スクールをつづる:染色・堀勝先生の実習編5 藍染め「元気のいい色を目に焼きつける」

熟練の染色の専門家、堀勝講師の専門コースの実習を取材し、その教える姿から、大切にしたい「何か」を見つめたルポシリーズ。昨年から連載していた続きを再開します。第五回は、本科の染色実習最後の藍染め、そして一連の染色の学びを終えて、見えてきたことについてです。

スクールでは藍を育てており、ワークショップで生葉染めや乾燥葉染めに使っています。また、専攻科の実習で天然藍の「発酵建て」に取り組んだ年度もあります。奥深い藍の世界ですが、本科の染色実習では藍染めの入口として、化学藍(インジゴピュアー)を使った「化学建て」を行いました。

◆「やってみる」のが実習

授業では初めに、藍に関する基礎講義が行われました。火を一切使わずにできる藍染め。藍の色素はそのままでは水に溶けないため、還元という操作を行い、一時的に水(アルカリ液)に溶解させる。そうして還元(酸素を抜いた状態)した液で染め、空気に触れて酸化させる。そんな藍の発色の仕組みについて、説明を聞くだけではピンと来ない。それを「やってみる」のが実習です。

今回行った化学建てでは、まず染料にアルカリ剤と還元剤を入れた原液を作ります。次に染浴を用意し、その中に原液を加えて、好みの濃度にしていきます。先生は、やや緑味を帯びた黄色の液を見せて、「これが元気のいい色やで。目に焼きつけておこか」と皆に伝えます。その色が「きれいに染まり、染め付きがいい」状態だからです。それから、糸を染浴に浸け、できるだけ空気を入れないように、そっと繰ります。「藍染めの場合は、なんぼ浸けるのに時間をかけても色は濃くならへんから、短時間(2〜3分)で。濃くしたかったら、浸けて、絞って、酸化を繰り返すんやで」と堀先生。

染液から上げた糸は、空気に触れるにつれ、黄から緑、そして青へ。瞬く間に変化していく様を見逃さないように、学生たちは前のめりに見入っていました。その後の実習では、先生の指導のもとでデザインを考えて、板締めと絞り染めに挑戦。この授業では、これまで学んだ染法とは全く異なる染めを学びました。

◆染色は「ワクワクした」

堀先生の本科の染色の授業は、今回の藍染めが最後。化学染色のデータ見本作成から始まり、勘染め糸の扱い天然染色と、様々な技法を学んできた学生たち。全ての染色実習を終えて、こんな実感が語られました。

化学染色のデータ見本作成については、「サンプルがある頼もしさがあった」と学生の一人は話しました。「大学で染色を学んだ時は、サンプルがなくて染めるのが不安だったけど、ここでは安心して取り組めた」と。勘染めでは、「三原色から色を出すという、色の基本が身についた。目の前で起こる、色の変化を見るのが学びだった」と語る学生もいました。織りと連動した実習では、「自分が出したい色に染めるのに、堀先生は生徒と同じ目線に立って考えてくれた。だから納得いくまで粘ることができた」という声も。スクールで初めて染めを学んだ学生は、「何も知らなくても最初からきちんと教えてもらえたから、私にもできる、と自信がついた」と笑顔を向けました。

皆、口を揃えて言ったのは、染色は「ワクワクした」ということ。染色の一連の授業を終えてなお、学生たちが生き生きと染色の学びを語る姿を見て、こんな思いが浮かびました。堀先生はワクワクの種を学生の心にまいたのではないか。先生の授業を通して染色に出会い、その喜びを味わった学生一人ひとりが、これからは染色の喜びを、自らの手で育んでいけるように。

第6回(最終回)「作品制作のための染色」へつづく