スクールの窓から:日本の特色ある織物「どこでもドアのように産地を見ていく」大高亨先生の講義1

専門コースでは、2022年度から新たに大高亨先生による3回シリーズの講義「日本の特色ある織物」が始まりました。先生が20年以上全国の産地をまわる中で面白いと思った織物について、2回に分けて紹介され、最終講義では実物を見ていきました。はじめに、それぞれの産地の織物を「『どこでもドア』のようにちょっとずつ見せていくので、授業を入口に興味を持ってくれたら」と先生は話し、沖縄、八重山諸島から、奄美大島、九州、北陸、北関東、東北、そして北海道のアイヌの織物まで、日本列島を熱い語りとともにかけめぐりました。授業リポートの前半です。

◆日本の染織レベルの高さに驚愕した
大高先生は、金沢美術工芸大学でテキスタイルを教え、大学が金沢市と共同で行う「平成の百工比照」プロジェクトに関わって、全国の産地をめぐって織物の技法、工程、材料に関わる調査・研究し、資料として収集する取組みを行っています。日本の産地に足を運ぶようになった理由について、「以前は海外の染織品を集めていましたが、せっかく日本人で日本にいるのだからと思って、日本に目を向けるようになったんです。産地をまわるほど、日本の染織品や染織文化のレベルの高さに驚愕しました」と言います。

講義ではスライドや動画を用いて、それぞれの織物の特徴、素材や手法、工程、地域の文化背景から現在の状況まで幅広く紹介され、さらに先生が現地で印象に残ったエピソードや、面白いと思ったポイントが語られます。たとえば沖縄の織物の紹介では、アドバイザーとしてミンサー織りの商品開発に関わった経験に触れ、「伝統をおさえつつも、今の生活様式に合ったものを提案していく努力もしている。そんな積極的な姿勢が沖縄にはあります」といった実感を交えて語ります。

◆マニアックさが面白いところ
絣の紹介では「日本ほど精緻につくれる所はない」と先生は言います。そして大島紬で機を使って防染の為に仮織を行う締機や、久留米絣で絣をくくる専用の機械の紹介動画を見せて、それらの仕組みを解説。締機について、精緻で大柄な意匠を大量生産できるという機の特徴が、今の時代の需要と合わなくなっているという課題にも触れます。先生が現地の団体と共同制作した着物の写真を見せて、「意匠だけでは解決できない。ニーズや時代に合ったもののつくり方を考えるのがデザイン」と、特色だけでなく、課題からデザインの考え方まで話をひとつながりに展開します。

久留米絣では、「力織機で経緯絣を大量生産しているのは、現在では久留米絣しかない。そこがユニークな産地です」と紹介。「一口に日本の染織と言っても、手仕事で匠の人もいれば、大量生産でも質の高いものを生むために、どのように合理化できるかを考えて、くくるだけの用途の機械までつくってしまう、そんなマニアックさが日本の面白いところだと思うんです」と話します。

日本の伝統織物を研究の目、つくる目、デザインの目で多面的に見て来られた先生ならではの目線で語られる講義。旅はつづきます。

2へつづく。

〈大高亨さんプロフィール〉
おおたか・とおる/染織を専門領域に、大学教員、作家、デザイナー、プロデューサーとして活動している。近年は東北の布の調査、研究も行っている。また様々な企業、組合等のアドバイザー、教育機関、研究機関での講演なども行っている。

instagram: tontakatea
website: Tohru Otaka
「平成の百工比照コレクション」データベース