修了生インタビュー:「学校の風景とともにある着尺の旅」藤原由美

 大学の通信教育で着尺を学んだ後、川島テキスタイルスクールの技術研修コースに通った藤原由美さん。スクールでは毎日、朝から晩まで織りに没頭し、四季の変化を感じながら、絣の着尺を7カ月で織り上げました。そして言います。「ここの風景とともに着尺はありました」と。充実感いっぱいに「織りの旅をした」と語る藤原さんのインタビューです。

◆ 緯糸一本入れるだけでも、一歩進める
——技術研修コースに入学を決めた経緯を教えてください
 私は着付けを習ったことがあり、着尺を織るのに興味がありました。大学の通信教育で染織を学び、卒業制作で初めて着尺を織りました。自宅で一人での制作。無我夢中で仕上げましたが、糸が手になじむまではいかなかったので、もう一度着尺を織りたいという思いがありました。
 こちらに来たきっかけはワークショップです。「はじめての織り」をはじめ、いろんなワークショップを受講するなかで、どの先生も糸一本一本を丁寧に扱う姿勢が印象的でした。昨年、技術研修コースで帯を織った方にも会い、私も踏み出そうと入学しました。

——実際に取り組んで、どのような学びがありましたか。
 デザインの考え方から一歩ずつ、丁寧に学んでいけました。専門コース創作科の方々と同じ机を使わせてもらって、制作の様子を見ていると、皆さんすごく丁寧にデザインを考えている。まずはデザインありきで技術、そこに思いが込められて作品が出来上がっていくんだなとわかりました。私一人のなかにはデザインのレパートリーが少ないのですが、同じように制作に励む人たちがいる環境だからこそ、学びが広がりました。考えたデザインをもとに先生から経絣を提案され、さらにずらし絣にすることで光が流れるイメージができました。

——絣で気づきはありましたか?
 17メートルの経糸に合わせて絣のテープをつくるのに、わずかな誤差が大きなずれにつながるので大切に、くくり方の丁寧さも教えていただきました。くくって地染めするのに約2カ月、防染に1カ月近くかかって、絣はすごく時間がかかる工程だとわかりました。しんどいなと感じることもありましたが、自分の手元に来てくれた糸なので愛着がわきますし、「必ず模様を出してあげるからね」と糸に語りかけながらやっていました。
 織物ってどの工程も、やった分進んでいく。たとえ5分でも一つくくれたら、緯糸一本入れるだけでも一歩進める感じがあったので、着々と。そうして糸にきちんと向き合うところから始められたのもよかったです。

◆思いの詰まった一枚に
——学びの環境としてはどうでしたか。
 困った時、先生に聞ける安心感がありました。何か違うことをやってもすぐに助けを求められる環境で、(軌道修正して)安心して次に進むことができたので。専門コースで絣の着物を制作した方と話せたのも心強かったです。
 着尺用の織り機を使えたのもよかったです。専用の機だと安定して打ち込めて、まっすぐきれいに織れました。音の響きもいいですし。

——実際の学校生活は、制作に何か影響はありましたか?
 はい。この学校の風景とともに着尺はありました。窓の外には緑が広がり、季節の変化を感じながら過ごせて、色もこの景色のなかで生まれたものです。学校の周りの植物を使って染めたので。自宅にある山桜の木を地色にしたいと思っていたら、堀先生が学校周辺の草木も使ってみたら?と提案くださって。そこからヨモギやカラスノエンドウ、ビワの葉などを使って色彩が生まれ、景色を着尺に写させてもらった感じがしています。

——無事に着尺を織り上げ、技術研修を終えた今の気持ちを聞かせてください。
 この自然に囲まれた静かで、すてきな空気感が漂う環境で学べたことが何よりの宝物です。寮ではご飯もお風呂も用意されていて、毎日織りだけに集中できる本当に幸せな時間でした。特に最後の2週間は、一日の終わりに疲れても顔は喜んでいて、筋肉が笑顔で固まっている状態(笑)。やっぱり織りは楽しいと思いました。
 織りと一緒に私も育てていただきました。何事も一足飛びにはいかなくて、順を追って一歩ずつ、積み重ねが大事だなと。私は一枚目の着尺制作でやり残した感があって、もう一枚は必ず織ってみたいという気持ちがあってこの学校に来ました。ここでとても丁寧に教えていただいて、思いの詰まった一枚に仕上がってとても嬉しいです。これでまた、新たな織物に出会う旅に出られる。ここから始まります。