スクールの窓から

スクールの窓から 3 「デザイン演習 II」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このシリーズでは、そんな専門コースの授業の一部をご紹介します。(不定期掲載)

夏から秋にかけて、織造形作家の林塔子さんによる授業「デザイン演習 II」が行われています。様々な技法を用いてテーマ性のある作品を作り、合評を行うという一連の流れを繰り返すこの演習では、課題制作を通して素材の魅力を自分で探求するのが目的。8月27日、2つ目の課題の合評会が行われました。

「この素材だとドレープの良さを生かせる」、「この布を触った時、赤ちゃんの柔らかさのようだと思った」。触感からイメージを膨らませて、布を重ねたり、しわを寄せたり、糸で動きを出したりと試行錯誤して仕上げた課題作品。壁に貼り、一人ずつ制作の経緯を説明します。合評会は、作品が他の人の目に触れて、自分の言葉で説明する訓練の場。初回の気づきを踏まえた2回目。イメージを形にする過程から、それぞれの得手不得手が見え、一人に向けたアドバイスが、それを聞いている他の生徒たちにも新たな気づきとして広がっていきます。

「素材に触れていくうちに、思いもよらない感覚に出会う瞬間があります。そのニュアンスを感じ取り、独自の感覚として深めると作品制作につながる。それは技法が変わっても生かせますし、演習がその突破口になればと思っています」と林先生。手触りを確かめながら、自分と向き合う時間が続きます。

◆ 林先生にとって織りとは? 「時間のつながり」

幼少期を過ごしたインドネシアで出会った織物。島ではゆったりと時間が流れ、人々がおしゃべりしながら腰機で織っていて、古代から変わらない織り技法が暮らしに溶け込んでいるのを見ました。それが原体験となり、「織物と時間」は私の中で一つにあります。制作中、密度を織る感覚になる時があります。経糸と緯糸の交差で、昔から続く時も織り込んでいく。そうして時間のつながりを表現できるのが私にとっての織物です。

〈林塔子さんプロフィール〉

はやし・とうこ/主に裂織の技法を用いタペストリーや小立体、アクセサリー等を制作。2016年、第15回国際タペストリートリエンナーレ(中央染織博物館 ポーランド・ウッジ)「佳作賞」。2019年、京都の染織~1960年代から今日まで(京都国立近代美術館・京都)他、個展、公募展、グループ展など。成安造形短期大学専攻科修了。成安造形大学空間デザイン領域非常勤講師。

スクールの窓から 2 「デザイン演習 I」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このコーナーでは、そんな専門コースの授業の一部をお届けします。今回は担当講師による紹介です。(不定期掲載)

5回目:デザイン

4月から5回にわたり、本科では「デザイン演習」の授業を行いました。授業ではデッサンをすることで果物や野菜などのモチーフとじっくり向き合い、5回目に織実習・綴の自由制作で織るタペストリーのデザインをしました。

普段の生活の中で、わかったつもりでいる物は意外と多くあります。果物や野菜もしっかり見る機会はあまりなく、食材として数秒間見て状態を確認するだけで終わりがちです。何時間もかけてじっくり見て、触れて、想像することで、新たな面を発見し、ものの見え方が変化する感覚を味わうことは制作において貴重な経験になると思います。そうした観察眼を磨くと、制作のインスピレーションをどこからでも拾えるようになり、モチーフとしっかり向き合った経験がデザインに表れます。なによりも、日常の中で見えるものが変わったりと、ワクワクすることが増えます。

綴のタペストリーのデザインではモチーフの面白いと思ったところからデザインをふくらませ、どういう場所に飾るかなどを想像してもらいました。6月には織実習で綴のサンプルを織り始めていたので、どういう糸や技法を使うかも考えてのデザインになりました。

学生にとって、この授業で得た新しい経験や見方が、今後の制作の下地になったら嬉しいです。

◆ 私にとって織りとは? 「レンズ」

制作をし、スクールで働くことによって身につけた織りの感覚がいつも自然と動いている気がします。日常生活の中で路面表示の矢のマークなどが絣の模様に見えたり、ものを測るのに織りの道具が基準になったりと、無意識のうちに織物のレンズを通して物事を見ていることに気づきました。同時に視野を広げて、織物の長い歴史の中での自分の役割は何だろう、と考えています。

(文・表 江麻)

〈表 江麻プロフィール〉
Instagram: @emma.omote

おもて・えま/京都精華大学芸術学部造形学科洋画科卒業後、川島テキスタイルスクール専攻科修了。着物を制作し、2009年より川島テキスタイルスクールで国内外の学生を教える。

スクールの窓から 1 「表現論」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このコーナーでは、そんな専門コースの授業の一部をご紹介します。(不定期掲載)

7月9日、「表現論」の授業で繊維造形作家の堤加奈恵さんを講師に招き、「わたしがみた フィンランドのこと、テキスタイルのこと」というテーマで、作品や資料を見ながら、海外留学の体験談をお話いただきました。堤さんの織りに向き合う真摯な姿勢に触れたひとときとなりました。

大学院を修了後の7年間、綴織のタペストリー制作に励んできた堤さん。2018年〜19年の9カ月間の海外滞在を機に作風が大きく変化しました。日本で生まれ育った自らのルーツに興味を抱き、座布団から着想を得るなど日本の染織工芸品を取り上げて、自身で織った布を造形作品として発表するように。レクチャーは、そんな影響を受けたフィンランド滞在について、助成金付き留学制度応募から、滞在計画の立て方、伝統工芸のRyijy(リュイユ/ルイユ)織りと収集家との交流、植物染色、個展開催など堤さんの経験をなぞるように進んでいきました。

学生に向けては「5年、10年後、こんな自分になれたら素敵だなと思える経験を今、 フットワーク軽くやってみるといいです」「見えない未来を想像して不安に思っても、明日、一週間後にぱっとひらめくことがあるかもしれない。その時が来るまで、今、目の前にあることを精一杯頑張ればいい」とまっすぐに語られました。

◆ 堤さんにとって織りとは? 「人生を楽しくしてくれたもの」

「私は元々、絵が好きで美大(京都精華大学)に入ったのですが、自分が描く線にコンプレックスが強かったんです。そこで綴織に出会い、線が忠実に再現されない面白さに触れ、作るのが楽しくなりました。綴れを織る時、爪で押し下げる布の重量感が好き。織りは私の人生を楽しくしてくれたものです。」


〈堤加奈恵さんプロフィール〉

Facebook: @lanlanae
Instagram: @tsutsumikanae1006

つつみ・かなえ/
繊維の蓄積により生み出されるディテールと、経と緯の組織の成り立ちから生じる一種の不自由さ、単純と複雑の両面を持ち合わせた織り機に面白みを感じ、「織る事」をベースにして作品制作をしている。京都精華大学大学院芸術研究科染織領域修了。2015年より同大学芸術学部造形学科テキスタイル専攻非常勤講師。