スクールをつづる

制作の先に:「一本の糸を撚り合わせるように」 綴織タペストリー「つなぐ」がスクールの寮に登場

専門コースの学生が制作した綴織タペストリー「つなぐ」が、このほどスクールの寮の1階正面に飾られました。「気持ち・経験・発想 一本の糸を撚り合わせるように、ものが生まれる」がコンセプト。昨年度の本科生(1年次)のグループ制作のうちの一作で、空間にフィットした色味やデザインに仕上がっています。

校舎と寮が建物内部の歩廊でつながっているスクールの環境は、学びと生活空間が一体となっています。タペストリーが飾られたのは、食堂に行ったり寮で生活したりするのに、学生たちが「いつも通る場所」。「川島テキスタイルスクールらしいものは何か」「この場所に置く意味は何か」を考えて、モチーフに選んだのは「糸」。本科の織りを中心とした実習で、シルクの極細の糸や手紡ぎのウール糸などいろいろな糸を扱うなかで、糸の構造に面白味を感じてデザインにしました。繊維を紡いで一本の糸ができるイメージと、この学校に人が集い、織り手が生まれる場のイメージ。グループメンバーの話し合いを通して、そんな異なる二つのイメージが「つながった」と言います。この感覚は、一年を通してスクールで織りに没頭している学生ならではと言えるでしょう。寮のこの場所に飾ることを前提に、壁に合う色を選び、微細な色の変化やバランスにもこだわってつくり上げた作品です。スクールに来られる際は、ぜひご覧ください。

制作の先に:「長く大切にしていきたい」 綴織タペストリー「結」が社会福祉法人「友々苑」へ

専門コースでは例年、本科1年目に綴織タペストリーのグループ制作を行っています。このほど昨年度の学生が制作したタペストリーが、京都市内にある社会福祉法人「友々苑」へ納入されました。施設の方からは「利用者が興味を持って見ています」「場所が明るくなりました」と喜ばれています。

この作品は「人が集い、生活の中で縁を結ぶ」をコンセプトに、「結」と名づけた綴織タペストリー。制作した3人は「友々苑」の施設の理念を学び、担当者にヒアリングして施設の要望に沿う形でデザインし、約半年かけて仕上げました。

施設の方と話し合いながら進めていく中で、学生が施設に出向いて飾る場所を見たり、逆に施設の担当者がスクールの制作現場を見に来られたりもしました。そうして、ものづくりのワクワク感を施設の方と共有しながら、織りの効果を生かした躍動感のある作品に仕上がりました。

制作過程で学生たちは、それぞれの得意なところを生かし、苦手なところは補い合いながら進めたといいます。アイデアを出し合い、織りの作業量もローテーションでうまく回して「一人じゃないからできた」とグループワークの良さを実感した様子。学生の一人は、「私は自己表現よりも相手に喜ばれるものをつくるのが好きなんだな、と自分の向き・不向きを考えるきっかけになりました」と話しました。

作品が廊下に飾られると、事務長と担当者の方から「長く大切にしていきたいです」と伝えられ、言葉のプレゼントをいただいたような温かさが広がりました。

修了生インタビュー:「自分の好きを追いかけた3年間」木村華子

2020年に専門コースに入学した木村華子さんは、美術高校を卒業後、スクールで1年目に織りの基礎、2年目からはファッションテキスタイルを専攻して3年間しっかりと学びました。修了後は(株)川島織物セルコンに就職します。自分の「好き」を積み重ねて「3年間学んでよかった」と笑顔で語る木村さんに、学びの歩みや、自身の変化、やり抜いた今の思いなどを語ってもらいました。

◆ 次は進歩したい
〈インタビューは修了展の会場で、展示作品を見ながら行いました。〉
——作品が展示されて、今の気持ちを教えてください。
嬉しい気持ちもあるけど、自分の手から離れていったさみしい気持ちもあります。向き合ってきた時間が長かったので、作品が子どもみたいに思えます。糸の素材感を生かして、どうやったらうまく織れるか、たくさん試織したので、がんばったな、ちゃんと織れてよかったなと、ほっとした気持ちもあります。

純喫茶のお気に入りのスイーツのイメージを服地にし、スカートに仕立てたシリーズ作に仕上げた
(右から) 「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ
「甘酸っぱい」純喫茶アメリカンのヨーグルトパフェ
「ほろにが」純喫茶フルールのプリンパフェ
「宝石」喫茶ソワレのゼリーポンチ

——木村さんは2年目の専攻科で、ファッションテキスタイルを専攻しました。この専攻を選んだ理由は?
まず、服地を織りたい気持ちがありました。それで着物かファッションかで専攻を迷ったのですが、ふだん私が身に付けているのは洋服だなと思って。実際に自分が着て、やさしくなれるというか、気持ちがいいと感じる生地をつくりたいと思ってファッションテキスタイルを選びました。

——そのなかで、どのように制作に取り組んだのでしょうか。
制作のテーマを設定するのに、自分が好きなものは何だろうと考えた時、レトロなものに惹かれる自分に気づきました。1950年代のシンプルな服の形が好きで、初めは50年代をテーマに服地をつくりました。だけど、その先で行き詰まってしまって。今振り返ると、レトロで何かつくりたいまでしか見えていない状態の中で、年代にとらわれ過ぎたのかな。レトロって何だろうってすごく悩みました。

——行き詰まったところから、どうやって方向を見い出したのですか?
いろんなものを見て、視野を広げました。3年目に進み、改めて私はレトロの何が好きなんだろうと考えた時、今の私と同じ20代の人にも昔の服の生地感の良さを知ってほしい、着てほしいという気持ちに変わったんです。それで素材を中心に考えていこうって目標を立て、レトロの中でも純喫茶のスイーツにテーマを絞って、イメージと食感を服地にし、スカートに仕立ててシリーズ3部作にしようと結びつきました。

——スクールの学生同士で、刺激し合う部分もありましたか?
周りで織っている姿を見て、自分も頑張ろうっていう気持ちになれました。同学年の人とは、制作途中の発見や失敗、他愛もない話まで何でも話せて、悩みも言い合えました。話すことで次は進歩したいって思えたし、心強かったです。

——専門コースの2・3年次では、制作するのに自主性が必要ですが、そこで先生との関わりはどうでしたか?
毎週1回、制作過程を報告するミーティングがあったのがよかったです。サンプル生地を見せながら、自分の織りたいイメージやアイデアを伝える訓練になったし、伝えることで、より作品づくりに向き合うことができました。先生方は織りに詳しいので、私が気づかないところからアドバイスがあって、そこからやり方を自分で切り替えられたりして、制作意欲を保ちながら自分のやりたいことを形にしていくのに、ミーティングは大事な時間でしたね。

◆産地の方々と一緒に、ものを作り上げる経験
——木村さんは翔工房事業((公財)一宮地場産業ファッションデザインセンター主催)に挑戦し、尾州産地の「匠」と呼ばれる熟練の技術者とコラボレーションしてワンピースを製作しました。その経験は木村さんにとってどんなものでしたか?
仕事としてものを作り上げていく経験が、私自身の大きな糧になったと思います。匠の方と一緒に企画して進めるのに、自分が描いたデザイン画を見せながら、素材や色の重なりなど「こうしたい」と考えを伝えて、形にするのに相談しました。ここでは私は織らずにデザインだけの関わりだったので、初めは伝えるのが難しいと感じましたが、伝えないと理想の服地ができない。裾をフリンジにして経糸を見せるデザインにしたいと伝えると、「やってみるね」と匠の方がシミュレーションしてくださり、イメージと違う場合は私もちゃんと「違う」と伝えて、変えてもらって。匠の方からは袖の部分に柄の変化をつける方法を提案いただいたりして、一人でつくる時とはまた違う柄ができるなって実感しました。

——スクールは手織り、この事業では機械織りという違いもあります。両方を経験することで、何か気づきはありましたか?
手織りだったら、あまり経糸に他素材を入れないですけど、機械織りで、経糸にいろんな素材を入れて織り込む技法を経験できたのはよかったです。機械には機械の良さがあると知り、逆に手織りでしかできないことをもっとやりたいなと思いました。

——織りを学んできたからこそ、製作現場で強みを感じた部分は?
糸の状態と織ったものを見るのとでは、色のイメージが全く変わります。スクールで糸も織り組織も両方を学んできたからこそ、織った時にこう出るというのが頭の中でイメージできました。現場でのやりとりで、「こういうパターンで作りたかったら、ジャカードじゃなくてドビー機で出せるよ」と言われた時に、機の機能がぱっと頭に入ってくるし、「朱子で織る」というと「柔らかい風合いになるんですかね」というふうに話が通じるのが「気持ちいい」と匠の方に言ってもらえたのも嬉しかったです。

——3年目は翔工房事業に参加しながら、スクールでも並行して制作を進めてきました。外と内の両方で、ものづくりに取り組みながら自身の変化に気づくことはありましたか?
翔工房で他の学生が製作した竹糸を用いた製品を見て、私も竹糸に興味を持って自分の制作でも取り入れてみました。竹糸は、糸自体は柔らかいんですけど、湯通しすると硬くなり、織って生地になるとすごく柔らかくなって、変化が面白いと思いました。そうやって素材感が変わるのも、糸から生地をつくっていなかったらわからないこと。これまでスクールの制作でたくさんの糸を試して、縮絨も経験してどのぐらい縮むかも見当がつくようになったので、竹糸のように初めての糸を扱う時でも、大きな失敗がなくなりましたね。

◆「好き」しか追いかけていない
——木村さんが3年間の学びで、積み重ねてきたものは何でしょう。
どうしたら織りとして成立するか、今まで学んできた中からこうできるだろうと、頭の中で考えられるようになりました。試織などで失敗を繰り返したからこその学びじゃないかなと思います。
それに機の準備が大好きになりました。織るのと同じく準備も3年間やってきたので、こうしたら早くできるとか、スムーズに糸通しできるとかが大分わかるようになって楽しいです。そうやって3年間楽しく織りに向き合えたのが、本当によかったなって思います。私は高校の時、織りに苦手意識があったので。だけどなぜか気になって、織りを学びたいとスクールに入学したんです。そこから1年ごとに、だんだん織りが好きになって、3年経つ今が一番好き。思う色にバチッと染められた時や、織っている時に、糸に「かわいくできたらいいね」って話しかけたりして(笑)。それで作品の形になったら「使わせてくれてありがとう」って伝えていました。

——改めて、3年目の創作科に進んだ理由を聞かせてください。
なんか悔しかったんです。2年目、制作に迷いがあって、自分が本当に好きって思えるものがつくれなくて。自分がつくるものをもっと好きになりたいし、これで終わらせたくない、もっとつくりたいと思ったので。

——その悔しさを3年目で晴らせたと感じますか?
そうですね。服地だけでなくスカートの形にもできたし、自分の好きな色合いや柄を見つけて、チェックのデザインで出すことができたので。反省点もありますが、晴らせたんじゃないかと思います。

——この3年間、自分の「好き」をあきらめなかった。
あきらめたくなかった。でも私はこれまで、好きしかやったことがなかったんです。絵が好きで美術高校に行って、スクールで織りを学んで、逆に自分が好きじゃないと続けられる自信がない。「好き」しか追いかけていないです。

——修了後は、(株)川島織物セルコンに就職が決まりました。「好き」は就職先にもつながりますか?
はい、将来は伝統的な仕事に就きたいと思っていたので嬉しいです。小学校の卒業文集にも「伝統的な仕事がしたい」って書いてて。子どもの頃はお寺を見るのが好きで、宮大工さんに憧れたこともありました。お父さんは大工なので、一緒に見に行くと寺社建築の木の組み方とかを説明してくれてたのもあって、伝統的な仕事をしたいと思っていました。それが結局、織りになっていったのかな。これからも好きを追求していきます。

——これから織りをやりたい人に向けてのメッセージをお願いします。
もし迷っていたり、ちょっとでもモヤモヤがあったりしたら、まずは踏み出すしかないのかなと思います。踏み出せば、もう自分自身やるしかないって思うので。とりあえず手を動かすことが大事なのかもしれない。まずはやってみる。その先で、確実につながっていきます。

2020年9月に掲載した、「在学生の声(専門コース本科)」の記事です。
「織りながら自分の好きを発見していく」木村華子

「第6回学生選抜展」在校生受賞のお知らせ

日本新工芸家連盟主催特別企画「第6回学生選抜展」で、専門コース創作科の近藤雪斗さんの作品が、ニューカラー写真印刷賞を受賞しました。

「栄華」

この作品は、織りの技を駆使して心象風景を織り込み、視覚の効果を高めた綴織タペストリーです。

選抜展では他にも、同じ創作科の沼澤瑠菜さんのタペストリー3部作「ときめき」も展示されます。

第6回「学生選抜展」は第45回「日本新工芸展」の巡回展に伴って全国三都市で開かれ、受賞作品「栄華」は三都市全て、出品作品「ときめき」はそのうち東京と京都で展示予定です。ぜひご覧ください。

東京本展:5月17日(水)~28日(日)国立新美術館
東海展:6月17日(土)~25日(日)松坂屋美術館(名古屋)
近畿展:6月27日(火)~7月2日(日)京都市京セラ美術館
日本新工芸家連盟

スクールの窓から:「日本の産地の仕事にはヒントがたくさん」大高亨先生の講義2

大高亨先生による「日本の特色ある織物」授業リポートの後半です。2回目の講義では、数ある産地のなかでも昨今、注目されている東北を中心に、地域性や土地柄、気候、風土などをふまえて特色を紹介。一枚の織物から、その奥行きを見る手かがりが示された講義でした。

◆自給自足で得られるもので暖かく
福島の織物でとりわけ特徴的なのが「川俣シルク」。髪の毛の1/6の細さの糸をレピア織機で織る、世界一薄い絹織物「妖精の羽」が紹介され、先生は特色をこう話します。「細い糸を均一に引くには、繭自体も品質がよくないといけない。それを養蚕から一貫してできる場所は、世界でもなかなかないと思うんです」。力織機で織る点にも着目し、「超極細の絹糸を、一日に何十メートルと織れる機械にかけるというエンジニア魂を感じます。手織りだと融通がききますが、高速の機械できれいに織るには機械自体も細やかな操作や管理が要るので」と。そんな説明を聞くうちに、日本の伝統織物の強みを見る目が開いていくようです。

かなり珍しい織物として、ぜんまいの綿毛と白鳥の羽を撚り合わせて織る「ぜんまい白鳥織」(秋田県)も紹介されました。「東北の地では綿は育たない、岩手は別として羊毛もない。あるのは麻系で着る物としては寒い。自給自足で得られるもので暖かくするのに草木や、沼で白鳥が残していった羽を拾い集めて織物にしている」と背景を説明します。他にも盛岡のホームスパンや、青森の南部裂織、津軽こぎん、アイヌのアットゥシ織など、多様な内容が紹介されました。

◆アーカイブ化されて資料が残っていけば
そうして日本の特色ある織物を横断的に見ていき、講義は最終回へ。先生が「平成の百工比照」のコレクションの一部と私物を持ってこられ、実際にものを見ていきました。実物を目にし、より興味が刺激された学生たちは皆、前のめりに。一枚一枚、目を近づけて見て、触った感想を言い合い、「用途は?」「(繊維にする皮を)はぐ時期は?」など質問が飛び交います。赤穂段通では裏表返しながら、端の処理がどうなっているかを自分たちで読み解こうとする場面も。授業全体を通して、学生からは機械の仕組みや、どう織られているかといった、つくる目からの質問が多く上がりました。

授業の最後に、大高先生は産地の現状についてこう話しました。「僕は日本の産地をまわって20年ほどになりますが、訪れた後に廃業になった所も増えています。ただ、『平成の百工比照』のようにアーカイブ化されて資料が残っていけば、後々復元できなくもない。一度なくなったものを復元し、制作し始めている産地も実際にあります」

学生に向けては、「日本の産地には、まだまだ面白い染織品があります。紹介した分だけでも様々な技法や意匠があるし、機械や道具に工夫があるのも特色。産地の仕事にはヒントがたくさん潜んでいます。そこから自分のオリジナル作品に生かすこともできるので、ぜひ興味を持って」と伝えました。

〈大高亨さんプロフィール〉
おおたか・とおる/染織を専門領域に、大学教員、作家、デザイナー、プロデューサーとして活動している。近年は東北の布の調査、研究も行っている。また様々な企業、組合等のアドバイザー、教育機関、研究機関での講演なども行っている。

instagram: tontakatea
website: Tohru Otaka
「平成の百工比照コレクション」データベース

スクールの窓から:日本の特色ある織物「どこでもドアのように産地を見ていく」大高亨先生の講義1

専門コースでは、2022年度から新たに大高亨先生による3回シリーズの講義「日本の特色ある織物」が始まりました。先生が20年以上全国の産地をまわる中で面白いと思った織物について、2回に分けて紹介され、最終講義では実物を見ていきました。はじめに、それぞれの産地の織物を「『どこでもドア』のようにちょっとずつ見せていくので、授業を入口に興味を持ってくれたら」と先生は話し、沖縄、八重山諸島から、奄美大島、九州、北陸、北関東、東北、そして北海道のアイヌの織物まで、日本列島を熱い語りとともにかけめぐりました。授業リポートの前半です。

◆日本の染織レベルの高さに驚愕した
大高先生は、金沢美術工芸大学でテキスタイルを教え、大学が金沢市と共同で行う「平成の百工比照」プロジェクトに関わって、全国の産地をめぐって織物の技法、工程、材料に関わる調査・研究し、資料として収集する取組みを行っています。日本の産地に足を運ぶようになった理由について、「以前は海外の染織品を集めていましたが、せっかく日本人で日本にいるのだからと思って、日本に目を向けるようになったんです。産地をまわるほど、日本の染織品や染織文化のレベルの高さに驚愕しました」と言います。

講義ではスライドや動画を用いて、それぞれの織物の特徴、素材や手法、工程、地域の文化背景から現在の状況まで幅広く紹介され、さらに先生が現地で印象に残ったエピソードや、面白いと思ったポイントが語られます。たとえば沖縄の織物の紹介では、アドバイザーとしてミンサー織りの商品開発に関わった経験に触れ、「伝統をおさえつつも、今の生活様式に合ったものを提案していく努力もしている。そんな積極的な姿勢が沖縄にはあります」といった実感を交えて語ります。

◆マニアックさが面白いところ
絣の紹介では「日本ほど精緻につくれる所はない」と先生は言います。そして大島紬で機を使って防染の為に仮織を行う締機や、久留米絣で絣をくくる専用の機械の紹介動画を見せて、それらの仕組みを解説。締機について、精緻で大柄な意匠を大量生産できるという機の特徴が、今の時代の需要と合わなくなっているという課題にも触れます。先生が現地の団体と共同制作した着物の写真を見せて、「意匠だけでは解決できない。ニーズや時代に合ったもののつくり方を考えるのがデザイン」と、特色だけでなく、課題からデザインの考え方まで話をひとつながりに展開します。

久留米絣では、「力織機で経緯絣を大量生産しているのは、現在では久留米絣しかない。そこがユニークな産地です」と紹介。「一口に日本の染織と言っても、手仕事で匠の人もいれば、大量生産でも質の高いものを生むために、どのように合理化できるかを考えて、くくるだけの用途の機械までつくってしまう、そんなマニアックさが日本の面白いところだと思うんです」と話します。

日本の伝統織物を研究の目、つくる目、デザインの目で多面的に見て来られた先生ならではの目線で語られる講義。旅はつづきます。

2へつづく。

〈大高亨さんプロフィール〉
おおたか・とおる/染織を専門領域に、大学教員、作家、デザイナー、プロデューサーとして活動している。近年は東北の布の調査、研究も行っている。また様々な企業、組合等のアドバイザー、教育機関、研究機関での講演なども行っている。

instagram: tontakatea
website: Tohru Otaka
「平成の百工比照コレクション」データベース

制作の先に:「場所」へのフィット感 綴織タペストリー「こえ」が(株)川島織物セルコン本社内に登場

学生が制作した綴織タペストリー「こえ」が、このほど(株)川島織物セルコン本社内に展示されました。初日には山口進会長、川島織物文化館(以下、文化館)の館長やスタッフ、制作した学生などが集い、作品を囲んで言葉を交わしました。その様子をリポートします。

スクールでは毎年、専門コース一年目の集大成として、綴織タペストリーのグループ制作を行っています。「場所」に合わせてテーマを決めるのが課題の肝で、2021年度制作分の展示場所の一つが、本社内の文化館から本館に入る休憩スペース。デザインを考案した近藤雪斗さんは、「こえ」のテーマについて「ここを『展示と人』から『人と人』の関係に戻る場所と捉えました。静けさから賑わいへと場面が切り替わるのに、こえがキーワードになると考えました」と紹介。

「こえの色 こえの光 こえの導」というコンセプトについては、「文化館での鑑賞は知らなかったことを学べる非日常のインプット。会話が始まるこの場所を、鑑賞の学びを生かす最初の場だと認識し、新しく進んでいくイメージと、人のこえで夜が明けて、人と人の世界に戻っていく朝のようなイメージを重ねてつくりました」と説明しました。

会長は「私はいろんな建築家と話をする機会が多いのですが、この場をどう考えるか、人がどうふるまい、どんな関係性を持つかというような考えをまとめながら設計すると皆さんおっしゃいます。建築に近い考え方だと思いました」とコメント。正面からじっと作品を見つめ、こんな質問も。「建築家は最後まで迷っている。完成してからも、まだ迷っている人も結構多いのは面白いと思っているんです。作品としては完成しましたが、まだ迷っていることはありませんか?」近藤さんが「この壁にはこのサイズでしたが、欲を言えば、さらに大きいものをつくってみたいです」と答えると、会長は「今朝の第一感で、この場所へのフィット感はあると思いました」と全体を眺めて話しました。

文化館の辻本憲志さんは、「(見学案内をする時)文化館では、芸術や文化活動の面から説明しますが、会場を出てこの空間に来ると一転、経済活動を表に出す場面になります。続けて案内するのに、このタペストリーの場面の切り替えを説明することによって、私もスムーズに行えます。着眼点が面白い」と語りました。

近藤さんは「今日はそれぞれの経験からの見方をふまえて感想をいただきました。これから、初めて見る人がどう見てくれるのかが楽しみです」と笑顔を見せました。文化館の見学や、(株)川島織物セルコン本社にお越しになる際は、ぜひご覧ください。

*ご参考
旅するタペストリー(「第5回学生選抜展」出品)
同年(2021年度)のグループ制作
綴織の授業紹介
グループ制作のプロセス紹介