専門コース3年目の創作科では、希望者は選考を受けた上で、提携校であるスウェーデンのテキスタイルの伝統校 Handarbetets Vänner Skola(HV Skola)へ最長3ヶ月の交換留学をすることができます。
9月から留学中の萩原沙季さんから2回目の近況報告が届きました。萩原さんは11月末まで、ダマスク織りや刺繍などの授業に参加します。

10 月も瞬く間に過ぎてしまいました。今年のストックホルムの秋は例年より暖かいようで、よいお天 気が続き、紅葉がとても美しかったです。一方で日がどんどん短くなり、最終週の日曜日にはサマータ イムも遂に終わってしまい、16 時頃には外が薄暗くなっています。
授業では、10 月の初めにはダマスク織の作品が完成し、最後に発表会がありました。いわゆる講評会とは主旨が異なるもののようで、まず作品だけではなく、アイディアを練る段階のスケッチや参考写真 なども壁やボードに貼り付けて準備をしました。発表の持ち時間は 30 分間で、デザインの着想をどの ように得たかという所から、作業を進める上でぶつかった問題点とそれをどのように克服したか、そし て織り終えた後の反省点や感想まで、正直に説明します。その後の質疑応答では、いいなと感じた点を ほめたり、反省点についてフォローするなど、みんなポジティブな反応をしているのが印象的でした。
自分の発表は緊張しましたが、クラスメイトたちの作品は完成度が高いだけではなく、とても個性豊かで見ているだけでも楽しかったです。さらに、それぞれがアイディアスケッチからデザインに発展さ せていく過程を共有できたことも、大変勉強になりました。
同じダマスクという技法を使っていても、素材や色の選択などによって生まれる表現が全く異なるこ とを改めて実感し、自分でもまた織ってみたいなと思いました。

ダマスク織の発表会が終わるとすぐにアートソーイングの授業(制作)が本格的に始まりました。技法も素材も自由であるがゆえに自分で決めなければいけないことが多く、デザイン上の制約があるダマスク織とはまた違った難しさがあります。
授業ではデザインする時間はとられていなかったため、事前に担当のカタリーナ先生とミーティングをするなど、ダマスクと並行しつつ各自デザインを進めておく必要があり、なかなか大変でした。試行錯誤の結果、私は布にタックを寄せてからステッチをかける技法をベースに、ウールとシルクの生地を使って、遊園地の乗り物が回転する様子と、園内の至る所でみられた電球による装飾を表現することに決めました。

アートソーイングの授業で取り組んだ作品は、11月にGröna Lundの横にあるカフェBackstage で展示されます。1m四方相当の大画面をひたすら「縫う」ことで構築することは、予想以上に技術と時間が必要でした。作業に当てられた期間は約2週間しかなく、クラス全員が疲弊しつつも、それぞれのこだわりが詰まった面白い作品ができてきています!

なお、10月1〜5日は、ストックホルムのクラフトウィークでした。HVのギャラリーでは、卒業生でKTSにも留学されたことがあるEmma Holmgrenさん、Katja Beckman Ojalaさんの作品と、クラスメイトたちが昨年度制作したラグの展示がありました。また、自習時間を活用してクラスメイトたちと市内の各地で行われていた展示会を訪れ、様々な作家の作品を観てまわることができ、とても興味深かったです。

10月後半には、週末にスウェーデン国会議事堂の英語によるガイドツアーに参加し、本会議場正面にかかるタペストリーを目にすることができました。エリザベート・ハッセルベリ・オルソンの原画を元にHVの工房で織られたものですが、スウェーデン各地で生産された素材が使われているとクラスメイトたちから教えてもらいました。ガイドツアーでも、議員たちは所属政党ごとではなく、選出された地域ごとに座ると説明があり、きっと様々な意味でスウェーデンを象徴する作品であること、そしてそれが手で織られたものである意義について考えると、感慨深いものがありました。
余談ですが、このガイドツアーに参加しようと国会議事堂前の列に並んだ際、前にいた中学生くらいの子たちが「これは次のスウェーデン語のツアーの列で、英語のツアーはもう中に入ってるよ」とすぐに教えてくれました。スウェーデンの人たちは外国人に対しても親切だなと感じたエピソードの一つです。
2か月をHVで学んで感じるのは、私がいるのが最終学年だからかもしれませんが、授業内容がとても実践的であることです。学んだ技術を基に自分で新たな表現を生み出すこと、さらにはクリエイターとして経済的にも利益を得ていくことを最終的な目標として、先生方も学生も意識していると感じます。
例えば、今回作品を学外で展示するにあたり、会場側との同意書を読み比べて議論する時間がありました。また、作業にかかった時間は細かく記録しておくこと、そうすれば注文がきた際に納期を答えられるから、と先生から教えられました。
なお、HVの学生が制作した作品を展示する際は、希望者は売値をつけることが可能です。それは作品が自己満足にとどまらず、社会的にも価値があるものとして表明することになると思います。学生である段階からそのことを意識することで、制作に対する姿勢も確実に変わってくるようです。私も今後はそのことを意識しつつ、制作と向き合っていきたいです。
