本科

フェルトのデザイン演習 本科 菅原由貴

私は約3年前から独学でフェルトを制作している。この度、デザイン演習でフェルトを教わることを聞いた。
初めて習うフェルトに、楽しみでありながらも自分のやり方が良かったかどうか試されるようで、
多少複雑な思いもあった。

デザイン演習の授業はいつも前置きがなく始まるため、少し緊張する。
当日に出される課題に撹拌される脳味噌を落ち着け、いかに自己表現するかということに必死だ。
前回絵筆や身近な道具を使ったり、または何も使わずに思うがままに絵具を走らせたりして、好きに描いた。
いかにもデザインを狙って描くのではなくとも、デザインは出来るのだと先生は教えてくださった。
そのデザインをバッグ型にあてはめてみて、確かにクラスメートの作品それぞれが素敵なバッグの
デザインになっていたことで納得できた。今回そのバッグの生地をフェルトで模倣するという。
私はピンク色を絵筆で下地を雑に走らせた上に輪ゴムでカラフルに色を乗せたものを模倣することにした。
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野田先生のフェルトの作り方はかなりエコだった。洗面器に湯を張り、固形石鹸で泡立てた泡を羊毛に乗せるだけ。
私はこれまで湯や石鹸を大量に使ったり、最後に高めの温度でフェルト化していたため、よく手荒れをしていた。
授業でも初めは手荒れをしないか心配したが、非常に人体に優しいものだった。

材料も限られたもので作るため初めは戸惑った。輪ゴムで色を乗せた輪はウール入りの紐やウール生地を細く裂いて作ってみた。絵の中の輪は伸びやかな曲線を描いていたのだが、紐をそのまま乗せたため、フェルト化する際ウール以外の紐のうねうねの線が出てしまった。ピンク色の下地についても、縦横ランダムに勢いよく殴り書きしたため,フェルトで表現するのが非常に難しかった。
野田先生が「紐やウールを短く切って乗せ、繋げるとうまくまっすぐなります」と教えてくださった。
これまで独学で制作していた時には羊毛のうねりなど考えたこともなく、今回のようにフェルトとは全く別な性質の物を模倣する際にはウールの特性が出ないようすることも必要なのだ、と改めて学ぶことができた。
授業ではウールの種類や縮絨率の違い、羊毛が縮絨する原理など根本的な事から学ぶことができ目から鱗が落ちた。
また羊やフェルトの歴史、利用されてきた背景など知る事も重要であることを学び、もっと深く調べてみたいと思った。

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フェルト・バッグサンプル

出来上がったフェルトは納得のいくものではなかった。
他者の目もあり、どうしても上手く仕上げたいと思う気持ちが強くなりがちだ。
しかしフェルトに限らず、他者との比較ではなく、いかに独自の表現でモノを生み出せるか、いかに昨日の自分より丁寧な仕事ができるかをスクールで学んで試すことが大切で、見られる恥ずかしさを越え沢山の失敗を今後に生かすことも重要であると考えている。野田先生の授業ではモノの考え方やメンタリティなども学ぶことができる。

私は昨年11月、今年3月で25年間勤めることとなった職場を退職し、川島テキスタイルスクールへ入学することに決めた。前月の10月頃、ふと直感で「京都に行こう」と思い立ち、その後に調べて川島テキスタイルスクールの存在を知ったのであった。
スクールのフェルトの授業については時間数も少ないと聞いていたし、正直なところさほど期待はしておらず、まずは染織の基礎を一から学べればいいと思って入学した。
今回の授業で、野田先生が日本でのフェルトの先駆者のお一人であることを初めて知った。
改めて私は本当に運がいいと思ったし、直接野田先生から教わることが出来ることに、心の奥深くで静かに感動し、思い切って決断して良かったと思っている。

※別の授業ではフェルトで食虫植物を制作しました。
私はモウセンゴケを選択して制作し、ピナ子と命名しました。
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デザイン演習 担当講師:野田凉美

布を織る 本科 柴田彩貴

春が過ぎ、じめじめとした梅雨に入りました。季節の変わりゆくこの約1ヶ月半にかけて、
私達本科生は長さ8メートル、幅40センチの縞の布を織りました。
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入学してまだウールのサンプル織りを習得したばかりの私は、
糸の太さを見た瞬間にゾッとした記憶が鮮明に覚えています。
しかし私はこのスクールのカリキュラムを見た時に1番楽しみにしていたという事実もありました。
私達が普段着ている洋服達は最初の形は四角形です。ただの布です。
何に仕立てるのかはまた別として、布を織るということが楽しみでしかたなかったです。

実際にデザインからはじめて、綛を染め、整経をし、機に経糸をセットする事からで
織りに辿り着くまでに何度くじけそうになったか・・・・。本当に己に向き合い、己との戦いでした。
しかし、一つ一つの準備工程が大切で、全部自分に返ってくるのです。

織りはじめの初日はやっと織れる喜びでいっぱいでしたが、疲れが溜まり、
気が緩むと糸に影響してしまいミスを連発したりと、なかなかうまくいかない日もありました。
織る感覚を自分に染みつけるために、日を空ける事なく1日短時間でも手を動かして探りながら織っていきました。
そうすると下手は下手なりに感覚を覚えてくるもので、少しずつですが、手応えを感じてきました。
繰り返しの毎日を終え、8メートルを織りあげた時の達成感と言ったら言葉になりません。

最終日スクールの玄関前に完成した布をみんなで展示をし、改めて布の迫力さに感動し、
喜びと自信がつきました。この日に感じた思いを大切にまた自分の織りを織っていきたいと思いました。
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本科織実習「布を織る」 担当講師:山本梢恵

美山町・北村を訪ねて 本科 龍山千里

5月27日、藍染めによる創作を行なう新道弘之さんの工房を見学するため、私達は美山町・北村をおとずれた。
立派な北山杉をバスから眺めながら、京都の山奥深いほうへ向かっているのを感じつつ、
着いたらそこは、時間の流れがまったくちがうように思えるほどに、しずかで緑ゆたかなところだった。
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美山・北村町

今回見学でお世話になった新道弘之さんは、学生の頃より藍染めに魅せられて、
長い間制作活動や研究を続けてこられた。そのなかで彼が、こつこつと収集してきたものを
展示した「ちいさな藍美術館」も工房に併設されており、わたしたちが伺ったときは、
日本の藍染め絞り、また全世界各地でつくられてきた藍染めのコレクションを見ることができた。
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日本の藍染め絞り
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中国の藍板締め絞り

まず、藍染めをするには藍の植物を染料化する必要があり、藍を染料として使用するには、
水と酸素を使って藍の色素そのものを抽出する方法、または葉から堆肥をつくる方法の
大きくわけて二種類がある。日本では古くから、蓼藍の葉を発酵させて堆肥をつくる方法で
藍染めが行なわれており、堆肥は「蒅(すくも)」と呼ばれる。石灰と木灰の灰汁を使い、
蒅を発酵させ、7〜10日かけて染液を作るとのこと。事前に観賞した「BLUE ALCHEMY」*でも
出てくるように、新道さんはこの工程のなかで、日本酒も藍甕のなかに入れて発酵させる。
職人一人ひとり、独自のレシピがあり、今ではようやく勘で染めることができるようになった
新道さんも、そこに辿り着くまでには長い時間が必要だったと話していた。

新道さんが考案した新しい絞り技法による藍染めの工程の一部もみせていただいた。
どのように手を動かせば、よりうつくしい模様ができるか研究を重ねて生まれた絞り模様には、
削ぎ落とされた美を感じた。
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工房のなかに並ぶ藍甕
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絞り染めが施された布を水洗する様子

今回、一番わたしが心を動かされたのは、新道さんの制作してきた布の切れ端を、
お母様が繋ぎ合わせて制作したという藍染めのパッチワークだった。
それはお母様がご自分の棺にかけるために制作された布で、最期を見送る際に使われたそうです。
染めた布地を隅々までいつくしむ、新道さんご夫妻・お母様のつくる姿勢に学ぶべきところがあった。
また、純粋にある人のことを想って、それだけの為につくられたものというのは深い愛情を感じられ、
ことばにしきれない感動があった。
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藍染め布のパッチワーク
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藍染め布のパッチワーク拡大図

新道さんはこれをわたしたちに見せながら、「きれいだろう。俺が作ったんじゃないもの。
自然が作り出した模様だから、きれいなんだ」ということをおっしゃっていた。
藍染めによって生まれる色にしろ、または絞りでできる模様にしろ、
人が作り出すものはどんなに完璧で整ったものを目指しても、
どうにもコントロールしきれない「ずれ」のようなものが自然と生まれる。
それはテキスタイルに関わらず、つくること全てにおいて言えることだと思うが、
実は、人はそこに美を見出しているんだということに気づいた。

長年藍を研究されてきた新道さんのお話を通して、それは簡単な事でないことも同時にわかり、
美しさを目指して人が何かを作り出すとき、自然のちからが関与できる隙のようなものをつくることが、
ひとつの「技術」なのかもしれないと思った。

*『Blue Alchemy -Stories of Indigo-/ブルーアルケミィ ―藍の物語―』 アメリカのドキュメンタリー監督、Mary Lanceさんが世界各地の藍の現場を訪ね、7年の歳月をかけて制作したドキュメンタリーです。新道さんのインタビューや工房の様子をはじめ、世界の藍製造の貴重な映像をみることができます。

ホームスパン 本科 渡井あかり

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2015年の初めての授業が、このホームスパンになりました。

昨年の夏にスピニングの授業で洗った原毛を染色し、糸を紡いでチェックのマフラーを織ります。
私は今回、クリスマスやバレンタインの時期によく見かけるお菓子の箱をイメージして
マフラーの色を決めました。

羊毛はフェルト化しやすい性質を持っているので、染める際に非常に気を使いました。
温度の上げ下げをなるべく緩やかに、染色中に必要以上に触らないなど、
仕上がりが斑になってもいいからとにかくフェルト化させないよう注意して染色しました。
欲しい色がサンプルになく、勘染めのように少しずつ染料を混ぜて染めたので、
染料を染液に混ぜつつ原毛に刺激を与えない、という作業がとても難しかったです。
仕上がりは、やはり色に迷った原毛ほど固くフェルト化しかけていたので、
毛をほぐす段階で少し苦労しました。

今回は染めた原毛を使うということで、昨年とは違い混色が出来るようになりました。
ほぐした原毛を二色、同時に梳かすことで中間の色をつくります。
私は濃く染めたピンクと白い原毛を混ぜ、薄いピンク色の原毛をつくりました。

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およそ半年ぶりに紡毛機の前に座り、本科のほぼ全員が緊張していたと思います。
私もスピニングの授業中さえ思うように紡げず悪戦苦闘していた記憶があったので、
そのうえ感覚まで忘れていたらどうしよう、という思いでいっぱいでした。
しかし、糸紡ぎをはじめてあまり経たないうちに、
ふとしたきっかけからコツを得たように、するすると紡げるようになりました。
糸紡ぎは自転車と同じで一度感覚を覚えれば忘れない、という
先生の言葉は本当だったのだと少し感動しました。
ただ糸が滑らかに細く紡げるようになったかわりに毛が手の中から出ていく量が上手く調整できず、
細さが均一でないファンシーヤーンのような糸ができあがってしまいました。

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糸が紡ぎ終わると、ついにマフラーを織り出します。
天秤機を使った組織織で、私はまだ経験のなかったななこ織という組織を選びました。
途中、経糸の細く紡ぎすぎた部分が切れたり、引っかかって伸びたり、
そのせいで筬を変えることになったりと、反省点は様々ありましたが、
織り上がったマフラーは柔らかで触り心地もよく、ほかとは違う達成感を得ることができました。
この達成感は、一から糸を紡いで織るというホームスパンならではのものだと思いました。

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10月7日(水)-15日(木)にワークショップ「ホームスパン」を予定しています。
糸を紡ぐところからマフラーを作ってみませんか?ぜひご参加ください。
詳しくはこちらをご覧ください。

天秤機実習 本科 渡瀬あゆみ

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9月に入り、天秤機を使った授業があり、マフラーと8種類の組織のサンプルを織りました。
天秤機はいろいろな模様を織ることができますが、
タイアップが複雑で織り出す前の準備が大変でした。
一番驚いたのは、踏み木の高さの調整の細かさです。
機の下に潜り込んでの作業も想像以上につらく、肩や腰が痛くなりました。
早く終わらせたい一心で、いつもより集中できた気がします。

織り出してからの苦労は、緯糸の密度でした。
かなりゆるく織らないと柔らかく仕上がらないと先生から言われていたのですが、
かまちを途中で止める動きは神経を使い、慣れるまで大変でした。
しかしその分どんどん織り進められるので、織り上がりは思ったよりも早かったです。

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○織途中

飛んだ目の修正と、房の始末が終わったら、次は縮絨です。
今回は洗濯機で縮絨を行いました。2〜3分ごとに洗濯機を止め、
様子を見るたびに縮んでいくマフラーを見るのはとても不思議でおもしろかったです。
タオルドライし、乾かすと完成です。ふわりと仕上がったと思います。
寒くなり、このマフラーを巻いて出かけるのが待ち遠しいです。

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○縮絨後

織実習「綴織」 本科 深町彩子

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6月の21日から約1ヶ月間、綴織の授業を受けました。
私は、「綴織」と言う名前自体を入学してから初めて知り、
はじめはどんな織り技法を使うのか見当もつきませんでした。
綴織は主にタペストリー等を織る織り方で、古くから世界各地にその織り技法が残っています。
日本には10世紀前後に大陸から伝わってきたそうです。
平組織で織られ、爪で掻き寄せながら緯糸を入れていきます。
糸を入れ、櫛で緯糸を詰めることも他の織物にはない技法だと思います。

始めの2週間は基礎を学ぶ為に裏織り、表織りのサンプルを作りました。
裏織りは、糸の始末が容易なこと、織物が汚れないことが強みですが糸が飛んでないか、
きちんと織れているか、経糸の下から毎回確認をしながら織るのが大変でした。
反対に表織りは、織られている面を見ながら織ることが出来ますが、
裏で始末した糸がどのようになっているかを確認することができません。
慣れるまでは何度か糸を解き、やり直しながら2枚のサンプルを完成させました。

そして、残りの2週間でそれらの技法を駆使しながら、
それぞれ「花」を題材に自由制作で縦45cm×横45cmのタペストリーを作りました。
私は7月の制作だったこともあり、早朝の涼しい時間を思い朝顔の花に決めました。
初めにデザインを決め、起こした原画から色の配色や配分を細かく描き込んだ下絵を作ります。
この正確に描き移した下絵を経糸の下に敷き、綴れを織っていきます。

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原画                   織下絵

私は朝顔の涼しげなイメージを織りで表現したいと思い、あえて色見を少なく背景も無地にしました。
試織をして色自体はすぐ決まりましたが、実際に織り始めると、花部分の箇所が細かく、
また織り易さを考えデザインを90度横にし、格子側から織り出したので、いざ花の部分に当たると
同時進行で様々な箇所を織らなければならず、1日かけてもなかなか前に進まない日が多かったです。
綴織はいままで学んだ他の織物と違い、下絵を元に徐々に絵が織り造られていく、
出来上がっていくのが目に見えてわかるのが醍醐味の一つだと思いました。
自分の作品が一つの形として完成した時は、とても嬉しかったです。

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これから、この綴織の織り実習で学んだことを活かし、
縦2m×横3mの大きな綴織の作品を、グループで制作していきます。
今まで学んだことを活かし、皆で一つのものを作り上げて行くのが今からとても楽しみです。

スピニング -羊毛を紡いで- 本科 鍋田晃子

スピニングの授業では、羊の毛を洗い、糸を紡ぐことを学びました。

汚毛2

写真は、羊から刈り取られたままの状態の毛です。
汚毛と言います。とっても動物の感じが伝わってくるもので、
この大量の汚毛を初めて見たときはびっくりしたのと同時に
これで作るのだと思うとワクワクしました。
まず、汚毛を洗うことからはじめました。
洗毛は毛質や汚れの程度で洗う方法を調整して少しずつ丁寧に
フェルトの様に固まらないように気をつけて洗っていきました。

原毛2

出来上がった羊毛(原毛)を見て感動!真っ白でふわふわの原毛が出来上がりました。
さらに、ここから糸を紡ぎやすい様にいくつかの行程を経て原毛を整えていきます。

そして初めての糸紡ぎ、ウキウキしながらはじめたものの見るのとするのじゃ大違い。
細く均一に作ろうと思うほどに難しく、なんだかいびつなものがどんどん紡がれていきました。
しかし、先生の手や足の使い方をじっと見て、何度も回数を重ねていくうちにだんだんと
なんとか出来るようになりました。紡毛機で糸を紡いでいるときの
カタカタコトコトという音が心地よく教室中に広がっていました。

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次はこの原毛を使い、冬にマフラーを織る予定です。どんなものが出来上がるのか次回の授業も楽しみです!!