スクールをつづる:染色・堀勝先生の実習編4「天然の場合は、全部間違いではないんやわ」

堀先生による専門コース本科の染色の授業も、いよいよ終盤へ。染色を幅広く学び、糸の扱いや染めの基本に慣れてきた頃合いで、今度は天然染色の実習に入りました。授業では、市販の植物染料と、スクール周辺に生えている草木を採ってきたものを使って染色し、それぞれサンプル作りを行いました。ウールや絹、綿の天然繊維の糸を、アルミや銅、鉄などの媒染剤を使って、様々な植物を染める。染めた糸のサンプルを、糸種、媒染剤、植物ごとに分けて一覧にすることで、色の表れ方の違いが一目で確認できます。こうして、サンプルをまとめることの重要性は、先に行われた化学染色の授業にも通じています。

実習を進める上で堀先生は、特に段取りを丁寧に説明します。「化学染色と違って天然の場合は、煮出し、下地処理、媒染、染色、放冷など工程が増える。うまいこと進めていかな、時間ばっかりが過ぎてしまうからな。煮出しの間に媒染や下地処理、染色の間に次の煮出し等、効率よく進めるには段取りが勝負やで」

◆出た色が染めた人の固有の色

天然染色で、堀先生が心がけていることの一つに、染料と媒染剤の配合があります。発色させて、色を落ちにくくする役割のある媒染剤は、植物染料のほとんど(一部の植物を除く)で必要なもの。「染料が少なくて媒染剤が多いと、糸が荒れる。逆に染料が多くて媒染剤が少ないと、色落ちの原因になる。糸が媒染剤をぜんぶ吸って、発色するのにちょうどいい配合にするのが大事やで」と堀先生は言い、長年の経験からベストだと思われる配合を教えます。媒染剤の薬剤を使うことで環境の心配をする声が時々聞かれますが、染めた後の残液に媒染剤を残さないためにも、ちょうどいい配合にするのだそう。残液を見て、糸が媒染剤を吸い切ったかどうかを判断できるようになるのは「経験値やな」と言います。

「天然染色の場合は、全部間違いではないんやわ。媒染剤を少な目にしたい人、色落ちが嫌な人、その人の考えが反映されるからな。媒染剤の量でも色が変わってくるから、あえて少な目にして自分の色を出したいという作家もいて、それはそれでいいと思うしな」と堀先生は穏やかに語ります。

化学染色との大きな違いは、色の再現性へのこだわり具合。「天然染色は十人十色。基本工程はあるけど染め方によって色が変えられるし、出た色が染めた人の固有の色」。データに基づいて、求める色を確実に出す化学染色とは、前提となる考え方が違います。

◆染色の広い視野が持てるように

先生いわく日本で化学染料が本格的に使われ始めたのは明治中頃で、それ以前は天然染料で染められていたということになります。「(スクール隣の敷地内にある)川島織物文化館の展示を見学する時は、そういう視点で展示を見るのも面白いですよ」と豆知識をはさみながら、気さくに話す授業風景もありました。

この実習を受けた学生からは、染めながら天然染色の「歴史を考えた」、「周りの木々や花を見ても、これは染められるのかという目線で見るようになった」、「季節によって植物が変わるし、同じ植物でも媒染剤によっても色が変わる。天然染色って面白い」といった感想が上がりました。

堀先生の染色の授業では、一連の実習を通して、染色そのものに対して広い視野が持てるように工夫されていることがわかります。化学の方が天然の方が、といった個別の良し悪しを述べるのではなく、染色全体のなかで「こういうやり方があるで」というふうに示して、幅を広げていく。そうしてどの実習でも、ごく自然に、風通しよく学べるように開いているのが印象的です。だからこそ今回も、学生たちの間で「もっと学びたい!」という意欲がかきたてられる実習となりました。

第5回「藍染め」へつづく