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堀勝先生退任のお知らせ

熟練の染色の専門家、堀勝先生が2022年度末をもちまして退任されることになりました。堀先生は、(株)川島織物(現・(株)川島織物セルコン)の染色部門で42年勤めた後、スクールで25年余、専任講師として染色実習を担い、高度な専門性と穏やかな人柄で指導に尽力されました。

堀先生からのメッセージです。


ここ最近になって、体力の衰えを感ずるようになり、さみしい思いでいっぱいですが、3月で退任することを決めました。

スクールでの25年余、たくさんの方々との出会いがあり、思い出は尽きません。長い間、本当にありがとうございました。(染料達にもありがとう〈笑〉)。

今後の皆様方のご活躍をお祈りしております。

染色室 堀勝(84)


堀先生の染色に対する姿勢や教える思いを、ロングインタビュー記事や授業ルポ記事で紹介しています。ぜひお読みください。

・ロングインタビュー「染がたり」(2020年7月実施)

・授業ルポ 染色実習シリーズ(2021年4月〜9月取材実施)
 実習編1「再現性のないデータなら無い方がマシ」
 実習編2「『ぴったり』が勘染めの出発点」
 実習編3「糸を乱さないように、短気は損気やで」
 実習編4「天然の場合は、全部間違いではないんやわ」
 実習編5 藍染め「元気のいい色を目に焼きつける」
 実習編6 「染色を好きになって、続けてほしい」

2023年度ワークショップパンフレットが完成しました!

表紙は「はじめての織り」「織物がわかる5日間」です

2023年2月1日(水) 9:00よりホームページ内ワークショップページにてスケジュールの公開・申し込み受付を開始いたします!開始前のお申し込みは受付できませんのでご了承ください。

川島テキスタイルスクールでは年間を通して、初心者の方から経験者の方を対象とした織物と糸染めのワークショップを開催しています。早速4月開講(3月申込締切)のワークショップもあります。

お申し込みの際はワークショップ受講規約への同意が必要となりますので、必ずご確認ください。

皆様のお申し込みをお待ちしています。

冬期休暇のお知らせ

誠に勝手ながら下記の期間におきまして冬期休暇とさせていただきます。

冬期休暇:12月24日(土)-1月4日(水)
冬期休暇前出荷分の受付最終日:12月21日(水)
商品最終出荷日:12月22日(木) 

※在庫状況により、最終出荷日までに商品が発送できない場合があります。

なお、期間中のご注文およびお問い合わせはメールでお願い致します。
期間中にいただきましたご注文、及びお問い合わせにつきましては、1月5日(木)以降に順次対応させていただきます。

ご迷惑をおかけいたしますが、何卒よろしくお願い申し上げます。

修了生インタビュー:「学校の風景とともにある着尺の旅」藤原由美

 大学の通信教育で着尺を学んだ後、川島テキスタイルスクールの技術研修コースに通った藤原由美さん。スクールでは毎日、朝から晩まで織りに没頭し、四季の変化を感じながら、絣の着尺を7カ月で織り上げました。そして言います。「ここの風景とともに着尺はありました」と。充実感いっぱいに「織りの旅をした」と語る藤原さんのインタビューです。

◆ 緯糸一本入れるだけでも、一歩進める
——技術研修コースに入学を決めた経緯を教えてください
 私は着付けを習ったことがあり、着尺を織るのに興味がありました。大学の通信教育で染織を学び、卒業制作で初めて着尺を織りました。自宅で一人での制作。無我夢中で仕上げましたが、糸が手になじむまではいかなかったので、もう一度着尺を織りたいという思いがありました。
 こちらに来たきっかけはワークショップです。「はじめての織り」をはじめ、いろんなワークショップを受講するなかで、どの先生も糸一本一本を丁寧に扱う姿勢が印象的でした。昨年、技術研修コースで帯を織った方にも会い、私も踏み出そうと入学しました。

——実際に取り組んで、どのような学びがありましたか。
 デザインの考え方から一歩ずつ、丁寧に学んでいけました。専門コース創作科の方々と同じ机を使わせてもらって、制作の様子を見ていると、皆さんすごく丁寧にデザインを考えている。まずはデザインありきで技術、そこに思いが込められて作品が出来上がっていくんだなとわかりました。私一人のなかにはデザインのレパートリーが少ないのですが、同じように制作に励む人たちがいる環境だからこそ、学びが広がりました。考えたデザインをもとに先生から経絣を提案され、さらにずらし絣にすることで光が流れるイメージができました。

——絣で気づきはありましたか?
 17メートルの経糸に合わせて絣のテープをつくるのに、わずかな誤差が大きなずれにつながるので大切に、くくり方の丁寧さも教えていただきました。くくって地染めするのに約2カ月、防染に1カ月近くかかって、絣はすごく時間がかかる工程だとわかりました。しんどいなと感じることもありましたが、自分の手元に来てくれた糸なので愛着がわきますし、「必ず模様を出してあげるからね」と糸に語りかけながらやっていました。
 織物ってどの工程も、やった分進んでいく。たとえ5分でも一つくくれたら、緯糸一本入れるだけでも一歩進める感じがあったので、着々と。そうして糸にきちんと向き合うところから始められたのもよかったです。

◆思いの詰まった一枚に
——学びの環境としてはどうでしたか。
 困った時、先生に聞ける安心感がありました。何か違うことをやってもすぐに助けを求められる環境で、(軌道修正して)安心して次に進むことができたので。専門コースで絣の着物を制作した方と話せたのも心強かったです。
 着尺用の織り機を使えたのもよかったです。専用の機だと安定して打ち込めて、まっすぐきれいに織れました。音の響きもいいですし。

——実際の学校生活は、制作に何か影響はありましたか?
 はい。この学校の風景とともに着尺はありました。窓の外には緑が広がり、季節の変化を感じながら過ごせて、色もこの景色のなかで生まれたものです。学校の周りの植物を使って染めたので。自宅にある山桜の木を地色にしたいと思っていたら、堀先生が学校周辺の草木も使ってみたら?と提案くださって。そこからヨモギやカラスノエンドウ、ビワの葉などを使って色彩が生まれ、景色を着尺に写させてもらった感じがしています。

——無事に着尺を織り上げ、技術研修を終えた今の気持ちを聞かせてください。
 この自然に囲まれた静かで、すてきな空気感が漂う環境で学べたことが何よりの宝物です。寮ではご飯もお風呂も用意されていて、毎日織りだけに集中できる本当に幸せな時間でした。特に最後の2週間は、一日の終わりに疲れても顔は喜んでいて、筋肉が笑顔で固まっている状態(笑)。やっぱり織りは楽しいと思いました。
 織りと一緒に私も育てていただきました。何事も一足飛びにはいかなくて、順を追って一歩ずつ、積み重ねが大事だなと。私は一枚目の着尺制作でやり残した感があって、もう一枚は必ず織ってみたいという気持ちがあってこの学校に来ました。ここでとても丁寧に教えていただいて、思いの詰まった一枚に仕上がってとても嬉しいです。これでまた、新たな織物に出会う旅に出られる。ここから始まります。

2023年度ウィークリークラスのお知らせ

2023年4月「ウィークリークラス」を開講いたします。織りを始めたい方のための週1回*(全33回)で学べるクラスです。

週1回の授業で織りの基礎から応用まで、スキルアップできるカリキュラムとなっており、初めに手織りの工程や織り機の仕組み、織物知識の基本を学びます。
織りの基本を学んだ後は、ガラ紡のタオル、シルクのストール、オリジナルデザインの日傘を作ります。作品を作ることを通して、ていねいな手仕事とセンスを学ぶことができます。

期間 2023年4月7日(金) 〜 2024年2月2日(金)
回数 全33回
時間 10:00 〜 16:00
定員 5名 (先着順ではありません。申込締切後に選考を行います)
出願締切 2023年2月10日(金)
講師 仁保文佳

※ 33回全ての授業への出席が必須です。
※ ウィークリークラスはウェブ出願のみとなっています。

その他詳細はウィークリークラスのページでご確認下さい。

皆様のご応募をお待ちしています。

制作の先に:建築と織物が響き合う 綴織タペストリー「おかえり」が寮の玄関に登場

学生が制作した綴織タペストリーが、このほどスクールの寮の玄関に飾られました。これは昨年(2021)度の専門コース本科(1年)のグループ制作のうちの一作で、玄関を利用する人からは「空間が明るくなった」と好評です。

グループ制作では、場所に合わせてテーマを決め、デザインを考えて原画を描き、約7カ月かけてタペストリーに仕上げます。本作「おかえり」は寮の玄関に展示するのに、学生自身が普段建物を使っている実感をもとに「そこに窓があったらいいな」と思いついたところから始まりました。そこで校舎内の窓を見て回り、アトリエにあるアーチ型の窓枠の仕切り方のユニークさから、変形を散りばめたデザインを着想。光のニュアンスに力を入れたのは、普段スクールで仲間と話すことで心が晴れたから。互いの明るさや癒しの色の感覚を共有し、杢糸で色のバリエーションを広げ、綴の技法を駆使して光の屈折や反射なども繊細に表現しています。

じつはスクールの建物は、建築物としても貴重なものです。設計は校舎も寮も内井昭蔵氏。内井氏は創立の趣旨を汲み、土地の状況を考慮しながら、この学校にふさわしい建物を設計するべく工夫を凝らし、校舎と寮が一体につながるこの建築物で第16回BCS賞(1975年、建築業協会による)を受賞。アトリエは、一枚の布を織ることを通して、人とものとの関わり合いの原点を探るという視点で考案された背景があります。

このタペストリーは「どんな時も私たちをあたたかい光で迎えてくれる。自然と元気が出て、あなたと話したくなる」がコンセプトの、学生の等身大の思いが込められた作品。

この作品が寮の玄関に登場したことは、スクール創立から約50年の年月を超えてなお、建物と織物が響き合っている証とも言えるでしょう。スクールに来られたら、建築空間ごとタペストリーをご鑑賞ください。

*本作品は、日本新工芸家連盟主催特別企画「第5回学生選抜展」に出品されました。

スクールの窓から:素材も場所も「自分が心魅かれる方へ」 表現論・井上唯さん講義

専門コース「表現論」の授業で、アーティストの井上唯さんを講師に迎え、アーティスト・イン・レジデンスで国内外の様々な土地で制作している活動などについて話していただきました。

大学と大学院で造形と染織を学んだ井上さんは、卒業後も制作を続けられる道を求め、大学助手の仕事に就きます。制作するなかでアーティスト・イン・レジデンスに興味を持ちますが、参加には3カ月など一定期間、時間を空ける必要があることから、助手の仕事を3年で辞めて、やりたい事業に応募しながら制作を続ける道を選びます。

学生時代にバスケタリー作家の方の講義で学んだ「思考と目と手でつくる」というありようが、その後もずっと身体に残っていたという井上さん。滞在制作では、その場所に何を存在させるべきなのか想像しながら「土地のこと」をリサーチし、「素材×技法」「空間×場所」「主題×概念」を言葉やイメージで考えながら何をつくるかを決めていくそうです。講義では、その要素をどう形にしていくのかが具体的に語られました。香川県の粟島で、かつて海員養成学校だった建物内に、麻の繊維を使って漁網を編む技法で「人の気配」をつくったり、徳島県神山町で劇場寄井座の空間に、藍染めの大きな布にほたる絞りを発展させた手法で宇宙の星々のような絞りを散りばめた「うち」の空間を出現させたり、というように。

◆常に時間との闘い、それでも「つながるのを待つ」
そんな滞在制作の経験談に学生たちは刺激を受け、修了展に向けて取り組み始めた自身の制作と思いを重ねるようにして、質問が相次ぎました。特に素材や準備、アイデアといった観点からの制作プロセスが気になったようです。「現地で見つけた素材で制作するのに意識していることは」という質問に対して、井上さんからはこんな回答がありました。「素材の時点で心動かされるものを使う。場所もすべてそうですが、自分が美しいと思ったり、心魅かれたものに素直に従うようにしています。手元でつくっていても、実際の空間に持っていくと見え方が変わるので、現場と行き来しながら何度も実験します」

期間が定まった滞在制作は、アイデアと手仕事のはざまで「常に時間との闘い」。そのいっぽうで「待つ」面も。「アイデアが思い浮かばない時はあるか」という質問に「あるある!」と率直に返し、「時間が迫ってきて吐きそうになるくらいプレッシャーがある時もありますが、反面ワクワクもします」と。「アイデアはむしろ考えていかないです、最初から狭めたくはないので。現地で調べたり散策したり話を聞いたりして種を集めていき、つながるのを待つ。待つ間にいろいろ実験していく。手を動かしながら考えられるのが手仕事のいいところですね」

◆生活の知恵とものづくりがようやくつながった
人が自然と関わるなかで生み出してきた知恵やものづくりに魅かれ、織りや編み、染め、縫いなどの手法を用いて制作している井上さん。現在は作品制作だけではなく、暮らしの中で使う道具づくりも実験しているそうです。滋賀の自然豊かな環境に居を構えて制作する今、「生きていく上での生活の知恵」と「ものづくり」の両方が「ようやくつながってできるようになってきた」と話します。

自分がやりたいと思う制作を自由に続けていくためには、時間を空ける必要があると考えて、定期的な仕事はあえてやらない。その分「学生時代から、生活費をあまりかけずに工夫して生活するのが好きだったので、ライフサイクルができているのかもしれないです」と。

講義全体を通して、どんな質問に対してもまっすぐな眼差しで語る井上さんが印象的でした。それは「制作を続けたい」という思いで、道なき道をオリジナルにつくってきたご本人のありようにストレートに通じている。ものづくりの芯と、同時に生き方の広がりを感じた時間となりました。

〈井上唯さんプロフィール〉
いのうえ・ゆい/自然と関わるなかで生み出されてきた人間の営みや知恵にワクワクし、そこから学びつつ新たな視点で捉えていくことで、この世界の仕組みや目に見えない繋がりを“モノ”を介して想起させるような光景をつくり出したいと考えている。普段の暮らしの中で様々なモノを収集したり、それらを使って、作ったり、繕ったり、遊んだりと、素材と対話しながら手を動かしていくことを軸に<生活>と地続きにある<制作>の在り方を模索している。

website: YUI INOUE