在校生受賞のお知らせ

専門コース専攻科の近藤雪斗さんが第71回 西宮市展の西宮市展若手奨励賞を受賞しました。


「Frame」−−この日本に、新しいものを建てたい。大きい窓は建物の顔。文明開化への眼差しが、新しいモノづくりへの情熱が、Frameに思いを託す−−/組織織りのラグです。フレーム柄をいかに美しく織れるかが肝。二重織の組織で白黒の色の切替を、ピックアップの技法で滑らかな曲線の工夫を凝らし、作り手のFrameへの思いを手技に託しています。



第71回 西宮市展
7月2日(土)〜9日(土)
※7月4日(月)は休館
10:00-17:00(最終日は15:00まで)
西宮市立市民ギャラリー

スクールの窓から:時代を読み取り、自分を知り、人生を楽しんで生きる 野田凉美アドバイザー講義

専門コースで、野田凉美アドバイザーによるゼミが開かれました。「『つくること』は『食べること』と同じ」と語る野田先生の、ものづくりの豊かさが感じられる授業時間となりました。

野田先生は1980年代から京都を拠点に活動して、国内外で作品を多数発表し続けています。2022年2月には初の作品集『HINTS FOR ART』(青幻舎)を刊行。当スクールでは06年から11年間ディレクターを務め、現在はアドバイザーとして関わっています。

授業では、先生のものづくりにおいて、テーマはどこからきて、どんな素材でつくっているのかなどのレクチャーがありました。そして先生がこれまで制作・展示した作品や、そのサンプル、使用した素材を実際に見ながら、制作プロセスが紹介され、授業全体を通してたくさんの思考の種が蒔かれた時間でした。

◆この時代にいる「私にとって大切なことは何か」を知る

テーマは野田先生の場合、ニュースや広告の分析や、日常生活から感じ取るところから始まるそうです。広告を見ていると「皆が何を欲しているのか、何を売りたいのかがわかる」と先生は言い、車や薬、保険など様々な例を挙げて、それをどう読み取っているかを話します。服の場合は1970年〜80年代は体にピタッと沿うような形だったのが、今はフリーサイズやボタンの無い服が多くなっている。そこからニット素材が増えたり、色や形で性差が無くなってきていたりしている時代の変化を読み取ることができる、と。そして、身の回りの出来事や、何気ない日常からも日々敏感に「感じ取る」。その上で、「この時代にいる『私にとって大切なことは何か』を知るのが大事」と野田先生は言います。先生にとっては距離感が大切で、人に対しても自然に対しても居心地がいいと感じる距離感を「快適に生きていくために知っておく」と。そんな毎日の生き方が、そのまま、ものづくりとひとつながりとなって話は進んでいきました。

その軽妙な語り口に引き込まれていくうちに、私にとって大切なことは何だろうと、一人ひとりがおのずと考えるようになります。自分を知るためには「いろんな情報を丁寧に、頭の中にメモしていく。それを書き出し、皆に話してみる」と先生はアドバイス。他にも絵画や映画、読んできた本の紹介や、先人に学ぶ視点を持つことを伝え、それから「身近にあるものをモチーフにすることが多い」という先生の作品例の説明へと入っていきました。

◆美味しかったな、栄養になったな、元気出たな

まず先生が伝えたのは、「アートは、ごはん」について。アートは特別な何かではなく、日常にあると思っていて、食事も作品制作も「毎日の生き方そのもの」を表している、と。何を食べるか、どう食べるかを日々選んでいるように、素材選びも、テーマから関連づけて「自分なりの選び方をする」。「新しいアイデアでも、素材の組み合わせがうまくいかなければ失敗することもありますが、そこで自分の目標を絶対にまげない」ときっぱり。そして、作品で使われているウール、ラベル、紋紙、薬のプラスチックパッケージ、砂など、それぞれの素材に着目した経緯が語られました。

続く作品紹介では、実際に作品のサンプルを見ながら、素材から作品に変わるプロセスについて、技術、工夫、やってみて気づいたことなどが小気味よく説明されました。話の中で、素材の購入先などの実用的な情報から、制作で出会った言葉、参考本の紹介、ポートフォリオ作りのアドバイス、写真を撮っておく必要性、野田先生にとって展覧会とは、展覧会でどのようにメッセージを発信し、人と作品が往来できる場をつくっているのかなどが惜しみなく伝えられました。

野田先生は言います。「食べることと同じで、美味しかったな、栄養になったな、元気出たな、と感じながら、ものをつくりたいと思っています」。

授業で紹介された作品のサンプル。

◆手ぶらで歩ける、生きているだけでいいよって言える日を

終盤にスライドで紹介されたのは、幼少期の写真と「生きているだけでイイ ハッピーバースデー」という作品。「人間ってすごく無理して生きているなって思います。あれも必要、これも持ってという感じで。だからお誕生日ぐらいは手ぶらで歩けるとか、生きているだけでいいよって言える日であったらいいなと思ってつくりました」。

ものづくりのヒントになるような内容が、多様で広がりをもって伝えられた授業。それを作品制作に限った話ではなく、毎日の生き方と重ねて語られた野田先生の講義は、時代を読み取り、自分を知り、人生を楽しんで生きるヒントに満ちていました。

「生きているだけでイイ ハッピーバースデー」”It’s Just Good To Be Alive Happy Birthday” 2003 = 表恒匡撮影

〈野田凉美プロフィール〉

のだ・すずみ/大阪生まれ。京都市立芸術大学特任教授(2017〜22年)。京都造形大学(現・京都芸術大学)特任教授(2012〜17年)。川島テキスタイルスクールディレクター(2006〜17年)を経て、アドバイザー(2017〜現在)。
GALLERY GALLERY、ギャラリーマロニエ他、イギリス、スウェーデン、イタリア、オーストラリアなど国内外で作品を多数発表。

website: suzuminoda.com
instagram: @suzuminoda

◆野田凉美個展「昭和について」
会期:2022年6月25日(土)~7月10日(日)12:00~19:00
※最終日は17:00まで,木曜日休廊
会場:GALLERY GALLERY

『野田凉美作品集HINTS FOR ART』(青幻舎)

展覧会のお知らせ:野田凉美 個展

当スクールアドバイザーの野田先生の展覧会です。

野田凉美 | 昭和について
2022年6月25日(土)〜7月10日(日)*木曜休み
12:00-19:00(最終日は17:00まで)
GALLERYGALLERY

レトロラベルワークショップ
7月7日(木)13:00-14:20/14:30-15:50
子どもの本専門店 メリーゴーランドKYOTO

suzuminoda.com

展覧会のお知らせ:「ART & LIFE Ⅴ 」-芸術と生活-

当スクール講師、林塔子先生の展覧会です。

「ART & LIFE Ⅴ 」-芸術と生活-
井出照子(陶)・藤野さち子(陶)・林玖瞠(漆)・伊藤尚子(漆)・大河内久子(金属)・田中千絵(金属)・山本佳子(ガラス)・井川彩子(ガラス)・上田恭子(ファイバー)・ 林塔子(ファイバー)

2022年6月7日(火)〜6月12日(日)
11:00-17:00
和中庵
展覧会詳細

展覧会のお知らせ:石崎朝子 奈良平宣子 二人展 

2005年まで当スクールディレクターを務めた石崎先生の展覧会です。

石崎朝子 奈良平宣子 二人展 
-布・心音-
2022年6月4日(土)〜12日(日)*6日(月)は休廊
Gallery Daimon
11:00-18:00(最終日は17:00まで)

”布に命の鼓動を与えたい
日常生活にある様々なテキスタイルが
目に見えぬエネルギーを形にしている
風を孕むカーテン 漁群を追う漁網 人体を包んでいたシーツ”

スクールの窓から:素材も風合いも「糸との出会いを楽しみに」 スピニング2

専門コース本科「スピニング」授業リポートの後半です。授業では、糸紡ぎの実習と並行して行われた説明を通して、一本の糸の成り立ちから見える世界の奥行きを知っていきました。後半は説明の一部を紹介します。

羊毛が糸になる仕組みを学び「糸を見る目をクリアに」スピニング1(前半)

◆生き物だからこそ自然に生み出せる特性

説明の内容は、糸の元になる繊維の全体像から、羊の種類、工場生産の紡績糸まで話は多岐に渡りました。化学繊維(人造繊維)と天然繊維の説明ではサンプルを触りながら、どこで、どんな原料で作られ、どうやって糸になって、どんな用途に使われるかを知っていきます。その幅広さが見えてくると、繊維がじつに様々な場面で生活に浸透していると気がつきます。とりわけ羊毛の世界は奥深く、羊がどこで、どんなふうに育ってきたのかから、種類の豊富さ、人の移動に従って羊が広がっていった歴史の話にも。その視点は現代にも通じ、生活の中で出会う織物が何でできているのか、世の中が回っていないと原料が入ってこない現状にまで話が及びました。

羊毛が紡ぎやすい理由の説明では、話は細胞レベルに。人の髪の毛はサラサラなのに対して、羊毛が縮れているのは、毛根から生えるときに種類の異なる二種の細胞からつくり出され、それが交互にはり合わされたような構造で、クリンプという縮れになるそう。さらに表皮がうろこ状で繊維同士が絡みやすく、糸にしやすいそうです。そんな羊毛の性質は「生き物だからこそ自然に生み出せる天然繊維の特性。化学繊維は人間が作り出したもので生活の細部にまで浸透している。両方の特性を知った上で、繊維を大事にしてもらいたいです」と中嶋講師は伝えました。

◆織りの総合力を身につける

専門コース本科では、これから綴織や絣、組織の実習や、デザイン演習など様々な織りのものづくりを経験していきます。今回の実習で、まずは糸の成り立ちから学んだのも、織りの総合力を身につけるための基盤となります。中嶋講師は言います。「織物が他の工芸と違う点は『風合い』があること。それは繊維を使った加工の特徴です。天然繊維の場合は素材の原料が異なると、触った感じが違います。それを下支えしているのが糸。織物をつくる時には、糸選びから風合いを大事にしてください」。そして、こう言い添えました。「これから糸との出会いを楽しみに」

糸づくりの実習を経て、秋にはホームスパンとファンシーヤーンの授業へと続きます。

おわり

中嶋芳子先生インタビュー「一本の糸から」(2020年10月)

スクールの窓から:羊毛が糸になる仕組みを学び「糸を見る目をクリアに」 スピニング1

専門コース本科では、4月に「スピニング」の授業が行われました。羊毛が糸になる仕組みを手紡ぎの実習を通して学び、糸を見る目が育まれた5日間。授業リポートを2回に分けてお届けします。前半は実習の一部を紹介します。

◆ものづくりは変容のプロセス

授業では洗毛から、糸の紡ぎ方、撚り合わせ、仕上げまでの実習を通して、糸ができるまでの道のりをたどります。「ものをつくるって、変容のプロセスやと思うの」。そう話すのは、この授業を担当している中嶋芳子講師。スクールで約40年、ホームスパン一筋で教えている先生です。

実習は、まず原毛を洗う作業からスタート。刈り取られた状態の羊の毛は脂っぽく、その質感を知るところから学びは始まっています。洗い方にも加減があり、「洗いすぎると繊維が絡んでフェルト化して(縮んで)しまう。だからといって手早くやり過ぎると脂が残ったままになる」と。その結果は後に毛のほぐしやすさや、ほぐしにくさとなって表れます。

洗毛が終わると次に、紡毛機を使って手紡ぎ糸をつくります。羊毛から繊維を引き出し、動車を回すタイミングと合わせて、足下の板を踏み込んで撚りをかけ、糸を巻き取っていく。「気持ちよく紡毛機が回ることが大事です」と中嶋講師は道具へのいたわりをさりげなく伝え、「紡ぎは足のリズムと手を調和させられたら、楽しくできます」とコツを教えます。それは、いざやってみると難しく、講師は「指の力を抜いて」「はい、今(糸を)引いて」と、それぞれの学生の引っかかりに沿う形で声をかけていきます。紡がれたものは撚りすぎたり、太すぎたり細すぎたりといろいろ。「最初から上手くできなくていいですよ。人と比べるものでもないしね」とプレッシャーも解いていきます。

◆手の感覚で探る

学生の一人は「説明を聞いて頭ではわかった気になっても、いざやってみると思い通りにできない。頭で考えるより手の感覚でやった方がいいと気づいて切り替えました」とコメント。それぞれが羊毛と道具と自身のあいだをつなぐリズムを探るべく、試行錯誤は最終日まで続きました。紡ぐ素材は、繊維を並行に揃えてまっすぐ糸にしていく梳毛糸と、繊維の方向を揃えずに撚りをかける紡毛糸。それを単糸と双糸、三子糸の撚り合わせにして、紡いだ糸の番手を計算し、最終的には6種類の綛に仕上げました。

そうして羊毛から糸ができるまでの変容を見るうち、糸を見る目が次第にクリアになっていきます。実習を終えて、学生からはこんな感想が上がりました。「ウール糸は毛糸玉の状態でしか見たことがなかったです。初めて原毛に触れて、これだけ汚れているのかと知るところからでした。一つひとつ工程の間を飛ばさないでやらないと、ここまでできないのかと思い知り、一連の流れを体感して理解度が上がりました」「糸をつくるのは時間がかかる作業。習得の道のりは長い」

後半(説明)へつづく。