スクールの窓から:イメージから形へ「発想をつなげていく」 表現論・中平美紗子さん講義

専門コース「表現論」の授業では例年7月に、綴織のタペストリーを制作している作家の方を講師に招いてレクチャーを行っています。2021年度は、織造形作家の中平美紗子さん。今年5月に個展を開催するなど精力的に活動されています。作品を見せてもらいながら、制作活動の話を聞いた90分、自分の中にあるイメージをどう表現していくかの糸口を見つけるヒントが散りばめられた授業となりました。

講義では、テキスタイルを専攻していた大学時代から大学院、現在に至るまでの制作の変遷が紹介されました。土佐和紙の糸を使った制作では「地元に関わる物を作品に落とし込みたい」と出身の高知県に通ったそうです。素材探しから、紙糸を自分で作り、産地で得た気づきをコンセプトに組み込み、現地の博物館での展示までを実現。また、昨年から取り組んでいる新テーマ「shima」についても「色に挑戦する、縞の歴史や模様の意味を勉強し、これまで制作してきた立体を二次元の中で叶える、この3点を作品に落とし込む」と制作意図が明快に語られました。

質疑応答では、専攻科の学生が「イメージを形にするのに、試作でなかなか上手くいかない」と今直面している制作の悩みを話しました。中平さんは「いきなり作品ではなく、展示空間から考えたり、下図にしてみる方法もあります。下図すら浮かばない時は、私は紙で立体の形を作るなど違う物で表現して、ディテールの作り方から発想をつなげていく訓練をしました。イメージを叶えていくのにどんな工程をとるか、やり方はいろいろあります」とアドバイス。「実際にやってみて違ったと分かれば、その経験は後に資料として生かせる。小さな軌道修正はいつもしています」とも。話を聞いた学生は「いろいろ挑戦してみようと思います」とまっすぐに答えました。

大学院を卒業後、「織るための生活をする」と決めて自宅にアトリエを構えて、講師の仕事をしながら作品制作に励む中平さん。制作を続け、自身と織りとの関係を深めていくその姿勢に刺激をもらった講義となりました。

◆  中平さんにとって織りとは? 「終わりがない仕事」

私は定年のない仕事をしたかったんです。織りには終わりがないですし、死ぬ直前までずっと織れたら幸せ。特に昨年、ずっと家にいる孤独な日々の中で、織りがあって本当によかったと思っています。世界中が同じ状況なので、私のような人がSNSの中にたくさんいるのが心強く、じっくり織ることができました。織りは人と関わるためのツールでもあります。

〈中平美紗子さんプロフィール〉

なかひら・みさこ/高知県出身。学生時代より和紙を用い、インスタレーション作品やタペストリーを制作。昨年より「同時代性」に着目した新しいシリーズを発表。縞模様と身体的・精神的距離感を題材にしたタペストリーを織っている。京都芸術大学大学院芸術研究科芸術専攻修士課程総合造形領域修了。2018年より同大学芸術学部染織テキスタイルコース非常勤講師。

instagram: @nakahira_misako

オープンスクール開催!(8月28日、9月11日、10月2日、10月16日〈事前予約、いずれも土曜。8月分は10時・14時から、9月以降分は10時・13時・15時から〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)