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修了生を訪ねて:手織り布「atelier KUSHGUL」寺田靖子さん

川島テキスタイルスクール(KTS)の専門コースでは、年に一度、織りを仕事にしている修了生による授業を行っています。2001年度修了の寺田靖子さんは、「atelier KUSHGUL」というオリジナルブランドを立ち上げ、手織り布の製品作りをしています。校外学習として、寺田さんのアトリエを訪ねました。ギャラリーと工房が併設されている空間で、寺田さんが在学中に修了制作で手がけたファイバー・アート作品や、初めて製作した洋服、生地サンプル、製品の数々を見せてもらいながら、自身と手織りの関係や、その歩みについてじっくりとお話を伺いました。

◆ 自分なりの感覚を見つけたKTSでの2年間           

手織りを仕事にしたいと願う人なら憧れるようなスタイルを実現している寺田さんですが、開口一番おっしゃったのは「苦労しながら何とか手織りを続けて、今」に至る、ということ。大学で1年次に建築、2年目以降にデザインを学ぶ中で、服をはじめ身近にある柔らかな繊維素材に興味を抱きます。KTSの修了展でファーバーアートの造形作品に出会い、「直接全身の感覚に訴えかけられた」衝撃を受け、KTSに入学。スクールでの2年間は、織りに没頭することで「思う存分、自分の感覚と向き合った時間」、そうして見つけた〈私なりの感覚〉は「今も布を作る上で土台になっています」と話します。

修了後は、飲食店で働きながら制作活動に励む日々。織り関係で就職しなかったのは、当初から作家を目指しており、「就職して仕事でも織りのことで頭を使ってしまったら、自分の創作ができなくなると思ったんです。私は器用じゃないので」という理由から。毎月、糸代を何とか捻出する生活を送りながら、「自分の織りの時給が、勤めの時給を越えたら辞める」と目標を決めます。週5からシフト勤務ができる職場に転職し、仕事後、夜に創作する時間を確保してペースをつかんでいき、2010年に現在のアトリエへ。

◆ 生活の中で揉まれて擦り切れて捨てられる、人と布との関係を知りたい

KTSで見つけた寺田さんの感覚の土台とは、強く撚った糸や、織り方の違いによって「表情を出す」ことで、それが製品につながっていると言います。今も「手織りとは何だろう?」と問い続け、織りながら探る日々。手織りのベストを試着した学生の一人は、「やわらかい」とぱっと笑顔に。寺田さんは、「すべて手作業で行うことで、糸に負担をかけずに布地を織り上げることができる。糸と糸の隙間に空気の層ができて、軽さと暖かみが出ます」と説明。カバンの布の表情、傘の布地の立体感、カディ(インドの手紡ぎ・手織り布)を使ったシャツ、需要が多いマフラー……。「人の生活の中で、揉まれて擦り切れて捨てられる、人と布との関係を知りたい」と、寺田さんは一途に追求しています。

新たな取り組みとして、服に仕立てる縫製も開始。「既製服を買うのに慣れてしまったのが、この半世紀。ですが今、コロナの影響で服が世界的に余ってきている。私自身、ものが余るのに嫌気がさして、織りから服作りまでを一手に引き受けています。オーダーメイドで袖の長さなど一人ひとりのサイズに合わせて、お客さんと一緒に考えながら作り、1着ずつ販売するスタンスが、とてもしっくりきています」

タコ糸のカバンシリーズ。組織織りと平織りの組み合わせで、シボが出たり、厚みが変わったり、縮み具合が変わる。生成り一色のツルッとした糸を使って、どれだけ布の表情を出せるかがポイント。

◆ 織るペースは1時間平均70センチ

工房では、寺田さんがKTS修了後にスクールで購入し、20年近く使い続けているジャッキ式8枚綜絖の織り機を見せてもらいました。この一台で、様々な商品を生み出し、やわらかな風合いの織物に仕上げていることに、学生からは驚きの声が上がりました。織るための準備の一つに、整経した経糸を機に巻き取る経巻きという工程があります。大抵は二人がかりで両端を引っ張りながら行う作業を、寺田さんは一人で行っているそうです。手前に引くと同時に、足先を思いきり伸ばして指をレバーにかけて回すという難技に、皆で目を丸くして見入ります。「左右90センチ織り幅のテンションを一定に合わせながら、糸が切れずにきれいに巻き取る。この機と10年20年と付き合ううちに、それができるようになりました」

学生から、織るペースについて質問が上がりました。「1時間平均70センチ」との返答に、「えーっ!」と驚きの声が。「カシミアの大判ストール2.5メートルで3時間。材料費などの経費を考えると、4時間かからずに織らないと仕事として成り立たないので」。地道に手織りを続けて、自分に合う織りの道を切り拓いてこられた寺田さん。「仕事を辞めた時、不安で毎日胃が痛かった日々もありました。でも夢中になって続けていると、新しい出会いや次の予定が何かしら入ってきて、つながっていきます。機織りは時間がかかります。生活とやりくりしていくのに、とにかく必死に織り続けてきましたが、自分の手で布ができていく感動は今もずっと続いています」

◆ アナログだからこそ必要な感覚

学生へのアドバイスとして、「自分自身の感覚と存分に向き合ってください。それは必要な時間だと思います。世間の感覚に揉まれたら分からなくなるので。私も川島での学生時代、思いきり取り組んだことが今につながっています。色の感覚や肌に感じる感触など、蓄積されたものがたくさんあります。そうして自分を知ることは、生活の中でも役立ちますし、何をするにしてもベースになります」。

スクールに対しては、「手織りはとてもアナログですが、こんなにデジタル化が進む中で、人間であることを忘れないために必要な感覚。体を動かして、ものを作る。(手織りを教える)川島テキスタイルスクールの役割は確かにあると思います」ときっぱり。修了生にこんなふうに道を切り開いた先輩がいるという寺田さんの存在を知り、手織りを続けていくこと、その強い意志と魅力を存分に感じた課外授業となりました。

修了制作の作品。表面は象の皮膚のイメージ。リネンを強撚糸にして織り込み、撚りが戻る力で皺が生まれる。学生時代、テクスチャを追求することの大切さを学んだ。
◆ 寺田さんにとって織りとは? 「無駄が出ない魅力」

私は、誰かに使ってもらう布を作っています。人と布との関係を探っていくのがテーマ。そこで布とは?と考えると、人には必要不可欠なもの。現代は服作りが機械化されて、服にまみれて人は生きていますが、昔は手織りで服を作ることが生業にできていた。それはどういうことかと考えながら日々織っています。一人の人間が、誰か一人に対して作る布。儲かる概念はない。ですが無駄にはならない。作り過ぎることもない。できるだけゴミにならない布地を作るよう心がけています。

〈寺田靖子さんプロフィール〉

てらだ・やすこ/京都工芸繊維大学造形工学科卒。2001年、川島テキスタイルスクール専攻科修了。2007年より「atelier KUSHGUL(アトリエ・クシュグル)」として、手織り布の製品作りをスタート。2010年から京都にある、服とギャラリーの店「Mustard-3rd」内のアトリエにて日々機織りをしている。

website: atelier KUSHGUL
instagram: @atelierkushgul

インタビュー記事掲載のお知らせ

Garland Magazine(オーストラリア)のニュースページ「Loop」に、当スクール講師、表江麻の絣を教えることについてのインタビューを掲載していただきました。聞き手はアーティストで元受講生でもあるHelen Tingさんです。ぜひご覧ください。

>> Garland Magazine “The Kawashima Textile School | Ancient kasuri is live in Japan“

重要:サーバメンテナンスのお知らせ

以下の予定でサーバメンテナンスを行ないます。

■2020年11月19日(木)09:30 – 11:00

メンテナンス期間中はメール、お問い合わせフォームを利用したメール、ワークショップのお申し込み等が受信できない可能性があります。ご迷惑をおかけいたしますが、何卒ご理解賜りますようお願い申し上げます。

スクールをつづる:国際編2「織りとの関わりの多様性」

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編をお届けします。スクールは開校当初から、世界中の手織りを学びたい人を受け入れています。2019年までの直近14年間だけでも、28カ国140人以上の留学生を受け入れてきました。第2回は、近年の国際化の流れについてです。

緯絣を括る

海外からの希望に対して、以前は期間や学びたいことに合わせて個々に対応していましたが、問い合わせの増加に伴い、2009年からは英語で教える「留学生コース」を設定しました。内容は、手織りの基本を身につける「ビギナーズ」と、「絣」の基礎・応用。絣の技法自体は、世界各地に地域色豊かで多様な絣がありますが、日本の絣を学びたいという海外からの需要に応えてのことです。それまでは英語の共通言語でikatと呼んでいましたが、コースを設定してからは日本独自の名称kasuriとして定着しました。

毎年春と秋に定期開催するようになると、受講者の口コミで評判が徐々に広まり、2013年頃から応募者が年々増え続けて毎回定員オーバーとなる状況が続いています。受講者は、初心者や趣味で続けている人から、大学・大学院生、作家やデザイナーなどテキスタイルを仕事にしている人まで幅広く、手織りという共通の目的で世界中から集う方々を通して、それぞれの人生において自分に合った織りとの関係があるとわかります。織物を世界目線で見つめると、個々のライフスタイルや、社会・文化的な背景が多様である分、関わり方の可能性がさまざまに見えてきて、選択肢が広がります。KTSの国際性は国や文化の違いだけではなく、織りとの関わりの多様性があること。それは、手織りに特化した学校だからこそ見えてくる世界です。

スクールをつづる:国際編1 「種をまき、静かに持続する」

書籍のご紹介:『現代手芸考』

『現代手芸考—ものづくりの意味を問い直す』上羽陽子・山崎明子編/フィルムアート社
表紙:野田凉美《商品価値を持つ言葉「母」》2004年

専門コース本科「ニードルワーク」の上羽陽子先生が代表し、当スクール野田凉美アドバイザーが外来研究員として参加した国立民族博物館の共同研究「現代『手芸』文化に関する研究」の研究成果が出版されました!

「文化人類学、ジェンダー研究、美術・工芸史、ファッション研究……
さまざまな視点から、
いちばん身近なものづくり
=『手芸』の輪郭をあぶり出す。」
(帯より)

スクールをつづる:国際編1「種をまき、静かに持続する」

川島テキスタイルスクール(KTS)を紹介するシリーズの国際編をお届けします。本シリーズでは、創設時から続く国際化の広がりや、担当講師インタビュー、留学生の声など、スクールの織りを通じた国際的な関わりについて紹介します。第1回は、国際化の背景についてです。


HVのアトリエで働いたのち(株)川島織物*研究開発部での勤務を経て、1978年当スクール講師になった礒邉晴美先生。HV SkolaとKTSの架け橋となり、交換留学制度が始まりました。写真は社内報に掲載された、先生によるスウェーデンについての記事。(1975年)

スクールの国際化は、設立の構想段階から視野にありました。美術系大学院のCranbook Academy of Art(米国)など欧米30カ所以上を視察し、織物を世界目線で見つめて独自の土台を作ってきました。開校してからは、基礎から高度な専門技術まで幅広く学べる内容と充実した設備で、海外でも類の少ないテキスタイル教育機関として注目されました。以降、世界中の染織作家や同好者に創作に打ち込む機会と場を作り、海外から講師を招いてレクチャーを行うなどして国際関係を繋いできました。テキスタイルの伝統校HV Skola(スウェーデン)との交換留学制度は、現在も続いています。近年は、海外向けに英語で授業を行う「留学生コース」と「海外ワークショップ」を定期開催。海外旅行グループ用に染色や綴織りなど希望に合わせた講座も行っています。

KTSは、洛北の里山にある手織りの学校。種をまき、じっくり育てるような静かな持続を実践するうちに国際的な知名度は高くなり、かつてここで学んだ方が自国でテキスタイルを教えてKTSのことを生徒に紹介し、今度はその方が学びに来るという世代をまたいだ繋がりも育まれています。手から手へ、人から人へ、まかれた種が着実に世界に広がっているのが、47年続いているスクールの国際面の特長です。

*現・株式会社川島織物セルコン