制作の先に:「実り豊かな未来へ」 綴織タペストリー「夢への羽ばたき」がまこと幼稚園へ

専門コースの学生が制作した綴織タペストリー「夢への羽ばたき」が、このほどまこと幼稚園(京都府向日市)へ納入されました。例年、本科の学生たちが修了課題の一環として、幼稚園や福祉施設などと提携して特定の場所に飾るための綴織タペストリーのグループ制作に取り組んでいます。まこと幼稚園で決められた場所は同じ敷地内にある向日町教会の入口。園と教会が一体化した特徴的な建物で、園児さんや教会に礼拝する方々が行き来する場所です。

教会という場所に作品をつくるのは学生にとっても初めての経験。牧師でもある宮地園長から「聖母像」という壮大なテーマを受けた今回の制作について、学生の一人がこう説明しました。「どうやって表現するかが難しかったですが、園長先生が園に通う子どもと親の姿と重ね合わせて、園の教育方針とともにわかりやすく説明してくださいました。そのお話をもとに皆で話し合って、親子の深いつながりを鳥のイメージに落とし込み、親鳥のくちばしには幼稚園のシンボルであるぶどうを描いて、実り豊かな未来へと羽ばたくイメージにしました」。話を受けて園長は「母親の力強い羽ばたきと、幼い子どもの羽ばたきが呼応して対になり、命がひとつのような安定感が胸に沁みます」と語り、「本当に感謝です」と声に力を込めて伝えてくださいました。

宮地園長はまた、(株)川島織物(現(株)川島織物セルコン)社長の4代川島甚兵衞が個人として向日町教会に関わり、1937年に教会と幼稚園の建物を土地とともに献納した、という話を紹介。4代甚兵衞は川島テキスタイルスクールの創立者でもあります。ともにスクールの基盤を築いてきた木下猛も向日町教会に関わっていたそうで、こんなエピソードも話してくださいました。「木下さんは仕事とは別に、個人として教会の役員をしていました。現在の建物は1982年に建て替えているのですが、その建て直し時にいい建築家がいると内井昭蔵さんを紹介されて設計を依頼しました。ですから木下さんがいなければこの建物は建たなかったんです。建物は私たちの歴史でもあり、つながりがタペストリーに結実したのは嬉しいですね」

1973年設立の川島テキスタイルスクールも内井氏の設計。今回の制作を通して、人と建物を通した知られざる縁について知る機会となりました。最後に園長は周りの人たちに向けて朗らかに言いました。「みんなで大事にしていきましょうね」

スクールの窓から:根幹にあるのは「見たいかどうか」 表現論・中村潤さん講義

専門コース「表現論」の授業で、作家の中村潤さんを講師に迎えて講義が行われました。彫刻を専攻していた芸大時代の学び、制作における素材との出会いや、インスピレーションを形にするプロセスなどについて、実際に作品を見ながら話が展開されました。小学校の図工の先生をしながら制作している働き方にも触れ、つくることから生き方に及んで語られた濃密な時間となりました。

彫刻といえば硬い材質のイメージを抱きがちですが、中村さんがつくるのは「やわらかい彫刻」。紙や糸などの素材を縫ったり編んだり絡めたりしながら作品にしていくといいます。

「石や木などいろんな素材でつくるのを経て、現在はへなへなとした柔らかい素材を使っています。私自身は糸や織りを専門に学んだことはないのですが、それを専門とする人から、なぜか面白がって作品を観に来ていただけて(笑)、その関係がとても不思議だなと思っています。私の作品の取り組み方の根幹にあるのは『見たいかどうか』。こういうものがつくりたいという瞬発的な興味と、これまでの作業や思考の継続性の両方が同時に動き出します。ハッと思いついたことを、継続してきた力が後押ししてくれるような感覚です。自分の中に何人もの自分がいて私内会議みたいなものが一瞬起こって、やってみたらできるんじゃない、という方向で作品につながります」

◆素材を試して、触って、観察し、比べて考えてみる
子どもの頃からつくるのが好きだったという中村さん。高校時代、美術の先生が作家活動をしている姿を見て「こういう働き方もあるのか」と気づきを得て、京都市立芸術大学へ進学。専攻した彫刻では、「身の回りにあるものを素材として扱えるのが彫刻」という先生の話を聞いて「ブロンズなどオーソドックスなものに憧れなくていいのか」と気持ちが楽になり、「私にとって身近な素材を使ったらいい。そこから好きなものをつくろう」と彫刻を柔軟に捉えていきます。

「私は折り重なると形になるとか『単純な仕組み』が好き。ペラペラの紙を半分に折ると立つ、こういう単純な行為が作品になればいい」。そんな発想で自分が好きなものを掘り下げながら、「素材を試してみる、触ってみる、観察して、どういう形にするか比べて考えてみる」という「検証と成立」を繰り返した学生時代だったといいます。講義では素材からインスピレーションを得る経緯や、技法とのかけ合わせなどについて、実際の作品を見て説明されました。

◆私が選んで学びに来ているという自覚
小学校で図工の先生をしながら、作品を制作し、休日に親子向けワークショップを行うという現在の多面的な働き方について、「どの状況も楽しめています
」と中村さんは軽やかに話し、こう続けます。「先生と制作、私の場合はどちらもあるから今つくっていられる実感があって、どれか一つだけのプロである必要はあまりないのかなと思っています。教育現場の私は、距離をもって自分の制作を見られるし、一点だけに注ぎ込まずに分散できるのは面白い。その時々で自分の軸の位置を観察したり、描ける円が広がったりしていて学生の頃より今が一番いきいきとつくれています」。さらには、そんな中村さんのありようにしっくりきた本や、作品のタイトルを考えるためのヒント、コンセプトや自己紹介の文章作成のための参考情報などを具体的に紹介し、日々のひらめきなど何でも書き留めておくメモ帳を見せてくれました。

講義全体を通して、学生たちは中村さんの話を興味津々に聞き入り、終わってからも作品をいろんな角度から見たり、メモ帳を見て「私も作ろう」と話したりと、それぞれにヒントを得た様子でした。川島テキスタイルスクールの専門コースは一年で修了する人もいれば、二年、三年と学びを深めていく人もいて、それぞれの学び方をしています。そんな学生たちに向けて、最後にこんなメッセージが送られました。

「私が選んで来ていると自覚すること、かなあ。迷ったらやってみて決める、自分を過信せず、凝り固まらない、でも折れないようにしなやかに」


〈中村潤さんプロフィール〉

なかむら・めぐ/京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。紙や糸、糸くずなど身近な素材を触り、縫い、編み、からめ、大小やわらかい彫刻をつくる。小学校で図工の先生をしながら作品を制作。作ることにまつわるワークショップの活動もしている。2020年より、京都市東山区青少年活動センターアートスペースナビゲーターを務める。障がいを持つ・持たない青少年が作品をつくることを通して共に時間を過ごすための場所づくりに関わる。最近の展覧会として、2024年『てで』gallery morning kyoto(京都)、2023年『紙の不思議展 ペーパーマジック』浜田市世界こども美術館(島根)、『なんたうん2023 −ワークショップ特集−』みずのき美術館(京都)など

instagram: nakamura_megu

夏期休暇のお知らせ

誠に勝手ながら下記の期間におきまして夏期休暇とさせていただきます。

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緊張感の中でも違和感を逃さない (株)川島織物セルコンで緞帳と綴帯のインターンシップ 

今年度も(株)川島織物セルコンでのインターンシップが実施され、専門コース専攻科の学生3名が参加しました。今回は「緞帳」と「綴帯」の製作現場での実習プログラム。どちらも「綴織」ですが、太いスフ糸(レーヨン)を撚り合わせて大機で織る緞帳と、細い絹糸を爪で搔き寄せて織る帯とではまったく異なる綴織の世界があります。参加した学生たちによる報告会の様子をリポートします。

「緞帳」のインターンシップでは例年同様、学生本人の出身地のホールに納める想定で緞帳のデザインを考え、織りたい部分を1メートル四方で決めて、織下絵作成から配色設計、大機を使った製織までを10日間で行いました。学生は昨年、本科で取り組んだ綴織グループ制作を機に緞帳に興味を持ち、「個人ではできない規模のモノづくりにはどのような姿勢やスキルが求められるのかを知りたい」と参加。そこで「他の人のペースに合わせつつ正確に織るスキルが求められていることを学んだ」といいます。実習は綴織職人さんとマンツーマンで行われ、プロの「織るスピード感」や「わずかな角度の違いを下絵から読み取り、織りに反映する認識力」を目の当たりにし、感覚の部分での気づきも得られたといいます。

原画

今回が初めてとなる「綴帯」のインターンシップには2名が参加しました。「水平線のある風景」をテーマに、縦25センチ×横11センチのサンプルを作るのに図案を考え、織下絵を作成、糸の配色と準備、製織、プレゼンテーションまでを10日間で行いました。学生はそれぞれ「一つの製品が出来上がるまでの一連の流れを経験したい。商品として織物を作る場合、どういう視点で取り組むのかを学びたい」、「普段あまり帯と関わりがなく、いい機会だと思った」と参加。実習では帯を織るのと同じ規格の綴機を使い、このインターンのために爪を伸ばして、初めての爪織りも経験しました。

ギザギザにした爪を櫛のように使って糸を搔きよせ、緯糸を織り込んでいく爪織り。学生は「両中指の爪の端に、やすりを使って1ミリ間隔で3つの切り込みを入れて」といった爪の準備から、「糸が細かい分、普通の爪では入りづらいので織りやすさが違った」「糸がきちんと入ってくれる感覚があった」と実感までを語り、なかなかできない経験に皆が興味津々に聞いていました。

細い絹糸を使って、細かな密度の綴織に取り組むのも初めての経験。参加した二人とも「妥協せず、やり直す」が徹底されていたようです。「商品一点が高額な分、求められるレベルが高い。職人さんがぱっと見て、私が気づかなかったミスを指摘され、自分でもルーペで確認してやり直すこともありました。高価な商品をつくる厳しい目があり、職人さんは大きな緊張感の中でやっておられると感じました」。そうして練習時に指摘を受けたことで、本番でミスがあった時に「何か違う気がする」と、今度は自分で気づいてやり直せたといいます。「違和感を逃さない」と、この実習でも感覚的な気づきがあったようです。

報告会では、同じ綴織でもまったく違う経験の発表に、双方とも興味深く聞き入っていました。製作現場でものづくりを経験できる、密度の濃いインターンシップ。仕事としての織りを学ぶと同時に、綴織の奥深さに触れた貴重な機会となりました。

昨年2023年のインターンシップのリポートはこちら

西陣絣加工師・葛西郁子さん工房訪問

このほど課外研修として、京都・西陣にある葛西絣加工所を訪れました。当日は西陣絣加工師の葛西郁子さんと、絣加工を手伝っている平林久美さんが迎えてくれました。参加したのは専門コース専攻科と技術研修コースの学生、そして留学生です。

専門コースでは全員が絣の基礎を学び、2年目の専攻科でも個人制作で絣が主体の作品や、絣を取り入れた作品制作に取り組んでいる学生がいます。留学生は絣基礎コースを修了したばかり。絣を学んだからこそ、絣加工という専門的な仕事内容が想像しやすく、活発に質問が飛び交った場となりました。

葛西さんからは、絣の経糸をつくる自身の仕事について、生地見本を見ながら西陣絣の魅力について、映像を見ながら西陣絣の成り立ちについてそれぞれ説明があり、さらに絣の括りと、西陣絣特有の「梯子(はしご)」という道具の実演がありました。身振り手振りを交えて西陣絣の魅力を全身で伝えようとする葛西さんのエネルギッシュな姿勢に引き込まれるように、身を入れて聞き入る学生たち。特に留学生はスクールの絣コースを受講するために来日していて、学ぶ姿勢も積極的。「なぜ緯糸は見えないのか」「経糸は全何メートル?」「筬が弓状の形なのはなぜ?」など次々に質問し、葛西さんも丁寧に、内容をふくらませて答えてくれました。

昨年に引き続き、今回も同席された平林さんは、じつは川島テキスタイルスクールの修了生で、今年(2024)から西陣絣加工業組合の一員になったそうです。葛西さんの絣加工の仕事を手伝いながら、自ら加工した絣糸を用いて、織る作業も行っていて、この日は機にかかった作業途中のビロードとお召を特別に見せてくれました。目を輝かせて、高貴なビロードの制作に見入る留学生。「日本での用途は?」「海外では?」と聞き合い、イタリアから来た学生がイタリアのビロード製作風景の写真を見せる場面も。こうして時間があっという間に過ぎ、盛りだくさんの内容に、最後は皆の充実感が笑顔になってあふれました。

近年恒例となっている葛西絣加工所への訪問。2024年の今回は、絣の熱意が交差する、清々しい場となりました。

2021年訪問時のリポート詳細はこちら

制作の先に:「思いを汲み取った作品に」 綴織タペストリー「未来へ」が鞍馬山保育園へ

専門コース本科のグループ制作として、昨年(2023年度)の本科生が制作した綴織タペストリー「未来へ」が、このほど鞍馬山保育園に納入されました。学生たちが昨夏に園を訪れ、飾る場所を見て、園の理念について話を聞き、要望を汲んだうえでデザインして織り上げた7カ月にわたる制作プロジェクト。納入の日は、喜びを分かち合えた日でもありました。

園内にタペストリーがかけられた瞬間、「この場所にぴったりだね」と理事長の信樂さん。園児さんたちが行き来する階段に、色とりどりのヤツデの葉が舞うイメージ。「ヤツデの葉の表現が、園の理念『みんなのいのち輝く保育園』にぴったり。グラデーションも美しく、子どもたち一人ひとりが個性的に輝いている姿と重なります。思いを形にするのは難しいと思いますが、私たちの園の思いを汲み取って、素敵な作品に仕上げてくださいました」。そうにこやかに話される様子に、納入に立ち合ったスクールの学生や先生たちにも温かな気持ちが広がりました。

川島テキスタイルスクールと鞍馬山保育園は、同じ叡山電車沿いにあります。ご近所のよしみもあって、タペストリーの制作過程で、園児さんと園長先生がスクールに見学に来られました。アトリエで学生と一緒に織った体験を大切に思って、園に帰ってから自分たちで小さなタペストリーを織るという学びにつなげ、園のブログでも都度紹介してくださいました。こうしたタペストリー制作を通した交流が、園児さんたちにとって織物との出会いのきっかけになり、そこから織物に興味を持ってくれたことは、スクールとしてもとても嬉しいことです。

みんなの思いが大切に織り込まれたタペストリー「未来へ」。いくつもの喜びを育みながら、園へと旅立ちました。

「第73回西宮市展」受賞のお知らせ

専門コース専攻科の萩原沙季さんと、ウィークリー・クラス(2023年・応用クラス)の兼平裕子さんの作品が第73回西宮市展で受賞しました。

西宮市教育委員会賞「鏡像、あるいはもう一つの世界」萩原沙季
西宮市展賞「Woody Town」兼平裕子

第73回 西宮市展
6月29日(土)〜7月6日(土)
*7月1日(月)は休館
10:00-17:00(7月6日(土)は15:00まで)
西宮市立市民ギャラリー