本科

美山のちいさな藍美術館を訪ねて 本科 金子かおる

6月12日、藍染め作家の新道弘之さんの工房を訪ね、京都府南丹市美山町に行きました。

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美山に向かうバスの中で見た映画『ブルーアルケミィ ―藍の物語―』*はとても興味深く、
特にインドでのプールの中で藍の染料を出す作業が印象に残りました。
緑色の液体が徐々に藍色になっていく様子には驚きました。

初めての美山。だんだん山奥に向かうにつれて期待感が高まります。
バスを降りると日本昔話の世界が広がっていました。
茅葺き屋根の景色もさることながら、空気がとても澄んでいてとても清々しい気分になりました。
小さな藍美術館まで景色を楽しみながら向かいました。
新道さんの工房は茅葺きの家の中でも大きいそうで、独特のゆったりとした空気が流れていました。

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2階の美術館は新聞の記事で見たよりも広く、全面に大きな布が広がっていて圧巻でした。
今回は日本の藍染めの展示は無く、ヨーロッパの藍染めの展示でした。
ヨーロッパの染色に藍染めがあった事にとても驚きました。
ヨーロッパでは藍染めを「インディゴ」ではなく「ブループリント」と呼んでいて、その響きが可愛く感じました。

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インドから伝わった木版染めも模様はアジア風のものは少なく、
ヨーロッパらしい麦の穂のモチーフがデザインされているものや花柄など、
現代のプリントデザインとしてスカート等に使えそうなものが多く、見ていて楽しかったです。
布に添えられていた写真が当時使われていた様子をイメージし易くとても参考になりました。

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午後からは工房で絞り染めのお話や、藍染めの実演をしていただきました。
実際に絞った布を藍甕に浸け、取り出した布が酸化し深緑から藍色に変わっていく様子を初めて見て感動しました。
その後に拝見したドキュメンタリービデオは他の作家の方の作品も見る事が出来、
いろんなアプローチの仕方を学ぶ事が出来ました。

*『Blue Alchemy -Stories of Indigo-/ブルーアルケミィ ―藍の物語―』 アメリカのドキュメンタリー監督、Mary Lanceさんが世界各地の藍の現場を訪ね、7年の歳月をかけて制作したドキュメンタリーです。新道さんのインタビューや工房の様子をはじめ、世界の藍製造の貴重な映像をみることができます。

ちいさな藍美術館10周年記念企画展「西方の藍染」の会期が7月30日(水)まで延長されることになりました。

織実習「布を織る」 本科 大宮 恵

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4月に入学してから2ヶ月、3回目の織実習で、「絵画から読み取るストライプ」をデザインし、
幅40cm、長さ8mの布を織りました。白糸+色糸4色の計5色を使ったストライプです。
デザインに沿って自分の欲しい色を染色しました。
と、ここまでは、これからどんなことをして、どんなものが出来上がるのだろう??
とワクワクウキウキしながら準備をしていたのですが、
作業が進むにつれ、雲行きが怪しくなっていきました。

今回使用する糸は、とても細く、長いので、すぐに絡み、扱いづらく、
うまくいかないことが多くて、平常心を保つことがとても難しかったです。
織りの作業に入ってからも、きれいに織り進めることが出来なくて、
織っては戻りを繰り返し、進まないし、きれいでもないし、
どうしよう、とため息をつく時もありました。

それでも8mの長さを織っていると、問題点に対して色々と試すことが出来て、
発見につながることもあり、だんだんと調子よく織れるようになりました。

織り上げ後、学校玄関の吹き抜けの2階から布を垂らして飾ったところを見ると、
終わってほっとした気持ちと、またやりたい!という気持ちが湧き、
これからの私の課題である「ひとつひとつの工程を丁寧にする」ことを踏まえ、
いつかリベンジしたいと思っています。

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本科9名の織った布を飾ったところです。
風呂敷を作り、ストライプの柄がうまく出せるように中身と包み方を工夫しました。

励まし合ったみんなで、出来上がりを一緒に喜んだ達成感は、忘れられないと思います。

原毛から毛糸、そして布へ 本科 佐藤朋子

スピニング

私たち本科生は、10月から11月までの間「スピニング」「ホームスパン」
「ファンシーヤーン」の三つの授業を受けました。
スピニングの授業は、染織室の外で刈りたての汚れた羊の毛を洗うところから始まりました。

洗った原毛をほぐしてカードをかけて紡毛機で糸を紡ぎます。
上手に洗わないとほぐし難くなり、カードを上手にかけないと毛玉ができてしまいます。
紡ぎ方も、踏むスピードを加減しながら、送り込むスピードを手で調節するため、
足も手も忙しくコツを掴むまで時間がかかり集中力も必要です。

ホームスパン

一通り紡げるようになったら、次はマフラーを作るためのデザインを考え、分量を計算し、
3色に分けて白い原毛を染色します。染色した原毛をイメージの太さに紡ぎ、天秤式の機で織ります。
ホームスパンは糸に負担をかけないよう、整経する時や織る時に気を配らなくてはいけません。
織り上がったマフラーには縮絨をかけます。
縮絨をかけることで風合いが変わり、柔らかい手触りのマフラーが出来上がります。
 
ファンシーヤーンの授業では、「スラブヤーン」「ネップヤーン」「マールヤーン」など、
一台の紡毛機で色々な種類の糸が作れる事を学びました。
色の組み合わせや糸の太さなど自由に糸を作れると織る事が一層楽しくなり、
また糸がどのようにしてできているのかを理解する事で知識が深まりました。

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「絣のクッションカバー」 本科 清水

絣の技法を使ってクッションカバーを作りました。
絣は世界中にある、伝統的な染織技法のひとつで、
日本にも江戸時代後期頃から作られるようになった歴史的な技法です。

織りには経糸と緯糸があり、それらの糸が組合わさる事で織物の面が出来ていきます。
絣では織り始める前に、予めそれらの糸を防染する事で模様を付けてから織ります。
織り上がると、経糸と緯糸が少しずつずれていき、プリントとはまた違った模様が仕上がりになります。

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今回は、経絣と緯絣からなる模様2種類から各自好きな方を選び、絣織りの技法を学びました。
経糸の絣は緯糸と比べ、特に織るまでの準備工程が大事になります。
日頃から気をつけなくてはならない、整経時のテンションや、織物設計自体の重要性を再認識しました。
そして、経糸に緯糸を通すことで絣模様が面になっていく喜びも大きかったです。

世界中にある歴史的な絣は各地域、文化ごとに、まったく異なったデザインと色彩をしています。
また、現在の日本では現代的なプロダクトデザインから伝統的な着物まで様々な用途に用いられているなど、
大変奥の深い技法でした。

「天秤式織機による組織織り」 本科 中村ひとみ

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天秤式織機でスカーフと組織のサンプルを制作しました。
はじめに天秤機の特徴や仕組みを学ぶ為に、ストールを織りました。
このストールは2種類の太さの異なる糸と組織で織ることによって、
縮みの表情が出来るというものでした。

早速私たちはストールを織るために織り準備に取りかかりました。
今回は柞蚕糸カベ糸というとても細く絡みやすい糸を使ったので、
ひとつひとつの工程を慎重に進めていきました。
織り準備もあと一歩というところで私たちを待ち受けていたのが、タイアップです。
8枚綜絖、10本の踏み木を使用するためタイアップはなんと80本繋ぐ必要がありました。
織機の下に潜ってひたすらタイアップをしたのですが、踏み木の高さやコードの張り具合など、
気をつけなければならない事が多く苦戦しました。
80本を繋ぎ終え、先生と一緒にきちんと開口がうまく出来ているか確認をしました。
この時点で開口がきれいに開かない場合は、再びタイアップの調節をします。
きれいな織物を作るためには織り準備を丁寧にきちんとやらなければいけないのだと再び実感しました。
ようやく織り出したときはほっとし、織ることがとても楽しくあっという間に織り上がりました。
端をミシンで縫ってほつれ止めをした後、湯通しをして仕上げました。
お湯からスカーフを取り出すと糸の効果が出てかなり縮んでいたので、驚きました。
これから秋も深まってくるので、首元のおしゃれとして使っていきたいなと思います。

後半の授業は組織サンプルをひとり9枚織りました。
タイアップ替えもだんだんスムーズに出来るようになってきて嬉しかったです。
このサンプル制作では、天秤式の特徴である複雑な組織でも効率よく織ることが出来るということを学びました。
蜂巣織りや二重織りなどの組織は一見とても難しそうなのですが、足の踏み順も素直なので、
思っていたよりもずっと織りやすく楽しかったです。
きれいに織り上がったサンプルは各自きちんとファイリングしました。tennbinnblogIMG_89471

はじめての天秤式織機ということで戸惑ったりすることもありましたが、
丁寧に作業していくことの大切さや機の仕組みをしっかり理解することの大事さを実感することができました。
これから様々な制作を行っていくなかでも、このような気持ちを忘れず取り組んでいきたいと思いました。

基礎織り2「綿のディッシュクロス」 本科 近藤加奈


7月19日から26日までディッシュクロスを制作しました。
使用した糸は綿のコーマ糸で、触るとサラサラとしていました。
緯糸を染色し、糸量計算、糸繰り、整経と織るための準備を進めてゆきます。
今回は4月の基礎織りの復習でもありました。
たった数ヶ月前の実習の事でも手順を忘れていて、
そのたびにテキストや自分のノートを確認して作業を進めました。


準備が終わればいよいよ織り始めます。
事前に配られたドラフト図の中から自分の好きな組織を選び、
綜絖の通し順を2度変えて6枚のディッシュクロスを織ります。
緯糸の密度は1cmに8本ですが、選んだ組織によっては糸が入りやすいので
框を打ち込む時の力加減が難しかったです。
私は目標の6枚が織りあがり、時間と経糸に余裕があったので
2枚多く織ることが出来ました。
1枚は配られたドラフト図の中から選び、もう一つは自分で組織を考えて織りました。
 
機からおろしたら、ディッシュクロスの端になる平織り部分を切り離して折り返し、
ミシンを掛ければ完成です。家に持ち帰り、使い心地を確かめようと思います。
実習を終えて、改めて各手順の意味や大切さを学ぶことができました。
自身の新たな課題も発見できたので、今後の制作にいかしたいです。

織実習「綴織(つづれおり)」 本科 水野友美

○自由作品

初回の授業で綴(つづれ)の基礎織りサンプルを先生に見せられた時は、
喜びと不安が同時に生じました。
これをこのスケジュール(2週間程)で織ります、と淡々と説明する先生。
こっちは綴織という言葉を聞いたのも初めてだ。
これを私が織れるのか、でも織れたらすごい。
いや、その前に心が折れるかもしれない、と悶々としながら
糸の色を決めていたのを覚えています。


そんな感情がやる気に変わったのは実際に織り始めてからでした。
綴織は経糸にたこ糸を使用し、経糸が見えないように緯糸で織り埋めていきます。
爪と櫛を使って織っていく方法は織物初心者の自分にとっては随分衝撃的でした。
初めの頃、櫛で緯糸を詰める時の力の入れ方が分からず、
櫛が手からすっぽ抜けて口にぶつかり流血したのもいい思い出です。

サンプルを2枚織って綴の基本技法を学んだら、今度は自由作品を織ります。
ちょうどサンプルの織り終わりに近づく頃、川島織物の織物文化館の見学に行きました。
そこで絵を織ることのできる織物・綴織の神髄を見たことで、
自分の自由作品も絵を忠実に再現することを目標にしようと決めました。

○原画
○織下絵

自由作品では普段主役になることは少ないカスミソウを主役にしたことで、
織り始める前から繊細な花と線との格闘となりました(自業自得なのですが…)。
絵筆のタッチや花弁の細かな部分も忠実に表現するために、
下絵は細かすぎるくらい細部までトレースしました。
また、その細い茎や絵筆のタッチをボカシで表現する為に、
先生と相談して下絵は原画を横向きにして織る事にしました。
それが功を奏したのか、実際織ると何度もその下絵に挫折しそうになりましたが、
目標としていた絵筆の表現や、花弁の繊細さなどを無事再現できたと思います。

今回の作品を振り返ってみると、一番の胆は試織であるということです。
頭の中の織りのイメージを様々な糸を組み合わせて
具現化させていく作業は最も心が躍りました。
無限に近い杢糸の組み合わせから、試織したなかで決定を重ねていく。
また、現実的な作業時間との兼ね合いもここで見えてくる。
これはこれから先、何をするにしてもとても大切なことであると実感しています。