本科

スクールの窓から 1 「表現論」

川島テキスタイルスクールの専門コースでは、様々な先生が教えています。専任講師をはじめ、外部からも作家や技術者などを講師に招き、風通しのいい環境を作っています。このコーナーでは、そんな専門コースの授業の一部をご紹介します。(不定期掲載)

7月9日、「表現論」の授業で繊維造形作家の堤加奈恵さんを講師に招き、「わたしがみた フィンランドのこと、テキスタイルのこと」というテーマで、作品や資料を見ながら、海外留学の体験談をお話いただきました。堤さんの織りに向き合う真摯な姿勢に触れたひとときとなりました。

大学院を修了後の7年間、綴織のタペストリー制作に励んできた堤さん。2018年〜19年の9カ月間の海外滞在を機に作風が大きく変化しました。日本で生まれ育った自らのルーツに興味を抱き、座布団から着想を得るなど日本の染織工芸品を取り上げて、自身で織った布を造形作品として発表するように。レクチャーは、そんな影響を受けたフィンランド滞在について、助成金付き留学制度応募から、滞在計画の立て方、伝統工芸のRyijy(リュイユ/ルイユ)織りと収集家との交流、植物染色、個展開催など堤さんの経験をなぞるように進んでいきました。

学生に向けては「5年、10年後、こんな自分になれたら素敵だなと思える経験を今、 フットワーク軽くやってみるといいです」「見えない未来を想像して不安に思っても、明日、一週間後にぱっとひらめくことがあるかもしれない。その時が来るまで、今、目の前にあることを精一杯頑張ればいい」とまっすぐに語られました。

◆ 堤さんにとって織りとは? 「人生を楽しくしてくれたもの」

「私は元々、絵が好きで美大(京都精華大学)に入ったのですが、自分が描く線にコンプレックスが強かったんです。そこで綴織に出会い、線が忠実に再現されない面白さに触れ、作るのが楽しくなりました。綴れを織る時、爪で押し下げる布の重量感が好き。織りは私の人生を楽しくしてくれたものです。」


〈堤加奈恵さんプロフィール〉

Facebook: @lanlanae
Instagram: @tsutsumikanae1006

つつみ・かなえ/
繊維の蓄積により生み出されるディテールと、経と緯の組織の成り立ちから生じる一種の不自由さ、単純と複雑の両面を持ち合わせた織り機に面白みを感じ、「織る事」をベースにして作品制作をしている。京都精華大学大学院芸術研究科染織領域修了。2015年より同大学芸術学部造形学科テキスタイル専攻非常勤講師。

手織りマスク

専門コース本科の一人の学生が、授業「4枚綜絖で織る組織」で織った布を使って手織りマスクを作りました。

授業ではディッシュクロス用として織っている布。そこでマスクができそう!とひらめいて、アレンジしたものです。

織地、裏生地、バイヤステープも全てコットンなので、柔らかい肌触りが心地よさそうです。

冨田潤先生のアトリエを訪れて 本科 陳 湘璇

先日、専門コースの学生と留学生は、冨田潤先生のアトリエを見学させていただきました。
冨田先生は学校でお見かけしたお姿だけでもアーティスティックな印象があり、
作品からも強烈なイメージの中に柔らかさが感じられるなと思っていました。

到着した際、冨田先生はワンちゃんを連れて迎えに来てくださいました。京都の越畑山中にあるアトリエは、畑と森に囲まれていて、まるでいどりの仙境みたいだなと思いました。先生が20代の頃からこちらのアトリエを開設されて、色々な染織の創作を展開しているとのことで、20代の私も刺激を受けました。
富田先生工房見学

はじめに染色場でフェルト化された二重織のマフラーを見せていただきました。
中にフェルトのウールが縫いこまれているのかと思ったのですが、すべて織物でした。素材と組織の変化と仕上げでこんな表現ができて面白いなと感じました。染色場を渡って織工房に入ったら、先ほど見たマフラーがドビー機で織られている様子を見ることができましたが、こんなに仕上げ前と後で変わるとは思いませんでした。縮絨率の高いウールに対して、綿はあまり縮まないためできる変化というのも色々あるそうです。
この組織は18枚綜絖で、1リピート紋栓が76枚必要ということだったので、ドビー機でなかったらかなり大変な事だと想像できます。

富田先生工房見学富田先生工房見学富田先生工房見学富田先生工房見学

アトリエにいた方は日本人だけでなく、アイスランドから来た方もいました。国の先生に紹介してもらって、
冨田先生の工房で3ヶ月の研修しているとのことです。海外でも活動されている冨田先生は、ヨーロッパのアートやテキスタイル界でも知名度が高いです。
ちょうどこの時期も海外で展覧会をされていて、作品も海外に出品されていたので、かわりにサンプルを見せていただきました。縮絨されたラグは厚いですが手触りがよく、縮絨された質感も感じられて、絵画の雰囲気がありました。

そのなかでも一番気になった作品は、捺染の帯です。アトリエにセッティングされた捺染用の経糸がこれから冨田先生の筆によって織物になる事と、その工程を想像しただけで魅力的です。先生が織る前の工程が好きだと仰っていたのですが、それは作品に注いだこだわりから十分感じることができました。言い換えたらアーティストと工芸家の性質が同時に存在しているんだと思いました。

富田先生工房見学富田先生工房見学

茅葺の家が並んでいる山中にあるアトリエは創作するのにとてもよい環境だと感じました。
周りの状況に伴って創作が変わるものではないでしょうか。どんな作品を作りたいか、その望みに応えられる環境づくりというのが、創作に大切かと思います。将来工房を持ちたい私にとってもよい勉強になりました。
アトリエ見学の後は、ご自宅にもお邪魔させていただきました。
家までもギャラリーのようで、ここで毎日自然の変化に従って暮らしていくのはとても素敵です。
私たち人間はそろそろ自然界と共存して一緒に生きていかないとという思いをふっと思い出しました。

最後に「Textile magician」というDVDを見せていただきました。日本にいる5人のテキスタイルアーティストの創作記録です。冨田先生の他にも5月に見学させていただいた新道先生も紹介されていました。ドキュメンタリーは、各々のアーティストの創作過程と求めることをお話ししていました。例えば、布を通して時間や空間を表す、とか、糸の可能性を実験する、とか、日本の書道と織物を融合させる、などです。DVDを見て、創作は過程が一番重要と一層強く感じました。とはいえ、最後に出すのは結果=作品なので、そのに作品に行き着く前にどんな道を渡ってきたのかその作品に宿った過程を見るものに感じてもらえるようにするのが大きなポイントだと思いました。
冨田先生の作品を見ていたら、ずっと見続けたくなり、1枚の織物にストーリーがあるように感じていました。
私自身も見れば見るほどこういった深みのある作品を作りたいと思います。

富田先生工房見学

今回の見学はゆっくりと作品や周りの環境を堪能することができました。
沢山いただいた発想が今後の創作の源泉となるかもしれません。
本当にありがとうございました。

織実習「布を織る」 本科 諸岡 珠永

今回の織の課題は絵画を一つ決め、縞をデザインし、8mの布を織るというものでした。
私はゴッホの〈夜のカフェテラス〉を選んで、縞のデザインを考えました。

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絵画の中から選んだ4色でも隣り合う色や縞の幅によって雰囲気、印象が変わり絵画の雰囲気を落とし込むというのが難しいと感じましたが沢山の組み合わせ、見せ方があるのだと実感しとても面白かったです。

経糸の整経では二本ずつ確認しながら集中してするためとても時間がかかりましたがとても楽しい気持ちでできました。
ただこの時にテンションが均一になっていなかったので後の後ろ付けと前付けの時にテンションを全体で合わせるのが少し大変になってしまいました。
また、糸が細く伸びやすいため、経糸を機にかけるときが大変でした。
特に綾返しの時に糸が絡まないように経糸をさばいていくときにはその時までに糸にかかった負担が糸の伸びという形で出てきました。
糸が伸びてしまうと千切に巻き取るときに絡まってしまったり糸が切れたりしてしまいます。そのため伸びた糸を後ろに引っ張ってテンションを合わせていきました。
一つ一つの作業はつながっていてそれぞれ丁寧にしないとどこかでしわ寄せがくるのだと知りました。

試織をして緯糸の色を決めるのは思った以上に大変でした。緯糸の色で雰囲気が変わり理想の雰囲気の色がなかなか見つかりませんでした。
最初はネイビーや青で考えていましたが試織をしてみると横糸が暗すぎると経糸の白や黄色が潰れてしまうことがわかりました。青、灰色系統で色々と試してみて暗い灰色に決めました。

織り始めてからはとても速かったように思います。最初練習で30㎝程織りましたが左右の端がきれいにならずそろえるのに苦労しました。はじめは織ること自体が難しく1時間で10㎝程度しか進みませんでした。だんだんと慣れてくると時間も気にすることなく楽しく織ることができるようになりました。

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最後に織りあがった布と風呂敷を一緒に飾りました。織るときは真上から40㎝ほどしか見えていなかったので7mほどの縞と風呂敷を一気に見たときにはこれを織りあげたのだと強い達成感を感じました。
緯糸を染めるときに思っていたよりも濃度が薄くなってしまい淡くなってしまったと思っていましたが、離れてみてみると暗すぎずこの暗さでよかったのだと思いました。
近い距離で見ている時よりも少し離れた方が冷静に見れてもっと自分の縞が好きになれました。

縞のデザインは自分が意図しないところでうまくいっていたり面白い縞になっている部分が多かったのでどうして面白くなったのかを理解してこれからの制作にいかしていきたいと思います。

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織実習「綴織」 本科 浅井広美

綴織(つづれおり)は、つよく張った経糸に、緯糸を(筬で打ち込む代りに)爪で搔きよせ、下絵を写すように模様を織り上げる織り技法です。今回の綴織の授業では、2枚の見本織りをした後、花をテーマに45x45cmのタペストリーを織る課題が出されました。

まず、花の下絵を描くにあたり、植物園まで足を運び、多くの花の中から一番心動かされたバラの原種を題材にすることにしました。
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その後、原画を描き、それをどのように織っていくか決める上で、綴織作家の作品集などを参考に、今まで習った技法をどのように使えば絵具で塗った質感が出せるか、どうすれば奥行きのある絵に見せることができるのか考えていきました。
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織りに入る前の最後の作業は、試し織りをすることです。杢糸(2本の違う色の糸を絡ませて違う色を作る)が織物になった時にどんな色になるか、候補の色を並べて見比べ、最終的に使用する糸を決めていきます。
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織り始めてみると、思ったように形にするのが難しいところや、背景と花の色が似ていて同化してしまうなどの問題に突き当たり、何度もやり直しながら試行錯誤を繰り返しました。
特に花びらは、徐々に色を変えていく部分や、立体的に見せるために描いた影がうまく表現できず、悩みながら多くの時間を費やしました。
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それでも、下絵がだんだんと織物になってき、手が慣れてくる頃には、形作るのが大変だった葉の部分も、楽しい作業に変わっていきました。
最後に、完成後の講評会では、花よりも葉の方がイキイキして見えると先生がおっしゃっていたのを聞いて、織っている時々の心境は作品に表れてしまうものだと、この課題を通して実感しました。

今回の課題は、織りが順調に進むところ、織っても、織っても終わりがないように思えるところの繰り返しで、一枚完成させるまでの工程は、まるで起伏が激しい道のりを旅しているようでした。完成した作品を見るたびに、構図や描き方(織り方)、色の選択など、改善点ばかりに目がいってしまいますが、同時に、花びらや葉っぱの1枚1枚を見れば、その時自分がどんな気分で織っていたかが蘇り、一つ一つの工程が旅の記録のように、この1枚に刻まれているようです。
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美山ちいさな藍美術館を訪れて 本科 加納有芙子

5月24日、美山にある新道弘之さんの工房にお伺いしました。
今回は、本科生のレポートを掲載します。

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京都府南丹市美山町にある藍染工房”ちいさな藍美術館”を訪ねた。普段学校では、先染めである織を勉強をしているわたしにとって”染め”という分野はすこし新鮮に感じられ、またいまひとつイメージできない世界であった。濃い青色で古来から存在する色。自然からとれる染料。ジャパンブルー。・・・・といったくらいのぼやけたイメージとあとは、授業で見た”ブルーアルケミー”というドキュメンタリー映像で得た知識くらいであった。

スクールがある京都市左京区静市から美山まではバスで2時間半程度だった。窓からみえる景色は徐々に変わってゆき緑が深めき透明な空気さえも覚えるほどの風景の中美山に到着した。美山の村は丘のように膨らみをつくっている山と山の間にすっぽりと入りこんでいてなんとも可愛らしい印象がした。南には風景を彩るように川が流れていて、入母屋造りの家々が秩序なくぽこぽこと点在し、その間を縫うように小道がなだらかに続いていた。工房はさらに小道を進んだところあり草の香りが強いところだった。美山へ来るのは今回が初めてだったが、ここに藍染の工房を持つことはとても恵まれているように感じた。他の家々と同じように造られた茅葺屋根のある工房は、計算されてそこに在るというよりも、自然発生的にそこに存在しているように感じられて、風景と同じようにそこに佇んでいた。

新道さんがここに工房を構えたのはいまから40年近く前のことだ。当時はここに移住してくる人は珍しく、かつ社会的にも都市から地方へ出ていくのも稀なことだったようだ。そんな中ここに工房を構えた理由はより自然に近い場所・状態で藍染めをするためであった。藍染めには『天然の水・発酵菌・灰汁作りの灰』が欠かせないため町の中心地では難しいのだと語ってくれた。玄関から右手にすすんだ建物の北側が工房になっていて、そこには藍の甕が土間に埋められている。ここで藍の発酵から染めまでを行っている。工房内で藍がぷくぷくと発酵しているのを見るとなんとなく新道さんが言う自然に近い状態というのがわかるような気がした。藍の染料を見るのは今回が初めてだったが、まずは甕に建っている藍の濃厚さに驚いた。それは生命感があり、その瞬間もゆっくりと発酵を続けているとわかるようだった。

わたしにとっての新しい発見は、藍染めで染められる色のバリエーションがいかに多いかというこだった。実際に新道さんは近日に仕込んだ甕(①)と冬に仕込んだ甕(②)を染め、その色の違いを実演してくれた。①と②の甕では、表層の藍華の出方や見た目の雰囲気も異なっていて、実際に①の甕により染められたものは、濃紺ともいうべき藍色であり、他方はやさしくて弱った水色で染められた。還元の過程で染料が空気にふれて色が変化してゆくのもとても幻想的だった。同じ藍を同じ工房で同じ人が仕込んだものであるのに、仕込みの時間だけでこんなにも色に違いが出るのだと知り驚いた。また仕込みの年月だけでなく、その年の気候や藍の状態によっても色が変化するのだという。昔の染めの職人は、その日の甕の状態からどのような色ができるのかを予想ができたのだろうか。それはもともと色のイメージが明確にあり、それをコントロールしてゆく化学染色とは全く違い、藍染めで色をコントロールすることは神業のように思えた。しかし、その偶然であっても生まれた色が、きっと愛されるべき色だったのかと思うとそんな文化や感覚もすばらしいと思った。
藍染の色について調べていると日本には”藍48色”という言葉があることを知った。藍から抽出される色がいかに多いかということを表現していて江戸時代に生まれた言葉のようだ。そこには薄い藍色から濃い藍色までさまざまな藍の色が存在していて、一般的に浅黄、縹、納戸、紺、褐・・・などの名称が使われている。色は無限にあるものだが、色の名前は数えられるほどしかない。藍についての色名がこれほどにまで存在するということは、日本人にとって藍やその色彩というものがいかに身近なものだったということを表しているのだろう。

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絣クッション制作  本科 小郷晴子

格子柄と十字柄どちらかの模様を選び、絣織のミニクッションを作りました。

絣糸を使って模様を出す織物は初めてなので、経糸、緯糸それぞれ、どの部分を括って絣糸を作ったら良いかなど、
詳しく説明された「経緯分解図」をもとに、教えて頂きました。

これまでの織りの授業では経、緯、それぞれの色を決めたらまずは糸染めをしていましたが、
今回は模様を出すため、まずは絣糸の準備です。
これは、とても手のかかる大変な工程だと思いました。
色を抜く部分にラップを覆い、更にすずらんテープで括るのですが、
染料が染み込んでしまわないよう、とてもきつく括らなければならないので、手首が痛くなる程でした。
この工程が済んだらようやく染色です。

染色が済み、機に経糸を準備するとき、括った部分を解いて行きます。
この時、上手に出来ていたり、少し色が染み込んでしまっていたりが露わになり、
一部分ずつ解く度にワクワクしました。
染み込んでしまった部分は手がかかった分、残念に思いましたが、
その原因も知ることが出来たので、次に繋げたいです。

機の準備が出来たらいよいよ織り始めです。
経絣に緯絣を打ち込むごとに模様が現れ、一越ずつが楽しい織物だと思いました。
そして、一つの模様が織り上がるごとに感動しました。
糸一本一本の張りや、織り具合によって、設計通りにぴたりとは織ることが出来ず、
ずれてしまう部分もありました。
けれども、糸一本一本の姿が良く分かり、染色から完成までの工程なども感じられる、
絣織物の良さでもあるなと思いました。

絣織を実際に学んだことによって更に、良さ、難しさを知りました。
手がかかった分、その織物への愛着が増しました。
今後は更に細かい模様の絣織にも挑戦してみたいです。

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機準備の様子

 

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緯絣を慎重に合わせながら織っています。

 

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完成したクッションを並べてみました。