修了生

スクールをつづる:国際編3 留学生コース担当・表講師インタビュー「手織りをつなぐ」

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編をお届けします。第3回は、海外からの留学生向けに初心者コースと絣コースを英語で教える表江麻講師のインタビューです。自身の海外経験、テキスタイルとの出会い、KTSで手織りや絣を教えることの思い、留学生との出会いから影響を受けたこと、スクールから見える国際性について語られた内容をお届けします。

エストニアのTartu Art College(現在はPallas University of Applied Sciences)でKTSについてのプレゼンテーションをする表講師 2015年

◆  暮らしが豊かになるものを作る

表講師は2009年にKTSを修了後、スクールのアシスタントに。同年、スクールが海外向けに「ビギナーズ」と「絣」を英語で教える「留学生コース」を設定したタイミングで、留学生の授業を山本講師と共に担い、国際コーディネートも担当することになりました。

自身も海外で暮らした経験が2度あります。最初は、子どもの頃にアメリカで。現地の公立の小学校に通っていた時、英語はアジア人である自分が周りと対等に交流するのに必要な手段だったそうです。次は、京都精華大学に在学中、交換留学でフィンランドへ。美術を幅広く学びたいと思い洋画を専攻し、留学先でやりたいことが少しずつ見えてきました。「テキスタイルを専攻している友人たちが、『使う』『着る』という明確な用途のあるものづくりをしていて制作に対するアプローチに魅力を感じたことと、明るいテキスタイルを室内に使って暗い冬を過ごすなど布が生活の中に溶け込んでいて、暮らしが豊かになるものを作るのが素敵だなと思ったんです」

日本が本場の技術を日本で学びたいと思い、大学卒業後にKTSへ。「年齢、国籍、経歴問わず、学びたい人に対してオープンなKTSがあったからこそ、好きな技術を身につけられました」。色の組み合わせと直線で考える、制約がある中でのものづくりが好き。作家活動で着物制作をし、スクールで海外からの学生に手織り技術を教える。いま、日本のことを世界に伝えるという、目指していたことが実現できている実感があるといいます。

◆  世界中の織り手との出会い

母校が職場になり、主に海外から学びにくる人たちに教えて約10年。少人数制で、確かな技術を教えるスクールの方針に加えて、自身としては「学生にとっていい経験になるように」、「自国に帰ってからも一人で織れるように」心がけてきたそうです。「授業では、緯糸を織り込む角度や密度を安定させるなど美しく仕上げるコツを教えています。学んだことを帰国後に生かしてもらえたら嬉しいです」。

スクールから見える、世界の距離感があります。「織りをする人は、手仕事が好きで根気強い人が多いのではないかと思います。国や文化の違いがあっても、そうした技術との相性や、手織りに対する価値観の共有など、似たところがある人が集ってくる印象があります」。世界中の織り手との出会いが、教える喜びの一つ。その中で、自身の織りに対する思いに変化が生じます。

◆  絣にとって何ができるか

変化のきっかけは、受講者から「歴史について聞かれることが多い」ことから。「留学生は、技術に加えて、昔は何の道具を使っていたのか、各地域の特徴など歴史的な背景の質問が多いです」。日本の手仕事、その伝統を作ってきた人たちに思いを馳せるようになり、「絣に対する思いが強まり、単に技術を教えるだけではなくなりました」。

そこで芽生えたのは、「技術を継承し、世界中に種まきをしている」という意識。「手織りは紀元前からつながっている歴史のある技術。(デジタル化が主流の)今の時代に、あえて手織りに特化したユニークな学校があり、47年続いていて、そこで学び働いている。時代が変わり消えてしまう技法がある中で、絣という手織りの技術をどうつなげていけるか。絣にとって私は何ができるか、役割を考えています」。

機が百台以上あり、染色室も整備され、織りも染めも専門の先生がいて、寮など設備が整うKTS。この規模で運営し続ける「手織りに特化したスクールがあるのはすごい」と留学生に言われることが多いそう。「海外でも大学のテキスタイル学科が閉鎖された話を聞きます。織りが好きな人が学びに来られる場として、KTSがこれからも息長く存続していけるよう力になりたい」と話します。

スクールをつづる:国際編1 「種をまき、静かに持続する」
スクールをつづる:国際編2 「織りとの関わりの多様性」

スクールの窓から 2 「デザイン演習 I」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このコーナーでは、そんな専門コースの授業の一部をお届けします。今回は担当講師による紹介です。(不定期掲載)

5回目:デザイン

4月から5回にわたり、本科では「デザイン演習」の授業を行いました。授業ではデッサンをすることで果物や野菜などのモチーフとじっくり向き合い、5回目に織実習・綴の自由制作で織るタペストリーのデザインをしました。

普段の生活の中で、わかったつもりでいる物は意外と多くあります。果物や野菜もしっかり見る機会はあまりなく、食材として数秒間見て状態を確認するだけで終わりがちです。何時間もかけてじっくり見て、触れて、想像することで、新たな面を発見し、ものの見え方が変化する感覚を味わうことは制作において貴重な経験になると思います。そうした観察眼を磨くと、制作のインスピレーションをどこからでも拾えるようになり、モチーフとしっかり向き合った経験がデザインに表れます。なによりも、日常の中で見えるものが変わったりと、ワクワクすることが増えます。

綴のタペストリーのデザインではモチーフの面白いと思ったところからデザインをふくらませ、どういう場所に飾るかなどを想像してもらいました。6月には織実習で綴のサンプルを織り始めていたので、どういう糸や技法を使うかも考えてのデザインになりました。

学生にとって、この授業で得た新しい経験や見方が、今後の制作の下地になったら嬉しいです。

◆ 私にとって織りとは? 「レンズ」

制作をし、スクールで働くことによって身につけた織りの感覚がいつも自然と動いている気がします。日常生活の中で路面表示の矢のマークなどが絣の模様に見えたり、ものを測るのに織りの道具が基準になったりと、無意識のうちに織物のレンズを通して物事を見ていることに気づきました。同時に視野を広げて、織物の長い歴史の中での自分の役割は何だろう、と考えています。

(文・表 江麻)

〈表 江麻プロフィール〉
Instagram: @emma.omote

おもて・えま/京都精華大学芸術学部造形学科洋画科卒業後、川島テキスタイルスクール専攻科修了。着物を制作し、2009年より川島テキスタイルスクールで国内外の学生を教える。

技術研修コースを修了して 駒田桃子

大学では染織ゼミに所属しており、卒業後に技術研修コースで3ヶ月間スクールでお世話になりました。
在学中は、ノッティングという技法でタペストリーを制作しました。

織りの経験があるとはいえ、制作を進めていく中でひとりでは迷うこともたくさんあります。
ここではいろいろな専門の先生がいるので、ひとつ質問をしても様々な角度で答えが返ってきます。
そして自分が今までやってきたことという狭い世界から少し出てこれたように思います。

制作風景

また、ここでは自分の学びたいという気持ちに応えてくれる環境が整っています。なので3ヶ月という短い期間でも、自分の意欲次第で期待以上の学びが得られるという実感がありました。
卒業後は、自分が感じている織りの良さやそのこだわりを、織りながら実感し制作していきたいです。

技術研修コース 2020年10月・2021年4月入学 募集しています。
ある程度の織経験を持つ方が3ヶ月、6ヶ月、1年の期間でテーマを持って研究と制作を行うコースです。 受講生は大学で染織を学んだ方や改めて専門的に学びたい方等です。

「一衣舎秋展・京都」 修了生 川俣貴美子

2006年に専攻科を修了してから5年半が経ちました。
2009年までKTSのスタッフとして経験を積ませて頂きましたが、スクールを離れてから早いものでもう2年になります。

在学中は着物を制作していましたが、最近は制作の中心が帯に移ってきました。そしてこの度作品を販売して頂ける機会を得ました。

皆さんは「一衣舎(いちえや)」をご存知でしょうか。着物がお好きな方ならご存知かも知れませんね。雑誌「七緒」などにも紹介されている方です。ご専門は着物や帯、長襦袢などのお仕立てですが、
20年以上前から織り手と直接会って、ご自身の考えに合った作品を着る方に直接紹介する会を催されています。最近では少し動きもありますが、着物の世界では織り手と着る方が直にお会いできる機会が少ないのが現状です。そのような中で一衣舎さんの活動を、織る側としても、また着る側としてもとても興味深く思っていました。

何度かお邪魔して作品を拝見する中で、自分の目指す方向と非常に近いものを感じたので、昨年思い切ってアドバイスを頂きに伺いました。そのお話をもとに制作し再度持参したところ、この度取り扱って頂けることになり、早速9月21日から25日まで京都の「ちおん舎」さんで行われた「一衣舎秋展・京都」で初披露となりました。

自分の作品に値段をつけてお客様に提示するというのは、とても独特な今までに味わったことのない感覚でした。自分にとっては愛着のある作品ですが、お客様にとっては沢山ご覧になられる中の一つです。そしてその場には私自身も素敵だと思う作品が数多く並んでいます。その中で自分の作品がお客様の目にどのように映るのか不安に感じました。

会場でお客様方は、作品に囲まれた空間そのものを楽しむかのように長い時間をかけて一つ一つご覧になっていきます。中にはこの会の為に遠くから来て何時間もいらっしゃる方もいます。その中でピンと響く出会いがあると作品が売れていきます。その時のお客様の表情はとても良いものですね。勝手な想像ですが、恐らく皆さん良い日もイマイチの日も頑張って生きて働いて、そのお金で購入されているのでしょう。そしてそれを着るのが楽しみで明日からの力が湧いてくる。自分の作品がそんな元気の源になるのであれば嬉しい限りです。

私の作品にもピンときた出会いがありました。これから制作を続けて行く中で、今回選んで下さった方の表情を忘れることはないでしょう。このような機会を与えて下さった皆様に感謝して、伺ったご意見も参考に、でも影響され過ぎないよう一度頭をリセットしてから次の制作を始めたいと思います。

一衣舎さんは全国各地でこのような会を開催されていますが、来年も秋頃に京都でこのような機会があるはずです。気になられた方は是非お越し下さい。(詳細は「一衣舎」HPへ)

修了生近況7 修了生 松本りん

8/24〜8/29の間、代官山の素敵な布のお店coccaのイベント、「Print Textile Festival of cocca 2010」に作品を出品・販売していました。

coccaは、print textileを扱うお店で、coccaのoriginal textileをはじめ、個性的で素敵なクリエイターの方々とコラボレーションして作った生地など、とっても魅力的な生地やそれらの生地を使った雑貨や衣服を販売しているお店です。
cocca http://www.cocca.ne.jp/

coccaは定期的にtextileに絡めた様々なイベントを開催していて、今回はコンテスト形式でtextile designを公募し、選出された人の作品を展示(一部販売)するという内容のイベントでした。テーマは「ジャパニーズスタンダード」。公募は3つの部門に分かれていて、私が選出いただいたSELL部門の他に、生地の状態じゃなくても、イラストやパソコンデータ出力でも応募できるテキスタイルデザイン部門、オリジナルテキスタイルとそのテキスタイルを使った製品までを企画するプロダクト部門があります。最終的に、350名の応募があったようです。

SELL部門は、選ばれた人自身でオリジナルテキスタイルを10M自作して、それをcoccaで展示販売できるという部門です。私は3柄選出いただきました。選出された3柄は、与えられたテーマ「ジャパニーズスタンダード」に添って考えて、日本・アジアの伝統的な手法である「絣」をテーマに作成したシリーズです。

展示期間中、他の入選者の方々の作品も見ることができ、とても良い刺激を受けました。同じテーマに基づいてデザインしても、それぞれの人で出てくるアイデアや形が様々で、とても興味深かったです。最終日には、入選者・審査員の方々・coccaのスタッフさんで交流が持てる機会を・・・と、レセプションパーティーが催され、様々な分野の第一線でご活躍されている審査員の方々や、意欲的に制作をしている他の入選者の方々と交流が持て、今後に繋がっていきそうな話もできて、有意義な時間が持てました。

これを良いきっかけに、自身のテキスタイルブランドを少しずつ育てていけたらと思っています。このイベントは29日が最終日の予定でしたが、期間を延長して展示販売を続けるそうなので、機会があればぜひ見にいらして下さい。