本科

在校生の声2(2021年度・専門コース本科) 「『見る』から『つくる』へ、舵を切る」近藤雪斗

この春から専門コース本科で学んでいる学生のなかには、昨年からの大きな変化で立ち止まり、自分を見つめ直した先で川島テキスタイルスクールに来ている人がいます。本科生の一人、近藤雪斗さんは大学で美術史を学んできましたが、「やっぱり、ものづくりがしたい」という気持ちが募り、2021年4月に入学しました。ものを「見る」から「つくる」へ、自分が本当にやりたい方向に舵を切った近藤さんの、この半年の実感について、ご本人の言葉でお届けします。

組織織りの授業。「もともと文様に興味があって、組織織りの授業を楽しみにしていました。どうやって作るのか不思議に思っていた布が、緻密な準備で出来上がることを知りました。仕組みを理解すれば、柄のバリエーションがいろいろできると実感がわきました。」

大学で専攻した美術史では、見る、考える、考察するというふうに、ものに接しながら見る目を養うという学び方をしてきました。文化財にも多く触れ、なかでも伝統的な布、特に文様に目がいき、織りに興味を持つようになりました。

僕はずっと、ものづくりをしたいという気持ちがあったんです。実際に、ものづくりの世界に入り込んで自分でつくる方が、性に合うのだろうなと思って。ペルシャ絨毯のお店に行った時に、この学校のことを教えてもらったのがきっかけで見学に行きました。学校でいろんな機や作品を見て、ここだ!と直感。この学校は、海外とのつながりが深いのも魅力でした。

これまで、美術史から織物を見ていた時は、糸繰りや染色も織りにつながっているところまでは正直、想像できていなかったです。スクールに入学して、スピニングの授業で、羊毛を広げて洗って紡ぐ実習ができたことで、ウールはそこから来ているのか!と初めて実感が持てました。天然染色も、知識を得るだけではなく、実際にやってみないとわからないという感覚がわかりました。この半年、様々な実習を通して、ひたすら織ってきた感じがしますが、それも僕がずっとやりたかったこと。織りと一口に言っても、組織と絣でも全く違うし、模様の出し方のバリエーションを実際に織りながら学んでいます。制限があるなかでデザインしていくのは面白いです。

「見る」と「つくる」の違いも大きくて、これまで見ている分には大胆な作品に魅かれていたんですが、自分でつくると細部まで神経を使って規則性のあるものになるんです。色合いも、これは「近藤さんっぽい色だね」と周りの人から言われたりして、作品をつくることで自分らしさを知っていっています。

僕は職人の仕事に魅かれていて、今この学校ですごく自分に向いていることができています。大学を離れるときは、勇気もいりましたし、大丈夫かなと思いましたけど、それ以上に、やりたいことをやろうという気持ちの方が大きかったです。自分が思い描くことを、自分の手で「形にする」。それが、今やりたいこと。これから個人制作に取りかかるのが楽しみですし、この先も、やりたいことを続けていきたい。初めの直感に頼って正解だったなと、今は思っています。

在校生の声1(2021年度・専門コース本科)「過程の面白さに気づいて」德本治子

2021年4月に専門コース本科に入学した学生たちは、織りに向き合って半年が経ちました。それぞれに、織りを通して、自分の中にある何かが少しずつ変わり始めているようです。コロナ下で留学の一時中断を余儀なくされ、帰国中に川島テキスタイルスクールに出会って、新たな一歩を踏み出した德本治子さん。この半年の気づきや変化について、ご本人の言葉でお届けします。

テキスタイルにはずっと興味があったのですが、進学した美術大学では別の学科を選びました。それでも織りがずっと気になって、卒業後、海外で織りを学ぼうと、まずは英語力を身につけるのにイギリスに留学していました。コロナの影響で帰国し、身動きが取れない状況が一年も続くうちに、どんどん心がしんどくなってしまって。そんな最中にスクールのワークショップに参加。手を動かして学ぶのがすごく面白くて、前に進んでみようと入学を決めました。

ここは自然が豊かで、織り機がたくさんあって環境も整っていて集中できる。もしかして、私は手を動かすのが向いているのかなって思い始めています。

織りを学び始めた頃は、出来上がった時が一番楽しいと思っていました。そのうち、織りは準備からが一連の流れ、と視野が広がっていくにつれて、過程そのものが面白いと思うようになりました。織物には設計が必要で、ゴールが見えているからかな。失敗もそのまま表れるので、次はこうしようと段階を踏んでいける手応えもあります。

クラスメイトとも、よく話をします。みんな、コロナ下で立ち止まって、それぞれの節目でこの学校に来たんだなと知りました。この学校では糸の成り立ちから学べるので、ものを作るって何だ?っていうことを、手で触った実感から考えていける。これって私だけの感覚なのかなとか、クラスメイトと気づいたことを口に出し合って、お互いの考えを知っていけるので、私は以前よりもおしゃべりになったなって(笑)。

将来のことは、コロナで状況が変わってきているので本当にわからない。それでも、今は不安ではないです。一つ決めているのは、ずっと織っていきたいということ。今学んでいる技術は、自分の中に積み重なっていて、これからも自分の中にある。だから、ちゃんと作って、人と関わっていればどうにかなるって、今は前向きに思っています。手を動かして、ものを作ることが、いかに自分の支えになるかを、この半年で実感しています。

スクールの窓から:「課題をやり遂げる自信に」8メートルの縞の布を織る・使う

トントン、トントントン。例年7月、スクールのアトリエには機織りの小気味良い音が響き渡ります。スクールの風物詩のようになっているこの響きは、専門コース本科生(1年次)が取り組んでいる「織実習」で布を織る音。ペースや力加減によって、一人ひとりが異なる織りのリズムを刻んでいきます。使用するのは、ろくろ機。主に着物を織るこの和機を使って、着物と同じ幅で長さ8メートルの薄地の布を織り、同じ布で風呂敷を作るまでを行います。

布地のデザインは、好きな絵画を選び、絵の中から抜き出した6色を用いた縞模様の構成から。「色彩演習」の講義で学んだ知識や色の感覚を生かして経糸6色を組み立てます。それを勘染めの技術を使って染色し、経巻きをし、続いて緯糸の色選び。全体のバランスを考え、すべての色味をうまく生かせる色を試し織りして決めます。

使用糸は経糸が綿、緯糸が綿と絹を半分ずつ。異なる糸を使った織り上がりの違いも学びです。細くて長い糸を扱うがゆえに絡まりやすく、できるだけ乱さないようにするには染め、機がけ、織り、すべての工程で慎重さが必要。実習期間の大半を準備に要します。

この授業では竹筬を使う場合が多い。
糸の動きに合わせて竹がしなり、やわらかい風合いが生まれる。

そうして約1カ月半、根気よく糸と向き合う日々を経て、たどり着いた講評会。この制作に関しては、あらかじめ織りの密度が決められており、張り具合を一定に保つには自分のリズムをつかむのが鍵となります。実際、学生からは「一度に打ち込む回数を変えて、力を計算しながらできた」という手応えや、「体調や気分によって打ち込む感触が変わる。ゆっくりがいいわけではなく、だからといって早く打ち込んでも少しずつ乱れたのに気がつかない」という試行錯誤が語られました。

課題には、風呂敷に仕立てて使ってみるという、織り上げた後のプロセスまでが含まれます。そこで縞模様をどう生かすかも工夫の見せどころ。あえて大胆に幅の広いデザインを取り入れた学生は「柄が映えるように、スイカなど大きいものを入れます」と楽しそうに紹介する場面もありました。

「作ったからには、生み出した責任があります。強度や扱いやすさを確かめて、実際に使っていってください」と山本講師は伝え、こう話しました。「私も初めて布を織った時のワクワク感を今も忘れてないです。糸が布になる感覚を忘れずにいることが、一生を通して織りを続けていけるポイント。だから自分の感覚を大切に」。布を織るという一連の課題を終え、「やり遂げたことに対する自信を持ってください」と最後に励ましました。着実な一歩の手応えとともに、学生の歩みは続きます。


2022年度専門コース本科・技術研修コースの入学願書の受付が始まりました!
願書等、応募要項一覧はこちら
オープンスクール情報はこちら

制作の先に:あたたかく迎える「home」−綴織タペストリー、デイサービス施設へ

花や葉のリースをあしらったイメージのタペストリーが、このほど京都市内にある福祉施設の社会福祉法人市原寮「花友じゅらくだい」へ納入されました。作品名は「home」。「『ただいま』『おかえり』、家のようにあたたかく迎えるという願いを込めて」がコンセプト。2020年度本科生のグループ制作の一作で、2人の学生が丹精して織り上げました。

利用者にとっては、デイサービスに来るのが元気の源になっている。そんな場所柄を考えて制作するのに2人の学生は、「人生の先輩方に敬意を込めて、感謝の意味を持つ花をモチーフに選び、健康を祈る気持ちと、『わ』になり集う楽しさを表現しました」と話します。

この課題では、施設の理念を学んでテーマを決め、飾る空間に合わせてデザインを考えて原画を描き、(株)川島織物セルコンの専門家による講義を受けて織下絵を作り、スクール講師の助言を受けて綴織のタペストリーとして織り上げます。学生にとっては一年の学びの集大成であり、作品制作を通して社会とつながる機会にもなっています。

このほど納入された幅157センチ・高さ100センチのタペストリーは、施設の利用者の方が使う玄関に飾られました。そこは1日に100名ほどが出入りする場所。利用者の平均年齢は86歳、最高齢で105歳、土地柄、西陣織の職人として働いていた方もおられるそうです。作品を見て施設長の森淳美さんは「空間が明るく、華やかになりました」とぱっと笑顔になり、こう話しました。「ここの利用者の方は男女問わず皆さんお花が好きなんです。作品を見て、会話が生まれるのではないでしょうか。そういう場になれば嬉しいです」

オープンスクール開催!(9月11日、10月2日、10月16日〈事前予約、いずれも土曜。10時・13時・15時から〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

*グループ制作の背景については、スクールのブログでも紹介しています。
スクールをつづる:綴織編3 「1年の学びの集大成、タペストリーのグループ制作」

スクールの窓から:初めての「綴織」、タペストリー制作

川島テキスタイルスクールの専門コースの授業を紹介します。本科(1年次)では、最初の「織実習」として綴織のタペストリー制作を行っています。綴織はスクールの柱の一つとして、1973年の開校当初から教え続けている織法です。(詳しくは「スクールをつづる:綴織編1『KTSの綴織とは?』」へ。)

絵から織物へ、イメージの設計(上・原画、下・織り下絵)。
絵の具で色を作り、質感を考えて糸を選び、織り下絵に指示を書く。

この実習では、綴の技法の基礎から応用までを網羅した2枚のサンプルを織った後、縦横45センチのタペストリーを制作します。「デザイン演習」の授業と連動し、タペストリーを絵画的な織り表現で見せるのにデザインも学びます。モチーフの果物を観察し、面白いと思った部分をデザインにふくらませる。描いたデザイン画を基にして、どういう糸や技法を使えば織りの表現ができるのかを考え、実際に織り上げていく。並行して(株)川島織物セルコンの専門家による「色彩演習」の講義を受け、色彩の基礎知識を学ぶ。綴を柱に、そんな濃密な2カ月を送ってきました。

4月に入学したばかりの学生にとっては、綴織も、デザインからの制作も初めての経験。それは一人ひとりが自らの視点を持って、織りと向き合う入口に立った経験と言えるでしょう。講評会で学生は、「デザインの段階で、描いたものが織りになったらどうなるかをきちんと考えられていなかった」「筆で描いた表現に、ぼかしの技法を使った。グラデーションをどこまで織るか、決めるのが難しかった」「この部分は試し織りをしてからやるべきだった」「同じ力加減で織っていかないと、線が揃わなくなる」と実感を語り、それぞれに次の課題が見えた様子です。

近藤講師は「技量的に今は難しいことでも、続けていけばできるようになります」と話し、「織物は出来上がったら戻れない。だから織っている途中に迷ったら、大変でもやり直してください。完成後に後悔しないように」と最後に伝えました。この綴織実習を礎に、グループで取り組む大きなタペストリー制作へと、これから歩みを進めていきます。

オープンスクール開催!(7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

制作の先に:織りの未来へ「芽萌ゆ」−綴織タペストリー新作がスクール玄関に登場

スクールの玄関に、このほど新たなタペストリーが飾られました。「芽萌ゆ」と名付けられたこの作品は、2020年度本科生のグループ制作の一作です。川島テキスタイルスクール修了展(2021年3月開催)で初披露時、制作した2人の学生は、こんな紹介文をつづりました。

「この豊かな大地から どんな芽を出し どんな葉をつけ どんな花を咲かせ どんな実をつけようか」

養分を吸い上げて力にする、根の力強さに着目して、その先の成長に思いはせる。その発想力は、スクールで実技を重ね、学びの根っこを育んできた学生だからこそ。制作にあたっては、初めからスクール玄関に展示するという目的がありました。幅220センチ・高さ126センチの綴織タペストリーは、繊細な色使いや、根が浮き上がるような見え方で綴れを存分に生かした織りの表情が魅力。近くからも遠目にも見応えがあります。一年学べば、これだけ作れるようになる。そんな学生の成長も表れています。

手織りを教えるスクールは、いわば織りの未来を作る場所として存在している。そんな場所に、学生たちが精魂込めて未来に向かって力強く作り上げた作品は、しっくりと入口の空間になじんでいます。フレッシュな感性光る「芽萌ゆ」、来校の折にはぜひご覧ください。 

オープンスクール開催!(6月26日、7月10日、8月28日〈いずれも土曜10時・14時から、事前予約〉。見学の際、実際に機織りを体験していただけます〈専門コース本科の入学希望者のみ〉、他の日をご希望の方はご相談ください。)

*グループ制作の背景については、スクールのブログでも紹介しています。
スクールをつづる:綴織編3 「1年の学びの集大成、タペストリーのグループ制作」

スクールをつづる:はじまり編1「はじめの一歩、織りは楽しい!」

初夏を迎えて早くも梅雨入り。スクール周辺でも雨の音が響き、山一面に青葉が瑞々しく輝いています。専門コース本科に新入生を迎えました。年間を通してフルタイムで授業を行う専門コースでは、1年目の本科では糸染めから織りの全工程を学び、密度の高い基礎授業を通して、基本技法の習得と表現力を養います。最初は「基礎織り」という、自分で色を選んでウール糸を染めて、長さ約2メートルのサンプル織りを行う授業を行いました。

2021年度の本科入学者は、高校や大学卒業後に学びに来た人などで、織り未経験者も多いです。世の中全体でライフスタイルの変化の渦中にあり、そんな今を「自分を見つめ直す時間」と捉え、「やりたいことをやろう」と仕事を辞めて入学した人も。授業最終日、織り終えたばかりの学生に感想を聞きました。

「初めはリズムをつかむのが難しかったですが、最後は集中できた。もっと織りたくなりました」「大学で学んだのは平織りだけで、綾織りや朱子織りは今回が初めて。好きな柄を選び、組織図を書き起こして織るのも楽しかったです」「没頭できるのがいい」「織りは、単に経糸と緯糸を通すだけじゃない。(密度、張り具合、耳を揃える、糸の結び方に気を配るなど)マルチタスクだと思いました」「実際に織れたものは、頑張って織った割には簡単そうに見える。普段でも、(服や絨毯など)織り模様に目が行くようになりました。これからどんな織りをやっていけるのか楽しみです」

手織りに対する思い思いの希望を抱き、はじめの一歩を踏み出した新入生たち。最初の授業では、それぞれの観点で面白味を見つけ、真摯に取り組んでいる姿がありました。春夏秋冬、一年を通して織物と自分に向き合う日々が始まっています。