スクールをつづる:綴織編2 綴織担当・近藤講師インタビュー 「継ぐ−−ちょうどいい着地点を探って」

川島テキスタイルスクール(KTS)綴織編シリーズ第2回は、綴織が専門の近藤裕八講師のインタビューです。「継ぐ」を意識したKTSとの出会い、綴帯制作に邁進した学生時代、川島織物でのインターン、綴織を教える姿勢や織物に対する今の思いについて話を聞きました。

グループ制作のタペストリーを織り上げた学生と共に。
「機から下ろした瞬間、重さや柔らかさなど質感が手にズシッと感じられる。糸と向き合って積み上げてきたものが形になったという実感を得られて、『できたね』『終わったね』という喜びと安堵がこみ上げてきます。完成に向けての段取りを頭の中で考えながらも、学生たちには、とりあえず『おめでとう』という気持ちです」

◆講評会で綴帯の作品を見て「ビビッときた」

実家は呉服店。高校卒業を前に将来を考えた時、家業を継ぐ道が視野に入ったという近藤講師。愛知県で祖父の代から始めたお店。日常で着物を着る文化がない町で営み続けている家族の背中に、「できるなら続けてあげたい」という気持ちが自ずと湧いてきたそうです。着物を勉強しようと思い、雑誌『美しいキモノ』の掲載広告を見てKTSへ。2006年の専門コースは既に定員オーバーで、デッサン教室に通いながら1年待って入学しました。

綴織に魅かれたのは本科1年の講評会がきっかけ。先輩の綴帯の作品を見て「ビビッときた」。織実習でタペストリー制作はしたけれど、帯の綴織の細やかさや美しさに特別な魅力を感じたそう。そういえばKTSを作った川島織物も綴織が得意と聞いた。ここで綴織を学ぶ意義を見つけて専攻科2年に進み、綴帯の制作に方向を定めます。

◆手足の動かし方や打ち込むリズムが違う

専攻科では「難しい」と言われる無地織りや他の技法を練習し、細かな綴織を織る手の感覚をなじませて作品制作に取り組み、創作科3年次には川島織物セルコン制作部綴室でインターンを経験。「商品を作る現場では、質と併せて生産効率で動く。円を織る比率の緻密さや、無地と柄を織る時の手足の動かし方の違い、緯糸がきれいに入るコツなど、無駄のない『動き』を間近で見たことや、現場の職人さんからのアドバイスが勉強になりました」。正確に一定のリズムを刻んで織るテンポも製作現場ならでは。「織る音にも特徴があって、綴帯は緯糸を入れて打ち込むリズムが『シャ・タン、シャ・タン』とタンで一度打ちするので強く大きい音になるんです」。体で覚えた技術を、今度はスクールでの創作活動に組み込んでいきました。

創作科として更に1年学びを続け、再びインターンへ。今度は呉服開発グループで社内デザイナーから図案作成を学び、モチーフに合った滑らかな線を描けるよう訓練を受けました。並行してスクールの創作では、綴帯に自らデザインしたマーブル柄を織り込み、自分なりの表現を深めていきました。

marbling circle (2010)
「綴の名古屋帯は訪問着や色無地と合わせられる格ですが、逆にカジュアルな装いに合わせにくくなる分、配色などのバランスを考えてデザインしました」

◆織りを残していくために、ちょうどいい着地点を

綴織に邁進した4年間。修了の2011年当時、KTSでは若い世代への継承の時期を迎えていました。そこで綴織一筋に探究した技術と姿勢が見込まれ、専任講師として教えることに。専門コースをはじめ、定期開催ワークショップ、海外の団体向けなど綴織の授業全般を担当してきました。2012年には、豊臣秀吉が使ったと伝わる「鳥獣文様綴織陣羽織」(重要文化財)の修復に携わり、綴織の一種である「織成(しょくせい)」という技法を用いて土台部分の製織を担いました。

教える上で心がけているのは、「綴織は川島織物の伝統ある技術であり、KTSで開校時から教え続けられた蓄積がある。受け継がれてきた技術を伝えていく自覚と、その基本を正しく教える」こと。その上でこんな思いも。「講師として僕もまだ10年。織り手としても学びは一生終わらない。伝統の世界では一人前になるまで長い年数がかかると言われます。ただ、はじめの一歩を踏み出したい人にとっては、その年数の長さを強調すると気持ちのハードルを上げてしまい、間口を狭めかねず、それはもったいないと思う気持ちもあります。学生を見ていると、織りを深く知らないからこそ出てくる発想があって、固定観念に捉われがちなところを取っ払っていける新鮮な目を持っている。『これをやりたい』と言うものがあれば、僕の知識で手助けして挑戦を後押ししたいです。また、海外のグループは同じ綴の織り方でもフリースタイルが多く、織りを楽しむための綴織だと感じます。自由な感性が色合いやデザインに反映されて僕も刺激を受けます」

KTSで教える中で、「これからも織りを残していかないと、という思いが強まりました。実家もスクールも織物業界全体を大きく見て、そう思います」と近藤講師。「手間ひまをかけて作られる物の良さを伝えたいし、いろんな人に織物をやってほしい。そのために僕にできることは何か。講師としては伝統を尊重しながら、間口を広げて気軽に聞いたり始めたりできるきっかけになりたい。ちょうどいい着地点を日々探っています」


「マーブル模様を選んだのは、自然に生まれる線が美しかったから。実際に水に顔料を浮かべて紙に写し取ったものをいくつも作って、試染と試織を繰り返していきました」
◆  近藤講師にとって織りとは? 「襟を正す」

機に座る時、襟を正す気持ちになります。心が乱れていたら織りに向き合えないので、まずは整える。集中すると、何も考えない無の時間に浸れるのですが、それに近い感覚を僕は草抜きにも感じます。不思議ですが(笑)。どちらも淡々と手を動かして没頭できる時間が楽しい。現代の慌ただしい日常では、そんな時間が取りにくいのが実情。だからこそ、大切な時間です。