スクールをつづる

修了生インタビュー:「勇気を出して踏み出したら、事がどんどん進んでいった」吉田有希子さん

大学卒業後、川島テキスタイルスクールの専門コース本科(2023年度)で1年間学んだ吉田有希子さん。未経験から織りを学び始め、「産地のひとりになりたい」という希望を叶え、修了後は久留米絣の工房で職人として働きます。本科での1年が「3年ぐらいの体感だった」という吉田さんに、スクールでどんな思いで学んだか、自身の変化や、やりたい仕事につながった道のりなどについてインタビューしました。

◆ 糸をきちんと扱う感覚がつかめるように

——吉田さんは大学で絣をテーマにした卒業論文を書き、本を読むだけではわからないからつくってみたいとスクールの専門コースに入学しました。1年目の本科では、糸染めから織りの全行程を学びます。ここで絣に限定しない学び方を選んだのはどうしてですか?

私は織りをやったことがなかったので、とにかく基礎を学びたいという気持ちがありました。きっかけは久留米絣でしたが、絣だけではなく織り自体を知りたいと思っていたので、この学校でいろんな織物を学ぶ中で、自分に合うものを見つけられたらいいなという気持ちでした。

——本科で特に印象深い授業はありますか。

自分の成長を感じたのがホームスパンです。入学当初は糸に触れること自体が久しぶりで、4月のスピニングの時は糸が絡まったり切れたりしないかと怖くて、これから大丈夫かなと不安になりました。ですが、その後の実習でいろんな糸を使ううちに少しずつ恐怖心が薄れていき、10月のホームスパンの時は楽しく取り組めました。以前は力ずくで糸をどうにかしようとして逆に絡まっていましたが、最近は力を入れずにやさしく扱った方が早く解けるとわかって、糸をきちんと扱う感覚がつかめるようになった気がします。

◆ 同世代に興味を持ってもらえる絣を

——修了制作ではウールを使って、ハチワレ猫の模様を絣で表現した毛布をつくりました。作品の成り立ちを教えてください。

(いろんな織りを学んだ上で、)やっぱり絣をやりたい気持ちがありました。大学にいた頃、絣という織物があると友達に言っても誰も知らなくて。同世代に興味を持ってもらえるものをつくりたいという思いがずっとあって、絣はこうというような固定観念に縛られないでつくってみようと思ったんです。久留米絣はほとんど平織りですが、修了制作では綾織りを選びました。糸も絣というと絹だったり、久留米絣はすべて綿だったりしますが、ウールでも絣はできると先生に後押ししてもらって、やりたいことができる環境にいる今、チャレンジしたいと思いました。
毛布にしたのは、ホームスパンの授業で先生が持ってこられたショールが気持ちいいなと感じて、起毛したウールの風合いから猫を撫でる心地を思い出し、猫柄の毛布をつくろうと着想しました。うちの猫3匹はみんなハチワレで、絣を使ってどうハチワレ模様を表すか、先生と相談しながらデザインを決めました。絣というと小さい柄が多いイメージがありますが、大きい柄の絣をやってみたいと思ったのもあります。

——制作で大変だったところはありますか?

絣のずらしです。修了制作で初めて大きなずらし台を使ったのですが、機の上で扱うのは体力的にも大変でした。絣をデザインから考えるのも初めてで、括る位置を決めるのに、ガイドテープの計算を頭がこんがらがりながら何とかやって(笑)。初めての経験が多くて大変だった分、とても勉強になりました。

——作品が出来上がった時の気持ちは?

今の自分ができることはやれたけど、反省もあります。同世代に興味持ってもらえる絣をつくりたい気持ちはこれからもずっと続くと思うので、もっと力をつけたい。この作品きっかけに、よりよいものをつくっていきたいです。

◆産地のひとりになりたい

——修了後は福岡に戻り、久留米絣の工房で職人として働かれます。職人を目指すきっかけは何だったのでしょうか。

本科の授業で作業全体を繰り返し経験する中で、私はデザインよりも、手を動かしてつくる過程が一番楽しいと感じるようになりました。初めはうまくできなくても慣れていくにつれ、ちょっとずつコツをつかんだり、スムーズに作業できるように考えたりする時間が楽しくなって、職人の方向がいいなと思うようになりました。

——織りを通して自分と向き合い、進む方向が見つかった。そこからどのように就職に結びついたのですか?

福岡県が主催する「久留米絣後継者インターンシップ」に参加して、そのまま就職が決まりました。プログラムは未経験でも参加できたのですが、私は織りの基礎があってよかったと思った場面がけっこうありました。3日間で絣の括り屋さんや染色屋さんを見学したり、工房で緯糸の準備をしたりしたのですが、専門的な説明でも織りの基礎を知っていたことで理解しやすく、吸収できるものが多かったと思います。現地で久留米絣に携わる方々の話を聞く中で、それぞれ考え方は違っても一つの産地として協力してものづくりをしているのが面白くて、私も産地のひとりになりたいと思いました。このプログラムは初めての開催だったので、ラッキーでしたね。思い切って参加してよかったです。

ハチワレモウフ(2024)

◆今は何があっても大丈夫と思える

——修了を迎える今、1年を振り返ってどんなことを感じますか?

体感的には3年ぐらい、長いような短いような不思議な感覚です。1年前の入寮時はダンボール2箱分の荷物で来たはずが、退寮の今、部屋にダンボール6箱分の荷物があります。箱の中身は、この1年でつくった作品や使用した糸が多くて、それらを見ていると確かにこの学校で毎日織りに触れ、学んできたんだなあと。1年で大きな作品をつくれるようにもなって、ちょっとずつでも確実に進めている実感があります。

——最後に、吉田さんはこの学校で何を得たと思いますか?

やってみる精神です。大学生の頃はやりたいことがわからなくて悩んでいました。大学の後半になって織りに興味を持ったのですが、どうやってその道に行けばいいかわからず、ただ悩むだけでした。この学校に入学してからは、事がどんどん進んでいくのを感じました。それまで織りを仕事にしている方と会ったことがなかったのですが、授業で外部の方を含めていろんな先生の話を聞き、織りに関わるいろんな方法があると知って、道が開けた感じもあります。
そして私自身、課題制作を通して自分が変われたのが大きいです。制作中はピンチも多かったのですが、その都度先生たちが助けてくださって乗り越えて。そんな日々を過ごす中で自分ひとりではうまくできなくても、頑張っていれば誰かが助けてくれるから大丈夫と思えるようになって、以前よりも挑戦することに対して前向きな気持ちを持てるようになったんです。久留米絣のインターンシップも、以前の私だったら無理かなと申し込まなかったかもしれません。ですが今なら何とかなると思えました。勇気を出して踏み出した結果、今こうやって自分の進みたい方に進めている、そのこと自体がよかったです。今は、何があっても大丈夫と思えます。


吉田さんを含む、2023年度本科の在校生インタビュー記事です。
在校生インタビュー1 高校・大学卒業後に入学(2023/12/8)

「第7回学生選抜展」受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟特別企画「第7回学生選抜展」で、専門コース専攻科の岩本瑞希さんの着物作品が、奨励賞を受賞しました。

「春の庭」

第7回「学生選抜展」は第46回「日本新工芸展」本展・巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「春の庭」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月12日(日)~18日(土)東京都美術館
東海展:6月8日(土)~16日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:7月2日(火)~7月7日(日)京都市京セラ美術館
日本新工芸家連盟

スクールの窓から:「日記を書くように作品制作する」 表現論・岸田めぐみさん講義

専門コース「表現論」の授業で、作家の岸田めぐみさんを講師に迎え、大学時代から現在に至るまでの制作の変遷などについて話を聞き、作品を見せていただきました。眼鏡をモチーフにした立体作品を中心に制作する岸田さんの独自性の源にある、考え方や工夫などがたっぷりと語られた授業となりました。

◆「素材を生かして1からつくっていける」織りの面白さ

元々イラストを描くのが好きだったという岸田さん。初めから織りを目指していたわけではなく、大阪芸術大学の工芸学科で学ぶうちに素材からものづくりができる楽しさを知り、2年次にテキスタイル・染織コースを選択。そこでこれまで抱いていた織りの印象とは異なる魅力を知り、「衝撃を受けた」といいます。「以前は伝統工芸の難しそうなイメージがありましたが、織りはじつはシンプルな構造で成り立っていて、工夫次第で幅広い表現ができると知りました。綴織の課題を通して、絵を描くのとは違う魅力を感じ、素材を生かして1からつくっていける面白さを感じました」

当日の講義では、大学時代の綴織タペストリー制作や、そこから「即興的な作業を取り入れる」ようになったという大学院時代の制作の変遷を紹介。当時心がけていたこととして、制作に要した時間や使った糸量の記録や、積極的に展覧会を観に行ったこと、展覧会のフライヤーを集めて自身のポートフォリオの参考にしたことなど、今の学生に参考になりそうな内容が具体的に伝えられました。

大学院卒業後、岸田さんの作品は平面から立体へと移行。仕事が忙しくなり、大きな織機を使った制作に向き合う時間がとれない中、既存の織機を使わない独自の制作方法を見つけます。また綴織タペストリーの制作で多くの糸端が出る裏面にも面白さを感じていたことから、綴織の裏面も隠さずに作品にしようと考えます。そして身近な日用品と綴織を組み合わせた作品として、「眼鏡」を織るという発想が生まれます。

◆自分のアイデンティティと結びつく「眼鏡」を掘り下げる

立体作品の制作では眼鏡をはじめとして、傘や虫かご、ざる、茶こしなど様々な日用品を使った制作にもチャレンジ。一時期、制作の「方向性に迷った」時期に、「愛着があり、自分のアイデンティティとも結びつきがある『眼鏡』をもっと掘り下げていこう」という考えに至ったという話もありました。そして、お面のような表情のある「めがねマスク」や、眼鏡自体が一つの体になるような「めがねオブジェ」、既製品の眼鏡に織りや刺繍を施してつくる「めがねっこ」シリーズなどの作品を展開していきます。

講義の後は、実際の作品に触れながら、作品の狙い、素材や技法など学生が知りたい内容が余すところなく伝えられました。学生たちは作品を手に取って、どのようにつくられているのかを自分の目でたどるように真剣に眺めていました。またデザイン画や、制作プランのファイル、ポートフォリオなどの制作プロセスの資料も見せてもらいました。

岸田さんの着眼点には常に「身の回りのものに目を向ける」というスタンスがあるといいます。手を動かし、布の予想外の動きも楽しみながら作品を生み出し、今は「日記を書くように作品を制作しています」と。織りの可能性をオリジナルに追求している岸田さんの姿に、さまざまな角度から刺激を受けた時間となりました。

〈岸田めぐみさんプロフィール〉

きしだ・めぐみ/大阪府出身。2013年より日用品と綴織を組み合わせた作品制作を開始。現在は眼鏡をモチーフに「眼鏡は身体の一部」という実感から着想を得て、織りや縫い技法で立体作品を制作する。大阪芸術大学大学院前期課程修了。instagram: @kissi_meg

*岸田さんのテキスタイルアート作品は、9月17日(日)から10月29日(日)まで和歌山県九度山町で開かれる「くどやま芸術祭2023」に出展されます。「くどやま芸術祭」公式サイト https://kudoyama-art.com

制作の先に:「一本の糸を撚り合わせるように」 綴織タペストリー「つなぐ」がスクールの寮に登場

専門コースの学生が制作した綴織タペストリー「つなぐ」が、このほどスクールの寮の1階正面に飾られました。「気持ち・経験・発想 一本の糸を撚り合わせるように、ものが生まれる」がコンセプト。昨年度の本科生(1年次)のグループ制作のうちの一作で、空間にフィットした色味やデザインに仕上がっています。

校舎と寮が建物内部の歩廊でつながっているスクールの環境は、学びと生活空間が一体となっています。タペストリーが飾られたのは、食堂に行ったり寮で生活したりするのに、学生たちが「いつも通る場所」。「川島テキスタイルスクールらしいものは何か」「この場所に置く意味は何か」を考えて、モチーフに選んだのは「糸」。本科の織りを中心とした実習で、シルクの極細の糸や手紡ぎのウール糸などいろいろな糸を扱うなかで、糸の構造に面白味を感じてデザインにしました。繊維を紡いで一本の糸ができるイメージと、この学校に人が集い、織り手が生まれる場のイメージ。グループメンバーの話し合いを通して、そんな異なる二つのイメージが「つながった」と言います。この感覚は、一年を通してスクールで織りに没頭している学生ならではと言えるでしょう。寮のこの場所に飾ることを前提に、壁に合う色を選び、微細な色の変化やバランスにもこだわってつくり上げた作品です。スクールに来られる際は、ぜひご覧ください。

制作の先に:「長く大切にしていきたい」 綴織タペストリー「結」が社会福祉法人「友々苑」へ

専門コースでは例年、本科1年目に綴織タペストリーのグループ制作を行っています。このほど昨年度の学生が制作したタペストリーが、京都市内にある社会福祉法人「友々苑」へ納入されました。施設の方からは「利用者が興味を持って見ています」「場所が明るくなりました」と喜ばれています。

この作品は「人が集い、生活の中で縁を結ぶ」をコンセプトに、「結」と名づけた綴織タペストリー。制作した3人は「友々苑」の施設の理念を学び、担当者にヒアリングして施設の要望に沿う形でデザインし、約半年かけて仕上げました。

施設の方と話し合いながら進めていく中で、学生が施設に出向いて飾る場所を見たり、逆に施設の担当者がスクールの制作現場を見に来られたりもしました。そうして、ものづくりのワクワク感を施設の方と共有しながら、織りの効果を生かした躍動感のある作品に仕上がりました。

制作過程で学生たちは、それぞれの得意なところを生かし、苦手なところは補い合いながら進めたといいます。アイデアを出し合い、織りの作業量もローテーションでうまく回して「一人じゃないからできた」とグループワークの良さを実感した様子。学生の一人は、「私は自己表現よりも相手に喜ばれるものをつくるのが好きなんだな、と自分の向き・不向きを考えるきっかけになりました」と話しました。

作品が廊下に飾られると、事務長と担当者の方から「長く大切にしていきたいです」と伝えられ、言葉のプレゼントをいただいたような温かさが広がりました。

修了生インタビュー:「自分の好きを追いかけた3年間」木村華子

2020年に専門コースに入学した木村華子さんは、美術高校を卒業後、スクールで1年目に織りの基礎、2年目からはファッションテキスタイルを専攻して3年間しっかりと学びました。修了後は(株)川島織物セルコンに就職します。自分の「好き」を積み重ねて「3年間学んでよかった」と笑顔で語る木村さんに、学びの歩みや、自身の変化、やり抜いた今の思いなどを語ってもらいました。

◆ 次は進歩したい
〈インタビューは修了展の会場で、展示作品を見ながら行いました。〉
——作品が展示されて、今の気持ちを教えてください。
嬉しい気持ちもあるけど、自分の手から離れていったさみしい気持ちもあります。向き合ってきた時間が長かったので、作品が子どもみたいに思えます。糸の素材感を生かして、どうやったらうまく織れるか、たくさん試織したので、がんばったな、ちゃんと織れてよかったなと、ほっとした気持ちもあります。

純喫茶のお気に入りのスイーツのイメージを服地にし、スカートに仕立てたシリーズ作に仕上げた
(右から) 「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ
「甘酸っぱい」純喫茶アメリカンのヨーグルトパフェ
「ほろにが」純喫茶フルールのプリンパフェ
「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ

——木村さんは2年目の専攻科で、ファッションテキスタイルを専攻しました。この専攻を選んだ理由は?
まず、服地を織りたい気持ちがありました。それで着物かファッションかで専攻を迷ったのですが、ふだん私が身に付けているのは洋服だなと思って。実際に自分が着て、やさしくなれるというか、気持ちがいいと感じる生地をつくりたいと思ってファッションテキスタイルを選びました。

——そのなかで、どのように制作に取り組んだのでしょうか。
制作のテーマを設定するのに、自分が好きなものは何だろうと考えた時、レトロなものに惹かれる自分に気づきました。1950年代のシンプルな服の形が好きで、初めは50年代をテーマに服地をつくりました。だけど、その先で行き詰まってしまって。今振り返ると、レトロで何かつくりたいまでしか見えていない状態の中で、年代にとらわれ過ぎたのかな。レトロって何だろうってすごく悩みました。

——行き詰まったところから、どうやって方向を見い出したのですか?
いろんなものを見て、視野を広げました。3年目に進み、改めて私はレトロの何が好きなんだろうと考えた時、今の私と同じ20代の人にも昔の服の生地感の良さを知ってほしい、着てほしいという気持ちに変わったんです。それで素材を中心に考えていこうって目標を立て、レトロの中でも純喫茶のスイーツにテーマを絞って、イメージと食感を服地にし、スカートに仕立ててシリーズ3部作にしようと結びつきました。

——スクールの学生同士で、刺激し合う部分もありましたか?
周りで織っている姿を見て、自分も頑張ろうっていう気持ちになれました。同学年の人とは、制作途中の発見や失敗、他愛もない話まで何でも話せて、悩みも言い合えました。話すことで次は進歩したいって思えたし、心強かったです。

——専門コースの2・3年次では、制作するのに自主性が必要ですが、そこで先生との関わりはどうでしたか?
毎週1回、制作過程を報告するミーティングがあったのがよかったです。サンプル生地を見せながら、自分の織りたいイメージやアイデアを伝える訓練になったし、伝えることで、より作品づくりに向き合うことができました。先生方は織りに詳しいので、私が気づかないところからアドバイスがあって、そこからやり方を自分で切り替えられたりして、制作意欲を保ちながら自分のやりたいことを形にしていくのに、ミーティングは大事な時間でしたね。

◆産地の方々と一緒に、ものを作り上げる経験
——木村さんは翔工房事業((公財)一宮地場産業ファッションデザインセンター主催)に挑戦し、尾州産地の「匠」と呼ばれる熟練の技術者とコラボレーションしてワンピースを製作しました。その経験は木村さんにとってどんなものでしたか?
仕事としてものを作り上げていく経験が、私自身の大きな糧になったと思います。匠の方と一緒に企画して進めるのに、自分が描いたデザイン画を見せながら、素材や色の重なりなど「こうしたい」と考えを伝えて、形にするのに相談しました。ここでは私は織らずにデザインだけの関わりだったので、初めは伝えるのが難しいと感じましたが、伝えないと理想の服地ができない。裾をフリンジにして経糸を見せるデザインにしたいと伝えると、「やってみるね」と匠の方がシミュレーションしてくださり、イメージと違う場合は私もちゃんと「違う」と伝えて、変えてもらって。匠の方からは袖の部分に柄の変化をつける方法を提案いただいたりして、一人でつくる時とはまた違う柄ができるなって実感しました。

——スクールは手織り、この事業では機械織りという違いもあります。両方を経験することで、何か気づきはありましたか?
手織りだったら、あまり経糸に他素材を入れないですけど、機械織りで、経糸にいろんな素材を入れて織り込む技法を経験できたのはよかったです。機械には機械の良さがあると知り、逆に手織りでしかできないことをもっとやりたいなと思いました。

——織りを学んできたからこそ、製作現場で強みを感じた部分は?
糸の状態と織ったものを見るのとでは、色のイメージが全く変わります。スクールで糸も織り組織も両方を学んできたからこそ、織った時にこう出るというのが頭の中でイメージできました。現場でのやりとりで、「こういうパターンで作りたかったら、ジャカードじゃなくてドビー機で出せるよ」と言われた時に、機の機能がぱっと頭に入ってくるし、「朱子で織る」というと「柔らかい風合いになるんですかね」というふうに話が通じるのが「気持ちいい」と匠の方に言ってもらえたのも嬉しかったです。

——3年目は翔工房事業に参加しながら、スクールでも並行して制作を進めてきました。外と内の両方で、ものづくりに取り組みながら自身の変化に気づくことはありましたか?
翔工房で他の学生が製作した竹糸を用いた製品を見て、私も竹糸に興味を持って自分の制作でも取り入れてみました。竹糸は、糸自体は柔らかいんですけど、湯通しすると硬くなり、織って生地になるとすごく柔らかくなって、変化が面白いと思いました。そうやって素材感が変わるのも、糸から生地をつくっていなかったらわからないこと。これまでスクールの制作でたくさんの糸を試して、縮絨も経験してどのぐらい縮むかも見当がつくようになったので、竹糸のように初めての糸を扱う時でも、大きな失敗がなくなりましたね。

◆「好き」しか追いかけていない
——木村さんが3年間の学びで、積み重ねてきたものは何でしょう。
どうしたら織りとして成立するか、今まで学んできた中からこうできるだろうと、頭の中で考えられるようになりました。試織などで失敗を繰り返したからこその学びじゃないかなと思います。
それに機の準備が大好きになりました。織るのと同じく準備も3年間やってきたので、こうしたら早くできるとか、スムーズに糸通しできるとかが大分わかるようになって楽しいです。そうやって3年間楽しく織りに向き合えたのが、本当によかったなって思います。私は高校の時、織りに苦手意識があったので。だけどなぜか気になって、織りを学びたいとスクールに入学したんです。そこから1年ごとに、だんだん織りが好きになって、3年経つ今が一番好き。思う色にバチッと染められた時や、織っている時に、糸に「かわいくできたらいいね」って話しかけたりして(笑)。それで作品の形になったら「使わせてくれてありがとう」って伝えていました。

——改めて、3年目の創作科に進んだ理由を聞かせてください。
なんか悔しかったんです。2年目、制作に迷いがあって、自分が本当に好きって思えるものがつくれなくて。自分がつくるものをもっと好きになりたいし、これで終わらせたくない、もっとつくりたいと思ったので。

——その悔しさを3年目で晴らせたと感じますか?
そうですね。服地だけでなくスカートの形にもできたし、自分の好きな色合いや柄を見つけて、チェックのデザインで出すことができたので。反省点もありますが、晴らせたんじゃないかと思います。

——この3年間、自分の「好き」をあきらめなかった。
あきらめたくなかった。でも私はこれまで、好きしかやったことがなかったんです。絵が好きで美術高校に行って、スクールで織りを学んで、逆に自分が好きじゃないと続けられる自信がない。「好き」しか追いかけていないです。

——修了後は、(株)川島織物セルコンに就職が決まりました。「好き」は就職先にもつながりますか?
はい、将来は伝統的な仕事に就きたいと思っていたので嬉しいです。小学校の卒業文集にも「伝統的な仕事がしたい」って書いてて。子どもの頃はお寺を見るのが好きで、宮大工さんに憧れたこともありました。お父さんは大工なので、一緒に見に行くと寺社建築の木の組み方とかを説明してくれてたのもあって、伝統的な仕事をしたいと思っていました。それが結局、織りになっていったのかな。これからも好きを追求していきます。

——これから織りをやりたい人に向けてのメッセージをお願いします。
もし迷っていたり、ちょっとでもモヤモヤがあったりしたら、まずは踏み出すしかないのかなと思います。踏み出せば、もう自分自身やるしかないって思うので。とりあえず手を動かすことが大事なのかもしれない。まずはやってみる。その先で、確実につながっていきます。

2020年9月に掲載した、「在学生の声(専門コース本科)」の記事です。
「織りながら自分の好きを発見していく」木村華子

「第6回学生選抜展」在校生受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟主催特別企画「第6回学生選抜展」で、専門コース創作科の近藤雪斗さんの作品が、ニューカラー写真印刷賞を受賞しました。

「栄華」

この作品は、織りの技を駆使して心象風景を織り込み、視覚の効果を高めた綴織タペストリーです。

選抜展では他にも、同じ創作科の沼澤瑠菜さんのタペストリー3部作「ときめき」も展示されます。

第6回「学生選抜展」は第45回「日本新工芸展」の巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「栄華」は三都市全て、出品作品「ときめき」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月17日(水)~28日(日)国立新美術館
東海展:6月17日(土)~25日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:6月27日(火)~7月2日(日)京都市京セラ美術館
日本新工芸家連盟