「組み合わせでうまくいく、パズルの瞬間」尾州研修より 本科・岩本瑞希

出発までに思っていたこと

 前日までに行き先の情報やどんなものがあるのかの動画などを探して見ていたものの、明確なイメージが湧かず、いまいちわからないまま出発したので不安だった。行ってみて、実際に素材に触れたり、音や振動を感じることで面白さや大変さが見えた気がする。

テキスタイルマテリアルセンター


 常時10万点以上のテキスタイルサンプルがあるというのはどんな感じなのか?が数が多すぎるのもあってピンと来なかったが、実際には12万点以上と聞いて2万点も増えていることに白目を剥きそうになった。テキスタイルサンプルが豊富すぎて、素材図書館と言っていたけれどすでに宝箱のような場所で、最低でも1年くらい入り浸らないと一瞬ずつでも全部を見られる気がしないので、機会を見つけてまた訪れたいと思う。

 岩田社長が見せてくださった織たちは、手作業が入るからこそ生み出せるものがほとんどで、本当に幅が広くて、わざと防染の糊を少しひび割れさせるだとか、飛ばした糸を切って、さらに布に打ち込むだとか、それだけで表情が全く変わっているのが面白かった。大量生産ではできない(できなくはないがコストがかかりすぎて難しい)ような手間をかけられること、どんなに空想でしかないようなものを描いても、現実に持って来られるかもしれないという希望があるのが大きな特徴・強みであるように感じた。しかし工程を聞くと、堅実に現実的な事柄を積み重ねた結果、魔法が出来上がった!というような印象を持った。
 こんな感じの生地を作りたい!から、理想に近いサンプルを探ることから始めて、理想のサンプルに出会ったとして似たものでも同じものでもなく、工夫の積み重ねで別の理想を作り出すのは、聞くのはなるほどと思えても実際にやってみるとものすごく大変だろうなと想像した。
 設計をわたしたちはまだやっていないけれど、かなり頭を使うし、相当な根気が必要なんだなと恐ろしくなった。
 失敗と思われた生地や、デザイナーにとっては印象がそれほど良くなかった生地を使った商品が高評価を受けた話は、自分からは自分のことがわからないのと似ている気がするなと思った。

葛利毛織工業

 ションヘル織機が実際に動いているのをその場で見て、音の大きさと振動が思っていたよりずっと大きくて、そこだけ見ると完全に機械生産というか、工業だ!と思った。それでも綜絖通しと筬通しは手作業で、手作業と機械が仕事を分けて共存している感じなのがすごく良いなと思った。自分は綜絖通しと筬通しが作業の中でだいぶ苦手なので、10000本以上での24枚綜絖、細い糸を8本ごとに細かい筬に通して……と考えると震えてしまうが、速い人は半日で6000本を通すと聞いて、きっと同じ人間のはずなのにと驚いた。
 綜絖が動いて、ションヘル織機のシャトルがヒュンと飛んで、打ち込んで、綜絖が動いて……のカシャンガシャンという音が古い餅つき機の音と似ていて、なんだか懐かしい気持ちになった。
 伺ったお話で「いつまで続けるかを具体的に決めたら、それを後押しするように続くための外側の材料が揃い出した」「どん詰まりに行きあたっても足元に突破口はある場合が多いし、ない場合には作れば良い」というふたつの話が印象的だった。そして、そう言えるための材料はそれまでに自分が積み重ねた努力なんじゃないかと思った。自分がいつか同じような境地に立てるのならば、どう動いたら良いのかを事あるごとに考えられるようになりたい。

木玉毛織

 ガラ紡を実際に見て、雨が降っているみたいだと思った。実際には上に向かって伸びるので雨とは逆だけれど、まっすぐに伸びる若干不規則な糸たちと筒が回転して、上がって落ちるガラガラの音とが相まって絵本の中で降る雨のようだなと。
 ガラ紡で紡がれた単糸そのままだと引張強度が弱いが細い糸と撚るカベ糸か双糸にすることで強度が上がって使いやすくなるという説明を聞き、自分の思っていることもそれだけではうまくいかなくても、何かと組み合わせることでうまくいく、上手なパズルになる瞬間もいつかあるのだろうなと思った。

 新見本工場も見せていただいて、生産から消費者の手元に届くまでをその地域で行なっているのはとても素敵なことだなと思った。すぐそこで誇り高く仕事をしている人がいて、その誇りと熱量を直に感じられる場所で手にできた品物は一生大事に使うだろうし、オンラインでは味わえない良さがあるなと感じた。

全体を通して思ったこと・感じたこと

 尾州では分業制で仕事が行われているということで、お互いにきちんとやりたいことを明確に示して擦り合わせた上で、それぞれ特化した仕事を堅実に行うことを積み重ねることによって、高いクオリティのものが生み出されるのかなと思った。
 マテリアルセンターで岩田社長が仰っていた「本当に欲しいもの(布)があるときは技術的に難しいからと諦めず、職人に聞いたり、ここを訪れて相談してみたりしてほしい」という言葉に職人と言われる人の誇りを感じた。職人と呼ばれる人たちは普段、表に出てくることはないけれどその人たちがいなければ根本から崩れてしまう大事な人たちなので、尊敬している。尾州はそんな職人が集って仕事をして、活気があってすごく良いところだなあと思った。

テキスタイルマテリアルセンター
株式会社イワゼン
葛利毛織工業株式会社
木玉毛織株式会社
大鹿株式会社 新見本工場