国際編

スクールをつづる:国際編10 修了生インタビュー「織りの学びをものづくりの姿勢や生活で育む」Flora Waycottさん

KTSは開校当初から国際的に門戸を開き、京都で手織りの確かな技術が身につけられると受講者の口コミで評判が徐々に広まって現在に至ります。国際編シリーズ最終回は、前回紹介したPrangさんの先生であるFlora Waycottさんのインタビューです。Floraさんは、交換留学でKTSで学び、ロンドンでテキスタイル・デザイナー、ニュージーランドの大学でテキスタイルを教えるキャリアを経て、現在はオーストラリアを拠点にアーティスト・イラストレーターとして活躍している方です。

オーストラリアの自宅のアトリエにて
Flora Waycottさん(イギリス・日本)
アーティスト、イラストレーター
オーストラリア在住
2003年、テイラード・コース*受講

*留学生を対象に、個人の要望にあわせて実施していたコース。2009年終了。

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

ウィンチェスター美術大学2年の3学期に交換留学として来ました。KTSの先生たちが、私の2、3カ月の滞在に合わせたスケジュールを組んでくれました。まずは堀先生による3日間の染色コースを受講して絹糸の化学染色と天然染色を学び、染めた糸で長さ6メートルの反物を織りました。それから絣の技術を学びたくて櫻井先生の指導の下、つばめたちが横全体に飛んでいるモチーフの長さ3メートルの布を制作しました。使用したのは絹糸で、茜の根を使って糸染めしました。(専門コース)1年次の中嶋先生によるスピニングのクラスにも参加し、羊毛から手紡ぎ糸も作りました。

−−ニュージーランドのマッセー大学ウェリントン校でテキスタイルを教えるようになってから、どうして教え子にKTSを薦められたのでしょうか?

私は、織りに強い関心を示した生徒であれば、KTSで新たな視点を得て、日本独自の技法の制作プロセスを楽しめるだろうという確信がありました。私のクラスの中でも常に注意深く、熱心で、優秀な生徒だったPrangは、大学卒業後も、熱心に織りの知見を広げていました。京都に行ってKTSで学ぶことは、彼女にとって織りの学びを深めるだけではなく、世界の中でも美しい場所に滞在して際限なくインスピレーションを受けられることにおいて、素晴らしい経験になるだろうと思いました。私は彼女の受講を聞いて嬉しくなり、私がそうだったようにKTSで素晴らしい思い出ができるように願いました。

2003年、KTSで機に向かうFloraさん。「絹の綛を茜の根で染めた後、櫻井先生に教わった絣の技法を使い、つばめが飛んでいる布を織りました。」

−−KTSでの学びで印象深かったことはありますか?

KTSで過ごした時間は、懐かしく思い出すことができる宝物のような経験で、深い感動が残っています。私は幼少期に日本で育ちましたが、京都に行ったことはありませんでした。京都に滞在し、このようなクリエイティブな環境に浸るのは夢でした。織りはゆっくりと目的を持って取り組む修練です。クラスメイトが細心の注意を払って、心を込めて取り組む姿勢を見るのはとても刺激になります。私たちは、自分で糸を染めました。まだ機に触れる前の段階で糸を紡ぐ機会も得られて、織りの全行程を初めから経験できたことで、仕上がった時の満足感が大きかったです。スクールは親密になれる環境でしたので、私たちは皆、互いのプロジェクトを知ることができました。週を追うごとに、それぞれが織り進んでいくのを見て楽しみながら、互いに励まし合っていました。滞在中に、かねてから興味を持っていた染め、織り、羊毛の手紡ぎ、絣といった様々な技術を試すことができたのは、とても幸運でした。

学びを楽しめたのと同様に、スクールの皆さんが温かく、友好的に接してくださったことを覚えています。ある日、私たちは学生グループで、有名な藍染作家の新道弘之さんの工房を訪ねて、彼の藍甕(あいがめ)を使わせてもらって1枚の布を染めました。そこで、スクールから参加した他の生徒たちと家族のように仲良くなれました。修了時に皆さんが、スクールで撮影した写真が入ったアルバムや折り紙で作った動物たち、手紙と小さな手作りの贈り物をくれました。思い出の品として、今もすべて持っています。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

テキスタイルの知見を広げ、創作活動の基盤を築くことができ、学生時代にKTSで学ぶ機会を得られたことをありがたく思っています。イギリスに帰国後の大学の最終年だけではなく、クリエイティブ業界で働きたいという目標に向かう方向性が見えました。KTSの先生も生徒も、作品の細部まで注意を払って大事に扱うことの恩恵と利点を教え込んでくれました。そのことを私は、アート作品や生活においても、できる限り実践しています。学び、成長し続けるために、できるだけ早くスクールに戻って他のコースを受講できる日を楽しみにしています。

−−Floraさんにとって織りとは?

織りは手をかけ、時間をかけるもの。焦って織る必要はなく、実際にそうはできません。織るには忍耐と献身、決意が必要で、それができれば、情熱を注げる最高の対象になります。織ることに専念して没頭する時や、織り進めるにつれて仕上がりが進化できる時、愛する何かに深く入り込んで静まり返った時間感覚すべてが、私には魅力的なのです。それは素晴らしい空間です。私は現在、アーティストでありイラストレーターですが、小さな機を持っているので、織りたいと思った時につながれる。織りの実践には、日々の暮らしに取り込める要素がたくさんあります。アート作品を制作する時でも、織りと同様に焦らず、大切に取り組むようにいつも心がけています。

「私にとって、絵を描くことと織りは本質的につながっています。細かなディテールと丹念に考えた構図は常に存在しています。」
website: Flora Waycott

instagram: @florawaycott

国際編シリーズをお読みいただき、ありがとうございました。2月16日からは「綴織(つづれおり)編」を予定しています。どうぞお楽しみに!

スクールをつづる:国際編9 修了生インタビュー「絣の作品を見せてくれた先生の足あとをたどって」Aroonprapai Rojanachotikulさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。手織りの世界において国際的な知名度があるKTSは、かつてスクールで学んだ方が修了後にテキスタイルを教えて、今度はその生徒の方が学びに来るという独自の繋がりが育まれています。第9回と10回は、そんな先生と生徒のインタビューをお届けします。まずは生徒のAroonprapai Rojanachotikulさんに先生から聞いてKTSを知った経緯、印象深かった学び、自身が考える織りとは、などについて話を伺いました。

クラスの準備としてサンプルの整理するAroonprapaiさん
Aroonprapai Rojanachotikul(Prang)さん(タイ)
テキスタイル・アーティスト、天然染料・顔料の専門家
タイ在住
2013年、天然染色ワークショップ
2014−15年、ビギナーズ・絣基礎・絣応用I,II,III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。かつてKTSで学んだ先生に、どのような経緯でこのスクールを勧められたのでしょうか?

私は、ニュージーランドのマッセー大学ウェリントン校のテキスタイルデザイン学科を卒業して、2012年にタイに帰国。ハリプンチャイにある手織りの研究所(Hariphunchai Institute of Handwoven Textiles)で訓練を受け、ブロケード織りのアーティストとして働いていました。1年が経ち、もっと他の織り技法を探求したいと思った時、マッセー大学の2年次に、私の先生だったFlora Waycottさんが自ら織った絣織りを見せてくれたことをふいに思い出したのです。日本の京都にあるKTSで絣を学んだと話していたことも。

そこで私はインターネットで検索して、KTSを見つけることができました。その時期に募集していた留学生向けプログラムを調べ、コースや施設、環境を調査する手始めに、2013年の天然染色ワークショップに申し込みました。その時、スクールで素晴らしい時間を過ごせたので、今度は絣コースを受講しようと決めました。2014年に再びKTSに戻り、より長く滞在できることで私は嬉しくなってFloraに連絡し、彼女の足あとをたどっていることを伝えました。Floraは、私がKTSで良い時間を過ごせるように願ってくれました。

−−KTSでの学びで印象深かったことはありますか?

スタッフも生徒も皆さんがとても親切に接してくれ、できるだけ手助けしようとしてくれたことです。クラスメイトは既にテキスタイルに携わっている人や、興味があってこれから学びたいと思っている人の集まりで、様々な分野の素晴らしい人々との出会いがありました。一緒に京都中の旅を楽しんで、生活や文化も共に学びました。授業では、染色で思うように色が染まらなかった時、多くの色をどうにか染め直すのに堀先生が手伝ってくださったのを今でも鮮明に覚えています。雪が降ってとても寒くて暗い日、経絣の経巻きをする時に、多くの日本の学生が手伝ってくれて仲良くなれました。冬休みが差し迫り、休み前に何とか織りあげようとして機から離れずにいた時も、彼女たちは私がきちんと食べているかを確かめに来てくれました。体調が優れなかった時も、皆さんが気遣ってくれた。多くの思い出ができたKTSを第二の故郷のように思っています。

「私自身の作品と、教えているワークショップのサンプル。椰子の葉の写本を作る伝統的な技法で、寺院への供物として作られています。へら状の竹と糸を織り合わせて作られています。織りとかぎ針編みの組み合わせです。この技法は、チェンマイのメーチェム地区でのみ見られ、今日では、この技法を実践している人はごくわずかです。」

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

私は今、教える仕事もしていることから、教え方も影響を受けたと思います。KTSの授業は、すべての過程において綿密かつ正確で注意深い。それは学習、教わる上でとてもいい方法だと思いました。KTSで教わったように、私も生徒をうまく導けるように心がけて教えています。そうすることで私自身も、体系的に細やかに教えるための修練になっています。

−−Aroonprapai (Prang) さんにとって織りとは?

時が経つにつれ、その意味合いが大きく変わりました。かつて、私にとっての織りは、自己表現のために作り出し、気持ちと手技をつなぎ合わせる方法でした。時折、ストレスを和らげることもできました。今、織りと私の繋がりは深まっています。私の体は機と一つになり、手が杼、頭の中ですべての糸を通して綜絖枠を上げ下げしているような感覚です。長い年月をかけて確実に、より意味のあるものになっています。織りと私を繋ぐものは、もはや機と織物の背景に留まらずに、私の人生哲学に影響を与えて視野を広げています。織っている時にミスが起こり、そこに学びがある。ほとんどのミスは修正可能。だからミスを恐れずにやってみようという教える上の指針となるのです。

instagram: @prang_aroon

スクールをつづる:国際編8 修了生インタビュー「世代をまたいだ繋がり、日本語習得して長期留学」陳 湘璇さん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。第8回からは3週にわたり、かつてスクールで学んだ方が修了後にテキスタイルを教えて、今度はその生徒の方が学びに来るというKTS独自の繋がりが育まれた修了生インタビューをお届けします。台湾で衣装デザインの仕事をしていた陳湘璇さんは、かつてKTSで学んだ先生からスクールの話を聞いたことがきっかけで、専門コース進学を決めて来日。日本語学校で語学力を身につけた上で、スクールで2年学んだ方です。その経緯と陳さんの思い、KTSの学びで印象深かったこと、自身が考える織りとは、などについて話を伺いました。

家書4/1/20-6/7/20 mom, i’m fine 4/1/20-6/7/20
「コロナの災いから発想した作品です。」
「Kyoto Art for Tomorrow 2021 ―京都府新鋭選抜展―」に出展予定)

陳 湘璇さん(台湾)
綴織職人(株式会社川島織物セルコン勤務)、作家
日本在住
2018年4月専門コース入学、20年3月専攻科修了

−−台湾で衣装デザインの仕事をしていた陳さんが、日本に留学してまでテキスタイルを学びたいと思った経緯を教えてください。

大学生の頃、アルバイト先の関係で、初めて天然染色のことを知りました。自分で手作りブランドも始めていて、知り合いの藍染の作家さんに藍甕(あいがめ)を使わせてもらって作品を作ったことから、染色の興味を深めました。その後も映画の衣装デザインの仕事を通して色々な布に触れるようになり、モダンなテキスタイルから古布まで様々な布との出会いが楽しかった。その中でも、ずっと日本の伝統染織に魅了されていました。よく通っていた布市場に日本生地の輸入専門店があって、そこで売られていた擬古布の生地が、模倣で作られたものでも質感や柄がすごく素敵でした。

より染織のことを知りたくなり、台湾の国立工芸研究センターで天然染織の研修を受けました。しかし短期で学べることには限りがあり、それに途中でどうしてもやりたい仕事が入ってきたので、織りの授業を受けずにやめざるを得ませんでした。その後、もっと学びたいという気持ちがずっとあったので、染織を学べる学校を調べました。行先は、最初から日本と決めていましたが、どこで本格的に伝統染織を学べるかは分かりませんでした。美大の大学院も考えましたが、実践の技術を学ぶのとは方向が違い、私が学びたい分野の専門学校も見つからずに悩んでいました。

そんな時、国立工芸研究センターで、私が受けた研修の担当の先生から、30数年前にKTSに通っていたという2人の先生を紹介いただいたんです。(その先生方は研修で基礎織の担当でしたが、私は織りの授業に参加できなかったため、研修中はあまり話せませんでした。)

−−かつてKTSで学んだ先生と出会い、どのような経緯でこのスクールを勧められたのでしょうか?

先生たちが教えてくれたのは、KTSの良い所は、染織の学校として織物の仕組みや技術的な事をたくさん学べること。学歴を気にしないなら(単位・学位制度が設けられていないため)、美大よりKTSの方を推奨するとのことでした。

そして、日本は世界の中でも織物に関する資料が充実していて、それは昔から世界各地から伝わってきたものをきちんと保管してきたからだそうです。先生たちがKTSに通うことにしたのも、当時、台湾工芸の父と呼ばれていた顏水龍という先生が紹介してくださったそうで、当時のKTSは紹介がないとなかなか入れない学校だったと聞きました。

当時、先生たちはKTSで織り組織について多く教わったそうです。話を聞いて特に面白かったのは、1人じゃ学び切れない内容だったので、2人それぞれ違う技術を学んで互いに教え合ったそうです。KTSで、本当に染織に対する豊富な知識と技術を得たようです。

願い (2020)
「古書と麻のフサ耳をメインに使った作品です。
素材の再利用は自分の中では常に求めていること。」

−−陳さん自身、日本語学校を経てKTSに入学した経緯は?

話を聞いて、すぐにKTSのことを調べてみました。学校のウェブサイトを見て、確かに色々な技法が学べそうだと思いました。英語で行う授業もありましたが、1年以上の長期コースはすべて日本語の授業とのことで、日本語を本格的に学び始めました。

実を言えば、海外留学は私の人生の予想外のことでした。行くのを決めた時はもう25歳で、一番頑張らなきゃいけない段階だと思っていました。それで、あまり日本語の勉強に時間をかけ過ぎると本来の目的に進めないと思い、台湾で仕事をしながら半年ほど独学で基礎を身につけてから京都に来ました。日本語学校での学習期間もなるべく短くし、日常で学校以外の場所でなるべく日本人と喋るようにしていました。半年通って日本語能力試験のN3レベルまで学んで卒業し、KTSに入学。

日本語能力について、一般の大学ではN2相当レベル以上が必要ですが、KTSはそこを気にせず受け入れてもらえて、本当にありがたかったです。その後も、コミュニケーションで丁寧に対応してもらえました。自分の日本語力に心配はありましたが、これ以上時間を費やすのは無駄だと思い、早くやりたいことやる方が大事だと私は信じていました。それでも、KTSに入ったばかりの頃は毎日ドキドキしていました。スクールで学んだ2年間は、本当にあっという間でした。

−−KTSでの学びで印象深かったことはありますか?

スクールで初めて織りに触れて、糸が扱えるようになったことを、未だに不思議に思う時があります。そして一番印象深く、大事なことを改めて考えると、それはテキスタイルの世界の視野が広がったことだと思います。専任の先生たちの他にも、作家や非常勤の先生など、色々な方のレクチャーを受けられて、創作をもっと自由に考えられようになりました。

台湾では大学卒業後、段々と自分のための創作に時間を費やすことが出来なくなりましたが、日本に来てKTSで学んだことで、改めて創作する楽しさを再発見できました。元々テクスチャ感のあるものが好きな私は、染織を学んだお陰で作品に使えるメディアや技法が増えて、異なる素材や織り組織で、より多様な表現ができるようになった気がします。この2年間がなければ、織物に対する視野が狭いままになっていたのではないかと。(今も狭い方だと思いますが・笑。)

−−陳さんにとって織りとは?

私が思う織物とは、時間と空間と思いの集合体です。織物は、他の動物にはなく人類にしかない物の一つであり、昔も今の人々も、その時代の風土や社会の風習に沿って織物を作っている。機能的でありながら、感性的でもある。例えば、なぜ昔の貴族の衣装をあれほど時間かけて刺繍するのか、なぜ原住民達の織物に抽象的な柄が必要なのか、斜紋織はどのような背景や需要によって発明されたのか、など織物は本当に奥深いと人に思わせる。一枚の織物に実は大量のメッセージが入っていて、それを味わうのがとても面白いと思います。

産業革命以降、現代の過剰生産に至るまで、織物に含まれた意味は無くなってきている傾向があるようですが、だからこそ、このような時代で、どのように、何のためにテキスタイルの作品を作るのかを常に考えながら、自分に問わなきゃならないと思います。

*陳さんの作品は、2021年1月23日から京都文化博物館で開催される「Kyoto Art for Tomorrow 2021 ―京都府新鋭選抜展―」に出展されます。

outsider in the dream (2019)
(Japan Textile Contest 2019 学生の部シーズ賞)
instagram: @shung_shouko

2020年にinstagramに掲載した 陳さんの「修了生の声」の記事です。

スクールをつづる:国際編7 修了生インタビュー「ビストロと織りをつなぐ空間でものづくり」Patricia Schoeneckさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。織りとの多彩な関係を持つ世界中にいる修了生にインタビューした内容を紹介しています。第7回のPatriciaさんには、スウェーデンの提携校から学びに来た経緯やスクールの印象、そして現在ビストロを経営していることから、生活の中の織り、手でものをつくる観点で織りに通じる点などについて伺った内容をお届けします。

Patricia Schoeneckさん(スウェーデン)
ビストロ経営者
スウェーデン在住
Handarbetets Vänner Skola(HV Skola、スウェーデン)からの交換留学生として
2012年5月-6月、絣基礎・絣応用I、2013年10月-11月、絣応用II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

私が織りを学んでいたHV Skolaは、川島テキスタイルスクールの提携校であることから、この学校のことを知りました。スクールの概要を読み、染織分野の技術において伝統だけではなく現代的な手工芸を学び、探求していける素晴らしい場所だと感じました。

スクールには、ものづくり、工芸、テキスタイルに本気で取り組む雰囲気があり、それに感動したのと共に触発されました。そこには雑音がなく、先生に指導を受けて生徒たちが黙々と取り組んでいました。

−−Patriciaさんは2012年に受講し、1年半後に再びスクールに戻って来られました。その間、学んだ技法を組み合わせて独学で制作を進め、修了展に向けて大きな作品を仕上げました。一旦、場所と時間を置いて自分で行うことで、より明確に見えたことはありましたか? それが、今のビストロ経営と機織りとの距離感につながる部分はあるのでしょうか。

私はスクールとスウェーデンの両方で、創作に対する多くのアイデアと視野がありました。染めも織りもとても時間がかかることから、私の頭の中で広がる大きなアイデアの一つひとつを実現するのは不可能だと思いました。振り返って考えてみると、私は小さな作品やサンプルを作り始める前に、最初に大きな作品を仕上げなければいけませんでした。そのように制作を行うことで、私のイメージをより具体化して形にできると思っていました。しかし、今の私の生活スタイルでは、織りと制作において両方のやり方をしています。ビストロを経営していることで、日々の暮らしのほとんどの時間をその仕事に費やさなければならず、(合間を縫って)織り作品を仕上げるには、小さな・短いものを作る方が今の私には現実的です。しかし、時間ができた時に制作に戻れるような、何年もかかる大きな作品にも取りかかる必要があります。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

私が思い描く、織りと染め、人生におけるプロジェクト全体を成功させるための、忍耐力と自信がつきました。

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしにどう生かしていますか?

私は急がず、最終目標や将来の展望にそぐわない、リスクとなる不要な仕事や物事を減らすようにしています。

Elfviks Gård Bistro

−−Patriciaさんがビストロを経営するようになった経緯を教えてください。同じ建物内にアトリエを借りて、そこでどうしてオーナーとして働くことになったのでしょうか? 子育てしながらのライフスタイルに合っているのでしょうか。

アトリエもビストロも田舎の羊牧場にあります。私は自然や古い建物が好きで、ある夏の日、その場所を見つけ、そこで働きたいと思ったのです。しかし、織りで収入を得るのは厳しく、特に私とパートナーは子どもをすぐに望んでいたため、生計を立てるために他の手段を見つける必要がありました。前のビストロのオーナーがお店を手放したがっていると知り、私は自分が引き継げると伝えました。ほどなくして息子が生まれたのです。実際に経営すると、多くの仕事を抱えてとても大変ですが、この暮らしを気に入っているので、他の生活をしたいとは思いません。

−−手でものをつくるという観点では、料理と織りはつながる部分もあるように思いますが、いかがでしょうか?

私のビストロでの仕事と織りは幾通りもつながっていると思います。両方とも、多くの時間を費やす大変な仕事です。いざ始める時には、とにかく完成に向けてやるべきことをやるだけなのですが、その前にアイデアや思い、気持ちから始まる。そんな目に見えない時間も同様に、ものづくりを行う要素になっています。私は、たくさんのパンやケーキ、クッキーを焼きます。単に同じことの繰り返しであっても満足を感じます。時折または何度も、織りがもたらす感覚と同じものを感じます。たとえば、ビストロを経営するのは、手で作って働き、目の前に何かがあり、多くのルーティーンがあり、何度も繰り返し同じものを作ることです。ですが、織りと同様、瞬く星のように、心に直接響くような創造のインスピレーションが現れます。

−−Patriciaさんにとって織りとは?

現時点で、日常生活の中で織りが占める割合は小さいです。私は毎日ビストロを営業していて、日々仕事が舞い込んできます。私の織りのアトリエは、ちょうどビストロの上階にあり、週に1回ぐらいは、屋根裏部屋に上ってアトリエに入り、深呼吸します。近い将来、私はそこで再び織りを始めることがわかっています。それまでの間、繊維や機の素晴らしい香りを吸い込み、次のテキスタイルのプロジェクトの夢を描きます。


website: Elfviks Gård

instagram: @patriciaschoeneck @elfviksgardbistro

2013年に英語版ブログに掲載した Patriciaさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。

スクールをつづる:国際編6 修了生インタビュー「文化の融合を見つめ、織り空間の可能性を探求」Rosa Tolnov Clausenさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。第4回からは4週にわたり、織りとの多彩な関係を持つ世界中にいる修了生にインタビューした内容を紹介しています。第6回のRosaさんには、KTSに学びに来た経緯や、スクールで影響を受けたこと、自身が考える織りとは?に加え、自主制作において通常は織り作品を制作するところ、ワークショップ「Everything I Know About Kasuri(私が知る絣のすべて)」を行った動機や、織りを空間として捉えるという、まったく異なるアプローチを実践した考えについて話を伺いました。

Weaving Kiosk
9つの、一時的な織りの空間のシリーズ。
デンマーク、スウェーデン、フィンランド、アイスランド 2017-2018
写真:Johannes Romppanen
Rosa Tolnov Clausenさん(デンマーク)
テキスタイルデザイナー・博士課程の学生
スウェーデンとフィンランドに居住
2013年秋、絣基礎・絣応用I, II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

KTSのことは既に知っていました。知ったきっかけは覚えていないのですが、友人の Johanna が前年にKTSで学んでいるのを知り、私も行きたいと思ったのは確かです。KTSで学ぶのは、日本に行くことと同時に、絣の技術を実践で考察する絶好のチャンスだと思いました。私は既に絣に興味を抱いていて、2012年にフィンランドの Aalto University に交換留学した時、絣の研究プロジェクトを行っていました。フィンランドには、日本と同様に絣の伝統があり、それは Flammé (Flame) と呼ばれています。フィンランドの織り手は、とてもシンプルな絣のバリエーションを異なる民族衣装に用います。しかし私の知る限り、 Flammé はフィンランドで教えられていないです。KTSで学ぶことは、日本に長めに滞在し、テキスタイルの伝統の見識を得て、その分野の専門家を知ることができる機会だと思いました。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

京都にいて、KTSの環境に身を置くことは非常に刺激的で、私は今もその経験を生かしています。

KTSでは自分で作品を織る代わりに、文化交流と美的感受性に関わるプロジェクトを実施しました。但し、それは織ることから離れたものです。“Everything I know about Kasuri(私が知る絣のすべて)” というワークショップを実施し、主に京都の人たちを招きました。絣の技術を媒介にして文化交流するという着想です。このプロジェクトについて論じ、KTSの先生たちから信頼とサポートを受け、実際に京都で実施できた経験は、自分の考えに自信がついた点で確実に意味があり、以後、帰国してから行った多くのプロジェクトに影響を及ぼしました。

Flamméのサンプル
Dräktbyrån Brage(ヘルシンキ)所蔵
写真:Rosa Tolnov Clausen

−−自主制作でワークショップを開催するという決断は、Rosaさんのそれまでの空間作りや人に教えたり共有したりしてきた経験とつながっていますか? 背景にある考えを教えてください。

KTSに来た時、私はデンマークにある美術学校 Design School Kolding のテキスタイルデザインの修士課程を卒業したばかりでした。私の卒業プロジェクトは、目の見えない織り手の人たちと協力して、共にデザインすることでした。私はそのプロジェクトを通して、織りの空間が生産する場所であることに加え、織りに関わる人々にとって、他にどんな意味を持つようになるのか、例えばそれはデジタル化がさらに進む世界において、他者と関わる社会空間としてや、身体的、物理的なクリエイティブ空間となることに気がつきました。それ以来、プロジェクトから織り空間のさらなる意味を探るのが、私の関心になりました。

日本、特に京都に来た時、私は都市空間にある手工芸の存在にとても魅かれました。散策した時、非常に現代的でデジタル化された都市景観の中で、ごく自然な一部として熟練の職人さんが縫う、織る、ハンマーで叩くなどしている光景を見ました。それで手仕事とデジタルは共存できる気がしたのです。さらに私が訪れた他の都市にも織物ワークショップがあり、参加者はプリントしたり、編んだり、織ったりしていました。

こうして私は周囲の環境によって、美を見い出す感性を身体感覚として養っていきました。私自身は、日本の文化やファッションに触発されて影響を受け、同時に日本の人々やブランドが、北欧の文化に着想を得ていることがわかってきました。私たちは互いに解釈し、その結果、完全な北欧でも日本でもなく、融合した新しいものができている。

それらの印象から、ワークショップ “Everything I know about Kasuri” を着想したのが背景です。私は、文化的な出会いや情報交換の場を提供できるような都市空間で、織物のワークショップを作り出したかったのです。

−−外国人として他国の伝統を教える上で、文化的に気をつけた点はありますか?

もちろんあります。私は日本で3カ月しか過ごしていないデンマーク人として自覚的になり、日本の人たちに対して日本文化を教えるという主張をしないように、かなり慎重に取り組みました。ワークショップのタイトルを “Everything there is to know about Kasuri(絣について知るべきことすべて)” ではなく、 “Everything I know about Kasuri(私が知る絣のすべて)” と名づけたのは、そのためです。たった2カ月学んだだけで専門家のように振る舞いたくはなかったのです。ワークショップでは導入部分で、自分がよく知っていて、参加者が知らないであろう内容を加えながら、フィンランドの歴史を強調して伝えました。

ワークショップ Everything I Know About Kasuri
京都 2013年12月
写真:臼田浩平

−−ワークショップ実施の経験からどのように自信を得て、それは、その後のご自身にどんな影響を及ぼしましたか?

上記で述べた印象を基に、私はKTSの自主制作でワークショップを開催することは、正しい決断であるという強い直感がありました。しかし、通常は織り作品を制作するところ、まったく異なるアプローチであることや、不適切な方法で文化的な境界を越えてしまうリスクを考慮してか、私の考えについて初めから先生全員が完全に納得していたわけではありませんでした。そこで、このプロジェクトがどのように実現できるのか、作業時間の計画を立てるように指示を受けました。私はそれを行い、先生たちから了承を得ることができました。先生たちには、備品を見つける時や連絡時など計画段階でたくさん助けてもらいました。

当日は、KTSの先生や生徒たちも来てくれました。私は直感に従い、外国の視点をふまえたプロジェクトの実現のために全力を尽くし、成功を収めることができた。そのすべての経験を通して私は、自分の考えを信じること、できると信じて集中することの両方において多くの自信を得ました。

−−KTSでの経験は、その後のご自身の学術的・専門的な仕事において影響はありましたか? あった場合、どのような影響を及ぼしたか教えてください。

上記で主に述べた内容には、自信をつけるという意味合いがあります。さらに、初来日と初めてKTSに来たことで、私は多くのプライベートと仕事上の関係を築くことができました。出会いにとても助けられて日本に戻ってきやすくなり、2015年と2017年に再来日しました。私は、2017年に金沢21世紀美術館で開催された、日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念展に一連のワークショップを開催するのに招かれました。その時、KTSの修了生である渡部加奈子さんと、東京拠点のカメラマンの臼田浩平さんがたくさんサポートしてくれました。

−−Rosaさんにとって織りとは?

私の織りとの関係は、絶えず変わっていきます。当初は、私にしっくりきたように感じました。織るのが楽しく、得意だと感じるようになり、時が経つにつれて、それは私の生き方となり、仕事の一部となりました。私は現在、自分が織るよりも、他の人々が織れる空間を作っています。ですが、このことさえも今後、数年で変わっていくだろうと想像しています。


ワークショップ Export/import
金沢21世紀美術館 2017年
写真:臼田浩平

website: Rosa Tolnov Clausen

スクールをつづる:国際編5 修了生インタビュー「タイの藍工房からKTS、 土地と暮らしに合わせた、ものづくり」Zazima Asavesnaさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。前回に引き続き第5回も、織りとの多彩な関わりを持つ世界中にいる修了生に、KTSに学びに来た経緯や、スクールで影響を受けたこと、学んだスキルの生かし方、自身が考える織りとは?についてインタビューした内容をお届けします。

「以前使用していた、家族の藍染工房。サコンナコーンにある。そこで、私は初めて藍染めを学びました。インド藍(Indigofera tinctoria タイワンコマツナギ)はこの地域で育てられたもので、ここで植えられ、収穫され、ペースト状にされました。土製の小さな壺に藍が入っており、通常、一つの壺につき、一日に1、2回、小さな糸の綛を染めることができます。」

Zazima Asavesnaさん(タイ・ドイツ)
テキスタイルアーティスト・天然染色家・衣料のスモールビジネスのデザイナー/製作者
タイ在住
2013年春、ビギナーズ、絣基礎・絣応用I受講

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

私は小動物の獣医師として働いていましたが、結婚を機に夫の故郷のサコンナコーン(タイ東北部)に転居。そこは夫の家族が20年以上、天然の藍を建てて藍染めを行っている場所でした。私はそこで藍や他の草木の天然染色を学ぶ機会があり、その経験が後に、織りへの興味につながりました。とても親切な地元の女性職人の方々が、自身の知識を喜んで私に分かち合ってくれたのが、初めての機織り経験でした。理論は全くなく、ただ見よう見真似で取り組みました。

その経験から多くの質問が浮かび、織りの可能性を知りたいと思うようになって、織りを学べる場所を探し始めました。この地球上のどこかに、そんな学校が本当に実在するのかも知らずに。インターネットでKTSを偶然見つけ、そこは私が探し求めていた場所だとすぐにわかりました。スクールは、私がこれまで訪れた中でお気に入りの街の一つに所在していました。加えて自然に近く、市街地からも離れておらず、日本の文化や現代アート、生活様式が見られる場所。さらに織りの原理や、日本の伝統的な織りを学べること、そして異なる背景や織りの伝統がある人たちと出会える留学生の小さなコミュニティに入るのがとても楽しみでした。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

様々な年齢のテキスタイルを愛する人たちに囲まれて過ごしたことで、良い刺激を受けました。私たちはエネルギーを交換し、過去や経歴に関係なく通じ合い、織りの世界に迎え入れられているように感じました。留学生コースのクラスメイトだけでなく、長期の専門コースに通う優れた日本の学生の皆さんとも友達になり、その方々が隣の教室や上階で取り組んでいる素晴らしい制作プロジェクトをひそかに観察していました。特に2階アトリエでのタペストリー制作が素晴らしいと感じました。下絵をもとにして織られたタペストリーを実際に目にしたのは、私にとって初めてのことでした。

独学のアーティストである私に、KTSは織ること、人生において新たな知識を求めて学び始めることの自信をつけてくれました。(2013年)春コース修了後、私は本格的に織りたいと思い、織りのプロジェクトを行って生計を立てられるように、時間を費やして将来計画を立てる決心しました。

個展 “Door” (2018)
「2018年にチェンマイのRanlao Bookshopで開催された初めての個展。コンセプトは、ソーシャルメディアの時代における感覚の自己探求について。 伝統的な機と、枠機で作られた、6枚の手織りのテキスタイルを展示しました。すべて私の一番好きな天然染料である、藍で染めたものです。 写真の作品では、米糊を使用した型染めの技法を使っています。」

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしなどにどう生かしていますか?

私は、綿や麻など地域にある自然素材や、そこで収穫された天然染料をよく使っています。初めは、防染の技術を使ったシンプルな平織りの服を作っていました。平織りはシンプルな織り方である分、織りの技量不足がたやすく表れるため、私にとってはとてもストレスになりました。

私は洋機(ジャッキ式または天秤機、ろくろ式)を持っておらず、持っている知識で大体は適応していきました。KTSで「織ることは誰でもできるが、美しく織ることは誰もができることではない」と素晴らしい先生が教えてくれた考えを念頭に置き、私は自分の機(イサーン〈タイ東北部〉伝統の織機)で、経糸の張りを均等にしたり、織り端をきれいに揃えたり、経糸の乱れをきれいに直したりして、洋機と同じ結果が出ることを目指しました。それは、いつでもできる時にスキル向上に励もうという気づきにもなりました。

私は、自ら織ってテキスタイルに注いだ努力とスキルは、その背景にある想像力や考えと同様に大切なことであると信じています。ここ数年、私は綴れ織りを習いたくて仕方がなかったのですが、その機会がありませんでした。2年前、油絵用の木枠を使って枠機を自分で作り、独学で学び始めました。1年経って、人物像(細部は刺繍を追加)の小さなタペストリーを織るのに楽しみを見い出し、以来ずっと続けています。綴れ織りは、KTSで得たスキルではありませんが、すべてはKTSから始まっているのです。

−−Zazimaさんにとって織りとは?

私自身を知っていく旅のようなものだと思います。機に座って動作を繰り返すことで、身体を使った旅の代わりに内面の旅をしている感覚です。物理的には、身体リズムのバランスを見つけるのを試み、様々な機会において、私の考えや感情、感覚を探求しています。私は時折、間違った方向に進みがちになるものと、格闘している気分になることがあります。どのような結果になろうとも、受け入れなければいけない。

イサーンの機
「この機は地元の大工さんが作った、古い伝統的なものです。 もともとはある高齢の女性のものでしたが、その方が亡くなり別の方の手に渡り、予備の機として使用されていました。使われなくなって私の手元へ。筬、綜絖、綜絖枠、踏み木は、紐と竹の棒で機に取り付けられています。 経糸を直接機に結びつけ、手動で解いて引っ張ることによりテンションをかけます。」

instagram: @zazieandherloom @wildstagram

2014年に英語版ブログに掲載した Zazimaさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。

スクールをつづる:国際編4 修了生インタビュー「工業デザイナーからKTS、英国の大学院へ」Tiffany Loyさん

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編。KTSは手織りを学べる学校として、海外の織りに携わる人たちの間で広く知られています。開校当初から国際的に門戸を開き、京都で手織りの確かな技術が身につけられる、と受講者の口コミで評判が徐々に広まって現在に至ります。第4回からは4週にわたり、織りとの多彩な関わりを持つ世界中にいる修了生に、KTSに学びに来た経緯や、スクールで影響を受けたこと、学んだスキルの生かし方、自身が考える織りとは?についてインタビューした内容をお届けします。

写真:Ed Reeve
「このサイトスペシフィックな(特定の場所に関わる)インスタレーションは、彫刻の概念化と構築に織り手のアプローチを取り入れています。英国の伝統的な製糸工場であるGainsborough Weavingと共同で制作され、ロンドンクラフトウィーク2020で発表されました。」

Tiffany Loyさん(シンガポール)
デザイナー(独立)・アーティスト
シンガポール在住
2015年春、ビギナーズ・絣基礎・絣応用I, II, III*受講

*現在は絣応用IIの一部

−−KTSに学びに来た経緯を教えてください。

以前、工業デザイナーとして働いていた時、仕事でテキスタイルを扱う中で、布への関心が高まっていきました。布地がどのように作られるのか、一歩踏み込んで学んでみたいと思い、織りを学べる短期コースをインターネットで検索。KTSのウェブサイトを見つけ、修了生の作品に感銘を受けて応募しました。異文化に身を置いて、新たなスキルを身につけたいと思ったのも動機です。

−−KTSで学んだことで、どのような影響を受けましたか?

受講開始時、(仕事など日常生活から離れて)実り多い学びのための3カ月間の旅に出た感覚でいました。講座で織物の構造に関する知識を得たことは、テキスタイルを基本とした私の将来のプロジェクトに役立ちました。

初めは、必要な設備や道具の多さを考えると、シンガポールに戻ってから織りを続けるつもりはありませんでした。しかし、個人制作を行う絣応用IIIの終盤になると自分で織りのプロジェクトを行う自信がついてきて、学んだ技能を発展させるのが楽しみになってきたのです。この旅の終わりに織りを辞めてしまうのは、とても残念なことに感じました。それでシンガポールに戻ってから、小さな織りのアトリエを構えて、地元のデザインに関わる人たちに私の織り作品を見せようと決めました。

Pastiche (2018)
「捺染絣の技法を取り入れた手織りの布です。この一点ものの作品は、家具ブランドZanottaのSacco beanbagデザインの50周年記念の一環として作られました。」

−−その学んだスキルを、その後の仕事や暮らしなどにどう生かしていますか?

この10週間のコースを通して、織りと染めの確かな基礎技術を身につけたことで、修了後も自主的に学ぶことができるようになりました。制作の手法を比べる時に、今でも当時記した授業ノートを参考にすることがあります。私は今も織り続け、習った技能を広げて自分のデザイン・プロジェクトに取り入れています。シンガポールに戻って間もなく、自分で織ったいくつかのタペストリーを地元の展覧会に出展。そこで初めてのクライアントと出会い、その人のブランドの織りデザイン制作の依頼を受けました。仕事として織りを追求していくことに希望が持てたのです。

KTSを修了してから3年が経ち、私は次の学びに踏み出す時だと感じました。シンガポールには、テキスタイルの工房も教育施設もありません。そのため、ジャカード織のデザインのような専門知識と技能を更に身につけるためには、再び海外に行く必要があります。そこでイギリス、ロンドンにあるロイヤル・カレッジ・オブ・アート(英国王立芸術大学院大学・RCA)で学ぶために、デザインシンガポール・カウンシルの奨学金をなんとか得ることができました。修士課程で学ぶことは、他の場所で織物を学んだ学生との出会いであり、それぞれの織り手法の違いを見るのが興味深かったです。私は、織りの一つひとつの手順を熟知し、手順を変更することで全体的にどのような影響が出るかをよく分かっていました。そのKTSで身につけた確かな基礎力があったからこそ、RCAではより実験的な制作に取り組むことができました。

−−ティファニーさんにとって織りとは?

私は織り方を学ぶ前に、プロダクト・デザインの訓練を受けてきたことから、手法や活用法の違いを常に意識してきました。織っている時は、至近距離で自分の制作内容を見て、時折ルーペも使って確認しないといけないと感じます。同様に目を遠ざけて、物として布全体を見る必要もあります。その2つの観点の間を行き来することは、織り工程において2つの異なる見方ができるようになるという独自の気づきがありました。

また、技法としての織りは、決して布に限定されるものではない。私にとって織りは構築の手段であり、線を組み立てて、表面と厚みを形作る方法です。抽象的に見ると、織りの技法は、彫刻や建築など、アートやデザインの他の形に応用できるものです。

Lines in Space (2019)
「RCAで完成したプロジェクトです。布の表面を最小限の線に減らし、捩り織りの構造を探求しました。」

website: Tiffany Loy
instagram: @tffnyly

2016年に英語版ブログに掲載した Tiffanyさんの “Student Voice” の記事です。KTS修了展で展示した作品も見ることができます。