2024年度留学生コース終了!

世界中から織りを学びたい学生が集う川島テキスタイルスクール。英語で日本の織りを専門的に学べる学校は稀で、例年春と秋に開講する留学生コースはとても人気があります。ビギナーズ・絣基礎・絣応用を組み合わせた内容で、2024年度も学びの意欲あふれる留学生が集まりました。春学期はイタリア、フランス、フィンランド、イギリス、アメリカ、オーストラリアからの9名、秋学期はベルギー、スウェーデン、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカからの7名を受入。秋の絣応用では、絣基礎で学んだスキルを取り入れてオリジナル作品を制作。学生のなかにはテキスタイル・デザイナーの仕事をしている人もいて、今回の自主制作を通して自身の作風が広がった、作品は日本で絣を学んだからこそ生まれたデザイン、と話しました。そんな留学生の作品は、来年3月の修了展に展示される予定です。

スクールの特色のひとつに、修了生が再び学びに戻ってこられるという点があります。今秋も、前年に絣基礎を修了して今回は応用を受講した学生や、2019年に絣基礎と応用を修了し、絣の学びを積み上げるべく応用を再受講して新たな作品を制作した学生もいました。「ここは街の喧騒から離れて静かだし、設備も整っていて、落ち着いて制作に打ち込める環境が気に入っています。また戻ってきます」と。他の学生も「細かい作業を確実にするための道具と設備が整っていて、充実した制作ができました」「ここで学べて光栄でした」といった感想をくれました。

また今年度も、スウェーデンにある提携校HV Skolaから来た留学生が交換留学を検討している専門コースの学生向けに学校紹介してくれたり、日本の学生と留学生が互いに情報交換したりして、織りを通じた出会いと刺激が生まれました。

*現在、川島テキスタイルスクールでは2025年度の各コースの願書受付中です。春の留学生コース(英語)は12/12締切、専門コース本科技術研修コース(日本語)の二次締切は12/13、マンスリーコース(日本語)は2/7締切です。

(ブログ連載)スクールをつづる:国際編

「多くの人の手や情熱や知恵をつないでここにある重み」滋賀テキスタイル研修 専攻科・齊藤晶子

専門コースではこのほど課外研修として、滋賀県の湖北、湖東エリアの産地を訪れました。大高亨先生(金沢美術工芸大学教授)による連続授業の一環で実施し、事前に滋賀県の繊維産業などの講義を受け、輪奈ビロード、浜ちりめん、近江上布の生産現場や、テキスタイルデザインのスタジオ兼ギャラリーを見学しました。


 美しい布は美しい糸からできている。湖北の絹糸は農家の女性が蚕を飼い、桑を育て、糸を紡ぎ織る。40年ほど以前に湖北の古民家に宿泊したとき、玄関を出た小屋のような所に巨大な釜が置いてあり、その家のおばあさんが繭を煮ていた光景を思い出した。釜の横には糸車も置いてあり、糸を紡いで織物を織るということが普通の生活の一部であったという説明を実感した。一方、今回は湖北長浜で輪奈ビロードの「タケツネ」浜ちりめんの「浜縮緬工業協同組合」「南久ちりめん」で産業としての織物の生産を見学した。

 輪奈ビロードはとてつもない手間と時間がかかっており、使う染料は一色であるのに濃淡三色だけで光沢と奥行きのある高級感あふれる美しい布を生み出していた。コート一着分の布を織るのに経糸1万5千本、織る、切る、抜く、精錬という工程があり、それぞれの熟練工が精密な仕事をつないでやっと完成する。ほんの少しその工程を見学しただけでビロードの魅力の本質を見た気がした。

 南久ちりめんではブラジルや中国からシルクを仕入れ、糸繰りをして後の染色の際に染料だまりの原因になるふしやねじれを取り除いた糸を8000本から一万本経糸に整経し、筬一目に8本、かざり(綜絖)に4本ずついれて経継ぎをするという。緯糸は何本も何本もあわせて太い糸にしていくのだが、合糸の際に右撚、左撚、本数などを工夫し「シボ」を生み出す太い丈夫な糸を作り上げる。その際、ひっぱった時に糸が切れないように水をかけて湿らせながら拠るのが水拠りである。水拠りには13°の地下水が最適で、伊吹山から流れてくる地下水が使われている。さらに作られた糸を木枠に巻いて100°で焚くことでセリシンを落とし、人間の肌になじむ柔らかさに仕上がるのだそうだ。セリシンは合糸の際の接着剤の役割も持っているのでのりは使わない。この工場では経糸緯糸ともにS拠りZ拠りを入れて作る「鬼シボ」を得意としており、この糸で織られた無地の地模様が織りなす光沢や高級感のある布は、現在ウエディングドレスに活用されることも多いという。織り方によっても一越ちりめん、古代ちりめんなど模様が変わる。浜ちりめんといえば金沢に送られ、加賀友禅で染められて着物等に仕立てられるという定番以外に、現代社会においてこの布にマッチした作品や製品をもっと幅広く見てみたいと思った。

 工業協同組合の工場では主に大きな機械による精錬の過程を見学した。精錬前の絹織物は蚕の佩く糸のまんまの色である。精錬をすることで白く柔らかく光沢のある布になる。アルカリで洗い、蒸気を加え、圧力を掛け乾燥させて縮んだ布を今度は巾出しして巾と長さをそろえ、反物にして検査し、此処で初めて「浜ちりめん」になる。繭の生産から考えると一反、一反が多くの人の手や情熱や知恵をつないでここにあるということに重みを感じた。近年生産量が減り、工場の機械も止まっていたのが本当に残念だった。

 次に訪れたのは湖東の近江上布伝統産業会館である。近江上布の特徴は緯糸に大麻の手績み糸を使い腰機で織るということである。本来は短い麻の繊維をさいて手で撚りをかけながら結ばずにつないで一本の糸にすることや不安定な腰機を用いて織るなど、全て手と木の道具のみで織り上げる手法は厳格に守られていた。麻の種類には大麻・苧麻・亜麻とあるが、近江上布の「生平」は大麻を使う。大麻糸はもともと神事に使われていた手織り糸で涼しく吸水性がある。紡績には向かないが、原料である大麻が炭素を吸収する素材としてSDGsの観点から近年見直されている。

 また近江上布の「絣」は「捺染」染織で「櫛押捺染」と「型紙捺染」で染めた糸を手で絣の柄合わせをして織っている。染料としてはじめは藍等天然染料を使っていたが、近年は化学染料を使っているということであった。市場に出回っている近江上布とされる反物は意外に多くあるが、本当の近江上布と言える物は伝統的な材料と手法を用い、厳しく定められた工程を経て検品し、合格してナンバリングされたシールを貼った少数の物だけだそうだ。近江上布に関わる方々は、正しい手法・工程と上質の近江上布を守るために後継者育成にも力を注いでおられ、近江上布はまさに伝統工芸品である。だが現代に残して行くには伝統をそのまま正確に伝えるだけではなく、新しいことにも展開していく試みをされていた。例えば化学染料の使用であり、新しいデザインへの挑戦である。見せていただいた新作の布がこのあと訪れた「炭酸デザイン室」の若手デザイナーによる「琵琶湖」をモチーフにした作品だったことや絹織物とは別手法で「シボ」を作りデザインに取り入れていることなど、地域や素材を越えてテキスタイルのつながりを感じた。

 最後に訪れたのは東京や山梨で活動していた若手デザイナーご夫婦の工房で美しい色でポップなデザインのテキスタイルとそれを日常品に加工した製品を見せていただいた。ご家族での生活の中からモチーフを見つけたり、子どもたちの未来の世界進出を見据えて英会話の教室を開いたりという自由で伸び伸びとした発想がそのままデザインに表れており、プリントされた色合いが個性的なデザインに素晴らしくあっていて見とれてしまった。こんな魅力的な布に囲まれたなら心明るく穏やかに人にも優しくなれそうだと思っていたら車椅子の布に用いる試作をしていると話をされていてピッタリだと思った。布には力があるということをあらためて感じた。「炭酸デザイン室」というネーミングもシュワシュワと人の心に浸みるという発想から考えたということでこの発想自体が心にしみる思いだった。

 今回湖北、湖東、湖南とそれぞれでテキスタイルを見てきたが、素材や手法は違っても滋賀テキスタイルとして共通するものがあった。いいお天気で琵琶湖の湖面の穏やかな景色がそれぞれのテキスタイルと共に印象に残った濃密な一日だった。

「大切にする理念、布を通して表現」滋賀テキスタイル研修 本科・Fさん

専門コースではこのほど課外研修として、滋賀県の湖北、湖東エリアの産地を訪れました。大高亨先生(金沢美術工芸大学教授)による連続授業の一環で実施し、事前に滋賀県の繊維産業などの講義を受け、輪奈ビロード、浜ちりめん、近江上布の生産現場や、テキスタイルデザインのスタジオ兼ギャラリーを見学しました。


はじめに
 国内最大の湖、琵琶湖を抱く滋賀県では、その潤沢な水資源や恵まれた自然環境、他府県へのアクセスの容易さなどから、古くから繊維産業が発展してきた。湖北・湖東地域の生産現場を訪ねるべく、天候に恵まれた秋の早朝、スクールからバスに乗り込み滋賀へと向かった。

1. 湖北地域の絹織物
1-1.輪奈ビロード
 住宅街に溶け込むように建っている日本家屋の玄関に「株式会社 タケツネ」の看板がかかる。滋賀テキスタイル研修最初の目的地であり、輪奈ビロードの製造元だ。入り口をくぐると、奥の壁にはたくさんの反物が掛けられており、そのどれもが美しい光沢を放っている。室内では職人さん達が織り上がった布を前に作業を行い、隣接する機場では、いくつも並んだジャガード織機から複雑な模様の布が織り出されていた。こちらで製造されている輪奈ビロードは絹100%で織られており、その美しさもさることながら、軽くて暖かいことから、主に着物用コートやショールなどに用いられているそうだ。
 輪奈ビロードの特徴である輪奈(ループ)を作るためには、二重にした経糸の一方に芯材を織り込む必要がある。かつては職人さんが針金を一本ずつ挿入する手間のかかる作業だったが、研究を重ね糸状のポリエチレン芯材を採用することにより、自動織機での製造が可能となっているといい、見学時も職人さんが単独で複数台の織機を管理していた。かつて長浜には輪奈ビロードを製造する機屋が900軒ほどあったというが、現在は数件のみが製造を続けているという。織手の確保が難しい時代でも質の高い製品をつくり続けるための試行錯誤が垣間見られた。
 一方で、ビロードの特徴的な質感を生む紋切り(ループカット)の作業は、専用の特殊な小刀を用いた手作業で行われており、熟練の職人さんによる精巧な手捌きに驚く。切られたループの断面は、染色すると他の部分よりも濃く染まる為、ほんの少しでも切る位置がずれれば傷になりかねないとても繊細な工程である。我々に説明しながらも、職人さんの手元では次々に菊の花が咲いていた。

1-2.浜ちりめん
 「浜縮緬工業協同組合」の精練加工場には、各機屋から届いた何種類もの反物が精練の順番を待っていた。(因みに、最初に訪れた「株式会社 タケツネ」で織られた輪奈ビロードも、こちらで精練を行っている。)湖北を代表する伝統産業の一つ、浜ちりめんの独特な風合いを生む精練の工程を一手に担うのがこの加工場だ。「八丁撚糸」と呼ばれる未精練の強撚糸で織り上げられた生機は、初めゴワゴワと硬いが、精練することによりしなやかな質感へと変貌する。
 集まった反物は、特殊な設備によって下準備を施された後、精練の工程【前処理→本練り→仕上練り→水洗い】に入る。この際に不可欠なのが琵琶湖から汲み上げた水であり、染色ムラ等を防ぐ為、汲み上げ後更に軟水化の処理を施してから使用しているという。広大な加工場には精練用の巨大な湯釜がいくつも並んでおり、琵琶湖という水資源に恵まれた環境が、地域産業の発展に大きく貢献していることが伺えた。

 続いて向かった「南久ちりめん株式会社」も組合の一員で、原料生糸の仕入れから織り上げまで全て自社で行っている。製造の流れを工程順に見学する中で、特に興味深かったのは、事前学習でも取り上げられた「八丁撚糸」の製造だ。専用の撚糸機で、水分(年間通して水温の安定している地下水を使用)を含ませながら生糸に強い撚りをかける。撚りの回数は必要に応じて2,000~4,000回とのことで、撚り具合を細かく調節できるのは一社で全行程を行うからこその利点だろう。浜ちりめん特有の美しいシボ、その鍵となる撚糸の工程を間近で見ることができた貴重な機会だった。

2. 湖東地域の麻織物
 かつて郡役所の庁舎だったという「近江上布伝統産業会館」の中には、色とりどりの布地や洋服の間に機が並んでいた。こちらで作られているのは、湖東地域で室町時代から生産され、現在は「経済産業大臣指定伝統的工芸品」に指定されている「近江上布」だ。会館では、この伝統産業の麻織物技術を次世代へ継承し、世に広める為、製品販売や様々な体験ワークショップ、後継者育成プログラム等様々な取り組みを行っている。
  昨年育成プログラムを修了したという職人さんが、緯糸に手績みの大麻糸を用い、室町時代と同じ構造の地機(腰機)で織り上げる「生平」と、櫛押もしくは型紙捺染で染織した緯糸を耳印で合わせて手織りする「絣」を織る工程の実演をしてくれた。特に生平の工程は圧巻で、職人さんが細く割かれた麻の繊維を指先で数回縒ると、あっという間に真っすぐに繋がり滑らかな糸になる。そうして績み繋いだ糸を地機で織っていくのだが、シンプルな構造の地機で布を織り上げていく様は、まるで機と織り手とが一体となっているかのようだった。
 見学の中で、近江上布を産業として継承していこうという熱意をひしひしと感じた。工業化の進んだ現代において、近江上布が昔と変わらない方法で生産され続けているのは、この布に魅せられる人々の思いがあってこそなのだ、と強く思い知らされた。

3. 滋賀発のテキスタイル
 ポップな柄のカーテンに、カラフルなオブジェや不思議な形の入れ物が並ぶ棚。大人も子どもも、思わずわくわくしてしまうような「炭酸デザイン室」が、研修の最終目的地だ。
 お邪魔したのは、ショールーム兼、ショップ兼、アトリエ兼、英語学童兼・・・仕事場の枠を超えて地域ともつながる空間で、なるほど、鞄やポーチなどのテキスタイル商品以外にも、色々な画材や小さな座布団の山が見える。ご夫婦で立ち上げた炭酸デザイン室は、身近な自然や風景等、暮らしの中から生まれるデザインをテキスタイルに落とし込んで制作されているそうで、お子さんたちの描いた絵もデザインに採用されることがあるというから、ご家族で運営されている、といっても差し支えないのかもしれない。
 ブランドの立ち上げから、どのような経緯で現在の滋賀を拠点とした形へ移行してきたかをお聞きし、中でも、いわゆる“営業”をせずに「向こうからときめいてもらう」という仕事へのスタンスは、つい心が弾むようなデザインや地域との関わり方と合わせてとても印象的だった。自分たちのデザインが誰かの心を揺さぶる瞬間に喜びを見出すものづくりの感覚が、とても魅力的だと感じた。

おわりに
 地場産業として生産が続く絹織物から、昔ながらの技法で織り上げる上布、現代のテキスタイルまでを一息に駆け抜けた滋賀研修は、これまでの滋賀の織物産業の歩みを知り、現在とこの先の未来を見据えてものづくりをしている方々のお話しを直接伺えた実りあるものだった。
 安価な海外製品が一般的になる中で、技術のある人員を確保し、高い水準の製品をある程度の規模で生産し続けることが容易でないことは想像に難くない。今回お話しを伺った皆さんの言葉には、それぞれの織物や技術、製品への愛着や誇りといった想いがにじむ瞬間が端々に見られた。実際に出来上がる布たちも、言葉に反しない出来だった。それぞれに大切にする理念(想い)があり、布を通してそれを表現している。それはこれからものづくりの道を志そうとする者にとってまぶしく頼もしいもので、どんなものをどのように作り、どう人に届けたいのか、改めて自身に問い直すべきだと気付かせてくれた。また、長い歴史のある伝統工芸の素晴らしさについても再認識し、より深く知りたいという探求心が芽生えた。自身の制作に対する姿勢を明確にできるよう、今回の研修で生まれた気付きと向き合っていきたい。

マンスリーコース開講のお知らせ

2025年4月より「マンスリーコース-暮らしの織り-」を開講します。
月1回、主に金曜・土曜で集中して学べる2年間のコース*です。
現在、入学願書の受付を開始しています。(出願はウェブサイトからのみです。→こちら

*1年単位で学ぶことが出来ますが、基礎クラスを修了した方のみ、応用クラスを受講する事ができます。

○1年目の基礎クラスでは、基礎から応用までスキルアップできる内容で、暮らしの「ものづくり」を通して、手織りの工程や織り機の仕組みを学びます。
○2年目の応用クラスでは、1年目の基本をベースに、オリジナルテキスタイルの日傘を作り、ていねいな手仕事とセンスを学ぶことができます。


期間 2025年4月4日(金) 〜 2026年2月7日(土曜)  全24回
時間 10:00 〜 16:00
定員 5名 (先着順ではありません。申込締切後に選考を行います)
出願締切 2025年2月7日(金)
講師 仁保文佳

※ 24回全ての授業への出席が必須です。
※ マンスリーコースはウェブ出願のみとなっています。


その他詳細はマンスリーコースのページでご確認下さい。
皆様の出願をお待ちしております。

Fika・焼き芋パーティーを開きました

秋晴れの空の下、スクールのバルコニーでFika(フィーカ)・焼き芋パーティーを開きました。留学生と専門コース、技術研修コースの学生たちが集い、あつあつの焼き芋や焼きリンゴ、焼きマシュマロなどをほくほく食べながら、学生同士会話も盛り上がり、楽しい交流のひとときとなりました。

当日朝は火を起こすところからスタート。安定した炭火をつくるために辺りで拾った木の枝や落ち葉を投入するなど、山に囲まれ、広い空間のあるスクールの環境だからこそできる本格的な焼き芋づくり。学生が集う頃には、中までしっかり火が通った、あま〜い焼き芋ができ、みんなの顔もほころびます。

焼き芋は初めての経験という留学生も多く、それぞれの国のさつまいも料理を紹介したり、日本の学生たちも積極的に英語で話しかけたりして、火で暖まるとともに、場の空気も温まっていきました。火の通った食べ物と温かい飲み物、心の通った交流で、みんなで心身ともに温まった秋の午後となりました。

在校生インタビュー2 「大好きな織りを中心に置く生き方にシフト」Iさん(2024年度・専門コース本科)

在校生インタビュー第2回は、北海道から来てフルリモート勤務をしながら本科で学んでいるIさんに、入学の動機や、どのように授業と仕事をやりくりしているのか、織りとの向き合い方などについて語ってもらいました。

◆一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう

—まずは「はじめての織り10日間」のワークショップを2020年に受講し、そこから専門コースに興味を持った経緯を教えてください。

織りにはずっと興味があり、基礎から学びたいと思ってワークショップを受講しました。実際ついていくのがやっとでしたが、最初から上手くできなかったからこそ、もっとやってみたい、もっと知りたいと思ったんです。続けて他のワークショップも受けていこうとしたのですが、コロナ(の大流行)が始まって(移動の制限などで)学びに行きたいのに行けない。それで卓上機を買って自宅で復習し、他の所でも講座を受けたのですが、糸の準備からではなく経糸がかかっている状態で織るだけの内容で、なかなか身につかずに物足りなさを感じていました。いつか専門コースで本格的に学べたらいいなという夢はありましたが実現可能とは思っていなくて。その頃、仲のいい友達が亡くなって、これから私どう生きたら後悔しないんだろうって生き方を見つめ直し、残りの人生かけて好きなことをやりたい、私が一番好きなのは織り、と思いが強くなっていきました。

——入学願書を提出するという行動に移したきっかけは?

娘の結婚が決まったことと、スクールのブログで在校生インタビュー記事を読んだことです。娘に、これまで私は好きなことをさせてもらってきたから、これからはお母さんに好きなことやってほしい、何やりたいのって聞かれて「織りやりたい」と答えていました。今年2月にたまたまブログの記事を読んで、インタビューの最後に在校生のSさんがおっしゃっていた「自分第一主義」という言葉が胸にストンと落ちたんです。それまで私は自分ファーストにはなれなかったのですが、その瞬間、行こって。一生懸命働いて得たお金を、今度は自分のために使おう。大好きな織りを中心に置く生き方にシフトし、自宅にアトリエを作って「織りの生活」をしようとイメージがはっきりと浮かびました。意志が決まったら悩みや雑念が消えて、願書を提出。ワークショップ受講時に学校も寮の環境も経験しているので気持ちが楽でした。学びに行くからと娘に報告したら、本当に行くの!?と驚いてましたね(笑)。

◆仕事を続けたかったので、授業と両方を回す生活に

——専門コースでフルタイムで学びながら仕事を続けるために、どう準備したのでしょうか?

仕事は販売事務で、コロナ以降にテレワークになったと同時に、外勤から内勤に業務が変わったんです。願書を出すタイミングで勤務先の社長に、織りを学びたいから京都に行っていいですかと確認し、いつも通りちゃんと仕事をやってくれるならいいよ、と了承を得ました。学びに専念するなら仕事を持ってこない方がいいとは思いますが、私は仕事を続けたかったんです。織り中心の生活はしたいけど、織りを仕事にしようとは考えていないので。

——実際に授業と仕事をどのようにやりくりしているのでしょうか?

仕事は授業が終わってから夜と週末に、繁忙期は早起きして朝やる時もあります。打ち合わせは授業外で時間を調整してオンラインで、また会社の状況がリアルタイムでわかるシステムがあるので、急ぎの場合は昼休みに集中してやる時も。夏休み期間に出勤、戻ってきて代休を取り、今はまた両方を回す生活です。

——ペースをつかむまでは大変だったのでは。

最初の学期はすごく緊張感がありました。織りも仕事も完璧にやろうとしていたので、どちらも一生懸命するほど織り軸なのか仕事軸なのか混乱して、仕事を持ってくるんじゃなかったと思って悩んだ時期もあります。ですが2学期に入ってからは吹っ切れました。夏休み明けに職場のみんなが快く送り出してくれて、仕事量は(緩急つけて)調整し最低限迷惑をかけずに、自分の使命はやりきるぞというスタンスに切り替えたんです。いまやっと心がフラットになって、織りを学んでいる時間は自分へのご褒美だなと思えるようになりました。

◆間違いに気づける自分になれたのが嬉しい

——本科で学び、半年経った今どんな実感がありますか。

織り実習は早いペースで進むので追いつくのが大変で、間違いも多かったです。最初の学期はつらくて、どうしようって娘にこぼした時、“もう”4カ月経ったけど目標はつかめているの?と問われてはっとしました。夏休みや冬休みに入ったらあっという間だし(本科1年間の)学期のサイクルはあと2つしかない。自分で目標をつかんだか、つかんだらそこに集中したらいい、と。1学期最後、8メートルの布を織る実習に入ってからは、自分なりの“今日の目標”を立て、毎日クリアできたかを確認しました。この時点で自分はゆっくりペースだとわかっていたし、ひとつずつ目の前の目標に取り組むことで集中してできたんです。平織りで長く織る分、機の調子がなんか悪い、糸が引っかかってる? 私間違ってる?と気づけるようになって、自分が間違いやすい所もだんだんわかってきて。そうやって気づける自分になれたのが嬉しくて!

——この先アトリエを持って織りの生活をするイメージに近づいているのでは。

そう、「織りの生活」ができるって思えたのがたまらなく嬉しかったですね。きっと間違って気づくプロセスがなかったら、私の場合は身につかないんだろうなと。今は慌てず対処できるようになったし、間違った原因を見つけられたら知恵を一ついただきました、ありがとうって思えるように。織りの生活に向けて必要なものを得ている実感があります。やっぱり私は織りが好きだなと、かみしめています。

——好きを再確認できたのですね。

このスクールには私の好きがたくさんあります。ホームスパンの実習も大好き。羊毛の染色で失敗したのですが、まだらに染まった羊毛が糸に紡いだ時にどう混ざるのか、織った時にどんな色になるのかと思いが広がります。静かなアトリエも、緑に囲まれた環境も、道具を見るのも好き。静寂の中で織る経験から、私は一人で集中して織るのが好きだと気づきました。先生に話したら、ここでの気づきはこれから役に立ちますよと言われて、そんな瞬間瞬間を集めて嬉しくなるんです。2学期に入って、自分の好きに集中する瞬間が増えています。