布を織る 本科 柴田彩貴

春が過ぎ、じめじめとした梅雨に入りました。季節の変わりゆくこの約1ヶ月半にかけて、
私達本科生は長さ8メートル、幅40センチの縞の布を織りました。
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入学してまだウールのサンプル織りを習得したばかりの私は、
糸の太さを見た瞬間にゾッとした記憶が鮮明に覚えています。
しかし私はこのスクールのカリキュラムを見た時に1番楽しみにしていたという事実もありました。
私達が普段着ている洋服達は最初の形は四角形です。ただの布です。
何に仕立てるのかはまた別として、布を織るということが楽しみでしかたなかったです。

実際にデザインからはじめて、綛を染め、整経をし、機に経糸をセットする事からで
織りに辿り着くまでに何度くじけそうになったか・・・・。本当に己に向き合い、己との戦いでした。
しかし、一つ一つの準備工程が大切で、全部自分に返ってくるのです。

織りはじめの初日はやっと織れる喜びでいっぱいでしたが、疲れが溜まり、
気が緩むと糸に影響してしまいミスを連発したりと、なかなかうまくいかない日もありました。
織る感覚を自分に染みつけるために、日を空ける事なく1日短時間でも手を動かして探りながら織っていきました。
そうすると下手は下手なりに感覚を覚えてくるもので、少しずつですが、手応えを感じてきました。
繰り返しの毎日を終え、8メートルを織りあげた時の達成感と言ったら言葉になりません。

最終日スクールの玄関前に完成した布をみんなで展示をし、改めて布の迫力さに感動し、
喜びと自信がつきました。この日に感じた思いを大切にまた自分の織りを織っていきたいと思いました。
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本科織実習「布を織る」 担当講師:山本梢恵

美山町・北村を訪ねて 本科 龍山千里

5月27日、藍染めによる創作を行なう新道弘之さんの工房を見学するため、私達は美山町・北村をおとずれた。
立派な北山杉をバスから眺めながら、京都の山奥深いほうへ向かっているのを感じつつ、
着いたらそこは、時間の流れがまったくちがうように思えるほどに、しずかで緑ゆたかなところだった。
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美山・北村町

今回見学でお世話になった新道弘之さんは、学生の頃より藍染めに魅せられて、
長い間制作活動や研究を続けてこられた。そのなかで彼が、こつこつと収集してきたものを
展示した「ちいさな藍美術館」も工房に併設されており、わたしたちが伺ったときは、
日本の藍染め絞り、また全世界各地でつくられてきた藍染めのコレクションを見ることができた。
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日本の藍染め絞り
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中国の藍板締め絞り

まず、藍染めをするには藍の植物を染料化する必要があり、藍を染料として使用するには、
水と酸素を使って藍の色素そのものを抽出する方法、または葉から堆肥をつくる方法の
大きくわけて二種類がある。日本では古くから、蓼藍の葉を発酵させて堆肥をつくる方法で
藍染めが行なわれており、堆肥は「蒅(すくも)」と呼ばれる。石灰と木灰の灰汁を使い、
蒅を発酵させ、7〜10日かけて染液を作るとのこと。事前に観賞した「BLUE ALCHEMY」*でも
出てくるように、新道さんはこの工程のなかで、日本酒も藍甕のなかに入れて発酵させる。
職人一人ひとり、独自のレシピがあり、今ではようやく勘で染めることができるようになった
新道さんも、そこに辿り着くまでには長い時間が必要だったと話していた。

新道さんが考案した新しい絞り技法による藍染めの工程の一部もみせていただいた。
どのように手を動かせば、よりうつくしい模様ができるか研究を重ねて生まれた絞り模様には、
削ぎ落とされた美を感じた。
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工房のなかに並ぶ藍甕
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絞り染めが施された布を水洗する様子

今回、一番わたしが心を動かされたのは、新道さんの制作してきた布の切れ端を、
お母様が繋ぎ合わせて制作したという藍染めのパッチワークだった。
それはお母様がご自分の棺にかけるために制作された布で、最期を見送る際に使われたそうです。
染めた布地を隅々までいつくしむ、新道さんご夫妻・お母様のつくる姿勢に学ぶべきところがあった。
また、純粋にある人のことを想って、それだけの為につくられたものというのは深い愛情を感じられ、
ことばにしきれない感動があった。
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藍染め布のパッチワーク
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藍染め布のパッチワーク拡大図

新道さんはこれをわたしたちに見せながら、「きれいだろう。俺が作ったんじゃないもの。
自然が作り出した模様だから、きれいなんだ」ということをおっしゃっていた。
藍染めによって生まれる色にしろ、または絞りでできる模様にしろ、
人が作り出すものはどんなに完璧で整ったものを目指しても、
どうにもコントロールしきれない「ずれ」のようなものが自然と生まれる。
それはテキスタイルに関わらず、つくること全てにおいて言えることだと思うが、
実は、人はそこに美を見出しているんだということに気づいた。

長年藍を研究されてきた新道さんのお話を通して、それは簡単な事でないことも同時にわかり、
美しさを目指して人が何かを作り出すとき、自然のちからが関与できる隙のようなものをつくることが、
ひとつの「技術」なのかもしれないと思った。

*『Blue Alchemy -Stories of Indigo-/ブルーアルケミィ ―藍の物語―』 アメリカのドキュメンタリー監督、Mary Lanceさんが世界各地の藍の現場を訪ね、7年の歳月をかけて制作したドキュメンタリーです。新道さんのインタビューや工房の様子をはじめ、世界の藍製造の貴重な映像をみることができます。

ホームスパン 本科 渡井あかり

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2015年の初めての授業が、このホームスパンになりました。

昨年の夏にスピニングの授業で洗った原毛を染色し、糸を紡いでチェックのマフラーを織ります。
私は今回、クリスマスやバレンタインの時期によく見かけるお菓子の箱をイメージして
マフラーの色を決めました。

羊毛はフェルト化しやすい性質を持っているので、染める際に非常に気を使いました。
温度の上げ下げをなるべく緩やかに、染色中に必要以上に触らないなど、
仕上がりが斑になってもいいからとにかくフェルト化させないよう注意して染色しました。
欲しい色がサンプルになく、勘染めのように少しずつ染料を混ぜて染めたので、
染料を染液に混ぜつつ原毛に刺激を与えない、という作業がとても難しかったです。
仕上がりは、やはり色に迷った原毛ほど固くフェルト化しかけていたので、
毛をほぐす段階で少し苦労しました。

今回は染めた原毛を使うということで、昨年とは違い混色が出来るようになりました。
ほぐした原毛を二色、同時に梳かすことで中間の色をつくります。
私は濃く染めたピンクと白い原毛を混ぜ、薄いピンク色の原毛をつくりました。

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およそ半年ぶりに紡毛機の前に座り、本科のほぼ全員が緊張していたと思います。
私もスピニングの授業中さえ思うように紡げず悪戦苦闘していた記憶があったので、
そのうえ感覚まで忘れていたらどうしよう、という思いでいっぱいでした。
しかし、糸紡ぎをはじめてあまり経たないうちに、
ふとしたきっかけからコツを得たように、するすると紡げるようになりました。
糸紡ぎは自転車と同じで一度感覚を覚えれば忘れない、という
先生の言葉は本当だったのだと少し感動しました。
ただ糸が滑らかに細く紡げるようになったかわりに毛が手の中から出ていく量が上手く調整できず、
細さが均一でないファンシーヤーンのような糸ができあがってしまいました。

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糸が紡ぎ終わると、ついにマフラーを織り出します。
天秤機を使った組織織で、私はまだ経験のなかったななこ織という組織を選びました。
途中、経糸の細く紡ぎすぎた部分が切れたり、引っかかって伸びたり、
そのせいで筬を変えることになったりと、反省点は様々ありましたが、
織り上がったマフラーは柔らかで触り心地もよく、ほかとは違う達成感を得ることができました。
この達成感は、一から糸を紡いで織るというホームスパンならではのものだと思いました。

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10月7日(水)-15日(木)にワークショップ「ホームスパン」を予定しています。
糸を紡ぐところからマフラーを作ってみませんか?ぜひご参加ください。
詳しくはこちらをご覧ください。

染司よしおか工房見学・紅花染体験 本科 藤田

「お水取り」「お松明」の名前で知られる東大寺・修二会。毎年3月に行われる行中、
練行僧によって作られた椿の造り花がご本尊に捧げられます。
この造り花の材料となる和紙は、京都にある「染司よしおか」で梔子と紅花を用いて染められています。
1月22日、本科の学生は染司よしおかの工房を訪ね、
紅花から和紙を染める染料を抽出する工程を体験してきました。

紅花からは黄色の染料と紅色の染料が取れますが、ここでの紅花染めには黄色の染料は使わないため、
まず花びらを水の中でひたすらもみ込み、水に溶けだした黄色の色素を取り除きます。

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その後、さらにもみ込みながら花びらに残った紅色の染料を抽出します。
この染液を濃縮していき、水分を取り除くと、和紙を染めるための泥状の紅が出来上がります。

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染司よしおかでは、植物染料だけを使い、助剤なども「稲藁の灰汁」や
「烏梅(うばい・梅の実をいぶしたもの)」を用いるなど、すべて自然界にあるもので染めています。
化学染料を使うかわりに手間と時間をかけ、鮮やかな色彩が生み出されていました。

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工房の方から「この工房では新たな試みはせず、文献に残っている手法でしか染めない。」
というお話を伺って、新しい色を作りたくなることもあるのではないかと思い、
ものを作り続けていくためのぶれない理念の大切さを実感しました。

また、「だんだんと質のよい紅花が入手しにくくなっている」という現状も伺い、
現代の環境で古の技術に挑むには、手間がかかるという以外にもさまざまな難しさがあることがわかり、
技術は伝統的であっても、現在の環境を考え、
未来の展望を計る広い視野が大切なのだと感じた一日となりました。

2014年度川島テキスタイルスクール修了展のお知らせ

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今年度の修了展は2015年1月14日(水)~18日(日)まで京都市美術館 別館にて開催します。
本科(1年次)専攻科(2年次)創作科(3年次)技術研修科、留学生の作品を展示致します。
ぜひお越し下さい。
会期・場所共に昨年度と変わっていますので、お間違えないよう足をお運びください。

川島テキスタイルスクール修了展
2015年1月14日(水)-1月18日(日) 9:00-17:00
京都市美術館 別館
入場無料

長期技術研修を終えて 西岡香織

2015年度技術研修コース募集しています。

技術研修コースは、ある程度の織経験を持つ方が
3ヶ月、6ヶ月、1年の期間にテーマを持って、研究と制作を行うコースです。
受講生は大学で染織を学んだ方や改めて専門的に学びたい方等です。
度合いにより個人差がありますので、ご相談下さい。
>>詳しくはこちら

以下は技術研修コースで学ばれた西岡さんのブログをご紹介します。

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西岡着姿

2012年10月から1年間 長期技術研修コースにて、着物と帯を制作しました。
「初めての織り10日間」のワークショップを受講し初めて織りにふれ、
経験が浅いという不安と期待をもっての入学でした。

デザインから糸や道具の扱い方、染色、作業工程を一から教えていただきました。
1作品目は縞の着物、2作品目は絣の着物。
そして、それぞれに合わせた帯を制作しました。

特にデザインは、苦労しました。
どのようなものを作りたいのか、表現したいのか、
なかなかまとまらず何度もデザイン画を描き、形にしていきました。
さらに、風合いはどうしたいのか、そのために糸の種類はどれを選ぶのかなど
奥深さに戸惑いました。

技術だけでなく、もののとらえ方や自問自答し考えを深めていくこと、
それを伝えることの難しさを感じ、意味を持って作ることの大切さも学ぶことができました。

そして、ひとつひとつの作業を丁寧に、確実に進めていくことで
きれいなものができるのだと感じながらも、思うようにいかないもどかしさと
徐々に形になっていく楽しさを感じる日々でもありました。

失敗や悩むことも多々ありましたが、先生方にご指導いただき、
またレクチャーや本科、専攻科の学生の様々な作品を目にし、
ものづくりの環境の中で過ごせたことは良い経験となり、充実した1年間でした。
学んだことをもう一度整理し、今後につなげていきたいと思います。

綴織基礎を受講して

8月開講のワークショップに参加しての声をHARDY辻さん(フランス在住)からいただきました。

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年齢的なこともあるのか、このままでいいのかと迷う日々が続いていた時にこの夏期講習を見つけました。
アパレルに長く従事していても分野が異なるとなかなか原料の専門的知識を得る所まで入り込むことが出来ず、
生地のことを学んでみたいという気持ちをずいぶん長い間胸中に抱えたままにしてきた気がします。
川島テキスタイルスクールは、実はずっと前から行きたかった学校でしたが、さまざまな理由から
海外に暮らすことになり実現させることが難しく、やっとその機会を得ることができました。

生地を自分で作ることができるのなら、そして何かのきっかけになるのであればと、
前知識なく参加した講習でしたが、何もかもが新鮮で、すばらしい先生方とグループのメンバー、
勉強にどっぷりはまれる美しい自然環境に恵まれ、大変に充実した5日間を過ごすことができました。

アトリエの機材の充実さ、本科の学生さん達の真剣な学習態度に影響され、私達講習生も毎晩課題を続けました。
一本一本の横糸を自分の爪でひっかきながら一歩一歩柄を作っていくという、とてつもなく時間も手間もかかるのが
この綴れという技術だと分かり、講習後、生地を見る目が変わりました。あまりの奥の深さに眩暈がしそうですが、
生地というもの、生地を作るということに対する興味がますます沸いてきました。
何度も間違え、何度もやり直しする私を、暖かくサポートくださった先生とグループのメンバーに感謝しています。
またぜひ時間を作り、講習を受けたいと思っています。

>>>他のワークショップ参加者の声はこちら