スクールをつづる

スクールの窓から:人の目を引く不思議な織物 綟り織り「紗・絽・羅」

暑さが増す時期、風通しのいい「紗」や「絽」、「羅」の織物は見た目に涼やか。専門コース専攻科(2年次)で「綟(もじ)り織り」の授業が行われました。講師は、染織作家の小田芽羅さん。綟り織りは隣り合う経糸を絡ませる、特殊な組織織りとして位置付けられています。授業では、2本の経糸が互いに絡み合う「紗」と、紗を織った後に平織りを織る「絽」を取り混ぜて一枚のショールを作り、更に紗と絽を変化させた組織サンプルを織りました。

小田講師は紗と絽、そして経糸がより複雑に絡み合う「羅」のサンプルを見せて織物の特徴を説明。さらに自身が手がけた作品で、新聞紙を緯糸に用いて羅の技法で制作したタペストリーを見せてくれました。糸を絡み合わせる特殊な織り方に、生徒たちは身を乗り出して興味津々に。織り目の隙間から向こうが透けて見えるこの特殊な織物には、人の目を引く何かがあるようです。

実習は、綟る仕組みを理解するところから。必要なのは「ふるえ」と呼ばれる道具で、自分で作ります。カタン糸で均一の大きさの輪を作り、それを機がけした経糸の半数分用意。綜絖枠に取り付け、綜絖に通した糸を更にふるえに通して織ることで、経糸を絡ませる仕組み。「こんなシンプルな装置でできるの?」「これまで経糸を動かすという発想がなかった」と生徒たちは驚きながらも、「踏み木を踏んだら、経糸がねじれて出てくる」と新たな織りに引き込まれていました。

昨年に入学し、一年を通して染織の基本を身に付けた専攻科の学生たち。基礎を習得しているからこそ、「これまで織ってきたやり方と全く違う。経糸がねじれているので、織っている時の感覚も違う」とこの織物の特殊さを理解して、「もっと織りたい」と夢中になっていきます。

小田講師は、川島テキスタイルスクール(KTS)の修了生。「KTSで初めて織りを学んだ37年前、アトリエで羅の作品を見て感動し、引きずりこまれました」と話し、在学時に制作した羅の作品と共に、一冊のノートを開いて手書きの組織図を見せてくれました。ノートには当時の染めと織りの学びの記録が詰まっています。それを「私のバイブル」と言って、今も大切に活用している小田講師。3日間の授業を通して繰り返しアドバイスしていたのは、メモを取るということ。「組織が理解できたら、その組み合わせでデザインを変えていけます。それぞれの踏み順などを必ず書いておいてください」「メモしたことが何十年後も生きる。経験がよみがえって、それが糧にもなる。今分かっていても書かないと消える。記録は大事です」

指導の合間に小田講師は紗を変化させたサンプルを織り、課題の講評と合わせて紹介。柄を自在に変えていける可能性を目の当たりにした学生は、「幅広い表現ができるのが面白い」と目を輝かせていました。そんなさりげない楽しさの演出は、小田講師の体からにじむもの。そう感じたのは、小田講師自身もKTSの同じアトリエ空間で学び、染織作家として活動を続けてこられた原点に、ここで織りの喜びを得たことがあるからかもしれません。学生に手渡すのは、技術だけではない。時間の経過が深みとなって思いをめぐらせ、織りを続けていく道筋を示しているような授業でした。

◆  小田先生にとって織りとは? 「伴侶」

私が唯一ずっと続けているのが、織り。今も織っていると心が弾み、立ち上がって「楽しい!」と声に出す時も(笑)。作る時の感情は常に大事にしたい。手を通して作品に流れ込み、見る人にも伝わるので。羅は不思議な織物。どうやって織るの?と皆がのぞき込む。私は、その伝統技術を使って「私の表現」をして、知識を深めると共に自由に変化していく。織りは、そんな私と一緒にいてくれる伴侶です。

〈小田芽羅さんプロフィール〉

おだ・めら/1984年川島テキスタイルスクール修了、1989年京都市立芸術大学染織専攻卒業。新聞紙で織るタペストリーを制作。中学・高校の教師を経て、アトリエ・ヒュー工房を設立。現在、高校、大学の非常勤講師。新匠工芸会会員、京都工芸美術作家協会会員。

website: Atelier hue

修了生インタビュー:絣の帯を制作して「次の夢が見えた」神田洋子

故郷の新潟で18年間ギャラリー&茶房を主宰してこられた神田洋子さん。2年間の京都滞在を機に、「染織の基礎をきちんと学びたい」と川島テキスタイルスクール(KTS)のワークショップをいくつか受講。そのうちの一つ「ずらし絣のマフラー」を受けた時、「もっといろんな絣模様に挑戦したい」と思い、3カ月の技術研修コースに進んで絣の技法を使った帯を制作しました。70代で新たに学びに踏み出して、修了時に「先が開けた感じがしています」という神田さんのインタビューをお届けします。

◆  私にも「できた」を体感

−−新潟県ご出身の神田さんは、2年間限定で京都に来られました。織りを学びたいと思われたきっかけは?

私の住んでいる地域は、新潟県の中でも小千谷や十日町、塩沢など織物の産地が近く、昔から織物に携わっている方が多いです。そんな土地柄と、友人の好意で織機5台を自宅のアトリエに入れたのをきっかけに、経験者の仲間の指導と本を頼りに5人で平織りを中心に楽しんできました。ギャラリーの仕事を一旦お休みして京都に来たのを機に、染織の基本をきちんと学んで、それを帰ってからも生かしたいと思いました。

−−ワークショップから技術研修へ、KTSで学びを継続された理由は何でしょう。

自宅に織機があって仲間もいるので、学んだことを今後も続けられるような形で持ち帰りたいと思ったからです。KTSではどの講座も内容が充実していて、学びの緊張感がありました。絣はプロの職人がやるものと思っていましたが、絣のワークショップを受講して私にもできたのがすごく嬉しくて。学びの緊張感と結果の充実感を、もう少し長く体感したい、そして3カ月で形にすることで、その先につなげていきたいと思いました。

−−技術研修コースでは、デザインから始めて試作を行い、帯を制作されました。制作過程における学びを教えてください。

お太鼓の部分に、川の流れをイメージした流水紋をデザインしました。流れるように生きてきた私の人生にも重ねて。デザインから取り組むのは初めてで、思いついた図案が絣に合うかが分からず、イメージを制作につなぐのが難しかったです。糸を一本一本動かして、なめらかな曲線を作るのに苦心しましたが、織り進めるにつれて線が表れてくるのが面白くて! 糸の引っ張り具合や角度を試行錯誤する中で、経と緯の糸がイメージどおりにピタッと合う回数が段々と増えていく。緯絣は何度もやり直して自分が納得いくまでできましたが、経絣は機に糸を張ってしまうので、やり直しがきかない。絣は最初の組み立てが大事だと分かりました。思ったようにいかなくても、先生に相談しながらどうしたらいいかを考えながら進めていく過程そのものが楽しく、それが学びでした。

◆手仕事でお返ししたい

−−初めての挑戦で、3カ月で作品を仕上げるご苦労もあったのではないかと思います。前向きに受け止めることができるのはなぜでしょうか?

私は手仕事が好きで、織りは長年やりたかったこと。まずは、好きなことができた喜びと感謝が大きいです。やっぱり私は、糸や布にまつわる手仕事が好きだと実感しました。次やる時には反省点を生かして、もう少し自分の図案に合うよう、染めやすいように色を重ねる工夫ができるかなと思います。家に帰ってから、もう一度挑戦してみます。そんな意欲が芽生えるほど充実していました。手織りに加えて、絣が学べた喜びもあります。

−−絣の魅力は何だと思いますか。

絣の細やかさや素朴感が好きです。方眼紙のマス目の上に模様を描き、経と緯の組み合わせで様々な絣模様ができる可能性を思うと夢が広がりますね。スクールで絣を学んで、どう織るかを想像できるようになり、ものづくりのスキルが増えて先が開けた感じがしています。

−−先が開けた感じとは?

今住んでいる地域に里山があり、自然の恵みと共に生活があります。スクールで天然染色を学び、その難しさを知りましたが、周りにある自然がものづくりの素材になると思うと嬉しさがありますね。これから染織を取り入れて、自然と暮らしと相互につながっていくと思います。

それから制作しながら、この先、もう少しきれいに織れるようになったら、あの方に差し上げたいな、あの方ならこんな色が似合うだろうなと想像しながら、次の夢を描いていました。これまで私は周りの方にたくさんお世話になってきたので、手仕事でお返ししたい。今、生きていることに感謝していて、元気でいられる時間を本当に大事にしたい。スクールで学んだ3カ月を基本にして、手仕事の次の夢を描いていきます。

オープンスクール開催!(8月28日、9月11日、10月2日、10月16日〈事前予約、いずれも土曜。8月分は10時・14時から、9月以降分は10時・13時・15時から〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

スクールの窓から:初めての「綴織」、タペストリー制作

川島テキスタイルスクールの専門コースの授業を紹介します。本科(1年次)では、最初の「織実習」として綴織のタペストリー制作を行っています。綴織はスクールの柱の一つとして、1973年の開校当初から教え続けている織法です。(詳しくは「スクールをつづる:綴織編1『KTSの綴織とは?』」へ。)

絵から織物へ、イメージの設計(上・原画、下・織り下絵)。
絵の具で色を作り、質感を考えて糸を選び、織り下絵に指示を書く。

この実習では、綴の技法の基礎から応用までを網羅した2枚のサンプルを織った後、縦横45センチのタペストリーを制作します。「デザイン演習」の授業と連動し、タペストリーを絵画的な織り表現で見せるのにデザインも学びます。モチーフの果物を観察し、面白いと思った部分をデザインにふくらませる。描いたデザイン画を基にして、どういう糸や技法を使えば織りの表現ができるのかを考え、実際に織り上げていく。並行して(株)川島織物セルコンの専門家による「色彩演習」の講義を受け、色彩の基礎知識を学ぶ。綴を柱に、そんな濃密な2カ月を送ってきました。

4月に入学したばかりの学生にとっては、綴織も、デザインからの制作も初めての経験。それは一人ひとりが自らの視点を持って、織りと向き合う入口に立った経験と言えるでしょう。講評会で学生は、「デザインの段階で、描いたものが織りになったらどうなるかをきちんと考えられていなかった」「筆で描いた表現に、ぼかしの技法を使った。グラデーションをどこまで織るか、決めるのが難しかった」「この部分は試し織りをしてからやるべきだった」「同じ力加減で織っていかないと、線が揃わなくなる」と実感を語り、それぞれに次の課題が見えた様子です。

近藤講師は「技量的に今は難しいことでも、続けていけばできるようになります」と話し、「織物は出来上がったら戻れない。だから織っている途中に迷ったら、大変でもやり直してください。完成後に後悔しないように」と最後に伝えました。この綴織実習を礎に、グループで取り組む大きなタペストリー制作へと、これから歩みを進めていきます。

オープンスクール開催!(7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

制作の先に:織りの未来へ「芽萌ゆ」−綴織タペストリー新作がスクール玄関に登場

スクールの玄関に、このほど新たなタペストリーが飾られました。「芽萌ゆ」と名付けられたこの作品は、2020年度本科生のグループ制作の一作です。川島テキスタイルスクール修了展(2021年3月開催)で初披露時、制作した2人の学生は、こんな紹介文をつづりました。

「この豊かな大地から どんな芽を出し どんな葉をつけ どんな花を咲かせ どんな実をつけようか」

養分を吸い上げて力にする、根の力強さに着目して、その先の成長に思いはせる。その発想力は、スクールで実技を重ね、学びの根っこを育んできた学生だからこそ。制作にあたっては、初めからスクール玄関に展示するという目的がありました。幅220センチ・高さ126センチの綴織タペストリーは、繊細な色使いや、根が浮き上がるような見え方で綴れを存分に生かした織りの表情が魅力。近くからも遠目にも見応えがあります。一年学べば、これだけ作れるようになる。そんな学生の成長も表れています。

手織りを教えるスクールは、いわば織りの未来を作る場所として存在している。そんな場所に、学生たちが精魂込めて未来に向かって力強く作り上げた作品は、しっくりと入口の空間になじんでいます。フレッシュな感性光る「芽萌ゆ」、来校の折にはぜひご覧ください。 

オープンスクール開催!(6月26日、7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

*グループ制作の背景については、スクールのブログでも紹介しています。
スクールをつづる:綴織編3 「1年の学びの集大成、タペストリーのグループ制作」

スクールをつづる:はじまり編2 入門・暮らしの織り・組織織り担当、仁保講師インタビュー「インテリアから手織りの世界へ」

川島テキスタイルスクール(KTS)専任講師のインタビューをお届けします。仁保文佳講師は、織りの入門編ワークショップ「はじめての織り(10日間)」「織物がわかる5日間」を担当し、専門コース本科で天秤機を専門に組織織りを教えています。親しみやすい人柄に加えて、明るく活気のある雰囲気作り、硬軟織り交ぜた指導は、初めて織りを学びに来た受講者の方々にも好評です。大学で室内建築を学び、インテリアコーディネーターの仕事を経て織りの世界に入った仁保講師に、「空間」の視点をふまえてキャリアチェンジした道のりについて語ってもらいました。


専門コース本科の授業で、糸繰りの指導中。
「最初が肝心! 一つひとつの工程を確認しながら、糸の扱いの大切さを教えています」

◆  興味の始まりは「空間」

「インテリアって何だと思います?」と仁保講師からの問いかけで始まったインタビュー。「よくわかんなくないですか?」

美術館やギャラリーに行くのが好きで、「空間作りって楽しそう」と東京造形大学デザイン学科に進学し、室内建築を専攻。しかし、大学では空間作りの難しさにぶつかります。「空間って、いろんなアプローチがあってつかみにくい。講評会で、ものはなくて語りで終わる学生がいたり、プレゼンボードを使ってグラフィックだけで見せてくる人もいる。模型は作れても実物ではないので、結局は提案になる」。

ものづくりの実感が得られないモヤモヤの中で、「“何の”ものづくりかわかる仕事がしたい」と考え、卒業後はハウスメーカーに就職。インテリアコーディネーターとしてクライアントの要望を聞き、設計士や現場監督、職人と連携しながら、住宅空間を作る仕事に携ります。「コーディネーターのやりがいは、コミュニケーションを取って気持ちよく入居してもらえること。その役割も楽しかったのですが、そこでも自分はやっぱり手を動かしてものを作っていないという悩みに陥るんです」。私は布が好き。カーテンの営業に来た(株)川島織物セルコンの社員からKTSの存在を聞いて、学校見学へ。ここで学ぼうと決めた。

◆  「私も夢を追いかけて辞めます」

多忙のため退職に一年を要し、実際に辞められたのは上司が変わったのがきっかけ。「上司が夢を追いかけるのに退職したんです。私も夢を追いかけるんで辞めますと(笑)。最後は辞める勇気があるかどうかだと思います」。その後、学費を貯めてからKTSへ。

織りを学ぶのは初めてでも、建築の視点は役立つ。入学後、「『デザイン演習』の授業で、最終形態を意識して課題をすんなり作れたんです。大学やインテリアの仕事で培ったデザインの“タンス貯金”みたいなものがあって、それを引き出して制作したら、デザインすることが自分の中でストンと落ちた。私はずっとデザインってよくわからんなと思ってたんですが、(自覚してなくても)デザインの考え方ができていたのかと気づきました」。KTSで「テキスタイル」の「デザイン」を1年かけて理解していき、2年目は着物を専攻し、絣の着物を制作した。「私は建築の仕事でクライアントの希望や施工の制約がある中での、ものづくりの考えが身についている。織りは制約が多いけれど、出来上がるものが幅広い。特に絣は、最初に綿密な計画がないと成り立たない。建築と制作プロセスが似ていて面白かったです」

弾む(2015)
「アイデアが浮かぶのは、歩いている時が多いです。楽しそうな動きを出したいと考えていたら
ヒレのふよふよ感が思い浮かんで、金魚をモチーフにしました」

「このデザインの最小単位は、長さ約3センチ・幅3ミリの経絣。
あえて制約の多いドラム整経機を使って、並べ方やパターンの配置によって
全体でリズム感が出るようにし、着て楽しくなるような着物にしました」

2年を終えて、貯金が底をついた。「機を買いたいけどお金がいる。まずは働かねば」と手織りができる仕事を求めていたら、「じょうはな織館」(富山県南砺市)の求人を以前そこで勤めていた同級生が教えてくれて、就職。オリジナルの手織りグッズの企画をし、コースターやストール、かばん、ネクタイなど館内のショップで販売する小物類を制作します。体験教室の指導も担い、「働いた2年で、織りをやりたい!という多くの人に接して、織りはニーズがあるとわかりました」。機が手に入ったタイミングで関西に戻ると、専任講師の世代交代の流れで「若手の新しい風を入れたい」とスクールから声がかかりました。


「ショップでお客さんの声を直接聞いて、ニーズに合わせた製品作りをしていました。
その中でも平織りが基本だったものから、ハック織りや二重織りなどを新たに取り入れたりも。
織りに関わる仕事が、のびのびとできる環境でした」

◆  大きく捉えていた空間が小さく手の中に、回り道からの手応え

KTSでは初心者向けワークショップを担当。徐々に受講者が増えていき、今では満席になる回も多い講座です。「KTSに来る人は、体験ではなく真剣に織りを学びたい人が多くて、目的も様々。一人ひとりのニーズを汲み取るのはインテリアコーディネーターの仕事も同じ。話す仕事はずっとやってきたので、それが今になって役立っています」

専門コースでは、本科で組織織りも教えています。目指すのは「組織脳を身につけられるように」。組織の仕組みが理解できると「定番柄を織るだけではなく、こういう作品を作りたいからこんな組織で織ってみようという風にアレンジでき、オリジナル性の高いものが作れるようになるので」。それは建築から織物へ、応用できる力を身につけ、その楽しさを知っているからこそできるアプローチと言えるかもしれません。

ワクワクする空間に魅かれて室内建築を学び、インテリアの仕事を経て、手織りの世界で歩みを進める仁保講師。「私はたくさん回り道してきたんですよ」とカラッとした調子で語る中で、今、確かな手応えを感じ始めているようです。それは、大きく捉えてつかみどころのなかった空間というものが、ものを作れるスキルを身につけたことで小さく手の中に還っていき、具体化できるようになったこと。暮らしも空間。2021年度から新設の「ウィークリークラス–暮らしの織り–」も担当します。

「こういう布を作りたいというイメージがあるので、今後は作品制作もやっていきたい。やっぱり手を動かして、ものづくりができるっていいですね!」

◆  仁保講師にとって織りとは? 「道作り」

初めは織りを羨望の眼差しで見てました。私は器用じゃないので難しそうだと、魔法みたいに遠い感じで(笑)。実際に学ぶ中で、これまでの組み立てのアプローチが織りに活かせるとわかって近づけた。心の底から面白いと思えるものづくりを見つけ、頭の中のイメージに道筋を立てて制作できるようになった今、織りは魔法じゃなく私の現実。織りの世界で自分の道を作っている最中です。

*オープンスクール開催!(6月26日、7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

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スクールをつづる:はじまり編1「はじめの一歩、織りは楽しい!」

初夏を迎えて早くも梅雨入り。スクール周辺でも雨の音が響き、山一面に青葉が瑞々しく輝いています。専門コース本科に新入生を迎えました。年間を通してフルタイムで授業を行う専門コースでは、1年目の本科では糸染めから織りの全工程を学び、密度の高い基礎授業を通して、基本技法の習得と表現力を養います。最初は「基礎織り」という、自分で色を選んでウール糸を染めて、長さ約2メートルのサンプル織りを行う授業を行いました。

2021年度の本科入学者は、高校や大学卒業後に学びに来た人などで、織り未経験者も多いです。世の中全体でライフスタイルの変化の渦中にあり、そんな今を「自分を見つめ直す時間」と捉え、「やりたいことをやろう」と仕事を辞めて入学した人も。授業最終日、織り終えたばかりの学生に感想を聞きました。

「初めはリズムをつかむのが難しかったですが、最後は集中できた。もっと織りたくなりました」「大学で学んだのは平織りだけで、綾織りや朱子織りは今回が初めて。好きな柄を選び、組織図を書き起こして織るのも楽しかったです」「没頭できるのがいい」「織りは、単に経糸と緯糸を通すだけじゃない。(密度、張り具合、耳を揃える、糸の結び方に気を配るなど)マルチタスクだと思いました」「実際に織れたものは、頑張って織った割には簡単そうに見える。普段でも、(服や絨毯など)織り模様に目が行くようになりました。これからどんな織りをやっていけるのか楽しみです」

手織りに対する思い思いの希望を抱き、はじめの一歩を踏み出した新入生たち。最初の授業では、それぞれの観点で面白味を見つけ、真摯に取り組んでいる姿がありました。春夏秋冬、一年を通して織物と自分に向き合う日々が始まっています。

*オープンスクール開催!(6月26日、7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

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スクールをつづる:綴織編7 修了生インタビュー「綴織職人と作家活動、2つの織りに励む」陳 湘璇さん

 綴織編シリーズ最終回は、修了生インタビューです。KTSを修了後、2020年4月に(株)川島織物セルコンに入社した陳湘璇さんは、作家活動をしながら綴織職人として働いています。陳さんに現在の仕事や、一人で作品制作を行うのと複数で大きな緞帳を織る感覚の違いや面白さ、学生時代にグループ制作した綴織タペストリーを振り返って今思うことなどについて、話を聞きました。

綴織の練習をする陳さん

——現在の仕事で感じる綴織の魅力や学びを教えてください。

 今は緞帳の方で勤務してますが、最初に綴織に魅了されたのは綴帯の製作風景を見学した時です。職人の手元を覗くと、爪先ですごく細い緯糸を綺麗に掻き詰めていて、その職人の姿に憧れました。綴織は、出来上がった織物だけではなく、最初の原画製作から緯糸作り、製織、仕上げ、道具まで全体が魅力的です。

 仕事では織りだけではなく、綴織緞帳に関する技能全般を習得しています。研修で覚えた綴織の技法を本番の製織で実践し、無地から柄まで織っています。綴織は爪掻きの加減により織面が変わってきます。最初は凸凹になりましたが、今はその加減を意識して織るようになりました。柄も下絵の通りに織るのではなく、一つひとつの形をどう織るのか、経験を積んで目と体で覚える。教科書はないので、まず先輩達に聞きながら覚えていき、仕事で応用するような毎日です。

——綴れ織り職人の仕事をしながら作家活動を行っておられることについて、どのように考えてその道を選択されたのでしょうか。

 実は複雑に考えてないです(笑)。日本の伝統文化に深く関わる事ができればありがたいと思っていたので、(株)川島織物セルコンから綴織職人の求人がKTSに来た時、いいチャンスだと思って応募しました。ですが、自分の作品制作も諦めたくないので、綴織職人はフルタイムの仕事ですが、仕事以外に時間がある限り作品も作ろうと思いました。自分を作家と言える自信はないですが、ただ思い付いたモノを作り出したい気持ちがあると強く感じています。それで、今の道に進みました。

家書4/1/20-6/7/20 mom, i’m fine 4/1/20-6/7/20
「コロナの災いから、自分が日々存在している事を改めて認識し、強く感じていました。心境の変化の記録として、生み出した作品です。 」
「Kyoto Art for Tomorrow 2021 ―京都府新鋭選抜展―」に出展)

——1人で織るのと、複数で大きな緞帳を織るのは、感覚が違うと思います。作家活動を並行して行う陳さんだからこそ感じる、それぞれの感覚の違いや面白さを教えてください。

 1人で作品を作る方が自由ですが、1から10まで全部自分で決めないといけません。私の場合は大体ラフなデザインをして、素材などを実験しながら最終的なデザインに向かう事が多いです。いつでも自分の意思で変更できます。織る時もマイペースで織れます。ですので、自分に責任を持てればいいという感じですね。

 それに対して緞帳は分業制で、ルールに基づいて複数で織っていきます。私はまだ新人なので、勝手な思い込みで織ってはいけない。自分でデザインした作品ではないので、なるべく原画に忠実に綺麗に織れるのが目標です。そのため、常に「川島織物の商品を作っている」という意識を頭の中に入れて、お客様に責任を持って制作しなければなりません。

 自分の作品作るのはもちろん楽しいですが、他人のデザインを織れるのも意外と面白いと思います。自分が持ってないモノや発想がチャレンジのように感じて、勉強になってます。

——KTSでの学生時代、グループ制作で綴織タペストリーに取り組み、作品は今も市原の福祉施設で飾られています。リアルな梅の木の模様や、光が差し込む表現を取り入れた凝った作品で、そこには織り表現を生かした原画の力があったと思います。制作にあたり、陳さんは原画を作り上げて織りに取り組みました。今、業務として緞帳を織るのに多くのルールを学んでいると思いますが、当時を振り返って、学生時代だからチャレンジできたり、ルールを知らなかったからこそ生まれた自由な発想や面白さなどはあったと思いますか?

 そうですね。最初は抽象的なものを作ろうと思ったんですが、施設の方はリアルな方がいいとおっしゃったので、私たちは梅の木を観察しに行って、沢山の写真を撮りました。その時観察したのは花が咲く前の梅の木ですが、逆にもの凄い力を感じました。そして、如何に梅の木の生命力をタペストリーで表現し、人々に伝えるかは課題でした。

 綴織はまだ初心者なので、織の視点から原画を作ろうとしてもなかなか難しかった、ただ私たちが感じたモノをひたすらに原画にしようとしたと思います。例えば、光を浴びた幹の個性や新芽の活発さなどを重要視しました。できるかどうかや、どう織るかはほとんど横に置いといて、「描けばなんとか織れるでしょう」という甘い考えでしたね。

 リアルと言っても、あまりにも具象的すぎると面白くないと思ったので、緯糸の色表現においては、現実と想像的な世界の間にあるようにしました。制作が進むと、やはり織で幹の陰翳や光の表現が特に難しかったです。細い新芽を織るのも大変でした。

——出来上がったタペストリーを見て、施設の方が「とても力強い命を感じました。高齢者にとっては生きる意味を力強く後押し、命の尊さを与えてくれる作品のように思います」と感想をおっしゃっていました。

輝樹 (2019)

−−スクールで学んだ土台があってよかったと仕事で実感することはありますか? ある場合、具体的に教えてください。

 スクールである程度の織物に関する知識を学べたので、職場で先輩が技法や組織のことを説明した時は分かりやすかったです。それと技術的な仕事をする時、多少慣れはありますので、それで良かったと思います。しかし、学んだからと言って、自分の思い込みでやってはいけないですね。織物は場所や人などによって、それぞれの用語や技術も違うので、やはり先入観を持たず、教えていただいた事を理解するのが大事です。

instagram: @shung_shouko

陳さんがKTSで学んだ経緯などは、「スクールをつづる:国際編8 修了生インタビュー『世代をまたいだ繋がり、日本語習得して長期留学』陳 湘璇さん」で紹介しています。