思っていたので、(株)川島織物セルコンから綴織職人の求人がKTSに来た時、いいチャンスだと思って応募しました。ですが、自分の作品制作も諦めたくないので、綴織職人はフルタイムの仕事ですが、仕事以外に時間がある限り作品も作ろうと思いました。自分を作家と言える自信はないですが、ただ思い付いたモノを作り出したい気持ちがあると強く感じています。それで、今の道に進みました。

家書4/1/20-6/7/20 mom, i’m fine 4/1/20-6/7/20
「コロナの災いから、自分が日々存在している事を改めて認識し、強く感じていました。心境の変化の記録として、生み出した作品です。 」
「Kyoto Art for Tomorrow 2021 ―京都府新鋭選抜展―」に出展)

——1人で織るのと、複数で大きな緞帳を織るのは、感覚が違うと思います。作家活動を並行して行う陳さんだからこそ感じる、それぞれの感覚の違いや面白さを教えてください。

 1人で作品を作る方が自由ですが、1から10まで全部自分で決めないといけません。私の場合は大体ラフなデザインをして、素材などを実験しながら最終的なデザインに向かう事が多いです。いつでも自分の意思で変更できます。織る時もマイペースで織れます。ですので、自分に責任を持てればいいという感じですね。

 それに対して緞帳は分業制で、ルールに基づいて複数で織っていきます。私はまだ新人なので、勝手な思い込みで織ってはいけない。自分でデザインした作品ではないので、なるべく原画に忠実に綺麗に織れるのが目標です。そのため、常に「川島織物の商品を作っている」という意識を頭の中に入れて、お客様に責任を持って制作しなければなりません。

 自分の作品作るのはもちろん楽しいですが、他人のデザインを織れるのも意外と面白いと思います。自分が持ってないモノや発想がチャレンジのように感じて、勉強になってます。

——KTSでの学生時代、グループ制作で綴織タペストリーに取り組み、作品は今も市原の福祉施設で飾られています。リアルな梅の木の模様や、光が差し込む表現を取り入れた凝った作品で、そこには織り表現を生かした原画の力があったと思います。制作にあたり、陳さんは原画を作り上げて織りに取り組みました。今、業務として緞帳を織るのに多くのルールを学んでいると思いますが、当時を振り返って、学生時代だからチャレンジできたり、ルールを知らなかったからこそ生まれた自由な発想や面白さなどはあったと思いますか?

 そうですね。最初は抽象的なものを作ろうと思ったんですが、施設の方はリアルな方がいいとおっしゃったので、私たちは梅の木を観察しに行って、沢山の写真を撮りました。その時観察したのは花が咲く前の梅の木ですが、逆にもの凄い力を感じました。そして、如何に梅の木の生命力をタペストリーで表現し、人々に伝えるかは課題でした。

 綴織はまだ初心者なので、織の視点から原画を作ろうとしてもなかなか難しかった、ただ私たちが感じたモノをひたすらに原画にしようとしたと思います。例えば、光を浴びた幹の個性や新芽の活発さなどを重要視しました。できるかどうかや、どう織るかはほとんど横に置いといて、「描けばなんとか織れるでしょう」という甘い考えでしたね。

 リアルと言っても、あまりにも具象的すぎると面白くないと思ったので、緯糸の色表現においては、現実と想像的な世界の間にあるようにしました。制作が進むと、やはり織で幹の陰翳や光の表現が特に難しかったです。細い新芽を織るのも大変でした。

——出来上がったタペストリーを見て、施設の方が「とても力強い命を感じました。高齢者にとっては生きる意味を力強く後押し、命の尊さを与えてくれる作品のように思います」と感想をおっしゃっていました。

輝樹 (2019)

−−スクールで学んだ土台があってよかったと仕事で実感することはありますか? ある場合、具体的に教えてください。

 スクールである程度の織物に関する知識を学べたので、職場で先輩が技法や組織のことを説明した時は分かりやすかったです。それと技術的な仕事をする時、多少慣れはありますので、それで良かったと思います。しかし、学んだからと言って、自分の思い込みでやってはいけないですね。織物は場所や人などによって、それぞれの用語や技術も違うので、やはり先入観を持たず、教えていただいた事を理解するのが大事です。

instagram: @shung_shouko

陳さんがKTSで学んだ経緯などは、「スクールをつづる:国際編8 修了生インタビュー『世代をまたいだ繋がり、日本語習得して長期留学』陳 湘璇さん」で紹介しています。