スクールの窓から:時代を読み取り、自分を知り、人生を楽しんで生きる 野田凉美アドバイザー講義

専門コースで、野田凉美アドバイザーによるゼミが開かれました。「『つくること』は『食べること』と同じ」と語る野田先生の、ものづくりの豊かさが感じられる授業時間となりました。

野田先生は1980年代から京都を拠点に活動して、国内外で作品を多数発表し続けています。2022年2月には初の作品集『HINTS FOR ART』(青幻舎)を刊行。当スクールでは06年から11年間ディレクターを務め、現在はアドバイザーとして関わっています。

授業では、先生のものづくりにおいて、テーマはどこからきて、どんな素材でつくっているのかなどのレクチャーがありました。そして先生がこれまで制作・展示した作品や、そのサンプル、使用した素材を実際に見ながら、制作プロセスが紹介され、授業全体を通してたくさんの思考の種が蒔かれた時間でした。

◆この時代にいる「私にとって大切なことは何か」を知る

テーマは野田先生の場合、ニュースや広告の分析や、日常生活から感じ取るところから始まるそうです。広告を見ていると「皆が何を欲しているのか、何を売りたいのかがわかる」と先生は言い、車や薬、保険など様々な例を挙げて、それをどう読み取っているかを話します。服の場合は1970年〜80年代は体にピタッと沿うような形だったのが、今はフリーサイズやボタンの無い服が多くなっている。そこからニット素材が増えたり、色や形で性差が無くなってきていたりしている時代の変化を読み取ることができる、と。そして、身の回りの出来事や、何気ない日常からも日々敏感に「感じ取る」。その上で、「この時代にいる『私にとって大切なことは何か』を知るのが大事」と野田先生は言います。先生にとっては距離感が大切で、人に対しても自然に対しても居心地がいいと感じる距離感を「快適に生きていくために知っておく」と。そんな毎日の生き方が、そのまま、ものづくりとひとつながりとなって話は進んでいきました。

その軽妙な語り口に引き込まれていくうちに、私にとって大切なことは何だろうと、一人ひとりがおのずと考えるようになります。自分を知るためには「いろんな情報を丁寧に、頭の中にメモしていく。それを書き出し、皆に話してみる」と先生はアドバイス。他にも絵画や映画、読んできた本の紹介や、先人に学ぶ視点を持つことを伝え、それから「身近にあるものをモチーフにすることが多い」という先生の作品例の説明へと入っていきました。

◆美味しかったな、栄養になったな、元気出たな

まず先生が伝えたのは、「アートは、ごはん」について。アートは特別な何かではなく、日常にあると思っていて、食事も作品制作も「毎日の生き方そのもの」を表している、と。何を食べるか、どう食べるかを日々選んでいるように、素材選びも、テーマから関連づけて「自分なりの選び方をする」。「新しいアイデアでも、素材の組み合わせがうまくいかなければ失敗することもありますが、そこで自分の目標を絶対にまげない」ときっぱり。そして、作品で使われているウール、ラベル、紋紙、薬のプラスチックパッケージ、砂など、それぞれの素材に着目した経緯が語られました。

続く作品紹介では、実際に作品のサンプルを見ながら、素材から作品に変わるプロセスについて、技術、工夫、やってみて気づいたことなどが小気味よく説明されました。話の中で、素材の購入先などの実用的な情報から、制作で出会った言葉、参考本の紹介、ポートフォリオ作りのアドバイス、写真を撮っておく必要性、野田先生にとって展覧会とは、展覧会でどのようにメッセージを発信し、人と作品が往来できる場をつくっているのかなどが惜しみなく伝えられました。

野田先生は言います。「食べることと同じで、美味しかったな、栄養になったな、元気出たな、と感じながら、ものをつくりたいと思っています」。

授業で紹介された作品のサンプル。

◆手ぶらで歩ける、生きているだけでいいよって言える日を

終盤にスライドで紹介されたのは、幼少期の写真と「生きているだけでイイ ハッピーバースデー」という作品。「人間ってすごく無理して生きているなって思います。あれも必要、これも持ってという感じで。だからお誕生日ぐらいは手ぶらで歩けるとか、生きているだけでいいよって言える日であったらいいなと思ってつくりました」。

ものづくりのヒントになるような内容が、多様で広がりをもって伝えられた授業。それを作品制作に限った話ではなく、毎日の生き方と重ねて語られた野田先生の講義は、時代を読み取り、自分を知り、人生を楽しんで生きるヒントに満ちていました。

「生きているだけでイイ ハッピーバースデー」”It’s Just Good To Be Alive Happy Birthday” 2003 = 表恒匡撮影

〈野田凉美プロフィール〉

のだ・すずみ/大阪生まれ。京都市立芸術大学特任教授(2017〜22年)。京都造形大学(現・京都芸術大学)特任教授(2012〜17年)。川島テキスタイルスクールディレクター(2006〜17年)を経て、アドバイザー(2017〜現在)。
GALLERY GALLERY、ギャラリーマロニエ他、イギリス、スウェーデン、イタリア、オーストラリアなど国内外で作品を多数発表。

website: suzuminoda.com
instagram: @suzuminoda

◆野田凉美個展「昭和について」
会期:2022年6月25日(土)~7月10日(日)12:00~19:00
※最終日は17:00まで,木曜日休廊
会場:GALLERY GALLERY

『野田凉美作品集HINTS FOR ART』(青幻舎)