専門コースではこのほど課外研修として、西宮市大谷記念美術館で開催されている特別展「スウェーデン・テキスタイル展 暮らしと自然に息づく北欧デザイン」(6/28まで)を鑑賞。今回特別に学芸員の方よりスライドに合わせてスウェーデン・テキスタイルの歴史や変遷などを解説をしていただいたのち、約250点のカラフルでシンプルで美しいテキスタイルや関連資料を見て、暮らしに息づいたスウェーデン・テキスタイルの魅力に触れました。学生の見学レポートを紹介します。
住宅街の中に見えてきた生垣に沿って進むと、立派な仕立ての松が覆いかぶさるように迎える。初めて訪れた西宮市大谷記念美術館の入り口の看板には「スウェーデン・テキスタイル」の文字。3月に開催を知った時から、楽しみにしていた展示だ。

鑑賞の前に、学芸員の下村さんから作品解説をしていただいた。はじめに美術館の概略に触れ、同館の特色として絵画や彫刻だけでなく「デザイン」の価値についても重視していることを知った。誰もが一度は目にしたことがあるだろう工業デザインを手掛けた作家の作品など、いわゆる芸術作品に囚われない収集や展示を積極的に行ってきたそうだ。今回も、北欧と一括りで紹介されがちな中から一国に焦点を当て、スウェーデンのテキスタイルデザインを掘り下げている。
スウェーデンでは、思想家・教育家のエレン・ケイが提唱した、特権階級のみが享受してきた“美しいもの”は、全ての人々にひらかれるべきものであるという思想「万人のための美」が、テキスタイル産業に携わる多くのデザイナーや実業家にも影響を与えた。対比として、中世の手仕事に立ち戻ることを理想としたイギリスのウィリアム・モリスを挙げており、19 世紀において様々な思想を軸に、各地でものづくりの在り方が模索され、それぞれに特色あるデザインへと繋がっていったことがわかった。
今回の展示品約250点の内、約8割がサラ・アクステイリウスさんという方のコレクションだという。そういえば、こっそり数種類集めて眺めていた案内チラシの隅に、タイトルやデザイナー名に続いて彼女の名前があったことを思い出す。10代の頃からテキスタイルを収集してきただけでなく、それらを使った洋服を身に着けて楽しんだり、デザイナーが不明になっていたテキスタイルの情報を明らかにしたりするなど、とにかくテキスタイル愛に溢れた人だということが伝わってきた。他にも、展示品借用の為に現地のデザイナー宅に直接足を運んだ際のエピソードなど、展示への期待が高まるお話を聞くことができた。

最初の展示室へと足を踏み入れると、早速多様な色彩と豊かなデフォルメ表現のテキスタイルに迎えられた。手書きのような温かみのある小さな連続モチーフから、布からこぼれんばかりに開く大輪の花々、壁に鈴なりの果物。続く部屋にも、国土の大部分を森林や湖が占める土地ならではの動物の姿や著名な物語の一場面、スウェーデンの人々が大切にしているお茶の時間「フィーカ」をイメージしたものなど、とにかく幅広いデザインに時間を忘れて見入ってしまった。 暮らしの中にこんなテキスタイルがあったら、自然と気分が高揚するような、日々を楽しくしてくれるデザインに胸が躍る。また、簡略化したモチーフときっちり細部を描きこむ部分とが、一つのテキスタイル上で上手くバランスをとって同居していることも印象的だった。一見シンプルなのに、デザイナーの、この部分の表現は外せない!といったこだわりも現れているように感じた。
とはいえ、第二次大戦以前のスウェーデンではテキスタイルデザインを外国から輸入する形態が主だったそうだ。テキスタイル専門の教育機関の設立や、インテリア会社のテキスタイル部門の設置など、国内のデザイナーがその役目を担うようになり、戦後多くの素晴らしいデザイナーが誕生、活躍した。3つ目の展示室では、スウェーデンのテキスタイル最盛期を牽引したデザイナーたちが手掛けたテキスタイルを見ることができた。彼らのデザインからは、大胆でありながら不思議と暮らしの中に馴染む洗練された印象を受けた。当時はもちろん、現在でも人々に愛されるデザインも多くあるという。

最後の部屋には、これらのテキスタイルがどのように使われ、暮らしの中に取り入れられているかを、様々な形で紹介していた。デザインを引き立てるようにシンプルに仕立てられた洋服に、見る人を思わずわくわくさせる手書きのスタイルブック、優美な曲線を描く素敵な椅子に負けないくらい存在感を放って壁を彩るファブリック。ここまで生地として見てきたテキスタイルを暮らしの中に見ると、また違った表情を見せることを実感する。鑑賞するためのものではなく、使うものにも美が宿っているということに、テキスタイル産業の成り立ちを見てきた後では、感慨深さを抱かずにはいられない。そして、スウェーデンにはデザイナーや手工芸に携わる人々を育てる場所がいくつもあり、この先も素晴らしいデザインが生み出され続けるのだろう。

展示の締めくくりには、“未来へ受け継ぐ”と題したスウェーデンの手工芸やデザインに関わる団体紹介と並んで、昨年スウェーデンへ留学していた先輩の萩原さんが織った作品も展示されていた。以前にも見せていただく機会があったにもかかわらず、会場や展示の趣旨を踏まえて見るとその時とは異なる雰囲気を纏って見える。この会場で改めてじっくり見ることができてよかった。
見終わった後に残った楽しさや嬉しさは、おそらくこの展示を見た多くの人々と共有できる感覚ではないだろうかと振り返る。「万人のための美」を、身をもって体感したようだった。
