本科

在校生インタビュー1 「ハードルよりやりたい気持ちが上回った」Fさん(2024年度・専門コース本科)

今年も川島テキスタイルスクールの専門コース本科には、織りに魅せられ、それぞれの人生のタイミングで踏み出した人たちが集っています。学ぶ意欲旺盛に織りに没頭する日々のなか、本科生にインタビューを行いました。初回は図書館司書の仕事を辞めて入学したFさんに、趣味から本格的にものづくりの世界へ飛び込んだ経緯や、学校で学ぶこと、この半年の学びの気づきなどについて語ってもらいました。

◆学び始めるのに今が一番若い

——ものづくりの方向へ進んだ経緯を教えてください。

ものづくりは子どもの頃から身近にありました。父も母も作家で、ものを作って生きていくことが当たり前のモデルとしてありましたが、同時に大変さも感じていました。私もものづくりが好きですが、一旦は趣味として割り切ろうと納得して文系の大学に進学。大学も楽しかったし、前職の司書の仕事も充実していました。でも絵本の勉強会に参加し、装丁など本作りに踏み込んで作り手の表現を見た時、そういえば私、ものを作りたかったっていう気持ちを思い出して。作ったものをいろんな人に見てもらえる仕事を羨ましいって思う自分に気づいたんです。今が一番若いし、1日でも早く学び始めた方がどんどん技術が身につく。仕事にやりがいはあったのですが臨時職員から正規職員になる道を断り、本当にやりたいことをやろうと決めました。

——じつは蓋をしていた本心に気づいて、生き方を見つめ直した。

親の背中を見てきたのも後押しになりました。父が木工、母が型染めの藍染作家、家族で農業を営んで土地に根付いて生きている姿に、そうか、生き方も自分で作っていけばいいよねって。経済的に安定しなくてもどうにか暮らせているし、今も元気ですごく楽しそう。そうやって生きていけると知ってるから(組織を離れるのは)怖くない。これまで進学も仕事も人に勧められて、最良の道と自分で納得させながら流れで進んできたので、自分で決心して1から行動したのは川島テキスタイルスクールが初めてかもしれない。自分の本心に向き合えるようになって、堰き止めていたものを上げて、今は好きなことの大きい川に乗った感じ。いずれ作り手として親と対等になりたい気持ちがあります。

◆学校では打てば返ってくる

——どうして織りだったのでしょう?

実家に山羊の毛の絨毯があるんですけど、地元の作家の方が和機で織ったものと親から聞いて感動したのを思い出して。布って人間に一番近いもの。毎日着てるし、家でくつろぐ時も近くにあるし、すべての年代、生まれてから死ぬまでずっと身近にある。気持ちのいい布に包まったら、しんどい状況にあっても安らぐ。その分、布って私にとっては崇高な存在で、自分で作るのはハードルが高いと思っていました。でもやってみたいという気持ちが上回ったんです。

——このスクールはどのようにして知ったのですか?

大学生の頃に読んだ雑誌『天然生活』(2013年12月号)に掲載されていた安部智穂さんという方の記事です。プロフィール欄に「川島テキスタイルスクール」とあって、ネット検索してこんな学校があるのかと初めて知りました。学校名を覚えてて、いざ自分が踏み出そうと決めた時に思い浮かび、見学してすぐ願書を出しました。私は人の暮らしに寄り添い長く使われるものづくりがしたい。技術を身につけ、胸を張ってものを届けられるようになりたいと思って、基礎からしっかり学べるこのスクールに行こうと決心しました。

——入学して半年が経ち、いまの実感はどうでしょう。

カリキュラムを見ていたはずなのですが、授業があまりに多彩でびっくりしました。半年間があっという間のようで3年のようにも感じます。私は未経験で入ったので「基礎織り」が初めての機織りで、整経もやったことがなかったし、綜絖?みたいな感じで全部初めて。授業は染色、「スピニング」など様々に学びながら最終的にすべて織りに入って、こうやって布ができるのかと。仕上がった時、生まれて初めて自分で織った布だと思うと感慨深かったです。でも嬉しいというより、ついに布の世界に入っちゃったぞ!という感じ。学校じゃなかったらこの感覚はなかったかも。趣味としてやっていたら、シンプルに喜ぶところで止まっていたかもしれない。

——これまで趣味で、本を読みながら独学で作ってきたところから、学校で本格的に学ぶ違いを感じますか?

はい。趣味で刺繍などをやっていたのですが、シンプルな違いとして本は答えてくれない。本の説明どおりにやってできて、じゃあこういう時どうするのって思っても聞けない。自分で考えてやるのが独学の楽しさではありますが、学校の授業では打てば返ってくる。最初は織りを知らなさすぎて質問も浮かばずに受け身でしたが、今の学年は私以外みんな織り経験者で、私が不思議に思わなかったことでも誰かが気づいて質問してくれる。仲間がいる分、学びの幅が広がります。

◆手仕事の世界にほっとする感覚

——この半年で特に印象深い授業はありますか?

「ニードルワーク」(国立民族学博物館・上羽陽子先生による連続授業)です。技法だけじゃなくもっと広い世界を知れてテキスタイルスクールでこんな学びができるのか!と嬉しくなりました。授業で受け取ったものをすべて言葉で言い表せないのですが、すごくいい感覚だったんです。インドの刺繍のいろんな事例を見て、(人間の原初的な)欲求の部分を改めて感じたというか。価値観が違っても美しいものは美しく見えるし、模写することでどうやってできているのかと探究心が生まれる。テキスタイルは昔から人間の身近にあって、今も手仕事で続けている世界がある。そうやって人間は生きてきたし、これからもそうなんだって思えて、ほっとする感覚がありました。

——入学時、技術を身につけたいという明確な目的がありましたが、実際に学ぶなかで他にも気づきがありますか?

私は織りに関してゼロベースで入学した分、発見がいっぱいあって。明文化された発見だけではなく、すぐに言葉にならないけど感覚的なものをすごく受け取っています。細い絹糸や綿糸などいろんな糸を使って布を織っていくうち、技術だけじゃないものを学んでいる気がして。あとシンプルに、この半年で布を織り手目線で捉えるようになり、作り方がわかったからこそ布の見え方が変わり、布に対する考え方も広がってきています。

制作の先に:「実り豊かな未来へ」 綴織タペストリー「夢への羽ばたき」がまこと幼稚園へ

専門コースの学生が制作した綴織タペストリー「夢への羽ばたき」が、このほどまこと幼稚園(京都府向日市)へ納入されました。例年、本科の学生たちが修了課題の一環として、幼稚園や福祉施設などと提携して特定の場所に飾るための綴織タペストリーのグループ制作に取り組んでいます。まこと幼稚園で決められた場所は同じ敷地内にある向日町教会の入口。園と教会が一体化した特徴的な建物で、園児さんや教会に礼拝する方々が行き来する場所です。

教会という場所に作品をつくるのは学生にとっても初めての経験。牧師でもある宮地園長から「聖母像」という壮大なテーマを受けた今回の制作について、学生の一人がこう説明しました。「どうやって表現するかが難しかったですが、園長先生が園に通う子どもと親の姿と重ね合わせて、園の教育方針とともにわかりやすく説明してくださいました。そのお話をもとに皆で話し合って、親子の深いつながりを鳥のイメージに落とし込み、親鳥のくちばしには幼稚園のシンボルであるぶどうを描いて、実り豊かな未来へと羽ばたくイメージにしました」。話を受けて園長は「母親の力強い羽ばたきと、幼い子どもの羽ばたきが呼応して対になり、命がひとつのような安定感が胸に沁みます」と語り、「本当に感謝です」と声に力を込めて伝えてくださいました。

宮地園長はまた、(株)川島織物(現(株)川島織物セルコン)社長の4代川島甚兵衞が個人として向日町教会に関わり、1937年に教会と幼稚園の建物を土地とともに献納した、という話を紹介。4代甚兵衞は川島テキスタイルスクールの創立者でもあります。ともにスクールの基盤を築いてきた木下猛も向日町教会に関わっていたそうで、こんなエピソードも話してくださいました。「木下さんは仕事とは別に、個人として教会の役員をしていました。現在の建物は1982年に建て替えているのですが、その建て直し時にいい建築家がいると内井昭蔵さんを紹介されて設計を依頼しました。ですから木下さんがいなければこの建物は建たなかったんです。建物は私たちの歴史でもあり、つながりがタペストリーに結実したのは嬉しいですね」

1973年設立の川島テキスタイルスクールも内井氏の設計。今回の制作を通して、人と建物を通した知られざる縁について知る機会となりました。最後に園長は周りの人たちに向けて朗らかに言いました。「みんなで大事にしていきましょうね」

スクールの窓から:根幹にあるのは「見たいかどうか」 表現論・中村潤さん講義

専門コース「表現論」の授業で、作家の中村潤さんを講師に迎えて講義が行われました。彫刻を専攻していた芸大時代の学び、制作における素材との出会いや、インスピレーションを形にするプロセスなどについて、実際に作品を見ながら話が展開されました。小学校の図工の先生をしながら制作している働き方にも触れ、つくることから生き方に及んで語られた濃密な時間となりました。

彫刻といえば硬い材質のイメージを抱きがちですが、中村さんがつくるのは「やわらかい彫刻」。紙や糸などの素材を縫ったり編んだり絡めたりしながら作品にしていくといいます。

「石や木などいろんな素材でつくるのを経て、現在はへなへなとした柔らかい素材を使っています。私自身は糸や織りを専門に学んだことはないのですが、それを専門とする人から、なぜか面白がって作品を観に来ていただけて(笑)、その関係がとても不思議だなと思っています。私の作品の取り組み方の根幹にあるのは『見たいかどうか』。こういうものがつくりたいという瞬発的な興味と、これまでの作業や思考の継続性の両方が同時に動き出します。ハッと思いついたことを、継続してきた力が後押ししてくれるような感覚です。自分の中に何人もの自分がいて私内会議みたいなものが一瞬起こって、やってみたらできるんじゃない、という方向で作品につながります」

◆素材を試して、触って、観察し、比べて考えてみる
子どもの頃からつくるのが好きだったという中村さん。高校時代、美術の先生が作家活動をしている姿を見て「こういう働き方もあるのか」と気づきを得て、京都市立芸術大学へ進学。専攻した彫刻では、「身の回りにあるものを素材として扱えるのが彫刻」という先生の話を聞いて「ブロンズなどオーソドックスなものに憧れなくていいのか」と気持ちが楽になり、「私にとって身近な素材を使ったらいい。そこから好きなものをつくろう」と彫刻を柔軟に捉えていきます。

「私は折り重なると形になるとか『単純な仕組み』が好き。ペラペラの紙を半分に折ると立つ、こういう単純な行為が作品になればいい」。そんな発想で自分が好きなものを掘り下げながら、「素材を試してみる、触ってみる、観察して、どういう形にするか比べて考えてみる」という「検証と成立」を繰り返した学生時代だったといいます。講義では素材からインスピレーションを得る経緯や、技法とのかけ合わせなどについて、実際の作品を見て説明されました。

◆私が選んで学びに来ているという自覚
小学校で図工の先生をしながら、作品を制作し、休日に親子向けワークショップを行うという現在の多面的な働き方について、「どの状況も楽しめています」と中村さんは軽やかに話し、こう続けます。「先生と制作、私の場合はどちらもあるから今つくっていられる実感があって、どれか一つだけのプロである必要はあまりないのかなと思っています。教育現場の私は、距離をもって自分の制作を見られるし、一点だけに注ぎ込まずに分散できるのは面白い。その時々で自分の軸の位置を観察したり、描ける円が広がったりしていて学生の頃より今が一番いきいきとつくれています」。さらには、そんな中村さんのありようにしっくりきた本や、作品のタイトルを考えるためのヒント、コンセプトや自己紹介の文章作成のための参考情報などを具体的に紹介し、日々のひらめきなど何でも書き留めておくメモ帳を見せてくれました。

講義全体を通して、学生たちは中村さんの話を興味津々に聞き入り、終わってからも作品をいろんな角度から見たり、メモ帳を見て「私も作ろう」と話したりと、それぞれにヒントを得た様子でした。川島テキスタイルスクールの専門コースは一年で修了する人もいれば、二年、三年と学びを深めていく人もいて、それぞれの学び方をしています。そんな学生たちに向けて、最後にこんなメッセージが送られました。

「私が選んで来ていると自覚すること、かなあ。迷ったらやってみて決める、自分を過信せず、凝り固まらない、でも折れないようにしなやかに」


〈中村潤さんプロフィール〉

なかむら・めぐ/京都市立芸術大学大学院彫刻専攻修了。紙や糸、糸くずなど身近な素材を触り、縫い、編み、からめ、大小やわらかい彫刻をつくる。小学校で図工の先生をしながら作品を制作。作ることにまつわるワークショップの活動もしている。2020年より、京都市東山区青少年活動センターアートスペースナビゲーターを務める。障がいを持つ・持たない青少年が作品をつくることを通して共に時間を過ごすための場所づくりに関わる。最近の展覧会として、2024年『てで』gallery morning kyoto(京都)、2023年『紙の不思議展 ペーパーマジック』浜田市世界こども美術館(島根)、『なんたうん2023 −ワークショップ特集−』みずのき美術館(京都)など

instagram: nakamura_megu

制作の先に:「思いを汲み取った作品に」 綴織タペストリー「未来へ」が鞍馬山保育園へ

専門コース本科のグループ制作として、昨年(2023年度)の本科生が制作した綴織タペストリー「未来へ」が、このほど鞍馬山保育園に納入されました。学生たちが昨夏に園を訪れ、飾る場所を見て、園の理念について話を聞き、要望を汲んだうえでデザインして織り上げた7カ月にわたる制作プロジェクト。納入の日は、喜びを分かち合えた日でもありました。

園内にタペストリーがかけられた瞬間、「この場所にぴったりだね」と理事長の信樂さん。園児さんたちが行き来する階段に、色とりどりのヤツデの葉が舞うイメージ。「ヤツデの葉の表現が、園の理念『みんなのいのち輝く保育園』にぴったり。グラデーションも美しく、子どもたち一人ひとりが個性的に輝いている姿と重なります。思いを形にするのは難しいと思いますが、私たちの園の思いを汲み取って、素敵な作品に仕上げてくださいました」。そうにこやかに話される様子に、納入に立ち合ったスクールの学生や先生たちにも温かな気持ちが広がりました。

川島テキスタイルスクールと鞍馬山保育園は、同じ叡山電車沿いにあります。ご近所のよしみもあって、タペストリーの制作過程で、園児さんと園長先生がスクールに見学に来られました。アトリエで学生と一緒に織った体験を大切に思って、園に帰ってから自分たちで小さなタペストリーを織るという学びにつなげ、園のブログでも都度紹介してくださいました。こうしたタペストリー制作を通した交流が、園児さんたちにとって織物との出会いのきっかけになり、そこから織物に興味を持ってくれたことは、スクールとしてもとても嬉しいことです。

みんなの思いが大切に織り込まれたタペストリー「未来へ」。いくつもの喜びを育みながら、園へと旅立ちました。

修了生インタビュー:「勇気を出して踏み出したら、事がどんどん進んでいった」吉田有希子

大学卒業後、川島テキスタイルスクールの専門コース本科(2023年度)で1年間学んだ吉田有希子さん。未経験から織りを学び始め、「産地のひとりになりたい」という希望を叶え、修了後は久留米絣の工房で職人として働きます。本科での1年が「3年ぐらいの体感だった」という吉田さんに、スクールでどんな思いで学んだか、自身の変化や、やりたい仕事につながった道のりなどについてインタビューしました。

◆ 糸をきちんと扱う感覚がつかめるように

——吉田さんは大学で絣をテーマにした卒業論文を書き、本を読むだけではわからないからつくってみたいとスクールの専門コースに入学しました。1年目の本科では、糸染めから織りの全行程を学びます。ここで絣に限定しない学び方を選んだのはどうしてですか?

私は織りをやったことがなかったので、とにかく基礎を学びたいという気持ちがありました。きっかけは久留米絣でしたが、絣だけではなく織り自体を知りたいと思っていたので、この学校でいろんな織物を学ぶ中で、自分に合うものを見つけられたらいいなという気持ちでした。

——本科で特に印象深い授業はありますか。

自分の成長を感じたのがホームスパンです。入学当初は糸に触れること自体が久しぶりで、4月のスピニングの時は糸が絡まったり切れたりしないかと怖くて、これから大丈夫かなと不安になりました。ですが、その後の実習でいろんな糸を使ううちに少しずつ恐怖心が薄れていき、10月のホームスパンの時は楽しく取り組めました。以前は力ずくで糸をどうにかしようとして逆に絡まっていましたが、最近は力を入れずにやさしく扱った方が早く解けるとわかって、糸をきちんと扱う感覚がつかめるようになった気がします。

◆ 同世代に興味を持ってもらえる絣を

——修了制作ではウールを使って、ハチワレ猫の模様を絣で表現した毛布をつくりました。作品の成り立ちを教えてください。

(いろんな織りを学んだ上で、)やっぱり絣をやりたい気持ちがありました。大学にいた頃、絣という織物があると友達に言っても誰も知らなくて。同世代に興味を持ってもらえるものをつくりたいという思いがずっとあって、絣はこうというような固定観念に縛られないでつくってみようと思ったんです。久留米絣はほとんど平織りですが、修了制作では綾織りを選びました。糸も絣というと絹だったり、久留米絣はすべて綿だったりしますが、ウールでも絣はできると先生に後押ししてもらって、やりたいことができる環境にいる今、チャレンジしたいと思いました。
毛布にしたのは、ホームスパンの授業で先生が持ってこられたショールが気持ちいいなと感じて、起毛したウールの風合いから猫を撫でる心地を思い出し、猫柄の毛布をつくろうと着想しました。うちの猫3匹はみんなハチワレで、絣を使ってどうハチワレ模様を表すか、先生と相談しながらデザインを決めました。絣というと小さい柄が多いイメージがありますが、大きい柄の絣をやってみたいと思ったのもあります。

——制作で大変だったところはありますか?

絣のずらしです。修了制作で初めて大きなずらし台を使ったのですが、機の上で扱うのは体力的にも大変でした。絣をデザインから考えるのも初めてで、括る位置を決めるのに、ガイドテープの計算を頭がこんがらがりながら何とかやって(笑)。初めての経験が多くて大変だった分、とても勉強になりました。

——作品が出来上がった時の気持ちは?

今の自分ができることはやれたけど、反省もあります。同世代に興味持ってもらえる絣をつくりたい気持ちはこれからもずっと続くと思うので、もっと力をつけたい。この作品きっかけに、よりよいものをつくっていきたいです。

◆産地のひとりになりたい

——修了後は福岡に戻り、久留米絣の工房で職人として働かれます。職人を目指すきっかけは何だったのでしょうか。

本科の授業で作業全体を繰り返し経験する中で、私はデザインよりも、手を動かしてつくる過程が一番楽しいと感じるようになりました。初めはうまくできなくても慣れていくにつれ、ちょっとずつコツをつかんだり、スムーズに作業できるように考えたりする時間が楽しくなって、職人の方向がいいなと思うようになりました。

——織りを通して自分と向き合い、進む方向が見つかった。そこからどのように就職に結びついたのですか?

福岡県が主催する「久留米絣後継者インターンシップ」に参加して、そのまま就職が決まりました。プログラムは未経験でも参加できたのですが、私は織りの基礎があってよかったと思った場面がけっこうありました。3日間で絣の括り屋さんや染色屋さんを見学したり、工房で緯糸の準備をしたりしたのですが、専門的な説明でも織りの基礎を知っていたことで理解しやすく、吸収できるものが多かったと思います。現地で久留米絣に携わる方々の話を聞く中で、それぞれ考え方は違っても一つの産地として協力してものづくりをしているのが面白くて、私も産地のひとりになりたいと思いました。このプログラムは初めての開催だったので、ラッキーでしたね。思い切って参加してよかったです。

ハチワレモウフ(2024)

◆今は何があっても大丈夫と思える

——修了を迎える今、1年を振り返ってどんなことを感じますか?

体感的には3年ぐらい、長いような短いような不思議な感覚です。1年前の入寮時はダンボール2箱分の荷物で来たはずが、退寮の今、部屋にダンボール6箱分の荷物があります。箱の中身は、この1年でつくった作品や使用した糸が多くて、それらを見ていると確かにこの学校で毎日織りに触れ、学んできたんだなあと。1年で大きな作品をつくれるようにもなって、ちょっとずつでも確実に進めている実感があります。

——最後に、吉田さんはこの学校で何を得たと思いますか?

やってみる精神です。大学生の頃はやりたいことがわからなくて悩んでいました。大学の後半になって織りに興味を持ったのですが、どうやってその道に行けばいいかわからず、ただ悩むだけでした。この学校に入学してからは、事がどんどん進んでいくのを感じました。それまで織りを仕事にしている方と会ったことがなかったのですが、授業で外部の方を含めていろんな先生の話を聞き、織りに関わるいろんな方法があると知って、道が開けた感じもあります。
そして私自身、課題制作を通して自分が変われたのが大きいです。制作中はピンチも多かったのですが、その都度先生たちが助けてくださって乗り越えて。そんな日々を過ごす中で自分ひとりではうまくできなくても、頑張っていれば誰かが助けてくれるから大丈夫と思えるようになって、以前よりも挑戦することに対して前向きな気持ちを持てるようになったんです。久留米絣のインターンシップも、以前の私だったら無理かなと申し込まなかったかもしれません。ですが今なら何とかなると思えました。勇気を出して踏み出した結果、今こうやって自分の進みたい方に進めている、そのこと自体がよかったです。今は、何があっても大丈夫と思えます。


吉田さんを含む、2023年度本科の在校生インタビュー記事です。
在校生インタビュー1 高校・大学卒業後に入学(2023/12/8)

在校生インタビュー3 ワークショップ・ウィークエンドクラスから進学

松田敦子さん・Sさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。最終回は「はじめての織り」10日間のワークショップを受講後に専門コースに進んだ松田敦子さんと、ウィークエンドクラスを1年受講後に進学したSさんです。

修了展に向けて、自分でデザインしたテーブルクロスを織る松田さん

◆1から自分でできるようになりたい

——まずは進学の動機を教えてください。

松田敦子:私はライフワークとして織りをやっていきたいと思っています。そのために1から準備して織って、と自宅で一人ですべてできるようになりたい。ワークショップの場合は用意していただいたものを織る形になるので、もっと本格的にスキルを身に付けたいと思い、子どもたちも大きくなり時間ができたので学びに来ました。

S:ウィークエンドクラスの時は、長年働いた仕事を退職して時間ができたので、ずっと興味があったけどできなかったことを始めたいと思って受講しました。1年目がすごく楽しくて、もっと学びたい気持ちになりました。ですがこのまま2年目に進む(ゆとりのあるペースで学ぶ)よりは、もっと専門的に学びたいと思って(フルタイムで基礎からしっかりと学ぶ)専門コースに進みました。実際、通学となると距離も遠いし、かなり生活が変わるので(家庭との両立など)自信はなかったんですけど、夫や妹が「できることがあったら助けてあげるから」「これまで働いてきた分、これからは自分の好きなことをやったらいい」と後押ししてくれて。じゃあ初めからきちんと学んで、自分が何をしたいかをしっかりとつかんでから家に帰ろうと決めました。

——入学して7カ月が経ち、これまでとは全く違う生活を送っていますが、新たな日々の実感はどうですか。

松田:私は主婦で時間の制約があまりない生活を送っていました。今は朝9時から夕方5時と時間が決まっている分メリハリがあります。メリハリができたからこそ自分はこういうのが好きなのかと新たに気づく面もあって、制約はわるくないと感じています。ですが大変は大変ですね。寮生活で週末休みに家に戻りますが、たまっている家事をこなすだけで休みが終わってしまうので。

S:大変ですけど、おかげで痩せました(笑)。早寝早起きでおやつも食べないし、健康になりました。(授業の密度が濃い分)時間に追われたり、課題を期限内に提出するのに精一杯になりがちですが、好きなことをやっているので苦しむようなストレスもないし、自然があって環境もいいところです。周りの方も優しいし、先生もしっかりと教えてくれるし、何とかやっています。

松田:クラスは恵まれていますね。皆優しいし、大丈夫?と声をかけ合いながらやっています。自分の娘と同年ぐらいの子たちもいますが、皆一生懸命だし、ここに来なかったら接する機会のない人たちなので楽しいです。

S:クラスメイトとして自然に接しているし、あまり年齢差を意識したことはないです。うちの子どもと同じような年ですが、また違いますね。やっぱり同じ目的に向かっているので、ある意味もっと近しい気持ちになっています。

グループ制作のタペストリーを織るSさん

◆ 「どうして?」が「だからか!」に、知る喜びがたくさんある

——スクールでのものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

松田:正直なところ私はデザインに苦手意識があります。ですが織るのは楽しいし、仕組みを知るのが好き。組織織りでもどうしてこんな模様ができるのかを、踏み順の組み合わせなど機の仕組みからつなげて知るのが面白いです。だからこうなるのか!と理解できた瞬間はすごく嬉しい。制作で悩むことはあるし、上手にできる人を羨ましく思うこともありますが、人と比べる必要ないねんなっていうのは常に思います。課題をこなしていくのに必死で、他の人を気にする余裕がないのが実際のところ(笑)。でもそれっていいことやなとも思います。自分の持っているもの、やれることはこれだと思って自分の制作にまっすぐ向かうだけ。

S:自分はこんなにできひんのやなって。指も思うように動かへんし、そういう年齢なんやなってすごく思います。でも人と比べる必要はないし、時間に追われて締切が厳しい分、それこそ没頭できる。それに専門コースの授業だからこそ、いろんな専門家の話を聞けるのも貴重です。特に冨田潤先生の工房見学や、みんぱくの上羽陽子先生の講義と実習はすごく面白かったです。(さまざまな角度からの授業を通して)糸の見方とか、ものの観察の仕方とかが変わったと思います。糸の結び方だけでもたくさんあるし、それぞれ何のためにあるのか、背景にある生活の知恵を知って感動したり、昔の人は生活の中で織っていたんやなと思いはせたりしながら学んでいます。

松田:糸も単に毛糸として見ていたところからS撚り・Z撚りがあると知ったり、ループヤーンのループができる仕組みだったり、色糸の混ぜ方とか知識を身に付けたうえで、糸選びができるのは楽しいですね。やっぱり私は「どうして?」が「だからか!」になる瞬間が好き。そんな知る喜びが、この学校に通う間にたくさんあると思います。

◆制作に没頭、今は自分第一主義で

——今とこれからのモチベーションを教えてください。

松田:やっぱりライフワークとして、自分でものが作れるようになりたい。家に戻ったら主婦だったり母だったりするので、家庭の中、生活の中で織りを取り入れていきたいです。

S:自分第一主義かな。人生長くなりましたので。これまで(仕事と家庭で)自分の時間がなく、好きと思っても掘り下げる時間がなかったです。いろんなことをあきらめたり妥協したりしてきて今の私がある。そこから今、純粋に織りに向かっていて、あきらめる前の自分を思い出している感じがするんです。この学校にいると世間のざわつきからも距離を置けるし、(この環境に自分自身が)癒される感じもあります。それも没頭ですね。今いろんなものを取り戻している感じがします。好きだったり興味があったりすることが形になると嬉しいし、仕組みがわかると深まる感じもある。この先はまだわかりませんが、何かの取っかかりになるだろうと思います。

松田:家族のためではなく、自分の作品のためだけに没頭できる。

S:だから今は、自分第一主義ですね。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。

在校生インタビュー2 仕事を辞めて入学

福井麻希さん・Hさん(2023年度・専門コース本科)

川島テキスタイルスクールの専門コースには、年代も背景もさまざまな人たちがそれぞれの目的を持って学びに来ています。2023年4月に入学した本科生(1年次)にインタビューし、入学の動機や、学ぶなかでの気づきなどについて語ってもらった3回シリーズ。第2回は、新卒から8年勤めた組織を辞めて入学した福井麻希さんと、会社の事務職を辞めて学びに来たHさんです。

デザイン演習で制作したブレスレットの説明をする福井さん

◆消費するのでなく、ものをつくる側に

——まずは入学の動機を教えてください。

福井麻希:もともとファッションが好きで、ものづくりにも興味がありました。軸にあるのは「服が好き」。なかでも生地に興味を持ったのは、好きな服屋さんがきっかけです。そのお店で取り扱っている商品のなかに、日本の伝統的な織りをデザイナーさんが現代的な服に仕立てているブランドがあって、服の素材や触り心地がすごく良くて、生地でこんなに変わるんだと知りました。そこで私は服が作りたいのではなく、生地の方に興味あると気づいて、自分で生地が作れるところで学びたいと3〜4年前から資料請求し、他の服飾系の学校も見ていました。この学校を選んだのは少人数制で行き届いている感じがして、雰囲気もいいなと思ったからです。

H:子どもの頃から手芸が好きでしたが、大人になると忘れていました。就職してからは、頑張って働いて稼いだお金で好きなものを買うのが幸せだとずっと思ってきたところがあります。ですがコロナ禍で外出できなくなった時、物を買う喜びがなくなって、消費するだけの生活に疑問が生まれたんです。そこでもともと手芸が好きだったのを思い出して、趣味で手芸を始めてみたらすごく楽しくて。ただ消費するのではなく、ものをつくる側にまわりたいという気持ちが芽生えました。布が好きなのもあって、「染織」「学校」などでインターネット検索するなかでこの学校を見つけました。カリキュラムを見て、密度が濃そうだなと。仕事を辞めて新しく学ぶとなると、やっぱりきちんと技術を身につけたいし、できる限り密度濃く学びたい。それができそうな学校だと思い、入学を決めました。

——退職して入学するのは思い切りが必要でしたか? スクール見学に来られる方のなかには気持ちはあっても仕事を辞められないなど、すぐには踏み切れない人もいます。しかし未練があって数年後に入学する人もいます。決断に至った思いを聞かせてください。

福井:元々就職する時に、好きなことを仕事にするかどうかすごく迷ってて。稼いだお金で好きなものを買うような生活の方がいいのかなと思って就職したんですけど、実際に働くなかで私の性格ではそれが無理だって気づいて(笑)。私は決められたルーティーンでやる仕事よりは自分で考えてやる方が向いているんじゃないか、好きなことを仕事にしないと精神的に辛いなと思いました。後からあの時やっておけばよかったと思うのは嫌だし、(このまま同じ状態で)いればいるほど後悔が長くなるから、始めるなら早い方がいい、好きなことを今のうちにしてしまおうと思って、お金を貯めて辞めました。

H:私も仕事がルーティーンになってきて、これ一生続くのかなと考えた時に、自分のためにも方向転換した方がいいのかなという思いが強くなりました。組織の中でどれだけ頑張っても逆に空回りして(自分がすり減ってしまうような)状況も経験して。だけど創作だったら自分が頑張った分だけ、いいものが作れるかなと。

天秤機で組織のサンプルを織るHさん

◆自分の引き出しから考え、形にできるのが面白い

——入学して7カ月が経ちました。ものづくりの日々を通して、何か気づきはありますか?

福井:私は映画や美術を見たり、小説を読んだりするのが好きですが、これまでは受身で。感想やアウトプットが苦手と自分で思い込んで、ただ受け取るだけの感覚でいました。それがデザイン演習でテーマに沿って作品をつくるときに、今まで見たもの、読んだものがアイデアの引き出しになってあまり迷わずに済んだんです。課題は抽象的なテーマが多く、具体的なものが一切ないところから考えるのが楽しくて。アイデアを形にできるのが面白いです。これまで見てきた蓄積が身になり、反映されるのが、ものづくりをすると実感できました。それがこの学校に入ってからの発見でした。

H:最初、基礎織りの実習をやった時に、(頭では)わかってはいたけど工程がすごく多くて、ものづくりって大変なんだなと実感しました。その後も織り実習に取り組むなかで自分の向き不向きに気づくことも。「布を織る」は糸が細い分、絡まったりして大変だったんですけど、ちゃんと(8メートルの布を織り上げて)頑張れたのは自信になりました。次はもっとこうしてみたいとかもあって、自分の中で向上心が生まれるのが嬉しいです。

◆織るだけでなく糸を作るところから

——未経験から学び始めて、いまお二人にとって織りはどういうものでしょう。

福井:自分の頭の中にあるイメージを出力できる手段のようなもの。今までそんな表現手段を持っていなかったので、自分の楽しいとか、ときめくとか、ウキウキを増やせるのが織りだなって思っています。私の場合、作品をつくるのは主張や心情を表すというより、好きな世界観や雰囲気、こういうのがあったら楽しいみたいな空想のアウトプット。もともと「服・生地が好き」が軸にあるのが大きいかもしれないです。自分の好きなものと手段がかみ合ったから、いいなって思えるのかな。

H:アウトプットしたら楽しいんだなっていう気づきは私もあります。その手段として織りがある。私は一人で楽しむのが好きで、友達ともあまり共有しなくていいタイプだったんですけど、形になって表現できたら嬉しいと(知らなかった自分の一面に)気づきました。織りが自分に合っているかはまだわからないですが、この学校では織るだけじゃなく、糸を作るところから教えてもらえるので、いろんなことができるなって。ファンシーヤーンでは違う色をミックスして染色にはない不思議な糸ができたりして、こういうこともできるんだ、面白いなと。織物にはいろんな可能性があるなと思っています。

*2024年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の三次締切は2月29日です。コースに関する説明、学校見学は随時受け付けています。ホームページからお問い合わせください。